道路の計画を行うにあたっては、現在の道路と交通の情況を把握することが第1に必要である。そして現状をベースにして、将来の交通の変化(交通量の増加が中心)を予測し、それに見合う道路整備の計画案をたてる。その計画案を実行した場合の将来の交通の情況を推定して計画案の妥当性を調べる。 この現状や計画案での交通情況の評価を行うにあたって、評価のための指標は種々ありうるが、一般的によく使われるのは旅行速度または旅行時間である。道路交通は、人ないし物をある一点から別の一点に移動させるための手段であることからして、その移動に必要とされる時間または移動の能率を示す旅行速度が、指標として最も理解し易い。なお、旅行速度と旅行時間は逆数の関係にあるから、どちらを採っても本質的に変わりはない。 しかし、旅行速度または旅行時間は計測という面から見ると利用しにくい指標である。現在では、観測者が乗った自動車を車の流れに沿って走行させるのが一般的であるが、その手間と経費の点で難点があり、得られるデータの量には限界がある。車両感知器やプレートナンバー自動読取り装置を使って自動的にデータを集めるシステムも使われているが、ごく一部の区間のみである。 現状の把握には、難があるとはいえ、直接計測することができるが、将来の状況評価のためには将来値を予測しなければならない。他の指標、例えば交通量についても状況は同じであるが、将来予測は需要から始まるため交通量の方がより直接的に予測される。旅行速度または旅行時間はこの予測された交通量と道路の状況から予測される。 そのために交通量と旅行速度または旅行時間との関係を示すQ-V図等のグラフや関数が用いられる。これらの関係図や関数は経験的に定められ、使用中に現状に合うように手直しされることが多く、理論的、実証的な裏付けがとぼしい。 より説得力のある関係式を得るために各種の研究調査が行われてきた。これらの研究調査では交通量及び道路の性格を表すデータと旅行速度との相関が統計的に調べられており、グラフないし式の形で関係が得られている。しかし、これらの関係は理論的に得られたものではなく、統計的に得られたものである。また、各調査時帯を独立したものとしている。そのため、渋滞が次の時間帯に影響を及ぼすような情況での説明力に欠ける。 そのため、シミュレーションによって渋滞状態まで含んだ交通情況の再現を行い、理論的説得力を有した、旅行速度及び旅行時間の推定手法を提案しようとするのが、本研究の目的である。 使用したシミュレーションモデルは、車両を群として扱うマクロなモデルであり、オンラインの交通情報予測用に開発されたものである。道路区間を信号交差点で区切った小区間に分け、それぞれの小区間内で以下の基本式をたてる。 (小区間内存在台数の変化は流入量と流出量の差に等しい) (小区間内存在台数は渋滞部の長さと密度の積と非渋滞部の長さと密度の積の和である) 図表 これらの基本式と渋滞末尾の動きと流出交通量を計算する式を組みあわせて、小区間での交通の情況を表す。 シミュレーション計算は、これらの関係式を使って、上流から下流に流れる交通量を次々に求め、その後、逆に下流から上流に向かって、下流の小区間に入り切れない交通があった場合には上流小区間に戻していく。 各小区間に流入する交通量と流出する交通量の累積値により各小区間を通過する時間が求められる。それらを合計すれば区間の旅行時間が得られる。 このシミュレーションを利用して、年平均日交通量AADTと年平均旅行時間および旅行速度との関係を得る過程は以下のようである。 (1)道路の分類を行い、交通量変動の表を得る。 (2)分類された道路種類ごとに、それぞれの時間交通量の変動を与えて、24時間のシミュレーションを行う。この計算によって日交通量と日平均旅行時間および旅行速度との関係を表の形で求める。 (3)年間の日交通量変動と(2)の結果を組み合わせて年平均日交通量を評価基準交通量(時間交通容量/K値)で割った正規化交通量と年平均旅行時間および旅行速度との関係を表の形で求める。 (4)(3)で得られた表の値に式のあてはめを行い、推定式を誘導する。まず、道路種類ごとにあてはめを行い、最終的には道路種類をK値で代表させ、1つの推定式とパラメータの計算式の組で年平均旅行時間を推定する式が求められる。 (5)パラメータを定める区間データを実測の旅行速度の値を使って修正し、より実測値との整合を得る手法を開発する. 以上の過程を経て得られた正規化交通量と年平均旅行時間および旅行速度の関係を下図に示す。 年平均旅行速度の正規化交通量による変化(道路種類別)年平均旅行時間の正規化交通量による変化(道路種類別) 得られた推定式は以下のものである。 前に目的として述べているように、この推定式は交通計画における旅行速度及び旅行時間の推定方式に、より根拠のある方式を提供するものであり、交通量配分等に用いることができる。 また、交通量と交通容量が変化した時の各道路区間での旅行時間の変化を集計することによって、交通量または交通容量に変化を与える施策の影響の予測を行うことができる。具体的な例として第10次道路整備5ヶ年計画における整備効果を全旅行時間の減少として計算すると27億時間/年となる。 |