学位論文要旨



No 212216
著者(漢字) モハマド ラシディアン デズフィリ
著者(英字)
著者(カナ) モハマド ラシディアン デズフィリ
標題(和) 砂礫の非排水せん断挙動およびせん断波速度との関係
標題(洋) Undrained Shearing Behavior of Gravelly Sands and its Relation with Shear Wave Velocity
報告番号 212216
報告番号 乙12216
学位授与日 1995.03.16
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第12216号
研究科 工学系研究科
専攻 土木工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 石原,研而
 東京大学 教授 龍岡,文夫
 東京大学 教授 東畑,郁生
 東京大学 助教授 堀井,秀之
 東京大学 助教授 堀,宗朗
内容要旨

 地下水で飽和したゆるい砂地盤が地震によって液状化し、流動的な大変形を生じた例はこれまでに数多く報告されている。それに対して、粒径の大きな礫を含む地盤は、透水性が高いと言う理由から、これまで液状化や流動破壊に対して安定な地盤であるとされてきた。しかし、1993年の北海道南西沖地震の例に見られるように、砂礫地盤と言えども条件によっては液状化が発生する可能性があることが次第に明らかになってきている。従って、砂礫の非排水せん断挙動の解明を図り、原位置で計測される地盤のせん断波速度といった土質定数から簡易に液状化や流動破壊に対する安全性を評価することが可能になれば、その工学的な価値は高いと言える。

 以上の観点から本論文では、主に次の2点に着目して研究を行った結果について示している。

 (1)流動破壊を生じるような非常にゆるい砂礫の非排水せん断挙動に関する検討

 (2)砂や砂礫の初期せん断剛性と繰り返し非排水せん断強度の関係に関する検討

非常にゆるい砂礫の非排水せん断挙動

 非常にゆるい砂礫の非排水せん断挙動を調べるため、豊浦標準砂に礫を混合し、湿潤状態で突き固める方法によって最もゆるい状態に作成された砂礫試料を用いた非排水三軸圧縮試験(供試体直径8cm、高さ16cm)を行った。礫径の範囲は1〜7mmであり、礫分含有率は30〜90%の範囲で変化させた。

 実験の結果、礫分含有率に拘らず非排水状態にある非常にゆるい砂礫は、非常にゆるい砂の時と同様に収縮性の変形挙動を示し、砂礫でも流動破壊を生じる可能性があることが判った。この場合、処女圧密曲線(ICL)と準定常状態曲線(QSSL)は、拘束圧0.05〜0.5MPaの領域において互いに平行な直線性を示すが、およそ70%の礫分含有率を境界として変形挙動は変化し、礫分含有率が70%以下であれば、礫分含有率の増加とともにICLとQSSLの間隔は大きくなること、残留強度がゼロとなるような初期有効拘束圧の範囲は単調に増加することを示した。また、初期有効拘束圧で正規化した残留強度ならびにピーク強度と礫分含有率の関係を調べたところ、正規化残留強度は、礫分含有率の増加と共に単調に減少する傾向にあるが、正規化ピーク強度は、礫分含有率70%を境界として、それ以下では礫分含有率の増加と共に減少し、それ以上になると礫分含有率の増加に従って増加する傾向に転じると言う特徴が認められた。また、礫分含有率が70%以下の砂礫の最低強度を規定する特性曲線(Collapse Line)は、礫分含有率にかかわらず唯一に決定されるが、70%以上になると礫分含有率によってその勾配が変化してくることを示した。

 さらに、砂礫土中の砂の部分に着目し、その間隙比が果たす役割を検討した。その結果、最もゆるい状態にある砂礫の非排水せん断挙動は、礫分含有率70%程度を境界として変化し、それ以下の礫分含有率では、砂の部分の間隙比が砂礫の非排水せん断挙動を支配していることが判った。

砂や砂礫の初期せん断剛性と非排水繰り返しせん断強度の関係

 砂や砂礫の非排水繰り返しせん断強度と初期せん断剛性との関係を求めるためには、それぞれに影響を及ぼす要因について検討しておく必要がある。そこで、本研究では、初期せん断剛性を推定するためのせん断波速度に及ぼす砂や砂礫の骨格構造(堆積環境)の影響を実験的に調べるため、湿潤締め固め法、空中落下法、水中落下法の3種類の作成法によって作成された砂の供試体を用いてせん断波速度を測定し、比較を行った。

 実験の結果、せん断波速度は供試体作成法に依存し、湿潤締め固め法による速度が最も速く、空中落下法による速度が最も遅い結果となった。これは、せん断波速度が土の骨格構造(ファブリック)すなわち地盤の堆積環境の影響を受けることを示唆するものである。また、空中落下法と他の作成法によるせん断波速度の差は、供試体の間隙比が小さくなるほど小さくなるが、相対密度20%以下の非常に緩い状態では、せん断波速度に及ぼす供試体作成法の影響は小さくなり、間隙比の違いによる差も小さいことが判明した。次に、せん断波速度に及ぼす骨格構造の影響をより明確にするため、非排水せん断による変形の進行に伴うせん断波速度の変化に着目した実験を行った。その結果、有効拘束圧1kgf/cm2での値に正規化したせん断波速度(以下、正規化せん断波速度と呼ぶ)は、変形の進行とともに低下すること。低下が始まる軸ひずみは、中密から密な砂では1×10-3,ゆるい砂では5×10-3程度であることが示された。また、軸ひずみが2〜3%程度に達すると、せん断波速度は供試体作成法にかかわらず次第に一定値に収束し、さらに大きな変形を加えても変化しないことが判った。軸ひずみが2〜3%程度の変形状態にある時の初期せん断剛性G0dと、変形を受けていない初期状態での初期せん断剛性G0の差は、湿潤締め固め法や水中落下法による供試体では密になるほど大きくなり、密な砂ではG0d/G0がおよそ0.4になるが、空中落下法による供試体では、両者の差は密度に依存せず、広い密度領域においてG0d/G0がおよそ0.8となっていた。これらの結果は、密な砂ほどサンプリングされた試料の初期せん断剛性と原位置で測定されたせん断波速度から求めた初期せん断剛性との差が大きくなることを裏付けるものである。

