本論文は、加入者系光伝送システムを構築するために必要な、量産性に富み、接続損失が少なく、広波長帯域かつ偏波無依存である導波路型光受動部品を研究開発した成果を記述したもので、6章からなる。 第1章は序論であって、本研究の背景、目的、論文構成が述べられている。光ファイバ通信を幹線系だけではなく加入者系に将来導入するための研究開発が、現在盛んに行われている。加入者系においては、ネットワークの広がりを生み出すために光分岐結合器、光スイッチその他の受動的光部品が大量に必要となり、それらの経済性に対する要求にも厳しいものがある。導波路型光部品は、幹線系で用いられてきたファイバ加工型光部品に比して量産性の面では有望であるが、接続損失および挿入損失の低減化が要求され、さらに広波長帯域ならびに偏波無依存の特性を具備する必要もある。本研究の主目的は、将来の光加入者系におけるキーコンポーネントである光分岐結合器および光スイッチを導波路型で構成する際に要求される、広波長帯域性、偏波無依存性、ならびに導波路チップと光ファイバとの低接続損失を実現する技術を研究し提供することである。 第2章は「広波長帯域・偏波無依存導波路型光スイッチ」と題し、半導体Y分岐導波路によるモードカットオフ型光スイッチを提案し研究した結果を述べている。これはY分岐の一方の分枝に電流を注入し、屈折率減少を利用してその分枝への伝搬モードをカットオフすることを動作原理とする、ディジタル的特性をもつ光スイッチの新型である。まず、ビーム伝搬法による解析で、動作特性が広波長帯域、偏波無依存であることを示した。次にGaAlAs系材料を用いて電極長が0.8mmの素子を試作し、注入電流250mAで十分な消光比で1.3m光と1.55m光を同等にスイッチできること、及び偏波にも無依存であることを実証した。さらに、これらの光スイッチを8個モノリシック集積化した2入力2出力のルート切替用集積化光スイッチを開発し良好な特性を得た。 第3章は、「高消光導波路型光偏波分離器」と題し、半導体反転方向性結合器による高消光比光偏波分離器を提案し研究した結果を記述している。光偏波分離器はTE(横電界)偏彼とTM(横磁界)偏波とを分離するもので、他の偏波依存性光部品と組み合わせて、いわゆる偏波ダイバーシティの原理により偏波無依存な光部品を構成していく際などに必要な素子である。本提案素子は、半導体pn接合をもつ反転方向性結合器の上面に2対の電極を付したもので、1対の電極からは逆方向電圧を、他の1対の電極からは順方向電流を印可することにより、結合導波路間の光位相係数差を各偏波について独立に制御調整できる構造となっている。これにより、方向性結合器がTE偏波に対してスルー状態、同時にTM偏波にたいしてはクロス状態になるように動作させて、偏波分離を高消光比で実現できる。実際にGaAlAs系材料を用いて素子を試作し、1.3m光および1.55m光に対し20dB以上(最高32dB)の高い偏波間消光比が得られることを実証した。 第4章は、「広波長帯域導波路型光分岐結合器」と題し、方向性結合器による光分岐結合器を広波長帯域化する方法を検討している。方向性結合器の二つの導波路を同等でない、すなわち非対称とし、光位相係数差をあらかじめ与えておくと、波長変化による分岐結合比変化を低減できることをまず提案した。次に、リッジ装荷型の石英系導波路を対象に、Sベンドを有する入出力リード部まで考慮に入れて具体的に解析し、リッジ幅を非対称にした一様型あるいは反転型の素子では、二つの導波路が対称な素子に比べて、分岐結合比の波長による変化量が1/3程度に低減されることを明らかとした。さらに、〓記素子を各12個集積した全長40mmの8×8スターカップラを火炎堆積法およびドライエッチング法により試作し、上記理論にほぼ一致する結果を得ている。付随して、同様な1×8光分岐結合器に誘電体多層膜フィルタを組み合わせ、波長を切替えて各分枝ごとの障害点特定を可能とする光分岐結合器を提案開発した。 第5章は、「モードフィールド変換器」と題し、光導波路チップと光ファイバ間の接続損失を低減するためのモードフィールド変換器を論じている。光導波路チップ内では一般にモードフィールド径が小さいので、光ファイバと突き合わせ接続するにはモードフィールドを拡大する変換器を挿入すべきである。これを屈折率のみ、あるいは断面寸法のみのテーパ導波路で形成するのは得策でなく、コアクラッド間屈折率差の平方根と断面寸法の積が長手方向に一定のままの屈折率・寸法同時テーパ導波路で実現するのが良いことを、理論解析に基づいて提案している。次に石英系導波路の膜厚と屈折率を火炎堆積法で、チャネル幅をドライエッチング法で、それぞれテーパ状に制御して良好なモードフィールド変換器を試作し、さらにこれを32×32スターカップラの入力側、出力側に組み込んで、光ファイバとの接続損失として0.3dB/個所の低い値を得ている。この他、モードフィールドが導波路チップのそれに整合した特別なファイバを伝送路用の標準単一モードファイバに融着してから、加熱拡散処理で屈折率・寸法同時テーパを形成する方法を考案して、ファイバ型モードフィールド変換器を開発した。 第6章は結論であって、上記の諸結果を総括するものである。 以上のように本論文は、半導体導波路型の広波長帯域・偏波無依存な光スイッチならびに高消光比をもつ光偏波分離器、広波長帯域の導波路型光分岐結合器、導波路チップとファイバ間の接続損失を低減するための光モードフィールド変換器などの加入者系光ファイバ通信に有用な新しい光部品についての研究開発成果を述べており、電子工学上貢献するところが多大である。 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 |