学位論文要旨



No 212220
著者(漢字) 石川,正昭
著者(英字)
著者(カナ) イシカワ,マサアキ
標題(和) 水平円筒カプセル型潜熱蓄熱システムの出口温度応答に関する研究
標題(洋)
報告番号 212220
報告番号 乙12220
学位授与日 1995.03.16
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第12220号
研究科 工学系研究科
専攻 機械工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 齋藤,孝基
 東京大学 教授 棚澤,一郎
 東京大学 教授 吉本,堅一
 東京大学 教授 小林,敏雄
 東京大学 助教授 飛原,英治
内容要旨

 1.研究の目的 熱エネルギを貯蔵する方法の一つとして、蓄熱密度の高さや化学的な安定度などから物質の凝固融解潜熱を利用した蓄熱技術が注目されている。その中でも、単位蓄熱物質当たりの伝熱面積という点からカプセル型が有利である。従来カプセル型の潜熱蓄熱に関しては単一カプセル内部の相変化特性に関する研究が多く、カプセルの伝熱促進なども含めて、その特性はほぼ明らかになってきた。しかし実際に適用される形態であるカプセル群としての熱交換特性については、実験的にも解析的にもデータの量や考察事項など、いまだ不十分である。また蓄熱槽の出口応答を積極的に制御しようとした立場の研究はほとんど見あたらない。これらの現状を踏まえ本研究では、

 (1)蓄熱システムの熱交換特性の解明

 (2)出口温度応答予測モデルの構成

 (3)出口温度の制御方法の提案

 (4)蓄熱槽性能の定量的評価

 を目的とした。

Fig.1 Energy Storage Tank (Test Section)

 2.解析モデル 本研究の目的の一つは、単一カプセルの熱交換特性を、カプセル群の解析に直接適用できるような計算モデルを構成することである。ここでは二次元円筒カプセル内の同心円状凝固および直接接触融解を、準定常を仮定してモデル化した。さらに、カプセル集合体である蓄熱槽内(Fig.1)の対流の解析には多孔質流れの基礎式を用い、各カプセルからの熱流束をコントロールボリューム内に取り込むモデルを構成して、実験値とよく一致することを確認した(Fig.2)。

Fig.2 Outlet Temperature

 3.熱交換特性 一例として、凝固過程上昇流および下降流、流量大および小の場合の計算された蓄熱槽内温度分布をFig.3に示す。上昇流の場合、流量が小さいと流れ方向にほぼ一次元的な分布を示す(b)。流量が大きい場合は(a)、蓄熱槽内に両側壁に沿った速い流れが生じ、温度分布はやや二次元的になる。下降流においては、低温流体が蓄熱槽上部より流入するため、条件によっては蓄熱槽内に大規模な自然対流が発生することが考えられる。しかし流量が大きい場合(c)、自然対流の影響はほとんど見られず、上昇流をほぼ反転したような様子を示す。一方流量が小さい場合(d)、自然対流が発生し、高温部分の逆流が顕著になっている様子が計算されている。またこのとき、出口温度にも不安定な振動が見られる。さらにこの解析モデルを用いて、カプセル配列やカプセル寸法の影響を検討した。Fig.1の縦長配列を正方配列にした場合、および正方配列でカプセル寸法を半分にした場合の出口温度変化の様子を、それぞれFig.4(a)および(b)に示す。カプセル寸法が小さくなると、各カプセル内部の相変化物質の相変化完了が短時間で終了するので、大きいカプセルに比較して、出口温度が一定に近い部分が現れる。また、入口出口位置を変更し流れパターンを変えた場合の出口温度の変化についても、シミュレーションにより検討し考察を加えた。

Fig.3 Temperature FieldFig.4 Outlet Temperature

 4.性能評価 従来蓄熱槽は、剰余エネルギを蓄積しておく設備と考えられていたので、蓄熱槽からの効果的な熱の取り出しという観点からはほとんど研究がなされていなかった。しかし将来、蓄熱槽をさまざまな分野に適用することを考えると、蓄熱槽から目標の出口温度を目標の流量で取り出す方法が必要になる。本研究ではFig.5に示すようなバイパス制御法を用いて、任意の出口温度および流量を設定することを可能にした。入口流量の一部を出口に直結し、全体の流量は一定に保ったままで蓄熱槽内を流れる流量を調節し、混合後の出口温度を目標値に一致させようとする方法である。

 またこの方法により、出口温度と流量の条件を整えることで、、蓄熱槽の定量的な評価が可能になる。目標を実現している時間内に蓄熱槽が放出した熱量を、蓄熱槽が持っていた全潜熱量で割ることで、効率を定義する。この効率が高いほど、目標どおりに取り出している熱量が多いということであり、蓄熱槽からの効果的な熱の取り出しを示す指標になっている。Fig.1に示した蓄熱槽の性能マップをFig.6に示す。与えられた蓄熱槽について、シミュレーションによりこの曲面を描くと、最適な使用条件が明らかになる。また逆に、与えられた使用条件を効果的に満たす蓄熱槽を設計することも可能である。さらに、カプセル配置や寸法を変更した場合についてもシミュレーションをおこない、カプセル寸法が小さい場合にあらゆる条件で効率の優劣がなくなること、縦長配列が全体として正方配列より効率が高いことなどが明らかになった。

