本論文は,「高度光学的センシング・システムの開発手順・手法の体系化とステッパ開発への応用」と題し,高度な光学的センシング・システムにおける開発手順・手法の体系化を試み,さらにその結果を光学技術の粋を集めていると言われる半導体露光装置のステッパとその周辺装置の開発に適用し,その妥当性を立証している. まず,システム開発の一般的な手順に対して,光学的センシング・システムの現状をあてはめ,システム設計に着手する前に行われなければならない「戦略的な検討」の不足が明らかにしている.そして,特に,計測のための光学的センシング・システムの開発では「精度・誤差の分析とその配分の適正化」が,また,検査のための光学的センシング・システムの開発では「検査目的の明確化」が重要であることを示している. 体系化した光学的センシング・システムの開発手順・手法をステッパに適応し,以下の三つの戦略的開発課題を解決する必要があることを明らかにした. 1.アライメント用センシングに関して,プロセスウエハの検出誤差の低減とオフセットの自動キャリブレーション技術の確立が重要であること. 2.モニタリング用センシングに関して,ウエハの傾斜測定光学系(レベリング・モニタ)とアライメント・モニタがステップの高解像度化に伴う縮小レンズの焦点深度をカバーするために重要であること. 3.高い製造歩留まりとステッパの稼働率向上を図るため,レチクル管理システムの検討が必要で,レチクル上異物検査装置とペリクルの異物を有無をチェックするペリクル上異物検査装置が必要であること. この三つの開発課題に対して,以下の方法でその解決を行った. 1.アライメント用センシング プロセスウエハの検出誤差の低減をはかるため,多重干渉理論に基づくアライメントマークの検出信号のモデル化を図り,低段差構造を有するアライメントマークの検出用の入射角度選択アライメント方式,高段差構造を有するアライメントマーク検出用の二傾角照明検出アライメント方式及び二波長合成検出アライメントなどの新しい方式を考案,開発した.これらの方式を使うことでアライメント時の誤検出率を大幅に低減し,オフセット検出技術を確立した. 2.モニタリング用センシング 光導波路のリニアグレーティングカップラを利用した基板傾斜測定光学系とSAW光偏向機能を有する光導波路素子を用いたアライメントモニタを考案,開発した.このシステムの有効性を実験により確認している. 3.レチクル管理用センシング ペリクルの装着を考慮した新しいレチクル管理システムを提案し,これを実現するための偏光角度変化検出方式等の検出技術を考案し,レチクル上異物検査装置とペリクル上異物検査装置を開発した. 以上,本論文は,光学的センシング・システムの開発手順・手法の体系化を行い,この体系がステッパとその周辺装置の開発に有効に機能することを,種々の検査装置,検査技術を開発することを通して確認している.この成果は工業分野で光学的センシング・システムの開発に大きく寄与すると考えられる.よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる. |