学位論文要旨



No 212223
著者(漢字) 芝,正孝
著者(英字)
著者(カナ) シバ,マサタカ
標題(和) 高度光学的センシング・システムの開発手順・手法の体系化とステッパ開発への応用
標題(洋)
報告番号 212223
報告番号 乙12223
学位授与日 1995.03.16
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第12223号
研究科 工学系研究科
専攻 精密機械工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 助教授 高増,潔
 東京大学 教授 大園,成夫
 東京大学 教授 菊池,和朗
 東京大学 教授 須賀,唯知
 東京大学 助教授 佐々木,健
内容要旨

 高度な光学的センシング・システムに対するニーズがますます増大する今日、システムの開発をより効率的かつ確実に行なう必要性が増してきている。そこで、光学的センシング・システムの開発手順・手法の体系化を試み、さらに、その結果を光学技術の粋を集めていると言われる半導体露光装置のステッパとその周辺装置の開発に適用し、妥当性を立証した。

 先ず、システム開発の一般的な手順に対して、光学的センシング・システム開発の現状をあてはめた結果、システム設計に着手する前に行なわれなければならない「戦略的な検討」の不足が明らかになった。そして、特に、計測のための光学的センシング・システムの開発では「精度・誤差の分析とその配分の適正化」が、また、検査のための光学的センシング・システムの開発では「検査目的の明確化」が重要であることを示した。

 体系化した光学的センシング・システムの開発手順・手法をステッパに適用した結果、「農業的生産」と呼ばれる半導体の製造を「工業的生産」に変えるためには以下の戦略的開発課題を解決する必要があることが明きらかになった。

 (1)「アライメント用センシング」に関して、重ね合わせ精度に関する詳細な精度・誤差分析を行った結果、これからの半導体の高集積化に対処するためには、「プロセスウエハの検出誤差の低減」と「オフセット変動自動キャリプレーション技術の確立」を図ることが重要であることが明らかになった。

 (2)「モニタリング用センシング」は、半導体統合生産管理システムの高度利用のために、設備の自律安定化と装置稼働状況の中央での把握と対策を実現することを目的として既存の製造設備に取付けられる各種のモニタを指す。以下の2つのモニタの早期開発が急がれている。

 「ウエハの傾斜測定光学系(レベリング・モニタ)」は、ステッパの高解像度化に伴って浅くなる縮小レンズの焦点深度をカバーするために必須の技術である。高い測定精度を実現し、しかも、ウエハの表面に存在する回路パターン等から発生する迷光の影響を受けにくい測定技術の開発が必要である。

 一方、「アライメントモニタ」は、半導体統合生産管理システムにおけるウエハの座標管理に必要なシステムであり、小形で高精度な測定システムの開発が要求される。

 (3)高い製造歩留まりとステッパの実稼働率向上を図るため、「レチクル管理システム」についても検討を加え、ペリクルを用いた新しい管理システムを提案した。そして、このシステムを実現する上で、ペリクル装着前後のレチクルを検査する「レチクル上異物検査装置」と、露光直前にペリクルの上に付着した異物の有無をチエックする「ペリクル上異物検査装置」が必要であることを明らかにした。

 「アライメント用センシング」に関しては、「プロセスウエハの検出誤差」の低減をはかるため、多重干渉理論に基づくアライメントマークの検出信号のモデル化を図り、低段差構造を有するアライメントマークの検出用の「入射角度選択アライメント」(レジスト膜厚に応じて最適な照明光の入射角度を選択し常に高い検出信号コントラストを得る)方式、高段差構造を有するアライメントマークの検出用の「2傾角照明検出アライメント」(2つの最適な照明光の入射角度を選択しこれを合成する)方式と「2波長合成検出アライメント」(Arレーザの488nmおよび515nmの2つの波長での「レーザ揺動照明アライメント」の検出波形を合成する)方式を考案しアライメント時の誤検出率を大幅に低減した。また、「オフセット変動」を自動補正するため、「2重開口検出法」と「2次曲線近似法」を採用したオフセット量自動検出技術を確立した。

 「モニタリング用センシング」に関しては、光導波路のリニアグレーティングカップラの結合効率の入射角度依存性を利用した基板傾斜測定光学系と、SAW光偏向機能を有する光導波路素子を用いたアライメントモニタを考案し、実験により効果を確認した。

