学位論文要旨



No 212087
著者(漢字) 大谷,幸利
著者(英字)
著者(カナ) オオタニ,ユキトシ
標題(和) 位相検出方式による精密計測およびその応用
標題(洋)
報告番号 212087
報告番号 乙12087
学位授与日 1995.02.09
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第12087号
研究科 工学系研究科
専攻 精密機械工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 大園,成夫
 東京大学 教授 土肥,健純
 東京大学 教授 黒田,和男
 東京大学 教授 保立,和夫
 東京大学 助教授 高増,潔
内容要旨

 本論文では位相検出法による精密計測およびその応用という点から,求めたい物理情報を含む干渉縞をそれに適した位相検出法によって位相としてとらえたうえで最終的な値を計測する.計測対象とする物理情報として物体の表面状態と内部状態をとりあげることとし,具体的には表面状態に関しては3次元形状計測を対象として従来の位相検出法の問題点を改善した上で新しい計測の方向性を示し,また内部状態については従来,点計測としてしか行われなかった複屈折計測法に対して,ここでは新しい測定方式を確立することによって2次元分布の計測を可能としたうえで,さらに,これを応用した磁場計測について述べた.

 第1章においては本研究の背景および目的について述べた上で,本研究の中心となる位相検出法について論じた.この際,位相検出法をキャリアの違いから時間的位相検出法,空間的位相検出法および位相検出法を複数回行う間接測定への拡張という3つに分類した上で,そのおのおのをさらに時間的位相検出法としては位相走査方式,光ヘテロダイン方式および位相シフト方式に,空間的位相検出法としてワンステップ位相シフト方式に細分し述べた.これらの計測における従来の問題点を明らかにした上で,本研究の意義を明確にした.以下,第2章から第4章までが時間的位相検出法について,第5章で空間的位相検出法について,第6章では間接測定への拡張について論じた.

 第2章においては時間的位相検出法である位相走査方式による表面状態の精密計測について,幾何学的干渉法であるモアレ・トポグラフィ法によるサブミクロンオーダの3次元形状計測について論じた.モアレ縞の位相検出法である位相走査方式を改善することによって高分解能をもつ新しい計測システムを構築を試みた.ここでの位相走査方式はあらかじめ測定したい物体にパターンを投影して,その像を検出することによって作製した変形格子像を等速で移動している基準格子に投影することによって,ここにできるモアレ縞を時間的に変調させ,この変調信号を光電変換し検出することによって電気的に位相検出を可能とした.ここで用いる変形格子像は格子投影法とフーリエイメージ法の2つのパターン投影法による作製を提案する.これによって,一般に感度が悪いと考えられていたモアレトポグラフィ法にあってもサブミクロンオーダの計測が可能であることを示した.

 第3章においては時間的位相検出法の一つである光ヘテロダイン方式による表面状態と内部状態の精密計測についての新しい方向性について論じた.光波は直接電気的に検出できないので,わずかに周波数の異なるコヒーレントな2光波を干渉させてビート信号として光電検出する.このとき一方を基準光として他方の光波を測定光として測定したい物理量を検出すると,干渉の結果検出されるビート信号の位相がそれに応じて変化するので電気的に位相検出することが可能になる.

 まず表面状態については3次元形状計測を光ヘテロダイン方式による新しい計測法について論じた.第2章でサブミクロンオーダの高さ情報をえるための計測を試みたが,さらに分解能を高めてナノメートルオーダの高さ情報の計測法について差動型光ヘテロダイン法による手法を提案する.光ヘテロダイン方式のために2周波光が必要とされるが,このため音響光学素子を高周波と低周波の2周波成分をミキシングしてAM変調駆動することによってわずかに異なる2周波光を発生させる.この際,2つの駆動周波数を同時に制御することにより2つのビームを独立して任意にを走査させることを可能とした.さらに,試料テーブルを回転させることによって3次元形状計測を可能とした.

 次に内部状態については磁性流体の磁気複屈折の検出について論じた.これによって磁場計測の新しい測定方法の確立を試みる.磁性流体は磁場が印加されるとその磁場の強さに応じた複屈折をもち,磁場方位と複屈折の主軸方位は一致しているので,複屈折を計測するとによって磁場の強度と方位を検出することを可能にした.さらに,これらを利用して外乱除去機能をもったファイバ磁場センサを提案し,この有用性を示した.

 第4章においては表面状態の精密計測として時間的位相検出法による粗面物体の3次元形状計測について論じた.従来のフィゾー型などの光波干渉計は凹凸の激しい物体を測定すると干渉縞が重なり合ってしまったり,また紙やセラミックスのような低反射率の物体においては干渉縞が検出できないためこのような物体の3次元形状計測が困難であるという問題をもっていた.この問題を解決するために,ここでは斜入射干渉計の一つであるアブラムソン干渉計と2次元位相分布計測を行なうために位相シフト方式による新しい計測方式を確立を試みた.この場合の位相シフトは基準面と測定物体の間の屈折率を変化させることによって可能とした.これによって,従来困難であったサブミクロンから数十ミクロンの粗面物体の3次元形状計測が可能であることを示した.

