学位論文要旨



No 212214
著者(漢字) 柴田,正雄
著者(英字)
著者(カナ) シバタ,マサオ
標題(和) 道路計画のための旅行速度の推定手法
標題(洋)
報告番号 212214
報告番号 乙12214
学位授与日 1995.03.16
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第12214号
研究科 工学系研究科
専攻 土木工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 越,正毅
 東京大学 助教授 島崎,敏一
 東京大学 助教授 桑原,雅夫
 東京大学 助教授 柴崎,亮介
 東京大学 助教授 清水,英範
内容要旨

 道路の計画を行うにあたっては、現在の道路と交通の情況を把握することが第1に必要である。そして現状をベースにして、将来の交通の変化(交通量の増加が中心)を予測し、それに見合う道路整備の計画案をたてる。その計画案を実行した場合の将来の交通の情況を推定して計画案の妥当性を調べる。

 この現状や計画案での交通情況の評価を行うにあたって、評価のための指標は種々ありうるが、一般的によく使われるのは旅行速度または旅行時間である。道路交通は、人ないし物をある一点から別の一点に移動させるための手段であることからして、その移動に必要とされる時間または移動の能率を示す旅行速度が、指標として最も理解し易い。なお、旅行速度と旅行時間は逆数の関係にあるから、どちらを採っても本質的に変わりはない。

 しかし、旅行速度または旅行時間は計測という面から見ると利用しにくい指標である。現在では、観測者が乗った自動車を車の流れに沿って走行させるのが一般的であるが、その手間と経費の点で難点があり、得られるデータの量には限界がある。車両感知器やプレートナンバー自動読取り装置を使って自動的にデータを集めるシステムも使われているが、ごく一部の区間のみである。

 現状の把握には、難があるとはいえ、直接計測することができるが、将来の状況評価のためには将来値を予測しなければならない。他の指標、例えば交通量についても状況は同じであるが、将来予測は需要から始まるため交通量の方がより直接的に予測される。旅行速度または旅行時間はこの予測された交通量と道路の状況から予測される。

 そのために交通量と旅行速度または旅行時間との関係を示すQ-V図等のグラフや関数が用いられる。これらの関係図や関数は経験的に定められ、使用中に現状に合うように手直しされることが多く、理論的、実証的な裏付けがとぼしい。

 より説得力のある関係式を得るために各種の研究調査が行われてきた。これらの研究調査では交通量及び道路の性格を表すデータと旅行速度との相関が統計的に調べられており、グラフないし式の形で関係が得られている。しかし、これらの関係は理論的に得られたものではなく、統計的に得られたものである。また、各調査時帯を独立したものとしている。そのため、渋滞が次の時間帯に影響を及ぼすような情況での説明力に欠ける。

 そのため、シミュレーションによって渋滞状態まで含んだ交通情況の再現を行い、理論的説得力を有した、旅行速度及び旅行時間の推定手法を提案しようとするのが、本研究の目的である。

 使用したシミュレーションモデルは、車両を群として扱うマクロなモデルであり、オンラインの交通情報予測用に開発されたものである。道路区間を信号交差点で区切った小区間に分け、それぞれの小区間内で以下の基本式をたてる。

 

 (小区間内存在台数の変化は流入量と流出量の差に等しい)

 

 (小区間内存在台数は渋滞部の長さと密度の積と非渋滞部の長さと密度の積の和である)

図表

 これらの基本式と渋滞末尾の動きと流出交通量を計算する式を組みあわせて、小区間での交通の情況を表す。

 シミュレーション計算は、これらの関係式を使って、上流から下流に流れる交通量を次々に求め、その後、逆に下流から上流に向かって、下流の小区間に入り切れない交通があった場合には上流小区間に戻していく。

 各小区間に流入する交通量と流出する交通量の累積値により各小区間を通過する時間が求められる。それらを合計すれば区間の旅行時間が得られる。

 このシミュレーションを利用して、年平均日交通量AADTと年平均旅行時間および旅行速度との関係を得る過程は以下のようである。

 (1)道路の分類を行い、交通量変動の表を得る。

 (2)分類された道路種類ごとに、それぞれの時間交通量の変動を与えて、24時間のシミュレーションを行う。この計算によって日交通量と日平均旅行時間および旅行速度との関係を表の形で求める。

 (3)年間の日交通量変動と(2)の結果を組み合わせて年平均日交通量を評価基準交通量(時間交通容量/K値)で割った正規化交通量と年平均旅行時間および旅行速度との関係を表の形で求める。

 (4)(3)で得られた表の値に式のあてはめを行い、推定式を誘導する。まず、道路種類ごとにあてはめを行い、最終的には道路種類をK値で代表させ、1つの推定式とパラメータの計算式の組で年平均旅行時間を推定する式が求められる。

 (5)パラメータを定める区間データを実測の旅行速度の値を使って修正し、より実測値との整合を得る手法を開発する.

