学位論文要旨



No 212090
著者(漢字) 財満,英一
著者(英字)
著者(カナ) ザイマ,エイイチ
標題(和) 電力系統の絶縁合理化に関する研究
標題(洋)
報告番号 212090
報告番号 乙12090
学位授与日 1995.02.09
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第12090号
研究科 工学系研究科
専攻 電気工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 河野,照哉
 東京大学 教授 桂井,誠
 東京大学 教授 小田,哲治
 東京大学 教授 石井,勝
 東京大学 助教授 日高,邦彦
 東京大学 助教授 横山,明彦
内容要旨

 我国の電力系統は、都市部の電力需要の急速な伸びと電源の遠隔化に伴い、規模が拡大し、送電線・変電所が高電圧化されてきた。現在の最高電圧である500kVも、昭和48年に送電が開始されて以来、拡充され、電力の基幹系統として、良好に運転されている。次期上位送電電圧であるUHV(1000kV)系統は、将来さらに遠隔化する電源と、ますます巨大化する系統に対応して、その導入が平成10年代前半に計画されている。これらの高電圧化に伴い、単純に設備を大きくすると、電力供給コストは上昇する傾向となる。そのため、高電圧現象を正確に把握し、十分な検討を行い、電力供給コストを低減する必要がある。近年、UHV送電の技術開発を背景に、高性能酸化亜鉛形避雷器の開発による系統過電圧の効果的抑制、およびデジタル解析技術の開発による過電圧の精緻な解析が可能となってきた。また、機器の長時間交流V-t絶縁特性などの諸データが蓄積されてきた。このような技術背景から、電力系統の信頼度を維持しつつ、絶縁の合理化により電力供給コストを低減できる見通しが得られている。

 本論文は、電力系統の送変電設備の絶縁合理化を可能にした研究結果について論じたものである。電力系統に発生するサージの正確な把握という面から、雷サージ解析に必要な鉄塔モデル、分路リアクトル遮断時の再発弧サージの2点について検討した。電力系統に発生する雷サージの抑制という面から、送電線用の避雷器について検討した。さらに、電力系統で発生するサージなどの過電圧の変電機器の絶縁設計への反映という面から、機器の多頻度サージ特性、機器の交流長時間V-t特性、および現地絶縁試験電圧について検討した。

 以下にその主要な成果を述べる。

[1]電力系統に発生するサージ(第2章)

 絶縁合理化を検討するためには、電力系統に発生する過電圧を正確に把握することが必要である。

 雷サージ解析のための鉄塔モデルについては、多相回路解析に対応し、各相の鉄塔アームと電力線間のホーン間電圧が求められるように、鉄塔4段モデル(Zt1=220、Zt2=150)が用いられている。本章では、UHV実鉄塔を対象に測定を行い、ホーン間および塔頂電圧を共に合わせる鉄塔モデル(Zt1=Zt2=120)を提案した。このモデルの検討にあたっては、実測における測定補助線の影響を検討し、鉄塔モデルに反映した。

 また、分路リアクトル遮断は、遅れ小電流の遮断となり、通常の短絡・地絡電流遮断の際とは異なる独特の電流裁断、再発弧が起こり、特に高周波消弧が発生すると電圧エスカレーションへ至り、過大な開閉サージ領域の過電圧により機器の絶縁が脅かされる恐れもある。本章では、分路リアクトルの遮断現象を実フィールドで測定すると共に、工場試験での遮断試験により高周波消弧の発生の可能性について明らかにした。また、高周波消弧特性の模擬の精度向上には、アーク抵抗のモデルの精緻化が必要であるため、工場での遮断試験により、Mayr形のアーク方程式のアーク時定数などのパラメータを明らかにした。これらの結果、高周波消弧時の多重再発弧は、ほとんどの変電所では発生せず、電源側の系統構成などにより過電圧が発生する場合でも、275kV機器では絶縁上問題ないことを確認した。

[2]送電線用避雷器(第3章)

 架空送電線の電気的な事故の半数以上は雷によるものであるため、近年、酸化亜鉛形避雷器の技術を適用することにより、雷事故を低減することを目的とした送電線用の長幹タイプの避雷器が、開発・適用されている。

