No | 212076 | |
著者(漢字) | 宇恵,誠 | |
著者(英字) | Ue,Makoto | |
著者(カナ) | ウエ,マコト | |
標題(和) | 電気化学デバイス用有機電解質の合成と性質 | |
標題(洋) | Preparation and Properties of Organic Electrolytes for Electrochemical Devices | |
報告番号 | 212076 | |
報告番号 | 乙12076 | |
学位授与日 | 1995.01.26 | |
学位種別 | 論文博士 | |
学位種類 | 博士(工学) | |
学位記番号 | 第12076号 | |
研究科 | 工学系研究科 | |
専攻 | 化学生命工学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 有機電解質はアルミ電解コンデンサ、電気二重層コンデンサ、リチウム電池などの電気化学デバイスに使用されており、これらデバイスの性能を左右する重要な構成材料の一つである。生産額の点から最も重要なデバイスはアルミ電解コンデンサであるが、最近、ポータブル電子機器に搭載する充電可能なリチウムイオン電池の実用化が急速に進んでおり、有機電解質の研究は学会でも話題になっているテーマの一つである。 各デバイスによって、使用される電解質の材料は異なるが、有機電解質に共通的に要求される基本的性能について説明し、解決すべき課題を列挙した。 さらに、液体電解質(電解液)を理解する上で必須な有機溶媒の基本的性質について概説するとともに、電解質に使用する材料の精製の重要性を強調した。 -ブチロラクトン溶媒とカルボン酸第四級アンモニウム塩とからなるアルミ電解コンデンサ用の高性能有機電解液を世界に先駆けて発見し、工業化することに成功した。この新規電解液は従来の電解液よりも2〜3倍の高い電気伝導率を示し、高温における熱安定性が著しく優れているため、アルミ電解コンデンサの低インピーダンス化、長寿命化を飛躍的に進めた。 これらの高い性能は四級アンモニウム塩の高いイオン解離能に起因することを電気伝導率理論によるイオン解離状態の解析結果から説明した。 また、電解液のアルミニウムの陽極酸化能は陰イオンの種類、濃度および含水量に大きく依存することを実証し、極度に低水分化した電解液中では、従来の学説にはない新規な形態を有する酸化アルミ皮膜が生成することを示した。 種々の非プロトン性溶媒、陽イオンおよび陰イオンの組み合わせからなる電解液の電気伝導率および酸化還元電位を調べ、プロピレンカーボネート溶媒とホウフッ化第四級アンモニウム塩とからなる有機電解液が総合的に優れていることを実証した。特に、新規化合物であるホウフッ化N-エチル-N-メチルピロリジニウム塩は高い溶解性と電気伝導率を示すことを発見し、工業化することに成功した。 また、第四級アンモニウムイオンの移動度はイオンが小さいほど大きいが、反対に、ホウフッ化イオンとの会合はイオンが小さいほど大きくなるので、両効果の相殺するテトラメチルアンモニウムとテトラエチルアンモニウムイオンの間の大きさを有する第四級アンモニウム塩が高いモル伝導率を示すことを実証した。 実用化されている各種リチウム塩と非プロトン性溶媒とからなる電解液の電気伝導率解析を実施し、各陰イオンの移動度と分子力場計算から得たイオン半径との間にストークスの法則が成立し、イオン半径の小さい陰イオンほど移動度が高くなることを示した。 また、近年、耐酸化性低粘度溶媒として着目されているエチルメチルカーボネート溶媒の性能を代表的な低粘度溶媒である1,2-ジメトキシエタン溶媒と比較し、エチルメチルカーボネートは1,2-ジメトキシエタンほどリチウムイオンの移動度を向上させる効果はなく、イオン会合も起こし易いので、解離能の強いリチウム塩にのみ有効であることを示した。 さらに、希薄溶液の解析より得た電気伝導率パラメータから実用的な濃厚溶液の電気伝導率を予測できることを示し、高電気伝導率の電解液を設計するためには、リチウム塩の解離能を重要視する必要があることを提言した。 ジベンジリデンソルビトールにエステル基を導入するとゲル化能が飛躍的に向上することを発見した。この新規ゲル化剤で有機電解液を固定化し、電気伝導率の高い疑似固体電解質を作成した。また、ポリマーとの併用で高い電気伝導率を維持し、機械的強度を向上させた電解質薄膜が作製できることを紹介した。 次に、ポリエチレンオキシドとリチウム塩とからなるポリマー固体電解質を高温作動型のリチウム二次電池に応用した結果を示した。正極活物質として、近年、ローレンスバークレィ研究所で発見された有機ジスルフィドポリマーと古典的な無機二硫化チタンとの性能比較をし、前者の方がエネルギー密度、パワー密度とも優れていることを示した。また、正極中のリチウムイオンの輸送は活物質の体積によって影響されるとの新しい見解を提案した。 本論文で多用した電気伝導率理論を概説し、自作の解析プログラム(BASIC言語)を紹介した。 本論文は有機電解質の技術的応用を主眼として研究した成果を、合成と性質という学問的見地から纏め、各電気化学デバイスごとにその有機電解質材料の合成、電気化学的性質の評価およびその解析について述べたものである。 本論文に関連した著者の論文、学会発表および特許について、各章別に一覧した。 | |
