学位論文要旨



No 212231
著者(漢字) 春日,智惠
著者(英字)
著者(カナ) カスガ,チエ
標題(和) 小型移動ロボットの自律誘導方式の研究
標題(洋)
報告番号 212231
報告番号 乙12231
学位授与日 1995.03.16
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第12231号
研究科 工学系研究科
専攻 電気工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 原島,文雄
 東京大学 教授 曾根,悟
 東京大学 教授 中谷,一郎
 東京大学 助教授 堀,洋一
 東京大学 助教授 橋本,秀紀
 東京大学 助教授 大崎,博之
内容要旨

 本論文はマイクロマウスという小型の競技用自律型移動ロボットを作るために得た技術を基盤として,安価で,自律性が高く,高速で移動可能であるという条件を備えた小型移動ロボットの誘導方式の研究を行ったものについて述べたものである。

 自由平面内で走行する移動ロボットは,これまでにも数多く開発され,実用化されてきたが,そのイメージは大きくて重い,遅いというものであった。このような時期に,1977年にマイクロコンピュータの可能性とその実証のために,迷路を探索してスタートからゴールまで最短経路,最短時間で走り抜けるロボットのマイクロマウス競技が提案された。この競技用ロボットは小型で,高速走行可能でなければならない。また自己位置同定も必要である。本研究はこのようなロボットの開発を行ってきた技術的基盤を基にして,安価で,自律性が高く,高速移動が可能であるロボットの誘導方式について研究を行うことを目的としている。そのために本研究は自律型移動ロボットが

 (1)自由平面において自己位置を同定する方法→「自己位置同定」

 (2)与えられた地図情報に基づいで最短経路を生成する方法→「経路生成」

 (3)生成した軌道になめらかに追従する方法→「軌道追従」

 (4)障害物を検出して回避する方法→「障害物回避」

 についてそれぞれの提案をし,各項目について実験を行い,提案の正当性を明らかにしている。さらに

 (5)複数の移動ロボットを同時に誘導する方法→「複数移動ロボットの誘導方式」

 を提案し,その検証を行うための試験用移動ロボットを製作した。

 本研究における目的の特徴は,「移動ロボット」が

 〇自律型であること

 〇高速移動ができること

 〇自己位置同定ができること

 〇軽量であること

 である。

 つぎに,上に述べた目的を達成するために提案し,実験を行った結果について章毎に概要を述べる。

第1章序論

 本研究を行うに至った背景は,マイクロマウスという競技用の小型で自律型の移動ロボットを開発するうちに,これまでの大きくて,重いというイメージの移動ロボットが,これらの技術を用いたら安価で,軽快な移動ロボットができるのではないかという考えで研究を進めたものである。

 そのために,自己位置同定を行う方法,経路探索技術,軌道追従法,障害物回避技術および複数台ロボットの誘導技術について研究を行うことを目的とする。

第2章標識による自己位置の同定

 移動ロボットが走行する平面に平行な天井にグレイコードで構成した円盤状の標識を貼り,それをロボットに取り付けたカメラで観測することにより,標識中心からの相対距離,基準線からの偏角がわかる。位置精度はカメラの精度に依存するが,この同定方法は一般に行われている方法よりコストが安く,処理速度はコンピュータの処理速度に依存するが,この標識を用いた同定法は速度が速い。ここでは512×512の画素数に合わせて8ビットの標識を作り,実験を行った。標識真下から5m離れた点の分解能は12.3cmであり,仰角30°でも隣のコードを読むという読み誤りはなく,ほとんど100%正確に読みとることができた。高速処理については4MHzクロックで動作する手作りのボードコンピュータ,PC-9801用高解像度ビデオ画像処理ボード(FRM2-512,フォトロン,サンプリングタイム1/30sec)およびパソコン(PC-9801Vm)を使用して,追尾1回で同定が終了した場合にかかる時間は0.27sec,その後は追尾1回増す毎に0.1secずつかかる。

第3章経路生成

 ロボットにスタート点と目標点および走行禁止領域を与えたとき,ロボットが最短走行経路地図を作る方法について述べる。ここではロボットの走行平面をロボットが転回できるサイズで縦横に分割し,走行禁止領域と重ね合わせて走行禁止区画を仮定する。つぎにスタート点から1区画ずつ枝を伸ばし,走行可能な区画を探し,目標点までの区画数を入れた地図を作る。最後に,目標点から区画数の少なくなる方向の区画を辿って行くとスタート点に戻る。このような方法で最短経路を生成することができるが,スタート点と目標点から同時に枝を伸ばす方法や,目標点から離れた方向には枝を伸ばさないなどの条件をつけて,さらに効率の良い方法についても検討した。

第4章軌道追従制御

 生成されたコースに沿ってロボットを高速で安定な走行を行う方法について述べる。始めに左右独立に駆動する2輪台車の動特性を解析し,生成軌道からはずれた場合の追従法について,ロボットの進行方向,速度,目標軌道からのずれより,左右の車輪の速度差を与えて制御した。つぎに,目標点を与えてから制御信号を出すまでの遅れ時間を考慮して制御信号を作る方法を提案し,シミュレーションおよび実験によって比較,検討した。その結果,遅れ時間を考慮した方法の方が安定で高速走行を行えることがわかった。