 このように、砂や砂礫のせん断波速度、すなわち初期せん断剛性は、土の骨格構造や変形の程度など様々な要因によって異なるため、初期せん断剛性と非排水繰り返しせん断強度に関する普遍的な関係を求めることは困難を極める。しかし、初期せん断剛性から非排水繰り返しせん断強度の下限値を推定することが可能となれば、その工学的価値は高いと言える。ここでは、上記の実験によって得られた知見と、過去に砂や砂礫を対象として行われた不攪乱ならびに調整試料の非排水繰り返しせん断試験のデータを参考にして、砂ならびに砂礫の各々に対する両者の関係を導いた。この関係を用いれば、原地盤のせん断波速度という情報から、工学的に安全側の非排水繰り返しせん断強度を予測することが可能となる。

審査要旨

 地下水面より下にあるゆるい飽和砂層は地震時に液状化しやすく、少しでも傾斜していると大変形を起こして水平に流動することはよく知られている。これに対して礫を含む地盤は透水性が高いため、液状化や水平流動に対して安定した地盤と見做されてきた。しかし、砂礫地盤と云えども緩い堆積状態で液状化が発生しうることが最近の事例で次第に明らかになってきている。そこで礫を含む緩詰めの砂に対して室内の非排水せん断試験を行ってその挙動を解明し、あわせてせん断波伝播速度との関連を調べたのが本論文の内容である。

 第1章は序論で、本研究の意義と目的およびその背景について述べている。

 第2章では礫地盤で液状化が生じた事例を紹介し、それに関連した既往の研究を概観し、本研究の位置づけとその特徴を述べている。

 第3章では、実験に用いた砂礫の物理特性と供試体の作製方法、実験装置、および実験方法について述べている。供試体の寸法は直径10cm、高さ20cmであるが、最大6.7mmの礫を含んでいるため供試体の表面がスムーズになりにくい。そこで、一旦凍結させた供試体の表面を削って平坦化させ、membrane penetrationの悪影響を除去した。又、豊浦砂に30〜90%の礫を混ぜた各種の材料を試験に用いたこと、供試体の作製は水中落下法、湿潤締固め法、および乾燥堆積法の3つの方法によったこと、等を述べている。

 第4章では豊浦砂に対して行った三軸供試体内のせん断波伝播速度と間隙比の関係について検討している。密な砂については同じ間隙比でも、湿潤締固め法と水中落下法による試料の方が空中落下法によるものに比べてせん断速度が大きくなるが、緩い砂についてはその差がなくなることを示している。又、従来提案されてきた実験公式は空中落下法を用いた試料のデータとよく一致することが示された。

 第5章では三軸供試体を非排水で単調載荷して行く途中の段階で、豊浦砂のせん断速度がいかに変化するのかを検討している。その結果、試料の変形が少なく軸ひずみで0.3%以下の場合、せん断速度は試料の作製方法(或いは砂の構造)に大きく依存しているが、変形が増大し軸ひずみが1%以上になってくると砂の構造によらずほぼ一定値をとることが明らかにされた。

 第6章では礫の含有量を30、40、50、60、70、80、90%の7段階に変えて豊浦砂を混合した砂礫材料に対して、非排水単調載荷試験を実施した結果について述べている。供試体はすべて乾燥堆積法による最も緩詰めの状態に作製した。その結果、圧密時の拘束圧がある限界よりも小さいと、せん断時に収縮的挙動が極端に現れ、大変形時の残留強度はゼロになることが示された。これ以上の初期拘束圧では拘束圧の対数と間隙比との間に直接関係が成り立つこと、又最小強度(残留強度)と間隙比の間にも直接関係が成り立つことがわかった。更に、この直接関係を示す比例定数(勾配)は礫の含有率が70%までほぼ同一であること、ただし、礫の含有率と共に間隙比の方は減少していくこと等が示された。このような変動を説明するために、砂の部分の間隙比と礫の部分の間隙比とを区別して求め、礫含有率の変化に伴うピーク強度と残留強度の変化特性を明らかにした。

 第7章では既存のデータを収集し、砂および砂礫上の繰返し強度とせん断波速度との関係を論じている。両者の間に一対一の関係は成り立ちがたいこと、しかし、あるせん断速度に対して最小の繰返し強度が存在することを指摘している。このことはダイレタンシーの様々な影響を受けて変動しやすい繰返し強度にも最小値が存在することを示唆している。

 第8章は結論で、本研究の成果を総括している。

 以上を要するに、本研究は、色々な割合で礫を含む砂礫土の静的および動的変形特性を三軸装置による非排水試験とせん断波測定によって調べ、地盤の液状化に対して礫の果たす役割を究明したものである。その結果、従来未知であった緩い砂礫地盤の液状化特性が明らかになり、これら地盤の地震時の挙動解明の手がかりを提供したと云える。これらの成果は土質力学と耐震工学の分野の発展に寄与するところが大きと考えられ、よって本論文は学位請求論文として合格と認められる。

UTokyo Repositoryリンク