 第5章においては表面状態の精密計測について空間的位相検出による3次元形状計測について論じた.前章までの時間的位相検出法がキャリアを時間的に与えるため,その間に測定サンプルは静止していなければならず検出時間を要するという問題をもっていた.この問題を解決するために,ここでは格子パターン投影法において空間的に位相シフトを行なうワンステップ位相シフト方式によって2次元位相分布を1画面のみで検出することを試み,等位相面を検出した上で3次元形状を求める新しい計測法の確立を行った.これによって計測時間が画像取込み時間のみである高速な形状計測が可能であることを示した.

 第6章においては内部状態の精密計測について2次元複屈折分布の新しい計測法の確立を試みた.これは前章までの精密計測においては検出された位相がそのままで最終的な値となっている直接計測であったが,複屈折のように大きさと主軸方位という2つの物理量を求める場合,検出した位相量からさらに他の値を算出する必要がある.そのため検出される位相情報に正弦性を与えて複数回位相検出を行うことによって間接計測を可能とした.この場合の位相検出法は2次元で検出を行うことと計測時間と情報量の関係から時間的位相検出法である4ステップの位相シフト方式を用いた.これによって全部で16画面の画像データより2次元複屈折分布計測を可能とした.実際に本手法の応用としてガラスレーザ用のガラスロットおよび液浸法による光学部品の複屈折分布計測を試みた.さらに,第3章で試みた磁性流体による磁場計測を本手法を用いて2次元に拡張し,2次元磁場計測を可能であることを示した.

 さらに,より微小な複屈折計測を可能とするため新たに位相検出法として局所サンプリング法を提案した.これは測定領域を限定した局所的な部分について光強度を増やし最小自乗フィッティングすることにより,量子化誤差の影響を低減した上で高分解の位相検出を可能とした.

 複屈折分布計測の測定時間の短縮を可能とするために,空間的位相検出法であるワンステップ位相シフト方式による位相検出法の本手法への導入を試みた.これによって位相検出時における画像データを2画面まで減らすことが可能になり,計測時間の高速な2次元複屈折分布の測定が可能であることを示した.

 第7章においてはそれぞれ位相検出方式による精密計測法について結論づけた上で第2章から第6章まで得られた結果を総括し,本研究が精密計測における従来法の改善及び新しい計測法の確立に寄与したことを述べた.

 最後に第8章において本研究の成果を踏まえた上で,精密計測の今後の展望について述べた.

審査要旨

 この論文は位相検出方式による精密計測およびその応用に関する研究をまとめたものである。求めたい物理情報を干渉縞としてとらえ,位相検出法によって位相として縞解析を行った上で最終的な値を求める独自の計測法について述べたものである.ここでの計測対象は物体の表面状態と内部状態をとりあげている.具体的には,表面状態に関しては3次元形状計測を従来の位相検出法の問題点を改善した上で新しいの方向性を確立を試みている.また,内部状態については従来,点計測としてしか行われなかった複屈折計測法に対して,ここでは新しい測定方式を確立することによって2次元分布の計測を可能としたうえで,さらに,これを応用した磁場計測を試みている.本研究を各章ごとに要約すると以下のようになっている.

 第1章においては本研究の背景および目的について述べた上で,本研究の中心となる位相検出法について論じている.この際,位相検出法をキャリアの違いから時間的位相検出法,空間的位相検出法および位相検出法を複数回行う間接測定への拡張という3つに分類した.さらに,そのおのおのを時間的位相検出法としては位相走査方式,光ヘテロダイン方式および位相シフト方式に,空間的位相検出法としてワンステップ位相シフト方式に細分している.以下,第2章から第4章までが時間的位相検出法による計測法ついて,第5章で空間的位相検出法による計測法ついて,第6章では間接測定への拡張について論じている.

 第2章においては時間的位相検出法である位相走査方式による表面状態の精密計測について,幾何学的干渉法であるモアレ・トポグラフィ法によるサブミクロンオーダの3次元形状計測について論じている.モアレ縞の位相検出法である位相走査方式を改善することによって高分解能をもつ新しい計測システムの構築を試みている.位相走査方式はあらかじめ測定したい物体にパターンを投影し,その像を検出することによって作製した変形格子像を等速で移動している基準格子に投影することによって,ここに形成されるモアレ縞を時間的に変調させ,この変調信号を光電変換し検出することによって電気的に位相検出を可能とした.変形格子像は格子投影法とフーリエイメージ法の2つのパターン投影法による作製を提案している.これによって,一般に感度が悪いと考えられていたモアレトポグラフィ法にあってもサブミクロンオーダの計測が可能であることが示されている.