 「レチクル管理用センシング」に関しては、ペリクル(異物付着防止膜)の装着を考慮した「新レチクル管理システム」を提案し、これを実現するため、回路パターンの影響を受けずに異物を安定に検出できる「偏光角度変化検出方式」等の検出技術を考案し、標準粒子換算2mの検出感度を有する[レチクル上異物検査装置」とペリクル上の20m以上の異物を、ステッパ上で露光直前に検出する「ペリクル上異物検査装置」を開発した。

 光学的センシング・システムに限らず、あらゆるシステムの開発は、基本的には個々の開発担当者(技術者)の資質に依るところが大であり、マクロな意味で体系化された開発の手順・手法も、ミクロに見ると個性が染み出てくるものである。しかし、一般のシステムの開発においては、その技術者の属する会社等の集団が長年積み重ねてきたノウハウの蓄積が存在し、開発に対するリスクのかなりの部分を回避できるような体制が出来上がっている。これに対し、光学的センシング・システムは、極めて新しい開発領域であるために、集団の中でのノウハウの蓄積が期待できず、また、開発担当者の数、経験も限られているために、どうしても失敗することが多くなる。本論文は、このような新しい開発領域であるからこそ必要な、開発手順・手法の体系化を試みたものであり、これを用いての高度な光学的センシング・システム開発における開発の質の向上を期待するものである。

審査要旨

 本論文は,「高度光学的センシング・システムの開発手順・手法の体系化とステッパ開発への応用」と題し,高度な光学的センシング・システムにおける開発手順・手法の体系化を試み,さらにその結果を光学技術の粋を集めていると言われる半導体露光装置のステッパとその周辺装置の開発に適用し,その妥当性を立証している.

 まず,システム開発の一般的な手順に対して,光学的センシング・システムの現状をあてはめ,システム設計に着手する前に行われなければならない「戦略的な検討」の不足が明らかにしている.そして,特に,計測のための光学的センシング・システムの開発では「精度・誤差の分析とその配分の適正化」が,また,検査のための光学的センシング・システムの開発では「検査目的の明確化」が重要であることを示している.

 体系化した光学的センシング・システムの開発手順・手法をステッパに適応し,以下の三つの戦略的開発課題を解決する必要があることを明らかにした.

 1.アライメント用センシングに関して,プロセスウエハの検出誤差の低減とオフセットの自動キャリブレーション技術の確立が重要であること.

 2.モニタリング用センシングに関して,ウエハの傾斜測定光学系(レベリング・モニタ)とアライメント・モニタがステップの高解像度化に伴う縮小レンズの焦点深度をカバーするために重要であること.

 3.高い製造歩留まりとステッパの稼働率向上を図るため,レチクル管理システムの検討が必要で,レチクル上異物検査装置とペリクルの異物を有無をチェックするペリクル上異物検査装置が必要であること.

 この三つの開発課題に対して,以下の方法でその解決を行った.

1.アライメント用センシング

 プロセスウエハの検出誤差の低減をはかるため,多重干渉理論に基づくアライメントマークの検出信号のモデル化を図り,低段差構造を有するアライメントマークの検出用の入射角度選択アライメント方式,高段差構造を有するアライメントマーク検出用の二傾角照明検出アライメント方式及び二波長合成検出アライメントなどの新しい方式を考案,開発した.これらの方式を使うことでアライメント時の誤検出率を大幅に低減し,オフセット検出技術を確立した.

2.モニタリング用センシング

 光導波路のリニアグレーティングカップラを利用した基板傾斜測定光学系とSAW光偏向機能を有する光導波路素子を用いたアライメントモニタを考案,開発した.このシステムの有効性を実験により確認している.

3.レチクル管理用センシング

 ペリクルの装着を考慮した新しいレチクル管理システムを提案し,これを実現するための偏光角度変化検出方式等の検出技術を考案し,レチクル上異物検査装置とペリクル上異物検査装置を開発した.

 以上,本論文は,光学的センシング・システムの開発手順・手法の体系化を行い,この体系がステッパとその周辺装置の開発に有効に機能することを,種々の検査装置,検査技術を開発することを通して確認している.この成果は工業分野で光学的センシング・システムの開発に大きく寄与すると考えられる.よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる.

UTokyo Repositoryリンク