学位論文要旨



No 212213
著者(漢字) 海野,隆哉
著者(英字)
著者(カナ) カイノ,タカヤ
標題(和) 連壁剛体基礎の挙動とその設計への適用に関する研究
標題(洋)
報告番号 212213
報告番号 乙12213
学位授与日 1995.03.16
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第12213号
研究科 工学系研究科
専攻 土木工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 石原,研而
 東京大学 教授 岡村,甫
 東京大学 教授 龍岡,文夫
 東京大学 教授 藤野,陽三
 東京大学 教授 東畑,郁生
内容要旨

 構造物を支える深い大型基礎の代表的なものとして、ニューマチックケーソン基礎があるが、周辺地盤を緩めるほか、潜函室内という劣悪な環境下での作業が必要など労働力の確保という観点からも代替工法の開発が望まれていた。

 連壁剛体基礎は、従来、仮設物に使われることの多かった地下連続壁を、平面形状が口・日・田のような形状に掘削し、コンクリートを閉合打設して築造するものである。剛性が高く、支持力も大きいこと、全ての作業が地上で行えることなど、ニューマチックケーソン基礎に変わり得るものであるが、荷重を受けたときの連壁剛体基礎の挙動の算定方法や分割施工された場合の継手の挙動・耐力など不明確な点があった。本論文は、連壁剛体基礎の設計に当たって必要なこれらのことを明らかにし、算定方法を提案したものである。

 (1)連壁剛体基礎の計算法の基になっているケーソン基礎の計算法に付いて研究し、従来のケーソンの計算で期待している地盤の強さに比べて実際の周辺地盤はケーソンの施工によって大きく緩むことを調査研究した。その結果、ケーソン周辺地盤の緩みは、緩み範囲の中においてケーソンの側壁に近づくに連れて指数関数的に緩むこと、側壁直近の地盤のN値は原地盤のN値が大きくなっても余り大きくならない(すなわち、原地盤のN値が大きいほど緩みの程度が大きい)こと等が判明した。そしてこの研究結果を基に、(1)式に示す標準緩み曲線を作成した。すなわち、

 

 ここに、Ex:側壁からの離れxの位置の緩んだ状態での変形係数(kgf/cm2)

 E0:原地盤の変形係数(kgf/cm2)

 x:側壁からの離れ(cm)

 l:緩み範囲(一般部;砂質度150cm,粘性度100cm 刃口部;砂質度、粘性土とも一般部の2/3とする)

 n:一般部=1,刃口部=0.5

 N0:原地盤のN値

 Ns:標準N値(=25),m:係数(=2)

 これを基に、(2)式により等価変形係数Eeqを求め、ケーソンの水平載荷試験結果と照合し、Eeqの妥当性を検証した。また、無次元化した緩み係数(=Eeq/Eo)を求める図表を作成した。

 

 ここに、P:荷重

 Ax:側壁からの離れxの位置の荷重分散を考慮した荷重分担面積

 R:影響範囲(cm)

 ケーソン前面の幅をB(cm)、荷重分散角をとして、R=B/(0.5B1/4-2tan)

 (2)地下連続壁は、泥水圧で溝壁を抑えながら掘削するので周辺地盤の緩みが小さく、またコンクリートを直接溝壁の中に打ち込むので、壁体と地盤が密着し、かなりの周面摩擦力を期待できる。また、大きさのほぼ同一なケーソン基礎と連壁剛体基礎を互いに引張り合う水平載荷試験を行ったところ、連壁剛体基礎の変位はケーソン基礎の変位の約1/5であった。これらのことから荷重を受けたときの基礎を支える地盤バネとして、ケーソン基礎では側壁前面の水平方向バネk1(図1参照,以下同じ),底面の鉛直方向バネk7,せん断バネk8のみを考慮しているのに対して、連壁剛体基礎では図1ならびに表1に示すように8種類のバネを考慮した(以後「連壁基礎法」という)。ケーソン基礎では周辺地盤が緩んでしまうため地盤とはせいぜい主働土圧程度でしか押し合っていないとの考え方から前面側のk1および両側面に働く摩擦抵抗として合計してk1の20%しか考慮できなかったのに対して、連壁剛体基礎では地盤と静止土圧状態で押し合っていると仮定しk1は後面側にも有効であると考え、また、側面に作用するせん断バネk5はk1の60%程度の大きさがあると考えた。さらに、連壁剛体基礎では前後面の鉛直方向せん断バネk2も有効に効くと考えた。これらのせん断バネや連壁剛体基礎内面のバネは、平面形状が正方形で地下連続壁の長さが平面寸法のほぼ2倍のものについて有限要素解析法によりk1との比を求めたものである。また、これらのバネと変位から算出される地盤反力の最大値(または最小値)は、受働土圧・主働土圧・周面摩擦力等である。周面摩擦力については地下連続壁と施工方法が同じである場所打ち杭の鉛直載荷試験結果を収集しそれらを整理して求めた。飯坂街道Bv.,王子南部B1.における水平載荷試験結果と連壁基礎法による計算結果とを照合し、連壁基礎法の妥当性を検証した。