 以上の過程を経て得られた正規化交通量と年平均旅行時間および旅行速度の関係を下図に示す。

年平均旅行速度の正規化交通量による変化(道路種類別)年平均旅行時間の正規化交通量による変化(道路種類別)

 得られた推定式は以下のものである。

 

 

 前に目的として述べているように、この推定式は交通計画における旅行速度及び旅行時間の推定方式に、より根拠のある方式を提供するものであり、交通量配分等に用いることができる。

 また、交通量と交通容量が変化した時の各道路区間での旅行時間の変化を集計することによって、交通量または交通容量に変化を与える施策の影響の予測を行うことができる。具体的な例として第10次道路整備5ヶ年計画における整備効果を全旅行時間の減少として計算すると27億時間/年となる。

審査要旨

 現状認識、代替案の案出及び比較と言った道路計画の各段階で、道路と交通の状況の評価が不可欠である。この交通状況の評価を行うに当たって、評価のための指標として最も一般的なのは旅行速度と旅行時間である。道路交通は、人ないし物をある一点から別の一点に移動させるためのの手段であることからして、手段としての能力を示す旅行速度、または、手段に費やすコストである旅行時間が指標として最も理解し易く、評価の結果を基に定められた計画の説得性が高い。

 しかし、旅行速度または旅行時間は計測という面からすると利用しにくい指標である。現状評価においても、人手と経費が多く掛かるため、得られるデータの量には限界がある。将来については何らかの方法による予測が必要である。他の指標、たとえば交通量についても予測されると言う点では同じであるが、将来予測は経済的社会的将来変化の予測を基にした将来交通需要の予測から始まる為、交通量はより直接的に予測される。旅行速度または旅行時間は、予測された交通量と道路の状況より予測される。

 交通量と道路の状況から旅行速度を求めるためには、例えば交通量の配分計算において従来からQ-V図等が使われてきたが、それらは、経験的に定められ理論や計測による裏付けが乏しい。より説得力のある予測手法を得るために各種の研究が行われているが、それらにも手法としての体系の確立、資料の網羅性、渋滞への配慮と言った面で課題を残している。

 本研究は、資料として全国的に展開して行われている道路交通情勢調査、交通量常時観測調査等を用いることによって空間的時間的なな汎用性を求め、24時間のシミュレーションを行うことによって渋滞による時間帯間の影響を組み込んで、上記課題に対応し、汎用性、理論的根拠、実測データによる検証を備えた旅行速度、旅行時間の予測手法を開発しようとしたものである。

 本論文は、全7章より構成されている。

 第1章では研究の目的と予測手法を得るためのフローについて述べている。

 第2章では、使用したシミュレーションモデルについての説明を行っている。このモデルは、マクロ的なモデルであり、信号交差点における車群の動きを時間で平均化して表現しているのが特徴である。

 第3章では、道路区間の分類を行った過程と分類ごとに得られたシミュレーション用のデータを示している。道路交通情勢調査及び交通量常時観測調査のデータから交通の時間変動と日変動を9分類について得ている。

 第4章では、旅行速度または旅行時間の計算および推定式の誘導について述べている。道路分類ごとの時間変動のデータを使い、区間のデータ及び交通量を変化させ24時間のシミュレーションを行い、日単位での交通量と旅行速度または旅行時間の関係を道路分類及び区間データの区分ごとに求める。日単位の関係と日変動のデータを使い、交通量と旅行速度及び旅行時間の年間の平均値間のの関係を数値で得る。この段階では関係の表現は表の形であり、そのままでは利用しにくい為、関係をあらわす式を誘導した。最終的に、年平均旅行時間は、交通容量、信号交差点密度、自由走行速度、30番目時間交通量係数の区間データ及び年平均日交通量を使った式で表される。

 第5章では、区間データの妥当性を実測と計算の旅行速度の比較をすることによって検討している。少数の区間で多くのデータのある特定目的の調査と多くの区間で各々1つのデータを持つ道路交通情勢調査の2種の資料を利用している。その結果、区間データの不適切な区間がみられるため、道路交通情勢調査の旅行時間の計測値を利用した区間データの修正手法を開発している。

 第6章では、得られた関係式及び途中の過程で得られる資料の応用について述べている。24時間のシミュレーションの中間過程で得られる旅行時間の時間的変化、1日単位の交通量と旅行速度の関係等は日頃経験的に感じている交通現象を数値的に説明している。式の形で表された旅行時間または旅行速度と年平均日交通量との関係は、道路計画の作業において従来のQ-V図と同様の利用ができる。全国的なデータとシミュレーションにより計算されたこの関係式は、従来のQ-V図にない根拠を持っている。その応用は交通量配分のみにとどまらず、道路5カ年計画の整備効果の効果の算定のようなマクロな評価での応用も可能であ利、ここで例示している。

 第7章では、以上のまとめが述べられている。

 本論文は、年平均の旅行速度または旅行時間を年平均日交通量と区間データによって推定する手法を開発したものである。全国的なデータとシミュレーションを使い空間的時間的に広がりのある過程で推定手法を求めている。また、2種類の資料で検証を行い、不適切なデータの修正方法も提案している。このような体系的な推定手法は実用性も高く、その成果は高く評価される。

 よって、本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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