No | 212228 | |
著者(漢字) | 小宮山,摂 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | コミヤマ,セツ | |
標題(和) | 映像を伴う多チャンネルステレオに関する研究 | |
標題(洋) | ||
報告番号 | 212228 | |
報告番号 | 乙12228 | |
学位授与日 | 1995.03.16 | |
学位種別 | 論文博士 | |
学位種類 | 博士(工学) | |
学位記番号 | 第12228号 | |
研究科 | 工学系研究科 | |
専攻 | 電気工学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 長い間、日本のテレビ方式はNTSC方式に限られていたが、近年、HDTVの実用化等の新しい動きが見られる。また、次世代のメディアをめざした超高精細度テレビや立体テレビ等の研究も行われている。これらの新しいテレビ方式は広い視野や立体感など、視覚的な臨場感が非常に優れている。しかしながら、その音声方式のあり方については十分な議論がなされていない。例えば、HDTVについては、大画面であるが故に従来のテレビでほとんど問題視されなかった映像と音像の方向差が無視できなくなる恐れがある。また、立体テレビにおいては映像と音像の距離感を一致させる技術が必要になる。これらの問題点は2チャネルステレオでは解決し難い課題である。本研究では、これらの課題を分析し、新しいテレビ方式の音声システムとして、多チャネルステレオを提案している。 TV画面の見込み角が増大した場合の大きな問題点は映像と音像の方向ずれが過大になる恐れがあることである。現行のTV受像機で分かるように、ある程度のずれは心理的に映像が音像を引きつけるため気にならない。実際、映像を注視しながら音像の方向を判定させたところ、図1のような結果が得られた。映像と音像の方向差が5度以内であれば音は映像の方向から聞こえてくると言える。 しかし、差が5度以上になると、映像の方向に引かれる傾向は残るものの、その差は容易に検知される。このずれの大きさの許容限界を評価したところ、非専門家で約20度、専門家で約11度であることが明らかとなった。 これらの結果をHDTVのシステム設計にあてはめると、従来の2チャネルステレオフォニックでは、左右のスピーカを画面に近接して置いた場合ですら、非対称聴取位置では映像と音像のずれが許容値を超える場合がある。また、スピーカの間隔を狭めることは音の広がり感の点で好ましくないので、HDTVの音声チャネルの数は、少なくとも前方に3チャネル必要であるといえる。この実験結果などにより、日本のハイビジョンの音声方式は前方に3、後方に1チャネルの3-1方式に決定された。また、国際的にもHDTVの音声方式は前方に3チャネル、後方に2ないし1チャネルとするようITUにおいて勧告された。 立体テレビ用の音声システムでは、映像と音の調和という観点から音の距離感を立体映像に合わせることが望まれる。これは2チャネルステレオやサラウンドでは実現困難である。また、ホイヘンスの原理やキルヒホッフの法則に基づいた波面合成は、原理的に空間内に音源がある音場を合成できない欠点がある。本研究で開発した音像の遠近制御法はスピーカアレイとディレイを用いて音波の焦点を作るもので、単純な構成で音像の遠近感を明瞭に制御できる。 本方法の構成例を図2に示す。この装置ではディレイ装置により各スピーカからの音波が空間の一点に同時に到達し、その場の音圧を局所的に高める。1例として3.6m×1.8mの大きさのスピーカアレイについて焦点近傍の音圧のレベルと位相を計算すると、図3のようになる。焦点近傍のレベルが局所的に高まり、その焦点を中心として円弧状の波面が広がっていることがわかる。実際の聴感実験でも3m離れたアレイが1m離れた実音原よりも近い音像を合成することが分かった。また、球面波に類似した波面が合成される結果、広い聴取範囲で音像が一定の場所に短覚されることも明らかとなった。この効果はアレイの面積に依存し、直径1.3m以上あれば、音像は1m以内に定位するという実験結果が得られている。このスピーカアレイを用いれば立体映像に対応して音像の遠近感を制御することが可能になる。 本研究では、HDTVや立体TVの音声システムを設計するにあたり、映像と音声の相互関係に着目し、音声システムの検討を行った。映像と音像の一致感を高めるための基礎的な技術を提案している。将来的にはヴァーチャルリアリティの目指す究極の映像音声提示システムに応用が可能である。 | |
