電力需要が昼間に比べ夜間はかなり小さくなる場合には夜間電力で蓄熱し、それを昼間の需要がピークとなる時間帯に利用することは電力需要の平滑化に役立つ。蓄熱の方法には顕熱型、化学反応型、潜熱型等がある中で、本研究では潜熱・カプセル型を取り上げカプセル内媒体の凝固、融解等の基本的現象を解析した。また、それに基づいて槽内カプセル群とその周囲を流れる媒体との熱交換並びに後者の媒体の槽出口における温度変化を考察している。 本論文は6章と付記より成っている。 第1章は緒言で、環境並びにエネルギー問題を概観し蓄熱、中でも潜熱蓄熱の意義について述べ、従来の研究を紹介し、本研究の目的について言及している。 第2章は実験装置及び方法について述べている。基本要素のカプセル(アクリル製)は内径20mm、肉厚2mm、長さ90mmの円筒状であり、中にn-オクタデカン(凝固温度27.8℃)を充填したものである。これを水平方向5列、垂直方向20段のごばん目状配列とし、容器に納め蓄熱槽とする。カプセルの周囲を水が流れ、カプセルと熱交換を行う。カプセル内媒体の凝固、融解それぞれの過程に対して水の流れは上昇流、下降流の流れがありうる。 第3章は解析モデルである。 凝固に至る過程は初期の顕熱放出、相変化、凝固後の顕熱の熱交換とに分け、凝固過程はカプセル円筒壁より始まって同心円筒状に進行するとして解析し、実験を良く説明する結果を得ている。融解過程については融解はカプセル壁より始まるが、進行するにつれて凝固部分は鉛直下方に移動し、カプセル壁とは下面側で液膜を介して接触するとした。液膜部分については等価な熱伝導で評価して実験と一致する結果を得ている。 カプセル群と周囲を流れる水(レイノルズ数Re=20-200 代表長:カプセル外径)との熱交換に関しては、槽内にとった計算メッシュ1個にカプセルが1本存在するように2次元的に分割する。各コントロールボリュームについて水の代表流速、平均熱伝達率を与えて熱の収支計算を行い蓄熱槽の熱特性を求めている。水の入口、出口の配置は上方、下方、また横方向にはそれぞれ中央、側壁寄り等種々の組み合わせについて解析を行い、出口における水の温度を求めると共に、水の流量を増減あるいはバイパスして所定の出口温度に調節するための計算も行っている。 第4章の熱交換特性に関する結果及び考察である。蓄熱槽内の流速、温度、熱流束並びにカプセル内の相変化量の分布を計算し、凝固における下降流、融解における上昇流において流れの不安定傾向が見られることを指摘している。実験では温度測定、カプセル群の写真撮影等を行っている。槽内に流入した水が蓄熱槽出口において示す温度変化の過程の計算はカプセル内媒体の凝固、融解、またカプセル周囲の水の上昇流、下降流の何れにおいても実験結果に良く対応している。さらに7通りのカプセル群の配列について水の流れの場、蓄熱槽出口の温度変化を計算し、列数、段数との関係を検討している。また、カプセルの半径、肉厚、ピッチを半分にした場合についても計算し考察を深めている。 第5章は出口温度に関する結果及び考察である。出口温度を所定の値に調節するために必要な流量変化を計算しておき、そのデータによりポンプを制御するいわゆるプログラム制御を取り上げている。一方、蓄熱槽をバイパスさせた水を蓄熱槽出口の水と混合して所定の温度出力を得る方法について検討し、バイパス弁で制御する方法の妥当性を示している。カプセル配置、寸法に関しては、目標温度がカプセル内物質の相変化温度に近い時はカプセルサイズを小さく流路を長くとる方がプログラム制御に適していると述べている。さらに水がカプセル群から得た熱交換量をカプセルの全潜熱量で除した値をもって効率と定義して蓄熱槽の性能評価を行い、性能が上昇流、下降流、水の流速、目標温度によってどう変わるかを示している。 第6章は緒言である。 以上要するに本論文は、凝固、融解の相変化を行う媒体を納めたカプセル群を有する蓄熱槽を取り上げ、カプセル内媒体の熱的な挙動を解析し、これをふまえてカプセル群と熱交換を行う水の槽出口温度を求める有用な解析手法を導き、さらに水の流量を調節して水の槽出口温度を所定の値に調節する手法を開発したものであり、工学的に新しい知見を得ている。 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 |