本研究は種々の中枢神経疾患においてみられる皮質性ミオクローヌスの発生機序を明らかにするため、新しい機器である生体磁気計測装置を用い、健常人と皮質性ミオクローヌス症例における誘発脳磁界を解析したもので、下記の結果を得ている。 1.健常人において身長・年齢・刺激強度と体性感覚誘発磁界の頂点潜時・振幅の相関の有無を検討し正常値を決定した。 2.健常人の体性感覚誘発電位において従来から頭頂葉由来か前頭葉由来かで問題となってきた前頭部P22成分を検討した。従来前頭葉由来とする根拠となっていた頭頂葉由来のN20との潜時差はN20がtangential componentとradial componentの合成波形であるための差であり脳磁図を用いてtangential componentのみをとらえた場合にはN20とP22は潜時は一致し、P22もN20と同一の電流源由来の成分であり頭頂葉由来と考えられることが示された。 3.運動関連磁界の電流源の局在推定を行い、随意運動前500msには補足運動野由来の成分が存在し、100ms付近では運動前野由来の成分が存在することを示し、運動に先行する脳電気活動が脳磁図を用いて被侵襲的に解析できることを示した。それとともに健常人では後述の皮質性ミオクローヌス症例のような中心後回の著明な活動は認められないことを確認した。 4.皮質性ミオクローヌス症例において認められる体性感覚誘発磁界の巨大成分について電流源の局在推定を行い、従来中心前回由来との説もあったが、中心後回よりその異常興奮が生じていることを示した。 5.皮質性ミオクローヌス症例においてミオクローヌスに先行して認められる棘波は中心後回、中心前回のいずれに主たる電流源が存在するか従来議論が絶えなかったが、今回脳磁図を用いた電流源の局在推定により主たる電流源が中心後回に存在していることが示された。 以上本論文は生体磁気計測装置という新しい技術を用いて、第一には健常人における運動感覚野由来の脳波活動の起源の解明と正常値の確立を行い、第二に皮質性ミオクローヌスという不随意運動の発生機序において、感覚野である中心後回の果たす役割の重要性を明らかにした。本研究は今後発展が期待される脳磁図という手法に基礎データを提供するとともに、皮質性ミオクローヌスという不随意運動の機序解明に重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。 |