学位論文要旨



No 212164
著者(漢字) 遠藤,弘良
著者(英字)
著者(カナ) エンドウ,ヒロヨシ
標題(和) 日本人の健康増進行動に関する研究
標題(洋)
報告番号 212164
報告番号 乙12164
学位授与日 1995.03.08
学位種別 論文博士
学位種類 博士(医学)
学位記番号 第12164号
研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 荒記,俊一
 東京大学 教授 川田,智恵子
 東京大学 教授 開原,成允
 東京大学 教授 大井,玄
 東京大学 助教授 西垣,克
内容要旨 I研究目的

 成人病予防,健康増進に食事、休養、運動等の生活習慣が重要な役割を果たすことは、疫学的、臨床的に研究、解明されている。しかしこうした生活習慣である個々の健康行動がどのような属性、どのような健康観、健康不安等を持った人によって実施されているかに関しては解明が進んでいない。そこで本研究では、「健康づくりに関する意識調査」結果をもとに、日本人の食事、休養、運動等の日常生活習慣上の健康行動が、属性や健康意識によってそれぞれどのように特徴付けられるか、を検証することを目的とした。

II研究方法1.調査対象、調査方法

 研究の基礎データは、財団法人健康・体力づくり事業財団が、昭和60年並びに平成2年に実施した「健康づくりに関する意識調査」から得た。

 この調査は、ア)全国レベルの層化無作為調査、イ)専門の調査員による面接調査、ウ)ほぼ同一内容の調査を一定期間の後に再度実施、といった特徴を有する。都市規模別に層化した層化無作為抽出法によって選ばれた、満20歳以上の日本国内に住む日本人4、000人を対象とし、有効回収数は、昭和60年が3、001人(回収率75.0%)、平成2年が3、019人(回収率75.5%)であった。

 クロス分析、因子分析については、全回答者(昭和60年:3、001人、平成2年:3、019人)のうち、健康に「1.普段から気をつけている、2.気をつけているほうだと思う」と回答し、かつ、「1.健康のためにやっていることや、注意を払っていることがある、2.特に何かをやっているわけではないが、病気にならないように気をつけている」と回答したもの(昭和60年:1、864人、平成2年:1、825人)を対象とした。

2.調査項目

 両調査結果の中で、健康感(健康状態の自己評価)、具体的健康行動、健康改善意向、健康不安、健康を損なったときの心配、健康観(健康に関する考え)に関する質問項目に対する回答結果を研究対象とした。

3.分析方法1)単純集計分析

 調査項目に対する回答の単純集計に基づく分析を行った。

2)クロス分析

 生活習慣と関連した健康行動、ア)過労に注意し、睡眠、休養を十分に取るように心がけている(以下、「休養」と表記)、イ)食事、栄養に気を配っている(以下、「食事」と表記)、ウ)酒・タバコを控える(以下、「酒・タバコ」と表記)、エ)定期的に健康診断を受けている(以下、「健診」と表記)、オ)運動やスポーツをするようにしている(以下、「運動」と表記)、カ)新聞・テレビ・雑誌などで健康の情報・知識を増やすように努めている(以下、「情報」と表記)について、それぞれの行動を取るか取らないかが、属性、健康感、健康改善意向、健康不安、健康を損ねたときの心配、健康観により有意差があるか否かを調べるため、クロス分析をSPSS統計パッケージを用いて2xnのChi-Square検定により行った。

3)因子分析

 調査項目間がいかなる連関構造をしているかを知るため、次の22項目について年度別、性別に単相関係数を得た。属性(「学歴」、「年齢」)、具体的健康行動(「休養」、「食事」、「酒・タバコ」、「健診」、「運動」、「情報」)、健康感、健康改善意向、健康不安(「持病がある」、「心筋梗塞・糖尿病などが怖い」、「ガンにかかるのが怖い」、「ストレスがたまる」、「肥満が気になる」、「体力が衰えてきた」、「特に不安はない」)、健康観(「いわゆる健康食品や保健強壮薬は健康のためなら積極的に利用すべきである」、「健康とは心も健やかなことだ」、「病気になって初めて健康の有難さがわかったという経験がある」、「健康とあまり騒がず自然に生きていくべきである」、「健康とは自分で進んでつくっていくものである」)。