 本章では、既設の懸垂碍子と交換でき、かつ機械力を持たせられる懸垂碍子タイプの新しい送電用避雷器の開発について論じた。仕様の検討、高性能素子の開発・碍子への埋め込み・封着技術の確立、性能評価試験を行い、66kVおよび500kV用懸垂型送電線用避雷器の信頼性を確認した。この成果は、現在、東京電力の66kV送電線で適用し、避雷効果があることを確認しており、今後の送電線の雷害防止に大いに貢献するものと期待されている。

[3]変電機器の多頻度サージ特性(第4章)

 UHVにおいては、合理的に抑制された試験電圧と遠方雷や通常の開閉サージなどの多頻度サージレベルが近づいてきたことから、繰り返しの多頻度サージに対して機器の絶縁が劣化する特性を把握しておく必要がある。

 本章では、雷・開閉インパルスを対象に要素モデルにより変圧器とGIS(ガス絶縁開閉装置)の部分放電電圧一回数特性などのデータを把握し、UHV機器の雷・開閉インパルス試験電圧への多頻度サージの変電機器への影響を評価した。その結果、多頻度サージの影響を考慮しても、稀頻度の過電圧を対象とした解析から検討された現在のUHV機器の雷・開閉インパルス試験電圧は妥当であることを明らかにした。

[4]変電機器のV-t特性(第5章)

 UHVの交流試験においては、従来の1分間耐電圧試験を廃止し、部分放電試験をベースにした合理的な交流試験電圧(長時間試験と短時間試験の組み合わせ)を採用することとしている。これらのもととなるのが、機器の部分放電開始開始電圧-時間特性(V-t特性)である。本章では、変圧器およびGISを対象に、体系的に絶縁要素モデルを用い、数十ミリ秒の短時間過電圧領域から3〜4カ月の長時間領域の最新の絶縁特性をに明らかにした。この成果は、UHVの変電機器の交流試験電圧(1.5E×1h〜√3E×5min〜1.5E×1h)に反映されている。

[5]GISの現地絶縁試験電圧の検討(第6章)

 本章では、絶縁合理化を進めるにあたって、GISの現地絶縁試験電圧について併せて検討した。厳しい品質管理が実施される我国では、GISの絶縁に影響を与える欠陥としては、スペーサ上の金属異物およびタンク内の金属異物が考えられる。その限界長と現地での部分放電の検出感度を実器を用いた実験により、定量的に評価し、共に十分な感度で欠陥を検出できることを確認し、我国の現行の部分放電測定を伴う現地絶縁試験電圧(500kVでは、1.1pu)は有効であることを確認した。

 以上の研究成果は、UHVおよび500kvを中心とした絶縁合理化の実現に大いに貢献することができた。

審査要旨

 本論文は、電力システムに発生する雷サージなどの過電圧を正確に予想し、これらを低減した上で長期の絶縁信頼性を検証する方法など、電力システムの絶縁合理化に関する研究をとりまとめたもので7章よりなる。

 第1章は「まえがき」であり、現在我国の最高送電電圧である500kVの送電が始まった昭和48年以来、今日にいたる絶縁合理化の動向を述べ、本論文の意義を明らかにしている。

 第2章は、「電力系統に発生するサージ」であり、電力システムで問題になる雷サージと開閉サージについて、前者に関しては雷サージをデジタル解析する場合に重要な送電鉄塔のモデルを、後者に関しては最近の都市部のケーブル系統の発達に伴って問題となっている分路リアクトル開閉時のサージについて論じたものである。

 送電鉄塔の等価回路は、従来より一つのサージインピーダンスとしてモデル化してきたが、送電電圧の上昇による鉄塔高の増大と絶縁設計の精密化のため最近では我国電気学会委員会提案の4段モデル、すなわち鉄塔を4個の等価回路に分けて取扱うようになっている。4個それぞれの等価インピーダンスは実測結果に合うように決められるが、著者は現在建設中の1000kV送電用鉄塔で実測を行い、その結果をデジタル解析などにより評価し、新たに合理的な4段モデルの等価インピーダンスを提案している。

