学位論文要旨



No 212116
著者(漢字) 富田,平四郎
著者(英字)
著者(カナ) トミタ,ヘイシロウ
標題(和) 土木施工における鹿沼土の物理性と強度に関する研究
標題(洋)
報告番号 212116
報告番号 乙12116
学位授与日 1995.02.13
学位種別 論文博士
学位種類 博士(農学)
学位記番号 第12116号
研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 中野,政詩
 東京大学 教授 田渕,俊雄
 東京大学 教授 中村,良太
 東京大学 助教授 宮崎,毅
 東京大学 助教授 山路,永司
内容要旨

 鹿沼土とは、地質学的には北関東ローム層中の「宝木ローム層」を構成する軽石層で、栃木県を中心に分布する鹿沼軽石層(噴出源は群馬県の赤城山)を構成する土を指す。鹿沼土は、主要構成物質である風化軽石が軽石構造を残存しており、多孔質でしかも風化によって軟質化しているため、含水比が高く強度的に非常に弱く土工上の特殊土として取り扱われている。

 最近、大規模かつ迅速な土工の増加に伴い、建設残土(廃棄材)の処理が、捨て土場所の確保の制約から問題視されており、この廃棄材の有効利用が大きな課題となっている。鹿沼土についても同様で、施工方法の工夫や土質改良などによる土木材料としての利用、あるいはこれ以外の利用法の開発が強く望まれている。

 本研究では、この改良や利用法の開発に必要な鹿沼土の有する物理的、力学的諸特性の実態を明らかにすると共に、加えてこれらの構造変化による変化をも明らかにし、何らかの土工上の簡便な改良法を提示することを目的として、種々の角度から検討を加えた。

 試料は、地域による諸特性の違いを考慮して、主として栃木県内の2地点(鹿沼市-赤城山から約50km、真岡市-赤城山から約70km)から採取し実験に供した。各々の試料をK上、K中、K下(鹿沼市)、M上、M下(真岡市)と呼ぶことにする。

 なお、本研究により得られた事項は以下の通りである。

1.鹿沼土の物理性と力学性

 (1)自然状態についての物理試験の結果、含水比n=170〜220%、間隙比e=6〜7、湿潤密度t=0.94〜1.06(g/cm3)、比重Gs=2.65〜2.78である。この含水比の高いこと及び間隙比の大きいことは、鹿沼土の特徴である。土壌の三相比は、固相が11.8〜13.6%、液相が61.7〜72.4%、気相が14.9〜26.5%で、固相が非常に少ない。粒度は、赤城山からの距離が増すとともに、「礫」から「細粒分混じり礫」へと細粒化する。

 (2)自然状態の鹿沼土の透水係数kは、1.5×10-3〜8.4×10-5(cm/s)であり、イモゴライトを多く含むK上のk値は最も小さい。

 (3)軽石層の支持力は比較的大きく、コーン指数qcは5.3〜11.5(×98kN/m2)、CBR値は2.3〜3.8%である。

 (6)一軸圧縮強度quは0.41〜1.45(×98kN/m2)、内部摩擦角は5.1〜10.2°、粘着力cは0.15〜0.73(×98kN/m2)である。なお、強度は構造変化により大きく低下し、鋭敏比は5〜18と非常に大きい。

2.鹿沼土(鹿沼軽石層)の構成

 (1)鹿沼土は、風化軽石、軽石粒、イモゴライト、岩片の4要素から構成されており、この他に4要素間に大間隙がある。主な構成要素は風化軽石であり、その全乾燥質量に対する乾燥質量比は72〜91%である。この割合は深い層ほど(K下、M下)、また赤城山からの距離が増すほど(M上、M下)大きくなる。

 (2)軽石粒子(風化軽石、軽石粒)間の飽和度は16.6〜60.5%で、イモゴライトを多く含む鹿沼上層で大きな値(60.5%)を示す。

 (3)液相の73〜91%は、風化軽石(飽和度81〜98%)によって占められるが、これは、風化軽石または軽石層の保水性の良さを示している。

3.鹿沼土の圧縮性と構造変化の関係

 (1)鹿沼土の圧縮量は低圧力範囲では小さいが、圧密降伏応力(2.0×98kN/m2)以上になると風化軽石の破砕により急激に大きくなる。なお、圧力が低い範囲での圧縮は、風化軽石の移動とイモゴライトの圧縮によるものでその量は少ない。これは間隙の2重構造(風化軽石内の間隙と風化軽石の外側の間隙量)と密接に関係する。