図表Fig.5 Bypass Control / Fig.6 Performance Map

 5.結論 本研究で得られた結論は以下のとおりである。

 (1)水平円筒カプセル型潜熱蓄熱システムの応答特性を明らかにした。

 (2)応答特性を予測する計算モデルを構成した。

 (3)蓄熱槽出口温度を制御する一つの方法を提案した。

 (4)蓄熱槽の定量的評価方法を提案した。

審査要旨

 電力需要が昼間に比べ夜間はかなり小さくなる場合には夜間電力で蓄熱し、それを昼間の需要がピークとなる時間帯に利用することは電力需要の平滑化に役立つ。蓄熱の方法には顕熱型、化学反応型、潜熱型等がある中で、本研究では潜熱・カプセル型を取り上げカプセル内媒体の凝固、融解等の基本的現象を解析した。また、それに基づいて槽内カプセル群とその周囲を流れる媒体との熱交換並びに後者の媒体の槽出口における温度変化を考察している。

 本論文は6章と付記より成っている。

 第1章は緒言で、環境並びにエネルギー問題を概観し蓄熱、中でも潜熱蓄熱の意義について述べ、従来の研究を紹介し、本研究の目的について言及している。

 第2章は実験装置及び方法について述べている。基本要素のカプセル(アクリル製)は内径20mm、肉厚2mm、長さ90mmの円筒状であり、中にn-オクタデカン(凝固温度27.8℃)を充填したものである。これを水平方向5列、垂直方向20段のごばん目状配列とし、容器に納め蓄熱槽とする。カプセルの周囲を水が流れ、カプセルと熱交換を行う。カプセル内媒体の凝固、融解それぞれの過程に対して水の流れは上昇流、下降流の流れがありうる。

 第3章は解析モデルである。

 凝固に至る過程は初期の顕熱放出、相変化、凝固後の顕熱の熱交換とに分け、凝固過程はカプセル円筒壁より始まって同心円筒状に進行するとして解析し、実験を良く説明する結果を得ている。融解過程については融解はカプセル壁より始まるが、進行するにつれて凝固部分は鉛直下方に移動し、カプセル壁とは下面側で液膜を介して接触するとした。液膜部分については等価な熱伝導で評価して実験と一致する結果を得ている。

 カプセル群と周囲を流れる水(レイノルズ数Re=20-200 代表長:カプセル外径)との熱交換に関しては、槽内にとった計算メッシュ1個にカプセルが1本存在するように2次元的に分割する。各コントロールボリュームについて水の代表流速、平均熱伝達率を与えて熱の収支計算を行い蓄熱槽の熱特性を求めている。水の入口、出口の配置は上方、下方、また横方向にはそれぞれ中央、側壁寄り等種々の組み合わせについて解析を行い、出口における水の温度を求めると共に、水の流量を増減あるいはバイパスして所定の出口温度に調節するための計算も行っている。

 第4章の熱交換特性に関する結果及び考察である。蓄熱槽内の流速、温度、熱流束並びにカプセル内の相変化量の分布を計算し、凝固における下降流、融解における上昇流において流れの不安定傾向が見られることを指摘している。実験では温度測定、カプセル群の写真撮影等を行っている。槽内に流入した水が蓄熱槽出口において示す温度変化の過程の計算はカプセル内媒体の凝固、融解、またカプセル周囲の水の上昇流、下降流の何れにおいても実験結果に良く対応している。さらに7通りのカプセル群の配列について水の流れの場、蓄熱槽出口の温度変化を計算し、列数、段数との関係を検討している。また、カプセルの半径、肉厚、ピッチを半分にした場合についても計算し考察を深めている。

 第5章は出口温度に関する結果及び考察である。出口温度を所定の値に調節するために必要な流量変化を計算しておき、そのデータによりポンプを制御するいわゆるプログラム制御を取り上げている。一方、蓄熱槽をバイパスさせた水を蓄熱槽出口の水と混合して所定の温度出力を得る方法について検討し、バイパス弁で制御する方法の妥当性を示している。カプセル配置、寸法に関しては、目標温度がカプセル内物質の相変化温度に近い時はカプセルサイズを小さく流路を長くとる方がプログラム制御に適していると述べている。さらに水がカプセル群から得た熱交換量をカプセルの全潜熱量で除した値をもって効率と定義して蓄熱槽の性能評価を行い、性能が上昇流、下降流、水の流速、目標温度によってどう変わるかを示している。

 第6章は緒言である。

 以上要するに本論文は、凝固、融解の相変化を行う媒体を納めたカプセル群を有する蓄熱槽を取り上げ、カプセル内媒体の熱的な挙動を解析し、これをふまえてカプセル群と熱交換を行う水の槽出口温度を求める有用な解析手法を導き、さらに水の流量を調節して水の槽出口温度を所定の値に調節する手法を開発したものであり、工学的に新しい知見を得ている。

 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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