第5章障害物回避

 ロボットが自律走行中に障害物を検出して回避する方法について述べる。始めに,ロボットにつけた超音波センサを用いて障害物の検出実験を行い,超音波センサの送受信器につけた筒の評価を行った。つぎに,ロボットが走行開始時に生成された経路に沿って走行中に,予定外の障害物を発見した場合の回避経路の生成法について述べた。さらに,走行地図が与えられない場合の経路生成法についても述べている。

第6章複数移動体の検討

 これまでの成果を踏まえて,複数台の移動ロボットの誘導を行うための検討を行った。始めに,移動ロボットを自律誘導するためにこれまでに開発,研究されてきた技術について調査した文献について検討を行った。つぎに,複数台移動ロボットの誘導における必要な技術を抽出し,誘導方式について検討した。最後に,これらの誘導実験を行うために使用するロボットを製作したものについて詳しく説明した。ここで製作したロボットはこれまで述べた提案の実験が行えるもので,軽快に動き,走行モードの変更が簡単に行える。特にこれからの移動ロボットはここで製作したターミナルプログラムを用いると,開発速度を早めるのに都合が良い。

審査要旨

 本論文は、マイクロマウスという小型の競技用自律型移動ロボットを作るために得た技術を基礎として、自律性が高く、高速で移動可能であるという条件を備えた小型移動ロボットの誘導方式に関する研究を行ったもので、7章よりなる。

 第1章は「序論」であり、本研究を行うに至った背景、目的を述べている。すなわち、マイクロマウス競技用の小型で自律型の移動ロボットの開発を進めている際に、これらの技術を用いることによって、これまでの大きくて重いイメージの移動ロボットを安価で軽快に実現できると考えて、本研究を始めた旨を明らかにしている。また、この背景のもとに自己位置同定を行う方法、経路探索技術、軌道追従法、障害物回避技術および複数台ロボットの誘導技術について研究を行う意義を明らかにしている。

 第2章は「標識による自己位置の同定-ディジタル標識パターンによる自己位置の同定-」であり、移動ロボットが走行する平面に平行な天井にグレイコードで構成した円盤状の標識を貼り、それを移動ロボットに取り付けたカメラで観測することにより、標識中心からの相対距離、基準線からの偏角が分かり、移動ロボットの自己位置同定が可能であることを述べている。本同定法は一般に行われている同定法よりコストが安く、且つ処理速度が速い特徴を持つ。ここでは、512×512の画素数に合わせて8ビットの標識を作り、実験を行い、標識真下から5m離れた点に於てもコードの読み誤りはなく、ほとんど100%正確に読みとることができることを示している。

 第3章は「経路生成-スタート点から最終ゴールまでの経路の作り方-」であり、移動ロボットにスタート点と目標点および走行禁止領域を与えたとき、移動ロボットが最短走行経路地図を作る方法について述べる。ここではロボットの走行平面をロボットが転回できるサイズで縦横に分割し、走行禁止領域と重ね合わせて走行禁止区画を仮定している。つぎにスタート点から1区画ずつ枝を伸ばし、走行可能な区画を探し、目標点までの区画数を入れた地図を作る。最後に、目標点から区画数の少なくなる方向の区画を辿って行くとスタート点に戻ることができる。また、スタート点と目標点から同時に枝を伸ばす方法、目標点から離れた方向には枝を伸ばさないなどの条件をつけて、さらに効率の良い方法についても検討を行っている。

 第4章は「軌道追従制御-経路への追従制御と誤差の動的補正-」であり、生成されたコースに沿って移動ロボットに高速で安定な走行を実現させる方法について述べている。最初に左右独立に駆動する2輪台車の動特性を解析し、続いて、生成軌道からはずれた場合の追従法について、移動ロボットの目標軌道からのずれから制御信号を出すまでの遅れ時間を考慮して、左右の車輪の速度差を与えて制御する方法を提案している。シミュレーションおよび実験によって検討を行い、遅れ時間を考慮することによって安定で高速走行を実現できることを示している。

 第5章は「障害物回避-例外処理による自律性の向上-」であり、移動ロボットが自律走行中に障害物を検出して回避する方法について述べている。初めに、ロボットにつけた超音波センサを用いて障害物の検出実験を行い、超音波センサの送受信器につけた筒の評価を行っている。つぎに、ロボットが走行開始時に生成された経路に沿って走行中に、予定外の障害物を発見した場合の回避経路の生成法について提案している。さらに、走行地図が与えられない場合の経路生成法についても述べている。

 第6章は「複数移動ロボットの誘導方式の検討-複数移動体の自律型誘導方式の開発-」であり、複数台の移動ロボットの誘導を行うための検討を行っている。初めに、移動ロボットを自律誘導するために、これまでに開発、研究されてきた技術について検討を行っている。つぎに、複数台移動ロボットの誘導における必要な技術を明らかにし、誘導方式について検討している。最後に、これらの誘導実験に使用する移動ロボットを説明し、基礎的な実験を行ったことを述べている。

 第7章は「結論」であり、本論文で得られた成果をまとめている。

 以上これを要するに、本論文は、小型移動ロボットを自律誘導するための要素技術である自己位置同定、目標点からゴールまでの経路生成、得られた経路に追従する軌道追従制御および経路上にある障害物を回避する手法を提案し、シミュレーション、実験によって各要素技術の有効性を示し、さらに、複数の小型移動ロボットを製作し、それらの誘導方式の基礎的な検討を行ったものであり、ロボット工学上貢献するところが大きい。

 よって、本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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