我が国の電力需要は、1975〜1985年度での平均伸び率が年4.1%、1985〜1990年度では年4.8%の割合で増加している。特に、都市部の電力需要増加は著しく、大都市への電力供給は電力ケーブルによる地中送電方式が主流である。そのためこのような電力需要の増加に対応するためには、電力ケーブル線路の大容量化が必要である。 電力ケーブル線路の大容量化には種々の方法があるが、大別すると超高圧化と大電流化である。いずれの方法においても、電力ケーブルの許容電流は導体の許容温度から決まるため、電力ケーブル線路に発生する損失を低減することが重要である。損失の発生源としては、ケーブルの導体、絶縁体および金属シース、さらにはケーブル近傍の磁性材料構造物などである。 まず導体損失の低減方法としては、導体の大サイズ化や大サイズ化に伴って増加する交流抵抗を低減するため、導体を構成する各銅素線を絶縁する方法が検討され、素線絶縁方式は現在、2500mm2以上の大サイズ導体に使用されている。絶縁体の誘電体損失については、CVケーブルではほとんど問題になることはないが、OFケーブルでは絶縁厚低減の要求も同時に満足する絶縁材料としてプラスチックフイルムをクラフト紙でラミネートした半合成紙が実用化されている。 超高圧電力ケーブルには、電磁遮弊層として、あるいは事故電流の帰路回路として、一般に金属シースが設けられており、アルミシースが主流である。ケーブル相互間の近接効果によるアルミシースの渦電流損失を低減するために、ケーブル各相の配列を工夫したり、ケーブル相互間の距離を離す相離隔布設などが行われている。また、金属シースの渦電流損失を低減するため、最近ではアルミに代えて抵抗の大きいステンレスシースが使用される場合もある。 さらに、長距離の電力ケーブル線路では、図1に示すように一般に、金属シースを撚架するクロスボンド方式が採用されており、金属シース回路に誘起する循環電流による損失(回路損失)を抑制している。しかし、線路の状況によっては回路電流を十分に抑制できない場合がある。 図1 単心電力ケーブル線路のクロスボンド方式 電力ケーブル線路が大容量化すると共に、線路の信頼性を高めることがますます重要になる。完成したケーブル線路に対しては、最終的な線路の健全性を確認するための竣工試験が行われ、現時点では直流電圧が主流である。直流電圧の印加は設備が簡便な反面、長距離の線路では印加および放電終了までに長時間を要する問題がある。従って、現場工事における時間短縮の観点からはこの時間を低減することも重要な課題である。 また、長距離の電力ケーブル線路では金属シースがクロスボンド接続される箇所がサージインピーダンスの変異点となってサージ性異常電圧が誘起する。さらに、電力ケーブル線路の終端部においても、金属シースに絶縁筒が装着され、同様にシースサージ電圧が誘起する。従って、電力ケーブル線路の信頼性を確保するためには、雷サージや線路の開閉操作によって生じるシースサージ電圧や電流を評価すると共に、ケーブルの防食層や絶縁筒を保護するための対策をとることが重要である。 以上のような電力ケーブル線路の電力損失低減と高信頼度化に関する技術的な背景をもとに、本論文では最初に、電力ケーブルの金属シースにおける電力損失低減およびシースサージ電圧に関する研究、続いて高信頼度化技術としてケーブル線路の竣工試験に関する研究、最後に、超高圧OFケーブルの大容量化技術に関する研究ついて報告した。 長距離電力ケーブル線路のクロスボンド方式は、シース回路電流抑制の効果を発揮するためにはクロスボンド区間を構成する3つの小区間の距離がほぼ等しくなければならず、さらに各小区間でのケーブル相配列が同じでなければならない。しかし、実際にはケーブルルート上の地理的制約などから、この小区間を必ずしも均等に構成することができず、さらに3つの小区間でのケーブルの相配列が異なることも多い。このような複雑な線路構成の場合、従来の計算手法ではシーズ回路電流を正確に計算することができなかった。このような長距離のクロスボンド構成された多回線電力ケーブル線路の回路電流を計算する手法を検討し、実際の154KVOFケーブル線路等において実測を行い、計算手法の妥当性を検証した。