 第3章においては時間的位相検出法の一つである光ヘテロダイン方式による表面状態と内部状態の精密計測についての新しい方向性について論じている.光波は直接電気的に検出できないので,わずかに周波数の異なるコヒーレントな2光波を干渉させてビート信号として光電検出する.このとき一方を基準光として他方の光波を測定光として測定したい物理量を検出すると,干渉の結果検出されるビート信号の位相がそれに応じて変化するので電気的に位相検出することが可能になる.

 表面状態については3次元形状計測を光ヘテロダイン方式による新しい計測法について論じている.第2章でサブミクロンオーダの高さ情報を得るための計測を試みられていたが,さらに分解能を高めてナノメートルオーダの高さ情報の計測法について差動型光ヘテロダイン法による手法が提案している.光ヘテロダイン方式のための2周波光は音響光学素子を高周波と低周波の2周波成分をミキシングしてAM変調駆動することによって発生させる.この際,2つの駆動周波数を同時に制御することにより,2つのビームを独立して任意に走査させることを可能とした.さらに,試料テーブルを回転させることによって3次元形状計測を可能とした.

 内部状態については磁性流体の磁気複屈折の検出について論じている.これによる磁場計測の新しい測定方法の確立が試みられている.磁性流体は磁場が印加されるとその磁場の強さに応じた複屈折をもち,磁場方位と複屈折の主軸方位は一致しているので,複屈折を計測するとによって磁場の強度と方位を検出することが可能である.したがって,磁性流体を磁場センサとして利用して外乱除去機能をもったファイバ磁場センサを提案し,この有用性を示している.

 第4章においては表面状態の精密計測として時間的位相検出法による粗面物体の3次元形状計測について論じている.従来のフィゾー型などの光波干渉計は凹凸の激しい物体を測定すると干渉縞が重なり合ってしまったり,また紙やセラミックスのような低反射率の物体においては干渉縞が検出できないためこのような物体の3次元形状計測が困難であるという問題をもっていた.この問題を解決するために,ここでは斜入射干渉計の一つであるアブラムソン干渉計と2次元位相分布計測を行なうために位相シフト方式による新しい計測方式を確立が試みられている.この場合の位相シフトは基準面と測定物体の間の屈折率を変化させることによって可能とした.これによって,従来困難であったサブミクロンから数十ミクロンの粗面物体の3次元形状計測が可能であることを示している.

 第5章においては表面状態の精密計測について空間的位相検出による3次元形状計測について論じている.前章までの時間的位相検出法がキャリアを時間的に与えるため,その間に測定サンプルは静止していなければならず検出時間を要するという問題をもっていた.この問題を解決するために,ここでは格子パターン投影法において空間的に位相シフトを行なうワンステップ位相シフト方式によって,2次元位相分布を1画面のみで検出することが試みられている.ここから等位相面を検出した上で3次元形状を求める新しい計測法の確立がなされている.これによって計測時間が画像取込み時間のみである高速な形状計測が可能であることが示されている.

 第6章においては内部状態の精密計測について2次元複屈折分布の新しい計測法の確立を試みている.これは前章までの精密計測においては検出された位相がそのままで最終的な値となっている直接計測であったが,複屈折のように大きさと主軸方位という2つの物理量を求める場合,検出した位相量からさらに他の値を算出する必要がある.そのため検出される位相情報に正弦性を与えて複数回位相検出を行うことによって間接計測を可能とした.この場合の位相検出法は2次元で検出を行うため計測時間と情報量の点から時間的位相検出法である4ステップ位相シフト方式を用いた.これによって16画面の画像データより2次元複屈折分布計測を可能とした.実際に本手法の応用としてガラスレーザ用のガラスロットおよび液浸法による光学部品の複屈折分布計測が試みられている.さらに,本手法を用いて第3章で試みた磁性流体による磁場計測を2次元に拡張し,2次元磁場計測が可能であることを示した.

 より微小な複屈折計測を可能とするため,新しい位相検出法として局所サンプリング法を提案している.これは測定領域を限定した局所的な部分について光強度を増やし最小自乗フィッティングすることにより,量子化誤差の影響を低減した上で高分解の位相検出を可能とした.

 複屈折分布計測の測定時間の短縮を可能とするために,空間的位相検出法であるワンステップ位相シフト方式による位相検出法の本手法への導入が試みらている.これによって位相検出時における画像データを2画面まで減らすことが可能になり,計測時間の高速な2次元複屈折分布の測定が可能であることが示されている.

 第7章においてはそれぞれの位相検出方式による精密計測法について結論づけた上で第2章から第6章まで得られた結果を総括し,本研究が精密計測における従来法の改善及び新しい計測法の確立に寄与したことを述ている.

 最後に第8章において本研究の成果を踏まえた上で,精密計測の今後の展望を述べている.

 以上のように,本研究は従来では計測することが困難であった3次元形状と複屈折分布の2つの精密計測を位相検出方式の改善および新たに確立した上で計測を可能とし,これを実用の領域まで高めたものである.この成果は工業分野に限らず様々な分野での計測に寄与し,今後さらに応用されていくとものと期待される.よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

UTokyo Repositoryリンク http://hdl.handle.net/2261/53876