学位論文要旨



No 212219
著者(漢字) 嵩,英雄
著者(英字)
著者(カナ) カサミ,ヒデオ
標題(和) 流動化コンクリートの開発および実用化に関する研究
標題(洋)
報告番号 212219
報告番号 乙12219
学位授与日 1995.03.16
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第12219号
研究科 工学系研究科
専攻 建築学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 友澤,史紀
 東京大学 教授 岡村,甫
 東京大学 教授 菅原,進一
 東京大学 教授 小谷,俊介
 東京大学 教授 魚本,健人
内容要旨

 流動化コンクリートとは,通常の方法で製造した硬練りのコンクリートに,減水性の優れた高性能減水剤を添加し,攪拌することによって流動性のよい,スランプの大きいコンクリートとしたものである.

 流動化コンクリートは,筆者らが遅延添加用の高性能減水剤,すなわち流動化剤の開発と高性能減水剤を遅延添加した流動化コンクリートの諸性質に関する基礎研究および実用化研究を行い,高性能減水剤の遅延添加による高流動コンクリートとして,昭和50年に日本建築学会で報告・提案して以来,各方面で研究が進められ,新しい一つの工法として確立し,標準仕様書およびレデーミクストコンクリートのJIS規格にも取り入れられるに到ったものである.

 本論文は,「流動化コンクリートの開発および実用化に関する研究」と題し,通常の方法で練り混ぜたかた練りのコンクリートに高性能減水剤を添加することにより,スランプを10cm程度増大させ,従来の建築用の軟練りコンクリートより単位水量・単位セメント量を10%程度する方法について研究し,「流動化コンクリート」とい新しいコンクリート工法として関発し,さらに流動化コンクリートの諸性質,製造方法,施工性などについて広範囲な実験室および現場実験を行い,流動化コンクリートを新しい一つの工法として確立した一連の研究成果をまとめたものである.

 本論文の構成は,以下の9章からなる.

 第1章「序論」では,本研究の目的および流動化コンクリートの開発の背景について述べ,従来の建築用の軟練りコンクリートの実情と問題点および建築用コンクリートの品質改善の重要性と問題点について述べた.

 第2章「既往の研究」では,流動化コンクリートの基本を構成する高性能減水剤に関する既往の研究および減水剤をコンクリートの練り混ぜ後に添加する特殊な使用方法に関する既往の研究について述べ,さらに,通常の方法で製造したかた練りコンクリートに高性能減水剤を後から添加する流動化コンクリートに関する既往の研究について述べ,流動化コンクリートという新しいコンクリート技術の発展の中で,筆者が昭和50年以降に行った一連の研究開発の歴史的位置づけを明確にした.

 第3章「高性能減水剤の遅延添加による流動化コンクリート工法の開発」では,スランプ8〜12cmのがた練りのAEコンクリートの練り混ぜ後に,減水性の優れた減水剤を添加してスランプを10cm程度増大させる方法について研究し,アルキルアリルスルフォン酸塩高縮合物系の高性能減水剤がスランプ増大効果が大きく,流動化後の空気量の変動も少ないことを明らかにし,この高性能減水剤を主成分とする流動化剤による流動化コンクリートを新しいコンクリート工法として確立するために行った広範囲な開発研究について述べた.

 高性能減水剤は,コンクリートの練り混ぜ時に添加するより,練り混ぜ後に添加する方が効果が大きく,通常の使用方法の半分の添加量でスランプを10cm程度増大でき,添加時期がベースコンクリートの練り混ぜ後15〜60分の範囲であれば,流動化効果に差がなく,スランプ8〜12cmのベースコンクリートをスランプ18〜21cmの流動化コンクリートとすることができ,遅延添加用に開発した高性能減水剤「ハイフルード」は,日本建築学会のJASS 5T-401「コンクリート用表面活性剤の品質規準」を参考とした練り混ぜ後に添加の場合の品質試験により,規準に適合することを明らかにした.

 流動化の方法は.レデーミクストコンクリートの運搬車に流動化剤を添加後1〜2分間の高速攪拌により均質に流動化でき,工事現場で流動化できること,製造工場からの運搬距離が短い場合は,工場出荷時に高性能減水剤を運搬車に添加し,工事現場で攪拌してスランプを増大する方法も可能であることを明らかにした.さらに,3件の建築工事に適用して,調合設計の方法により施工性の改善,単位水量の低減,初期強度の増進などの効果を確認して、本工法の標準的な使用方法を提案した.