 分路リアクトルは都市部の地中ケーブルの充電容量を補償するため変電所に設置されるが、これを最近のガス遮断器で切り離す場合に発生する開閉サージの評価が絶縁設計上問題になる。著者は、二つの実変電所における実測と工場におけるシミュレーション試験結果を解析、評価し、発生する開閉サージの大きさなどの性質を明らかにするとともに、これらを予測計算する手法を示している。

 第3章「送電線用避雷器」は、我国で開発された、避雷器用の優秀な特性を持つ酸化亜鉛素子を送電線用碍子に埋め込んだ避雷碍子を開発した経過を述べたものである。送電線用避雷器は最近我国で実用化が進められているが、多くは直列ギャップを有するもので既設碍子と交換できず、これと並列に使用されている。そこで既設碍子と交換でき送電線を懸垂できるよう、碍子の絶縁部分に酸化亜鉛素子を埋め込んだ避雷碍子を、66kV用と500kV用に開発した。このうち66kV用については実線路に設置して運転実績を積んでいるが、平成4年夏に実際の雷撃があり、その際期待通り事故を生じなかったが、その時のデータを解析した結果、同じ鉄塔に架線している、避雷碍子を用いていない線路にも雷撃電流が避雷碍子を通って分流するため過電圧を抑制する効果のあることが実証された。

 第4章は「変電機器の多頻度サージ特性」であり、変圧器およびGIS(ガス絶縁開閉装置)の絶縁構成に多数回、雷サージや開閉サージが印加された場合の性質と、その試験電圧に与える影響を評価したものである。UHV(百万V級)送電用変電機器においては、寿命期間中きわめて希にしか生じない高いサージと、数十回程度発生するやや電圧の低い多頻度サージとの大きさが近いことから、多頻度サージによって絶縁が劣化してゆく性質を評価する必要がある。本章では実機器に近いモデルを用いて雷および開閉サージを多数回印加した場合の部分放電開始、および破壊電圧の低下特性から、UHVの試験電圧としてまれにしか加わらない電圧を対象にして定めた試験電圧が、多頻度サージに対しても合理的であることを明らかにしている。

 第5章は「変電機器のV-t特性」であり、変圧器およびGISの交流電圧に対する長期寿命を、1時間程度の試験で検証する場合の合理的な電圧印加方法について論じている。まず、実機器に近い絶縁モデルのV-t特性(電圧-時間特性)を、UHV用の材料を用いた新たな実験結果を評価してワイブル分布に基づく実験式の各種パラメータを定め、これよりUHV変圧器に対しては、まず1.5倍の電圧を1時間印加し、次に212090f01.gif倍の電圧を5分、さらに1.5倍の電圧を1時間印加して部分放電を測定する試験が妥当であること、GISに対しては1.5倍30分、212090f02.gif倍1分、1.5倍30分が適切であることを明らかにしている。

 第6章「GISの現地絶縁試験電圧の検討」では、現地で据付けた後に行われる絶縁試験の方法について論じている。ヨーロッパでは現地でかなり高い交流電圧と雷インパルス電圧を印加するのに対し、我国では比較的低い交流電圧を印加して部分放電の検出等行っている。GISの絶縁に影響を与える欠陥の性質と現地での検出感度を検討した結果、我国のように工場で十分な品質管理を行う前提に立てば現地で行う試験は現状の我国で行っている方法が合理的であることを示している。

 第7章は「結論」であり本論文で得られた知見をまとめ、今後の課題を示している。

 以上を要するに、本論文は、電力システムに発生する雷サージを正確にデジタル解析するための送電鉄塔モデルの提案、雷サージを低減する避雷碍子の開発、変電機器の多頻度サージに対する特性や運転電圧に対する長期寿命を考慮した高電圧試験法の評価などにより電力システムの絶縁合理化を実現したものであり、電気工学上貢献するところが大きい。

 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

UTokyo Repositoryリンク http://hdl.handle.net/2261/50921