さらに、シース回路電流の影響として、金属シースの渦電流損失への影響と線路インピーダンスへの影響について、その計算方法を述べると共に、シース回路電流の影響が無視できない場合があることをを示した。さらに、各相が多導体構成の線路における各導体の分流について、その計算方法と計算例を示した。これらの計算手法は電力ケーブル線路の線路設計に実用化されている。 さらに、交流高温超電導ケーブルに応用できる基礎的な研究として、3相コアの入る圧力パイプに発生する渦電流損失について検討した。すなわち、パイプの材質としてはステンレスやアルミが考えられるが、これに発生する損失の理論的な検討の報告はあるものの、液体窒素中で損失を測定した例は見当たらない。そこで、実寸法の金属パイプを使用して液体窒素中で渦電流損失を測定し、L.Meyerhoffの理論式が実測値とかなりよく一致することを確認した。しかし、パイプの固有抵抗が比較的大きい場合と小さい場合は、計算値の誤差が増大することもわかった。 以上のようなシース回路電流の計算や実測により、線路によっては送電容量を確保する上で回路電流を抑制しなければならない場合があることがわかった。そこでクロスボンド構成の275KVOFケーブル線路を対象に、シース回路電流を抑制する方式を実用化した。すなわち、開発したシース電流抑制装置は鉄心の飽和特性を利用した可飽和リアクトルで、常時の回路電流に対しては高インピーダンスであるが、事故電流に対しては低インピーダンスである特性を持っている。本方式は東京電力(株)や九州電力(株)の超高圧OFケーブル線路で使用されている。 次に、電力ケーブルの金属シースに誘起するシースサージ電圧に関する研究について報告した。すなわち、クロスボンド構成の長距離電力ケーブル線路では、絶縁接続部(IJ部)はサージインピーダンスの変異点となって電圧が誘起する。ケーブルの主絶縁については、同軸構造のため比較的容易にサージ電圧を評価することができるが、シースサージ電圧はケーブルの布設状態によってシース〜大地間のサージインピーダンスが変化するため、評価が困難な場合が多い。このような状況のため、275kVOFケーブル線路において、遮断器の実開閉操作時の実測や模擬電圧印加による測定を行ってシース電圧の実態を調査した。 シースサージに対する保護方式を検討するに際してEMTPを使用する場合、ケーブル中での高周波成分の減衰を模擬する便宜的な方法を提案し、その手法でGIS-CH部やIJ部に保護装置を取り付けた場合のシースサージ電圧を計算し、実測波形とよく一致する結果を得た。 続いて、直流耐圧試験後の強制放電装置の実用化研究について報告した。すなわち、275kVOFケーブル線路の竣工試験としての直流耐圧試験では、試験後のケーブル残留電圧が自然放電によって半分程度に低下するのを待ち、その後、残留電荷を強制放電していた。そのため、長距離線路では自然放電時間が長く、全試験時間の大半をこの自然放電時間が占めていた。そこで試験時間短縮のために、耐圧試験終了後ただちに強制放電可能な放電装置を開発した。放電エネルギーは、ケーブルの充電エネルギー3.2MJ(275kV2000mm2OFケーブル線路約30km相当)に対応できるものとした。この装置は長距離のOFケーブル線路の試験に使用されている。 最後に、半合成紙OFケーブルの実用化研究について報告した。すなわち、開発した半合成紙はシリコングラフト架橋ポリエチレンとクラフト紙をラミネートする構造(SIOLAPと呼称)で、その特徴は、クラフト紙と架橋ポリエチレンの割合によって異なるが、従来の275kVOFケーブルに比べて誘電損失を・tanで3.3×0.2%から2.8×0.1%程度に低減できること、および絶縁耐力が高いことから絶縁体厚さを19.5mmから17.5mm程度に低減できることである。この半合成紙を使用して試作したOFケーブルの初期ならびに長期性能について報告すると共に、このケーブルが東京電力(株)の275kV線路に国内で初めて試験的に採用され、約5年間実使用された後撤去されたが、まったく性能低下のなかったことを述べた。 今後も続くと予想される電力需要の増大を考えるとき,ここに報告した研究成果が電力ケーブル線路の電力損失低減による大容量化技術や高信頼度化技術に活かされていくものと期待している。 |