地震時のような短時間の繰返し荷重が砂質地盤に加わると、間隙水圧が時間と共に上昇し、有効拘束圧が減少して砂のせん断剛性及び強度が著しく低下してくる。この究極の状態を液状化と呼び、この過程を時間的に逐次追跡していく地震応答解析のことを有効応力解析と呼んでいる。本論文は、この解析に必要な砂の変形構成則を検討し、数値解析法を開発し、更にその結果の妥当性を室内振動実験に照合して吟味し、更に実地震の解析に適用してみたものである。 第1章は序論で、本研究の目的とその背景について述べている。 第2章では、既往の関連した研究を概観考察し、本研究の位置づけと特徴を述べている。 非線形解析法で採用される繰返し時の砂の変形構成式について塑性論に準拠したモデルに、いくつかの改良を施して検討したのが第3章である。まず、砂を繰り返し排水せん断したときの応力比一塑性ひずみ増分比関係の変化に着目し、載荷履歴に依存した体積ひずみの蓄積度を表わすパラメーターを導入し、繰返しに伴う除荷一再荷時の砂の変形特性の変化を的確に表現できるように工夫した。次に相対応力比の概念を導入してせん断応力の反転効果を合理的に評価できるようにした。更に、密な砂に対してサイクリックモビリティを考慮できるよう工夫した。 第4章では非線形解析手法の基礎となる運動方程式と数値解析の方法について記述している。Biotの理論に基づく骨格と水部分を分離した運動方程式に対して、有限要素解析のための離散化を行い、時間領域で逐次解析する積分法を用いた。そして、これらの解析法に、先に示した弾塑性構成式を導入し、有効応力に基づいた二次元非線形連成解析法を作った。 第5章は、大型せん断土層による振動実験およびその結果を数値シミュレーションによって解析検討したものである。直径3mのアルミ製円形リングを34個重ねて高さ3mの円筒形土槽を作り、その中に水で飽和した利根川砂を相対密度57%と86%になるよう堆積して振動台上で加振した。入力波形としては実地震で得られた加速度波形を用い、振幅を3〜4段階に漸増させて加振し、土中の間隙水圧と加速度を深さ方向6ケ所で測定した。その結果、間隙水圧が液状化点近傍まで上昇した時、加速度応答の低下や長周期化が観察された。一方、先に作成した有効応力連成解析法にて実験条件をシミュレートした解析を行い、実験結果と比較した。その結果、加速度応答の低下や長周期化を説明することができた。以上の一次元実験に加えて、深さ1mの飽和砂地盤の中に根入れ深さを変えた構造物モデルを設置した2次元の振動台実験も実施した。この場合についても2次元のシミュレーション解析を行い実験結果と比較した。そして構造物底面に入力する短周期成分の波の振巾の低下が著しいこと等を確認した。 第6章では、まず茨城県の鹿島における鉛直アレー観測で得られた地震時の加速度と間隙水圧について考察している。2年余りの観測期間中に得られた地震は最大加速度で100ガル程度の中小地震で、間隙水圧の上昇もわずかであった。しかし、地盤調査と試験結果に基ずいて行った数値シミュレーション解析では、実際の地震時地震挙動を再現することができた。次に釧路沖地震(1993)の際に得られた釧路港湾地点での記録を取り上げ、シミュレーション解析の結果と比較した。そして、地表面の加速度波形の後半部に認められたサイクリックモビリティによる特徴的な波形を説明することができた。 第7章は、液状化の発生に伴って生じる地盤の沈下量について考察したものである。繰返し載荷時における砂の堆積ひずみと繰返し回数との関係から、地震時のような不規則荷重が作用したときの沈下量を予測する簡便な方法を提案した。そして、その方法を第5章で述べた実験条件に適用して沈下量の推定を試みた。その結果は実測値とよい一致を示した。 第8章は結論で、本研究の成果を総括している。 以上を要するに、本研究は土の変形に関する構成則モデルを吟味改良して数値解析プログラムに組み入れた2次元の有効応力地震応答解析法を開発し、モデル実験によってその妥当性を確認したものである。その結果従来の全応力解析法では再現できなかったいくつかの応答特性を明らかにすることができた。これらの成果は土質工学と耐震工学の分野の発展に寄与するところが大きいと考えられる。よって本論文は学位請求論文として合格と認められる。 |