審査要旨 | 本論文は「映像を伴う多チャンネルステレオに関する研究」と題し、映像を伴う多チャンネル音声システムの満たすべき要件を明らかにし、それを実現する機器の開発について論じたものであり、7章よりなる。 第1章は「序論」であり、大画面のHDTVや立体テレビなどの新しい映像システムにとって、従来の2チャンネルステレオが映像と音像の方向のずれが過大になるとか、音像の遠近感が再現できないなどの問題があり、それらの音声システムとして十分でないことを述べている。また、映像情報が音声システムのありかたに与える影響を歴史的背景をふまえて述べ、2チャンネルステレオ一辺倒であった音声システムが、映像を伴うことによって多チャンネル化の必然性が出てきた背景を述べている。さらに、論文の構成を紹介している。 第2章は「テレビ視聴時における視覚と聴覚の相互作用に関する考察」と題し、映像が音像定位と広がり感に与える影響について主観評価に基づく実験を行い、映像を注視することで音像の方向が映像の方向に引き寄せられる効果があること、また、サウンドステージが狭まって感じられる効果があることを明らかにしている。さらに、テレビ視聴時の映像と音像のずれの検知限、許容限を求め、許容限は、非専門家で約20度、専門家で約11度であることを示し、AVシステムにおける映像と音像の相対的な位置関係の重要さを述べている。 第3章は、「HDTV用音声システムに関する考察」と題し、第2章の結果をHDTVの音声システム設計にあてはめ、HDTVの音声チャンネルの数について論じている。その結果、HDTVの大画面に適合するチャンネル数は2では不足で、少なくとも前方に3チャンネル必要であることを述べている。 第4章は、「多チャンネルステレオ音場の波面解析とその応用」と題し、多チャンネルステレオの特長である聴取範囲の広さを推定する目的で、複数スピーカ再生により合成される波面について論じ,多チャンネル再生で広い聴取範囲を得る再生法は、一つの音像を合成する際になるべく少数の近接したスピーカの組み合わせを用いるべきであることを述べている。さらに、波面の理論を応用して、多チャンネルステレオの番組制作支援機器として、音像の方向をリアルタイムで監視する音像モニター装置を開発したことを述べている。 第5章は、「音像の遠近制御法の開発」と題し、将来の立体テレビのための音声システムを念頭におき、新しい音像の遠近制御手法を提案している。これはスピーカアレイを用いて音波の焦点を作るもので、焦点の近傍に球面波に類似した音場を合成する。主観評価実験と計算機シミュレーションによって、焦点近傍に音像を知覚させることができること、広い聴取範囲で音像が所定の場所に知覚されることを述べている。 第6章は、「番組音の相関を利用したVTRとテープレコーダーの同期運転装置の開発」と題し、映像を伴う音声の番組制作に必要な装置のひとつであるVTRとATRの同期運転装置の開発について述べている。VTRとATRの双方に記録された番組音声の相互相関を用いる新しい方式であり、タイムコード等の同期信号を必要としないため、汎用性、コストに利点があることを述べている。 第7章は「結論」であり、本研究の成果を要約している。 以上、本論文は、AVシステムが視覚と聴覚に同時に訴えるメディアであることより、これらの感覚の整合性を与えることが重要であることを明らかにし、HDTVの音声システムが備えるべき要件を明示するとともに、将来の立体テレビにおける映像と音像の一致感を得るための具体的方法を提案している。これらの成果は、ヴァーチャルリアリティ等が目指すところの高い臨場感を与える映像音声提示システムにも適用できるものであり、電気通信工学上貢献するところは少なくない。 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 | |
UTokyo Repositoryリンク | http://hdl.handle.net/2261/50931 |