 (2)圧縮量および風化軽石の破砕は、載荷方法の違い(垂直方向の圧力および等方圧力)による差がないが、圧縮速度は載荷方法により大きく異なる。即ち、圧密試験の場合、載荷直後の圧縮量が比較的多いが、三軸圧縮試験では、載荷後10分を過ぎると圧縮量が増加する。

 (3)風化軽石の圧縮率は、大間隙およびイモゴライトに比べて小さいが、鹿沼土全体積の80〜90%を占める風化軽石の圧縮量は、全圧縮量の大半を占める。即ち、圧縮に対する寄与率が非常に大きい。

4.構造変化による鹿沼土の保水性の変化

 (1)不攪乱土のpF-水分特性曲線の形は概ね逆S字形であるが、pF=1付近で体積含水率の大きな低下部分を有する。これは風化軽石間に保持されていた水がサクションの僅かな増加により除去されることを示す。この傾向はイモゴライトを含むK上およびK中で顕著である。

 (2)攪乱土(練り返し土、突固め土、圧密土)の保水性は、風化軽石や団粒構造の破砕による細粒化によりかなり向上する。従って、pF=1付近の体積含水率の低下は大間隙の消失によりほとんど無くなる。

 (3)但し、風乾土の保水性は、イモゴライトの非可逆的収縮のため大きく低下し、pF=1付近の曲線の低下も同じ理由でさらに大きくなる。

5.構造変化による透水性の変化

 (1)風乾土の透水係数(k)は、不攪乱土に比べて2〜5倍大きくなり、特にK上ではイモゴライトの非可逆的収縮により特に顕著である。

 (2)練り返し土のk値は、細粒分の増加により極端に小さな値(1.6×10-5〜1.2×10-6cm/s)となる。

 (3)突固め土のk値は、細粒分の増加及び密度の増加により低下する。またK値の低下は、採取位置、深さ、試料の含水比により異なる。

 (4)圧密によるk値の低下は、2.4(×98kN/m2)以上の圧力で大きいが、圧力が9.6(×98kN/m2)以上での低下割合は徐々に小さくなる。

6.鹿沼土の土質改良(1)締固めによる改良

 (1)繰り返し法の場合、締固め曲線の形は最大乾燥密度(dmax)が0.65〜0.77(g/cm2)の鋭い山型であるが、非繰返し法の場合、最大乾燥密度(dmax)が0.45〜0.55(g/cm3)のなだらかな山形である。この最大乾燥密度の値は、不攪乱状態の関東ロームの値(0.62g/cm3)よりも小さい。また、最適含水比optは自然含水比の1/2以下の80〜100%である。

 (2)締固め土の一軸圧縮強度(qu)は、乾燥密度が0.5〜0.6(g/cm3)以上の場合に1.0〜2.0(×98kN/m2)である。この時の含水比は50〜100%である。また、突固めによる風化軽石が破砕し「砂質土」まで細粒化する。従って、このqu値を得るには、大幅に水分を減少させること及び風化軽石の破砕が必要となる。

(2)生石灰を用いた鹿沼土の改良

 土に生石灰を添加すると、生石灰の消化反応による含水比の低下と長期にわたるポゾラン反応によって強度が増加する。鹿沼土の場合、生石灰の添加率が約20%以上で顕著な改良効果が得られる。

7.鹿沼土の有効利用の検討(1)土工用土としての利用

 (1)鹿沼土は生石灰による改良が可能であるので、土工(路床、盛土、基礎)の材料として用いることは十分可能である。

 (2)掘削する必要が無い場合、生石灰パイル工法等により軽石層を大きく乱さないで改良し、支持力不足を補えば良い。

(2)その他の利用法

 (1)鹿沼土の色調(明るい茶褐色あるいは黄褐色)を活かして、高圧で圧縮整形したソイルブロックや、結合剤を用いて低圧で圧縮整形した化粧煉瓦やタイルとしての利用が考えられる。

 (2)農業での利用法としては、風化軽石を固結剤で固めて水耕栽培のベッドとして利用(古いベッドは畑に戻せるのでロックウールと違って処分の問題が無い)することや、砂分の多い農地の保水性の改善を図る土壌改良資材としての利用も考えられる。

審査要旨

 わが国の火山の風下にあたる地域の地下には軽石層が広く分布している。その中で,北関東に広がる鹿沼土どいわれる軽石層は,風化が進んで軟質化した風化軽石からなる独特のもので,その材料学的性状に未知な点がまだ多く残され,農地整備に関わる土工上の取扱いは常に多くの困難を来たし特殊土とも言われている。

