本論文は「単純な反応場を利用したCVD反応機構の決定法-酸化物系CVDへの適用-」と題し、その目的はCVD法(気相化学成長法)における化学反応の機構を決定する為の工学的手法を提案する事にある。本論文の第1章において、研究の目的と手法を明らかにし、以後の議論の明確化を図るため、反応機構、工学的手法の意義を論じている。機構とは、反応装置設計に役立つ様な、反応スキーム並びに反応速度式を含むものであり、また、工学的手法とは、コストをも考慮に入れた上で、現実的な手法を意味するものとしている。 第2章から第4章までの第1部において、本論文において、反応機構解析に用いる「単純な反応場」である、ミクロキャビティ (ミクロンスケールのトレンチ構造)、マクロキャビティ (ミリ〜センチスケールのウェハスタック構造)、円管型反応器における解析の手法に関してまとめている。 第2章「ミクロキャビティを用いた解析」では、もっとも単純な反応場であると考えられるミクロキャビティを論じている。現象の単純さに関わらず、その解析は必ずしも単純では無く、数値シミュレーションとの比較が必要であり、シミュレータの詳細と、応用上の問題点についてまとめている。 第3章「マクロキャビティを用いた解析」で論じられているマクロキャビテイでは、数値シミュレーションよりも解析的な取り扱いが有効であるとされている。反応機構の情報は膜厚分布に特徴的に現れるが、解析的な解の知識があればそれは極めて明白に理解でき、このような明快さを数値シミュレーションには無い解析解の大きなメリットであるとして強調している。ここでは更に進んで、厳密な解析解を境界層モデルに基づいた近似式で表わす手法について論じている。これによって式の扱いが容易になると同時に分布の由来についても明確な物理的イメージを持つ事ができる。 第4章「円管反応器を用いた解析」では、等温の円管型反応器内の成膜速度分布を、マクロキャビティー内の分布同様、解析的な扱いで議論している。マクロキャビティーと対応させつつ分布の解析法を示し、両者の類似点と相違点を明白にし、拡散律速の成膜条件において、拡散係数を求める事が可能となるなど、マクロキャビティーに無いメリットがある事が示されている。 第5章から第7章が第2部を成す。第2部では第1部で述べた手法を実際の反応系に適用した結果が示されている。第5章、「TEOS熱分解反応による酸化シリコン成膜プロセスの反応機構」では、反応機構の決定法を中心に、敢えて研究の進展の順を追って議論を展開している。第6章、「TTIP熱分解、光分解反応による酸化チタン成膜プロセスの反応機構」では、光CVDを含む系を扱い、そして第7章、「シラン酸化反応による酸化シリコン成膜プロセスへの気相添加物効果」においては、反応機構の知見を基に反応系の改善を試みた事例について述ている。 第8章には、まとめとして、この研究の位置付けと、この研究に続くべき研究への展望を述べている。 以上、要するに本論文は、CVDの工業化に必要な情報を得るために行うべき実験と解析の最適な組み合わせ法を探索し、ひとつの解を提案したものであり、化学工学の発展に寄与することが大きい。よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 |