本論文は「ターミナルアナログ合成器による実時間音声規則合成に関する研究」と題し、記号表記された文章を入力とし、人間の音声生成機構を周波数領域でシミュレートする新しい構成のターミナルアナログ型音声合成器を用いて、品質の高い合成音声を出力する技術を開発するとともに、それを小型モジュールとして実現し、実時間音声合成を行う研究に関するものであって、全10章からなる。 第1章は「序論」であって、本論文の目的と背景を述べている。まず、日本語テキスト音声合成、ターミナルアナログ型合成器、声帯音源波形、音声合成装置に関する従来の研究を概観した上で、本論文の目的が高品質音声合成が可能な合成モジュールの開発にあり、それによって音声合成の利用に資する点にあることを示している。次に、本論文の各章の位置づけを述べている。 第2章は「音声規則合成モジュールの説明」と題して、まず、開発した音声合成モジュールが、記号表記された入力文章に対し、入力記号解釈処理、音韻処理、音響処理、信号処理を順次行うことによって、合成音声を出力するものであることを述べた後、各処理について説明している。次に、入力が正書法表記された従来のテキスト音声合成装置と比較し、テキスト解析を中央装置で行い、本論文の合成モジュールを各ターミナルに設置して音声合成を行うことにより、信頼性、経済性が向上することを述べ、新しい合成システムの利用について提言している。 第3章は「ターミナルアナログ合成器の改良」と題して、まず、本論文の合成器の基本となるMCTA合成器(多重カスケード回路構成の合成器)の特徴を説明し、自然音声の高精度分析にもとづいてその問題点を指摘している。次に、本論文で行った声帯音源波形、摩擦音源波形、鼻音合成回路に対する改良の効果を実例をあげて示している。 第4章は「蓄積パタンの改良」と題して、まず、音節を基本単位とする先行システムについて概説し、本論文での改良点が、主として、先行母音の考慮、分節的特徴と韻律的特徴のタイミング制御の詳細化にあることを示している。また、前章で示した高精度分析法を用いた効率的な蓄積パタンの作成手法を示している。 第5章は「音声のパワーに関する検討」と題して、まず、合成母音音声について基本周波数の上昇によるパワーの増加傾向について調べ、基本周波数とフォルマント周波数の関係によって極大極小が現れることを示している。次に、自然音声についての結果にもとづいた音源パワー補正の手法を提案し、基本周波数の変化による異常なパワーの増加が抑えられることを音声合成を行って実証している。 第6章は「合成処理系の構築」と題して、まず、本論文の合成システムの全体を示し、次に、入力記号解釈処理、音韻処理、音響処理、信号処理の各処理の内容を詳細に述べている。特に、音韻処理に関連して韻律規則を示し、入力記号からの音韻記号列導出についての実例を示している。 第7章は「実用化のための考察」と題して、実用的なシステムとして合成モジュールが備えるべき機能について、音声合成に直接関連したものと、利用に際しての利便性を向上させるものとに分けて考察している。 第8章は「実時間処理系の実現」と題して、モジュール化のためのハードウエア構成、実時間合成のためのソフトウエア構成について述べている。特に、後者に関して、メモリの節約と処理の高速化に対する考慮点を示している。 第9章は「合成音声及び処理系の評価」と題して、まず、合成音声の評価を単音節明瞭度試験と単語了解度試験によって行い、従来のものと比較して優れた結果が得られたことを示している。次に、大きさ、消費電力の点から評価を行い、携帯用機器に十分利用可能で、第2章に述べた様な合成モジュールの応用が期待されることを述べている。 第10章は「結論」であって、本研究で得られた成果を要約している。 以上これを要するに、本論文は、ターミナルアナログ型の音声合成に関して、高品質化、モジュール化を達成するとともに、その新しい利用形態について提言を行ったものであって、電子工学、情報工学に貢献するところが少なくない。 よって、本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 |