 本論文は,この鹿沼土の土工に関わる物理性と力学性を噴出源からの距離に応じて詳細に明らかにし,それに基づいて鹿沼土の土工的な改良法を提示しようとしたもので,8章から構成されている。

 第1章は,緒言であり,研究の目的,方法,それに既往の研究の評価を述べている。

 第2章は,自然状態の鹿沼土の基本的な物理性および力学性について詳しく調べ,固相率が約12%と極めて小さく,含水比が約200%と極めて大きい。また,飽和透水係数は10-3cm/sのレベルが多いが,イモゴライトが多くなると10-5cm/sのレベルとなる。一軸圧縮強度はほぼ1×98kN/m2前後で支持力はあるとはいえ,鋭敏比が5〜18と非常に大きい。つまり,圧縮が2.4×98kN/m2の圧密降伏応力までは約1%と非常に小さいが,これを越えると外力による風化軽石の破砕が発生し細粒子の増加という構造変化が生じて急激に増える特徴があることを明らかにしている。

 第3章では,粒子組成を詳しく調べ,鹿沼土の主要構成粒子が粒径0.2〜2.0cmの風化軽石であり,これが乾燥質量比で全体の70〜90%を占め,この他に小粒で硬い軽石粒や岩片,さらに軟らかいイモゴライトが含まれ,この4要素がランダムに混在する構造を明らかにしている。また,風化軽石の細孔の中には全水分の約90%の水が含まれ,風化軽石間には全間隙の15%前後の間隙が構成されていることを示して,第2章で明らかにしたような物理性の特徴がこの粒子構成に原因があると指摘した。

 第4章では,風化軽石粒子とイモゴライトを選別してそれぞれの圧縮性を調べ,低圧力ではイモゴライトと風化軽石間に形成される間隙の圧縮率が大きく,風化軽石自体の圧縮率は小さい。風化軽石の圧縮率は圧密降伏応力以上の高圧力で大きくなるが,9.6×98kN/m2を越えると極めて小さくなる。しかし,粒子構成比率に大きな差異があるために,構成要素の圧縮量が全圧縮量におよぼす寄与は,低圧力であっても風化軽石はイモゴライトや間隙の圧縮の寄与とほぼ等しいぐらいに大きい。そして圧密降伏応力以上の高圧力では,風化軽石の寄与が一軸圧縮では80%,等方圧縮では60%以上を占めることを示して,第2章で明らかにした鹿沼土の力学的な特徴が,やはりその構成粒子の力学的特性によるところが大きいと述べている。

 第5章では,鹿沼土の水分特性曲線を詳細に測定し,これに基づいて圧縮による鹿沼土の間隙構造の変化を調べ,圧縮を受けると自然状態の鹿沼土が持っていたPF1付近の間隙が消失し,PF4以下の微細な間隙が大量に増加する。この変化は突き固めや練り返しのような外力を受ける場合にも見られることを明らかにし,それが風化軽石粒子の破砕によるものであると述べている。

 第6章では,飽和透水係数を詳細に測定し,圧縮を受けると圧密降伏応力時点で10-5cm/sのレベルになり,9.6×98kN/m2ではそれが10-5cm/sのレベルにも減少する。また突き固めよりも練り返しによる飽和透水係数の減少が大きいとも述べて,この変化も風化軽石間にある間隙の減少と風化軽石の破砕による細粒化が水の浸透におよぼす影響を明らかにしている。

 第7章では,鹿沼土の土工にあたっての強度改良について,以上のような物理的,力学的性状にもとづいて検討し,含水比を80〜100%に下げてから風化軽石を破砕して乾燥密度が0.5〜0.6g/cm3になるまで締め固めれば, 1〜2(×98)kN/m2の一軸圧縮強度がえられる。また含水比の低下が容易ではないときは生石灰を20%以上添加することで締め固めと同等の強度が得られることを明らかにし,鹿沼土の土工方法について工種別に提案している。

 第8章は結論であり,本成果は,北海道や南九州に分布する粗粒軽石層,また海外の軽石層の土工改良技術にも応用し得るものと述べている。

 以上を要するに,本論文は,自然状態の鹿沼土の物理的および力学的な性質と農地整備における土工の際に発現するそれらの変化を詳細に調べ,土工材料としてこれを扱うときの強度改良方法を工種別に提案したものであり,土壌物理学,土質力学,農地工学の学術上,応用上貢献するところが少なくない。よって,審査委員一同は本論文が博士(農学)の学位論文として価値あるものと判定した。

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