 第4章「流動化コンクリートの広範囲な諸性質に関する研究」では,流動化剤の流動化効果および流動化後のフレッシュコンクリートおよび硬化コンクリートの諸性質に関する広範囲な実験室研究について述べ,流動化剤の添加量,使用セメントの種類,粗骨材の最大寸法,流動化剤の種類およびコンクリート温度の影響について明らかにし,フレッシュコンクリートのスランプ,空気量,ブリージングおよび硬化後の強度性状,乾燥収縮,クリープ,耐久性などの諸性質への悪影響がないことを明らかにした.

 第5章「流動化軽量コンクリートの諸性質に関する研究」では,人工軽量骨材コンクリートへの流動化コンクリートの適用に関する実験室研究について述べ,軽量コンクリートに流動化剤を添加した場合の流動化効果,流動化後の経時変化,流動性,流動化剤の添加量と添加時期の影響および流動化後のフレッシュコンクリートならびに硬化コンクリートの諸性質への影響を明らかにした.

 普通骨材および人工軽量骨材を用いた流動化コンクリートと通常のコンクリートの流動性の評価に関する実験から,流動化によってコンクリートの流動性は大きく改善されるが,同じスランプの通常の軟練りコンクリートと比較するとやや劣ることを明らかにした.

 第6章「流動化コンクリートのポンプ圧送に関する実験的研究」では,普通骨材および人工軽量骨材を用いた流動化コンクリートと通常のコンクリートのコンクリートポンプによる圧送性の実験ならびに実際の工事現場における流動化軽量コンクリートの垂直圧送実験および大粒径骨材を用いた貧配合の流動化コンクリートの流動化効果およびポンプ圧送性について述べた.

 コンクリートポンプの圧送性は流動化によって改善され,圧送負荷が15〜25%低減されること,圧送前後のコンクリートの品質変化は通常の軟練りコンクリートと差がないこと,流動化コンクリートにおいても,筆者らの提案により日本建築学会の軽量コンクリート調合設計・施工指針案およびコンクリートポンプ工法施工指針案に採用された圧送負荷算定方式によって圧送負荷を算定できることを明らかにした.

 骨材最大寸法40mmおよび60mmの大粒径骨材を用いた貧配合コンクリートに流動化剤を添加した場合も20mm〜25mm骨材とほぼ同様な流動化効果が得られ,流動化後の品質変化は少なく,凍結融解抵抗性の低下も少ないこと.ポンプ圧送性も大幅に改善され,25%程度の圧送負荷の低減が可能となることを明らかにした.

 第7章「流動化コンクリートの施工性に関する研究」における,打継ぎ部の性状に関する実験では,流動化コンクリートは打継ぎ時間間隔が大きくなると付着強度の低下を生じやすいが,JASS5の規定による打込み,締固めを行えば,暑中に2時間の打継ぎ時間間隔があっても,漏水を伴うコールドジョイントを生じないことを明らかにした.

 SRC造ビルにおける施工実験および実大壁体模型による施工実験では,流動化コンクリートの壁体中の流動性,振動締固め性状,型わくの側圧,打ち込まれたコンクリートの表面の仕上がりと構造体のコンクリートの長期材令までの強度性状,乾燥収縮,中性化などについて実験的に明らかした.

 第8章「流動化コンクリートの製造方法に関する研究」では,工事現場における流動化剤のトラックアジテーターへの添加および攪拌方法が流動化コンクリートの品質,攪拌時の騒音に及ぼす影響について明らかにした.さらに,工事現場における流動化方式の場合の流動化剤計量・添加設備,人員および管理の負担の軽減のため,トラックアジテーターに搭載した流動化剤タンクによる一定量の流動化剤の添加による流動化方法について述べ,流動化コンクリートの製造方法に対する総合的検討を行った.

 第10章「総括」では,第1章〜第8章までの各章の概要を総括した.

