地下水面より下にあるゆるい飽和砂層は地震時に液状化しやすく、少しでも傾斜していると大変形を起こして水平に流動することはよく知られている。これに対して礫を含む地盤は透水性が高いため、液状化や水平流動に対して安定した地盤と見做されてきた。しかし、砂礫地盤と云えども緩い堆積状態で液状化が発生しうることが最近の事例で次第に明らかになってきている。そこで礫を含む緩詰めの砂に対して室内の非排水せん断試験を行ってその挙動を解明し、あわせてせん断波伝播速度との関連を調べたのが本論文の内容である。 第1章は序論で、本研究の意義と目的およびその背景について述べている。 第2章では礫地盤で液状化が生じた事例を紹介し、それに関連した既往の研究を概観し、本研究の位置づけとその特徴を述べている。 第3章では、実験に用いた砂礫の物理特性と供試体の作製方法、実験装置、および実験方法について述べている。供試体の寸法は直径10cm、高さ20cmであるが、最大6.7mmの礫を含んでいるため供試体の表面がスムーズになりにくい。そこで、一旦凍結させた供試体の表面を削って平坦化させ、membrane penetrationの悪影響を除去した。又、豊浦砂に30〜90%の礫を混ぜた各種の材料を試験に用いたこと、供試体の作製は水中落下法、湿潤締固め法、および乾燥堆積法の3つの方法によったこと、等を述べている。 第4章では豊浦砂に対して行った三軸供試体内のせん断波伝播速度と間隙比の関係について検討している。密な砂については同じ間隙比でも、湿潤締固め法と水中落下法による試料の方が空中落下法によるものに比べてせん断速度が大きくなるが、緩い砂についてはその差がなくなることを示している。又、従来提案されてきた実験公式は空中落下法を用いた試料のデータとよく一致することが示された。 第5章では三軸供試体を非排水で単調載荷して行く途中の段階で、豊浦砂のせん断速度がいかに変化するのかを検討している。その結果、試料の変形が少なく軸ひずみで0.3%以下の場合、せん断速度は試料の作製方法(或いは砂の構造)に大きく依存しているが、変形が増大し軸ひずみが1%以上になってくると砂の構造によらずほぼ一定値をとることが明らかにされた。 第6章では礫の含有量を30、40、50、60、70、80、90%の7段階に変えて豊浦砂を混合した砂礫材料に対して、非排水単調載荷試験を実施した結果について述べている。供試体はすべて乾燥堆積法による最も緩詰めの状態に作製した。その結果、圧密時の拘束圧がある限界よりも小さいと、せん断時に収縮的挙動が極端に現れ、大変形時の残留強度はゼロになることが示された。これ以上の初期拘束圧では拘束圧の対数と間隙比との間に直接関係が成り立つこと、又最小強度(残留強度)と間隙比の間にも直接関係が成り立つことがわかった。更に、この直接関係を示す比例定数(勾配)は礫の含有率が70%までほぼ同一であること、ただし、礫の含有率と共に間隙比の方は減少していくこと等が示された。このような変動を説明するために、砂の部分の間隙比と礫の部分の間隙比とを区別して求め、礫含有率の変化に伴うピーク強度と残留強度の変化特性を明らかにした。 第7章では既存のデータを収集し、砂および砂礫上の繰返し強度とせん断波速度との関係を論じている。両者の間に一対一の関係は成り立ちがたいこと、しかし、あるせん断速度に対して最小の繰返し強度が存在することを指摘している。このことはダイレタンシーの様々な影響を受けて変動しやすい繰返し強度にも最小値が存在することを示唆している。 第8章は結論で、本研究の成果を総括している。 以上を要するに、本研究は、色々な割合で礫を含む砂礫土の静的および動的変形特性を三軸装置による非排水試験とせん断波測定によって調べ、地盤の液状化に対して礫の果たす役割を究明したものである。その結果、従来未知であった緩い砂礫地盤の液状化特性が明らかになり、これら地盤の地震時の挙動解明の手がかりを提供したと云える。これらの成果は土質力学と耐震工学の分野の発展に寄与するところが大きと考えられ、よって本論文は学位請求論文として合格と認められる。 |