審査要旨 | | わが国の火山の風下にあたる地域の地下には軽石層が広く分布している。その中で,北関東に広がる鹿沼土どいわれる軽石層は,風化が進んで軟質化した風化軽石からなる独特のもので,その材料学的性状に未知な点がまだ多く残され,農地整備に関わる土工上の取扱いは常に多くの困難を来たし特殊土とも言われている。 本論文は,この鹿沼土の土工に関わる物理性と力学性を噴出源からの距離に応じて詳細に明らかにし,それに基づいて鹿沼土の土工的な改良法を提示しようとしたもので,8章から構成されている。 第1章は,緒言であり,研究の目的,方法,それに既往の研究の評価を述べている。 第2章は,自然状態の鹿沼土の基本的な物理性および力学性について詳しく調べ,固相率が約12%と極めて小さく,含水比が約200%と極めて大きい。また,飽和透水係数は10-3cm/sのレベルが多いが,イモゴライトが多くなると10-5cm/sのレベルとなる。一軸圧縮強度はほぼ1×98kN/m2前後で支持力はあるとはいえ,鋭敏比が5〜18と非常に大きい。つまり,圧縮が2.4×98kN/m2の圧密降伏応力までは約1%と非常に小さいが,これを越えると外力による風化軽石の破砕が発生し細粒子の増加という構造変化が生じて急激に増える特徴があることを明らかにしている。 第3章では,粒子組成を詳しく調べ,鹿沼土の主要構成粒子が粒径0.2〜2.0cmの風化軽石であり,これが乾燥質量比で全体の70〜90%を占め,この他に小粒で硬い軽石粒や岩片,さらに軟らかいイモゴライトが含まれ,この4要素がランダムに混在する構造を明らかにしている。また,風化軽石の細孔の中には全水分の約90%の水が含まれ,風化軽石間には全間隙の15%前後の間隙が構成されていることを示して,第2章で明らかにしたような物理性の特徴がこの粒子構成に原因があると指摘した。 第4章では,風化軽石粒子とイモゴライトを選別してそれぞれの圧縮性を調べ,低圧力ではイモゴライトと風化軽石間に形成される間隙の圧縮率が大きく,風化軽石自体の圧縮率は小さい。風化軽石の圧縮率は圧密降伏応力以上の高圧力で大きくなるが,9.6×98kN/m2を越えると極めて小さくなる。しかし,粒子構成比率に大きな差異があるために,構成要素の圧縮量が全圧縮量におよぼす寄与は,低圧力であっても風化軽石はイモゴライトや間隙の圧縮の寄与とほぼ等しいぐらいに大きい。そして圧密降伏応力以上の高圧力では,風化軽石の寄与が一軸圧縮では80%,等方圧縮では60%以上を占めることを示して,第2章で明らかにした鹿沼土の力学的な特徴が,やはりその構成粒子の力学的特性によるところが大きいと述べている。 第5章では,鹿沼土の水分特性曲線を詳細に測定し,これに基づいて圧縮による鹿沼土の間隙構造の変化を調べ,圧縮を受けると自然状態の鹿沼土が持っていたPF1付近の間隙が消失し,PF4以下の微細な間隙が大量に増加する。この変化は突き固めや練り返しのような外力を受ける場合にも見られることを明らかにし,それが風化軽石粒子の破砕によるものであると述べている。 第6章では,飽和透水係数を詳細に測定し,圧縮を受けると圧密降伏応力時点で10-5cm/sのレベルになり,9.6×98kN/m2ではそれが10-5cm/sのレベルにも減少する。また突き固めよりも練り返しによる飽和透水係数の減少が大きいとも述べて,この変化も風化軽石間にある間隙の減少と風化軽石の破砕による細粒化が水の浸透におよぼす影響を明らかにしている。 第7章では,鹿沼土の土工にあたっての強度改良について,以上のような物理的,力学的性状にもとづいて検討し,含水比を80〜100%に下げてから風化軽石を破砕して乾燥密度が0.5〜0.6g/cm3になるまで締め固めれば, 1〜2(×98)kN/m2の一軸圧縮強度がえられる。また含水比の低下が容易ではないときは生石灰を20%以上添加することで締め固めと同等の強度が得られることを明らかにし,鹿沼土の土工方法について工種別に提案している。 第8章は結論であり,本成果は,北海道や南九州に分布する粗粒軽石層,また海外の軽石層の土工改良技術にも応用し得るものと述べている。 以上を要するに,本論文は,自然状態の鹿沼土の物理的および力学的な性質と農地整備における土工の際に発現するそれらの変化を詳細に調べ,土工材料としてこれを扱うときの強度改良方法を工種別に提案したものであり,土壌物理学,土質力学,農地工学の学術上,応用上貢献するところが少なくない。よって,審査委員一同は本論文が博士(農学)の学位論文として価値あるものと判定した。 |