審査要旨

 本論文は、「流動化コンクリートの開発および実用化に関する研究」と題し、単位水量が少ない硬練りコンクリートに、高性能なセメント粒子分散作用を有する界面活性剤である高性能減水剤を添加することにより、硬練りコンクリートの優れた品質を維持したままスランプを10cm程度増大させて、その施工性を大幅に改善する、いわゆる流動化コンクリートについて、それに必要な高性能減水剤、すなわち流動化剤の開発から流動化させたコンクリートの諸性質の解明、コンクリートの製造・施工・管理の方法に至るまで、広範囲な実験室実験および現場実験によって研究し、流動化コンクリートを新しい一つのコンクリート工法として確立した一連の研究成果をまとめたもので、9章から構成されている。

 第1章「序論」は、研究の目的、範囲および背景を述べたもので、従来の建築用軟練りコンクリートの問題点を挙げ、その品質改善の必要性等を述べている。

 第2章「既往の研究」では、流動化コンクリートに必須の高性能減水剤、その遅延添加手法、および流動化コンクリートの製造方法に関する既往の研究を調査し、流動化コンクリートという新しいコンクリート技術の発展における本研究の役割と位置づけを述べている。

 第3章「高性能減水剤の遅延添加による流動化コンクリート工法の開発」は、流動化コンクリート用の高性能減水剤と工事現場における流動化の手法を開発し、実際の建築工事現場に適用して、この工法の基礎固めを行った研究を述べたものである。ここで開発したアルキルアリルスルフォン酸塩高縮合物系の高性能減水剤を後添加することにより、コンクリートのスランプを8〜12cmから18〜21cmまで10cm程度増大させることが可能であり、また空気量の変化はほとんど抑えられること、かつこの流動化効果はコンクリート練り混ぜ後15〜60分の範囲であれば差がないことなどを確認し、建築現場でレディーミクストコンクリートの運搬車中のコンクリートにこれを添加後高速攪拌して流動化する手法など、本工法の基本的な手法を確立し、その標準的な使用方法を提案している。

 第4章「流動化コンクリートの諸性質に関する研究」は、流動化剤の流動化効果および流動化後のフレッシュコンクリートおよび硬化コンクリートの諸性質に関する広範囲な実験室研究の成果をまとめたもので、流動化効果に対する流動化剤の種類、添加量、使用セメントの種類、粗骨材の最大寸法、コンクリートの温度などの影響を明らかにし、流動化がコンクリートの強度性状、乾燥収縮、クリープ、耐久性などの性能に悪影響を及ぼさないことを確認している。

 第5章「流動化軽量コンクリートの諸性質に関する研究」は、人工軽量骨材を用いた軽量コンクリートの流動化について、第4章と同様の実験的研究を行い、その効果と工法としての適用性を確認している。

 第6章「流動化コンクリートのポンプ圧送に関する実験的研究」は、現在のコンクリート施工法では必須の条件であるコンクリートのポンプ圧送に流動化コンクリートがどのような効果を有するかの評価、および圧送計画を立てる場合の圧送負荷の計算方法についての検討を、実大圧送実験、実際の工事現場における垂直圧送実験などを通じて行ったものである。この結果、流動化コンクリートはポンプ圧送性に優れること、従来と同様の圧送負荷算定式が適用できることなどを明らかにしている。

 第7章「流動化コンクリートの施工性に関する研究」では、コンクリートの打継ぎ部の性状、打継ぎ時間間隔の影響などについて検討し、通常のコンクリートと同様の方法と注意事項により施工することが可能であることを確かめている。また、実際の建築工事や実大模型による施工実験により、壁体型枠中での流動性状、振動締固め性状、型枠の側圧、コンクリートの型枠面仕上がり状態、構造体コンクリートの長期材齢の諸性質を明らかにしている。

 第8章「流動化コンクリートの製造方法に関する研究」では、工事現場における流動化剤の計量・添加・コンクリートの攪拌などの作業方法、作業管理方法など流動化コンクリートの製造方法について総合的検討を行い、工法の標準仕様化のための資料としている。

 第9章「総括」では、本研究を総括し、流動化コンクリートに関する評価および今後の課題について述べている。

 以上のように、本研究は、施工の容易さのみを追い求めることによってコンクリートの品質に往々にして悪影響を与えることのあった軟練りコンクリートに対し、硬練りコンクリートの品質を維持したまま軟練りコンクリートの施工性を確保するという画期的なコンクリート工法である流動化コンクリートの実用化技術を確立したものであり、その成果は日本建築学会や土木学会の流動化コンクリートの施工指針の基礎になるなど、コンクリート構造物の施工法の改善および品質の改善に大きく貢献しており、コンクリート工学の発展に大きく寄与するものである。

 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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