図1 連壁剛体基礎計算モデル図表1 連壁剛体基礎地盤反力係数の一覧表

 (3)連壁剛体基礎の水平主鉄筋の重ね継手は、施工上の制約から梁の高さ方向に主鉄筋同士が離れており、しかも通常の施工方法では外側の主鉄筋も取り囲む帯鉄筋の配置が出来ない。また、コンクリートは掘削泥水中で打設される。そこで、帯鉄筋で囲まれていない重ね継手の性状を調べるため、鉄筋籠を掘削用の泥水中に24時間以上漬け込んだ後、コンクリートを打設した梁部材を21体作成し、曲げせん断試験ならびに純曲げ試験を行った。さらに、地中に実際に造られた地下連続壁の一部を切り出して造られた梁部材7体の載荷試験結果についても考察した。その結果、通常の方法で製作された試験体に対して提案されている既往の式による耐荷力の計算値に比較して、今回の試験体ははるかに弱いことが確認された。重ね継手長・主鉄筋の直径・主鉄筋間のあき等の各種パラメータが継手の耐力に与える影響については、Jirsaらの式の適用性がもっとも高いことを示した。また、このような重ね継手の場合、梁部材に作用するせん断力が継手の耐力に大きく影響することも併せて示した。以上の研究結果から、帯鉄筋に囲まれていない重ね継手の耐力を算定する(3)式を作成した。

 

 ここに、:継手部コンクリート単位面積あたりの平均せん断強度

 

 :実験値より算定した引張り主鉄筋の平均総引張り力

 cu:コンクリートの圧縮強度(最大280kgf/cm2)。実際の地下連続壁においては、コンクリート圧縮強度cの0.7倍とし、かつ、245kgf/cm2以下とする。

 b:梁の幅 h:梁高 l:継手長

 e:梁に働く斜め引張り応力が、継手コンクリートに働く斜め引張り応力と同一方向の場合 -1,打ち消す方向の場合 +1,純曲げの場合等 0とする(即ち、t≧-5cmのときe=-1,t≒40cmのときe=0,t<80cmのときe=+1)。

 Pu:最大荷重(kgf)

 また、帯鉄筋に囲まれた連壁剛体基礎の重ね継手の耐力を調べるため、上記と同様の方法で11体の梁部材を作成し、曲げせん断試験を行った。この結果、梁が十分なじん性を発揮するには、重ね継手区間内に水平主鉄筋の1.4倍以上の帯鉄筋を配置する必要があることを確認した。

 (4)青森ベイブリッジの連壁剛体基礎に、考案した「水平主鉄筋の接続方法(特許第1792646号)」の一部をなす継手金物として、片側にスリットををもちその反対側に鋼板を取り付けられた厚肉パイプ(外管)に、一方に鋼板を取り付けた充填鋼管(内管)を嵌合させ、内管と外管の間にセメントミルクを注入する方法(パイプ継手、図2)を採用することとした。そこで、外管の外径・肉厚、内管直径、内管と外管の相対位置をパラメータとする30組の試験体を造り、引張り試験を行い、その耐力・変形性状に付いて研究した。試験の対象としたパイプ継手(外管外径100〜140mm)の見かけの降伏荷重は、継手の抜出し量が4〜5mmに達したときに生じる。内管と外管の相対位置の影響については、内管が外管開口部に偏心せずに接している場合の耐力が、内管が外管の中央にある場合よりも大きいことが判明した。また、外管における最大応力は鋼板取り付け位置から45°〜67.5°の位置に生じる。内管の抜出しに伴い外管開口部端を通り内管表面に接する滑り面が生じると仮定して、力の釣合からパイプ継手の降伏荷重を概ね算定できることを示した。

図2 パイプ継手

 また、パイプ継手を用いた梁部材についても曲げせん断試験、高応力繰返し試験を行った結果、継手の無い試験体に比べてわずかにたわみが大きいものの繰返しによる剛性の低下も見られず、また耐力も低下しないことが確認された。