 次に集計結果の深層にある調査対象集団の健康行動、健康意識の内部構造を考察するため、年度別、性別に因子分析を行った。

III結果と考察1.結果の信頼性

 両調査とも回収率、性別回収割合、年齢階層別回収割合、居住地域別回収割合は、いずれもほぼ同一の回収結果となった。また単純集計、クロス分析、因子分析も再現性の高い結果となり、本調査結果は信頼性の高いものであると言える。

2.単純集計

 両調査ともほぼ同様の結果となった。健康だと感じている人が8割であるが、加令とともに不健康感を持つ人が増加した。一方健康不安を持つ人は8割もおり、「体力が衰えてきた]、「がんにかかるのが怖い」、「ストレスがたまる」の順となった。健康行動としては「休養」、「食事」、「運動」、「情報」(平成2年で増加)の順となった。健康を損ねたら心配になる点は、「家族に心配をかける」、「家庭生活が維持できなくなる」、「仕事・学業に支障が出る」の順となっている。健康観は「健康とは心も健やかなことだ」、「健康は自分で進んでつくっていくものである」、「病気になって初めて健康の有難さがわかったという経験がある」の順となった。

3.クロス分析、因子分析

 1)2回の調査結果の因子分析により、男性では「年齢・学歴」、「健康状態の自己評価」「肉体的・精神的脆弱感と不安」、「病気に対する不安」の4つの同じ因子が同じ順序で抽出され、女性では、順序はやや異なるが、「年齢・学歴」、「健康状態の自己評価」「病気に対する不安」、「自立的健康観」の因子が共通に抽出された。これらは極めて再現性があり、健康行動を支配する因子と考えられる。

 2)健康行動は属性、健康意識により、次のような特徴があることが明かとなった。

 (男性)

 (1)運動は、学歴が高い人、健康状態が良いと自己評価する人、健康を損ねると積極的な行動が取れなくなると考える人、に心がける割合が高い。

 (2)健康診断は、中高年齢者ならびに、健康状態が良くないと自己評価する人、持病のある人、病気に対する不安を持っている人、に受診する割合が高い。また自営業より勤労者の方が受診する割合が高い。

 (3)酒・タバコを控えることは、病気の不安を持つ人、に心がける割合が高い。

 (4)新聞・テレビ・雑誌などで健康の情報・知識を増やすことは、高齢者、病気の不安を持つ人、に心がける割合が高い。

 (女性)

 (1)運動は、学歴の高い人、健康状態が良いと自己評価する人、に心がける割合が高い。

 (2)健康診断は、中高年齢者、持病のある人、病気の不安のある人、に受診する割合が高い。また主婦、自営業者より勤労者の方が受診する割合が高い。

 (3)新聞・テレビ・雑誌などで健康の情報・知識を増やすことは、病気の不安を持つ人、健康を損ねると身の回りのことができなくなる、などの心配を持つ人、に心がける割合が高い。

審査要旨

 本研究は、日本人の食事、休養、栄養、運動等の日常生活習慣上の健康行動が、性・年齢・学歴などの属性や健康意識によって、それぞれどのように特徴付けられるかについて検証することを目的とし、下記の結果を得た。

 1)男性においては、

 (1)運動は、学歴が高い人、健康状態が良いと自己評価する人、健康を損ねると積極的な行動が取れなくなると考える人、に心がける割合が高い。

 (2)健康診断は、中高年齢者ならびに、健康状態が良くないと自己評価する人、持病のある人、病気に対する不安を持っている人、に受診する割合が高い。また自営業より勤労者の方が受診する割合が高い。

 (3)酒・タバコを控えることは、病気の不安を持つ人、に心がける割合が高い。

 (4)新聞・テレビ・雑誌などで健康の情報・知識を増やすことは、高齢者、病気の不安を持つ人、に心がける割合が高い。

 2)女性においては、

 (1)運動は、学歴の高い人、健康状態が良いと自己評価する人、に心がける割合が高い。

 (2)健康診断は、中高年齢者、持病のある人、病気の不安のある人、に受診する割合が高い。また主婦、自営業者より勤労者の方が受診する割合が高い。

 (3)新聞・テレビ・雑誌などで健康の情報・知識を増やすことは、病気の不安を持つ人、健康を損ねると身の回りのことができなくなる、などの心配を持つ人、に心がける割合が高い。

 以上本論文は、日本人の日常生活習慣上の健康行動が性・年齢・学歴および健康意識により特徴があることを明らかにした。本研究の成果は、これまでに解明が十分でない成人病予防、健康増進に重要な役割を果たす健康行動の分析と健康行動推進のための政策立案に貢献すると考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。

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