審査要旨 | | 本論文は, 「工業プラントにおける知的制御の実用化に関する研究」と題し,5章より構成されている。工業プラントの制御を高度化する手段として,高い応答速度が実現できるファジー制御とより複雑な論理判断操作が実現できるルールベース制御を取り上げ,これらの制御方式の実用性を高めるために,ファジー制御に関しては熟練運転員が運転した操業データから制御ルールを生成する手法を提案し,ルールベース制御に関しては論理型言語PROLOGで記述した制御ルールをリアルタイム制御システム上で実行させる方式を提案している。 第1章は序論であり,本研究の背景と目的,従来の研究と本研究の特徴,および,本論文の構成を述べている。 第2章は「ファジー制御ルールの自動生成」と題し,制御ルールの設計法を取り扱っている。大規模な工業プラントの制御システムは,個々のプロセス変数をフィードバック制御する多数の下位制御ループと,それらの設定値自体を制御する上位制御ループとで構成されている。この場合,各設定値を適切な値に制御するのが重要であるが,工業プラントの多くはその特性があまりに複雑であるため,最適な操業を実現するための制御アルゴリズムを理論的に導出するのは困難であり,熟練した運転員の経験に依存している部分が大きい。そこで,熟練した運転員の経験を模倣する方式のファジー制御が提案されたが,この場合でも制御ルールの設計は容易ではない。どのようなルールに従って操業を行っているのか,という質問に明確に回答できる運転員は少ないからである。 本論文では,この上位制御ループの制御ルールを,熟練した運転員が実際にプラントを運転したときに得られた操業データから統計的手法によって生成する手法を提案している。この制御ルールは,操業開始時,正常操業時(生産量に応じて複数ある),異常操業時(異常の型により複数ある),操業停止時のそれぞれに対応したものを作成する。まず,一つの出力変数(設定値)に対して,これの決定に関係すると予想される複数の入力変数(プロセス変数)を選定する。つぎに,各変数の取る値域を定め,その値域をいくつかのカテゴリーに分割し,各変数の数値時系列データを上記のカテゴリー系列に変換する。このデータに対して林知己夫の数量化理論を適用し,各入力変数のカテゴリーより出力変数の値を最小の誤差で推定する推定式を求める。出力変数を記述する推定式を入力変数の線形式に限定する必要がないのが利点である。この推定式によって各入力変数のカテゴリーより出力変数の値が定まり,したがって,そのカテゴリーも定まる。これよりファジー制御のルールを構成する。対象として,発電所蒸気発生器水位制御系とセメント製造キルン排ガス濃度制御系を取り上げ,この手法で求めた制御ルールによって熟練運転員によるものとほぼ同様の操業が実現できたと報告している。 第3章は「ファジー制御のためのメンバーシップ関数生成支援」と題し,メンバーシップ関数の形状設計の問題を取り扱っている。関数形状にある自由度を残しておき,その値を出力変数推定式の推定誤差が最小となるように決定する手法を提案している。 第4章は「リアルタイム制御システムへのPROLOGの適用」と題し,ルールベース制御をリアルタイム制御システム上に実現する問題を取り扱っている。複雑な操業を自動化する手段としてルールベース制御の利用が提案されていたが。問題はその実現法である。汎用のエキスパートシステムを格納した計算機をリアルタイム制御システムに結合する方式も考えられるが,汎用エキスパートシステムの応答性に問題があり,また,価格も上昇する。本論文では,リアルタイム制御システム上に論理型言語PROLOGの処理系を一個のタスクとして格納し,これにPROLOGで記述した制御ルールを実行させる方式を提案している。基本となる一群のリアルタイム制御タスクと,新しく付加した複数のPROLOGタスクを単一のリアルタイムOSの管理下で実行させることができる。通常のPROLOG処理系では未使用記憶領域の回収動作によって本来の処理が中断される問題があるので,処理で使用する述語の語長に制限を設けて未使用記憶領域の発生を減少させている。一個のタスクが完了すると記憶領域はすべて回収されるので,未使用記憶領域が累積することはない。この種の制御ルールを従来のFORTRANでプログラムすることも可能ではあるが,PROLOGの使用によってプログラミングの工数が1/2程度に減少したことを報告している。提案した上記の方式は,製鉄所製品貯蔵ヤードの自動操業システム,製鉄所加熱炉燃焼制御システム等の製作に実用されている。 第5章は結語であり、本研究の成果を要約している。 以上を要するに,本論文は,工業プラントの制御をより高度化する手段としてファジー制御およびルールベース制御を取り上げ,ファジー制御に関しては熟練運転員が運転した操業データから制御ルールを生成する手法を提案し,ルールベース制御に関しては論理型言語PROLOGで記述した制御ルールをリアルタイム制御システム上で実行させる方式を提案したもので制御工学上寄与する所が大きい。よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認める。 |