 以上、本研究では連壁剛体基礎の設計に関して各種の実験・研究を行い、その成果として国内で最大級のPC斜長橋の主塔基礎に実用化された。

審査要旨

 地上で製作したコンクリート製の中空函体を、内部の土を掘削しながら地中に埋設して橋梁等の基礎を建設する方法をケーソン工法又は井筒工法と呼んでいる。これに代わるものとして地中連続壁を函型に閉合施工し、その上に頂版コンクリートを打設するのが、連続剛体基礎である。

 これら地中の躯体基礎の耐震設計では、躯体周辺と底面がバネで支持されているとし、水平地震力を躯体頂部に静的に加えて応力解析を行うのが常であるが、この時バネ定数の評価が支配的要素となる。そこで井筒基礎に対して施工時の地盤の撹乱の影響を考慮した的確なバネ定数の評価方法を検討し、更に、撹乱の少ない地中連続壁の場合につきバネの配置方法を検討し、設計法の改善を提案したのが本研究の内容である。

 第1章は序論で、本研究の目的とその背景について述べている。

 第2章では、ケーソンの施工に伴う側壁近傍の地盤の緩み状況について考察している。12基のケーソンに対してその近傍で標準貫入試験を実施し、砂質土や砂礫では壁体から1〜2mの範囲で、粘性土では1m程度の範囲内で地盤が緩んでいるのを確かめた。ケーソン打設前と打設後の貫入抵抗N-値を比較することにより、緩みの度合いは砂質土や砂礫で50-90%、粘性土で20-70%貫入抵抗が低下していることを見出した。これらの結果を総合して緩み程度はケーソン壁体からの距離についての指数関数で近似できるとし、緩みを考慮した地盤反力係数とケーソン打設前の原地盤の地盤反力係数との比(緩み係数)を求める実験式を提案した。

 前章ではケーソン工法を対象としたが、第3章では地中連続壁について壁体周辺の摩擦抵抗について考察している。地中連続壁は泥水圧で溝壁を抑えながら掘削を進めていくので周辺地盤の緩みが少なく、又コンクリートを直接溝壁の中に打ち込むので、壁体と地盤が密着し、かなりの周辺摩擦抵抗力を期待できる。このことを実証するために、地中連続壁工法による2ケ所の橋梁基礎を選んで原位置水平載荷試験を実施した。その結果ケーソン基礎に比べて連続壁基礎の方が極めて優れた水平抵抗特性を持つことが明らかにされた。この実験結果と同時に他機関で行われた場所打ち杭の鉛直載荷試験の結果も考慮に入れて、連続壁基礎について周辺摩擦抵抗力を求める経験式をN-値の関数として求めた。これらの成果にもとずき、ケーソン基礎では3種類の地盤バネしか使用しえなかったのに対し、連続壁基礎では8種類の地盤バネを用いてよいことを示し、これにもとずく設計法を提案している。

 第4章では地中連続壁基礎の施工継目を連結する重ね継手の設計方法について検討している。連続壁を帯状に施工するときには、掘削した溝の崩壊を防ぐために通常4ケ所以上のブロックに分割して施工し、このブロック間を水平鉄筋の重ね継手で連結して、全体のブロックを一体化させる方法が取られる。この連結効果を評価する目的で、一般に行われている梁の高さ方向に主鉄筋が離れている場合の耐力・変形状態について、梁部材載荷試験を行った。その結果、泥水中に漬け込んだ鉄筋では継手耐力に大きな影響を及ぼすことが確認された。そして、梁が充分なじん性を発揮するためには、重ね継手間に水平主鉄筋の1.4倍以上の帯鉄筋を配置する必要があることが示された。

 第5章では水平主鉄筋を接続する方法として新しく提案したパイプ継手構造について述べている。結合部の施工において後行する鉄筋篭にスライド鉄筋を配置し、継手金物を確実に嵌合させる方法を開発した。この継手を用いた梁部材に対して曲げ試験および高応力繰返し試験を実施し、継手のない場合に比べてわずかにたわみが大きいものの、繰返しによる剛性の低下も見られず、又耐力も低下しないことが確かめられた。

 第6章は結論で、本研究の成果を総括している。

 以上を要するに、本研究は連続地中剛体壁基礎の挙動の解明を目的として各種の実験と原位置調査を実施し、基礎的データを集積し、入念な吟味検討にもとずいて合理的な設計方法を提案したものである。

 その結果、連続剛体基礎の設計・施工に関する技術とその信頼性が向上し、大規模な橋梁基礎建設に対しこの工法の適用が可能となったと考えられる。この成果は基礎工学の分野の発展に寄与するところが大きいと考えられ、よって本論文は学位請求論文として合格と認められる。

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