審査要旨 | 有機電解質はアルミ電解コンデンサ、電気二重層コンデンサ、リチウム電池などの電気化学デバイスに使用されており、これらデバイスの性能を左右する重要な構成材料の一つである。本論文は有機電解質の工業的応用を主眼として研究した成果を、合成と性質という学術的見地から纏めたものであり、以下の8章から構成されている。 第1章は緒言であり、有機電解質を使用した電気化学デバイスの概要を紹介したのち、有機電解質に共通的に要求される基本的性能について説明し、解決すべき課題を列挙している。 第2章では、アルミ電解コンデンサの概要と有機電解質の役割を解説したのち、アルミ電解コンデンサ用に探索した有機電解質の合成および電気化学的性質について述べている。著者らが発見し工業化した-ブチロラクトン溶媒とカルボン酸第四級アンモニウム塩とからなる高性能有機電解液の高い電気伝導性と化学的安定性を従来の電解液との比較で説明し、これらの高い性能は第四級アンモニウム塩の高いイオン解離能に起因していることを実証している。また、電解液のアルミニウムの陽極酸化能は陰イオンの種類、濃度および含水量に大きく依存することを実証し、無水に近い電解液中では、従来の学説にはない新規な形態を有する酸化アルミ皮膜が生成することを示している。 第3章では、電気二重層コンデンサの概要と有機電解質の役割を解説したのち、電気二重層コンデンサ用に探索した有機電解質の合成および電気化学的性質について述べている。非プロトン性溶媒、陽イオンおよび陰イオンの組み合わせからなる種々の有機電解液の電気伝導率および酸化還元電位を調べ、プロピレンカーボネート溶媒と新規なホウフッ化脂環式第四級アンモニウム塩とからなる有機電解液が最適であることを見い出し工業化に成功している。実用濃度領域ではテトラメチルアンモニウムとテトラエチルアンモニウムイオンの間の大きさを有する第四級アンモニウム塩が高いモル伝導率を与えることを示している。そして、この現象は、第四級アンモニウム塩の移動と会合の両効果が均衡したことによることを、電気伝導率解析により実証している。 第4章では、リチウム電池の概要と有機電解質の役割を解説したのち、実用化されている各種リチウム塩と非プロトン性溶媒とからなる電解液の電気伝導率解析を実施し、各陰イオンの移動度と分子力場計算から得たイオン半径との間にストークスの法則が成立し、イオン半径の小さい陰イオンほど移動度が高くなることを示している。 また、近年、耐酸化性低粘度溶媒として着目されているエチルメチルカーボネート溶媒の性能を代表的な低粘度溶媒である1,2-ジメトキシエタン溶媒と比較し、エチルメチルカーボネートは1,2-ジメトキシエタンほどリチウムイオンの移動度を向上させる効果はなく、イオン会合も起こし易いので、解離能の強いリチウム塩にのみ有効であることを示している。 さらに、希薄溶液の解析より得た電気伝導率パラメータから実用的な濃厚溶液の電気伝導率を予測できることを示し、高電気伝導率の電解液を設計するためには、リチウム塩の解離能を重要視する必要があることを提言している。 第5章では、リチウム二次電池への応用が期待されている有機固体電解質の概要を紹介したのち、新規ゲル化剤を使用した固体電解質およびポリマー固体電解質の応用を検討した結果について述べている。ジベンジリデンソルビトールにエステル基を導入するとゲル化能が飛躍的に向上することを発見し、この新規ゲル化剤で有機電解液を固定化することにより固体電解質を作成する方法を提案している。また、ポリエチレンオキシドとリチウム塩とからなるポリマー固体電解質を高温作動型のリチウム二次電池に応用し、正極活物質としての有機ジスルフイドポリマーと無機二硫化チタンとを比較し、実用的に前者の方がエネルギー密度、パワー密度とも優れていることを実証している。 第6章では、付録として、本論文で多用されている電気伝導率理論を概説し、自作の解析プログラムを紹介している。 第7章は本研究の意義と将来展望を述べた結びであり、第8章は出版リストである。 以上、本論文ではアルミ電解コンデンサ、電気二重層コンデンサ、リチウム電池などの電気化学デバイスに使用される有機電解質に関して、その材料を合成し、その性質を電気化学的手段を用いて検討している。そして、実用材料を開発し工業化することに成功しているだけでなく、その材料の機能発現の理由を電気伝導率解析などの手法によって理論的に解釈することに大きな成果を得ている。このように、本論文は電気化学デバイス用有機電解質の工業的応用および学術的進歩に対して大きな貢献をするものと考えられる。 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 | |
UTokyo Repositoryリンク | http://hdl.handle.net/2261/50656 |