管構造物の最適設計と管強度や管の機械的強度の正確な解明は,管構造物の経済性確保と信頼性向上とをバランス良く実現する為には極めて重要である. 本研究で対象とする管構造物の最適設計問題は主に油井設計であり,油井管が降伏強度や肉厚などに代表される離散量の組合わせ(整数変数)からなる製品体系であることから,非線形混合整数計画問題として定式化される.このため従来の線形混合整数計画法や非線形計画法では取り扱いは離しい.すなわち混合整数計画問題の解法の基本が線形計画法であるため非線形問題における限界と,多くの解くべき副問題が発生するという課題がある.また工学分野の最適化手法として多用されている.非線形計画法は油井管が離散量であることから,何らかの代替案の選択に関する最適化手法を取り入れないと,油井設計問題への適用は難しい. また管は高温機器に用いられる構造材料であり,その使用温度や使用圧力は上昇しつつある.このため管構造物の設計にあたって,使用条件下での材料強度やクリープ強度の推定精度の向上が望まれている.さらに近年の油井の高圧力化や使用環境の過酷化に伴い,油井構造物の信頼性向上のために油井管の主要な機械的性能である圧潰強度とバースト強度の弾塑性有限要素法(FEM)等による正確な解明と油井設計に用いることのできる高精度な管強度の計算式の提案が望まれている. 本研究の第1の目的は,不等号制約条件付き非線形混合整数計画問題の解法アルゴリズムの構築を行い近似解決を確立し,この手法より油井設計問題を解くことで,油井構造物設計の最適性(経済性)向上に資することである.第2の目的は,非線形計画問題の定式化を容易にする近似解法を確立し,この手法により傾斜掘油井の坑跡設計や管強度に関する幾つかの実用問題を解くことで,管構造物設計の経済性と信頼性の向上を計ることである.第3の目的は,新しい型の油井管である焼きばめ型二重管の座屈圧力である,薄い内管のインプロージョン圧力,および二重管としての圧潰圧力とバースト圧力の非軸対称分岐解析を基にした弾塑性FEMモデルを導き,これ等の解析モデルにより座屈圧力を数値解析的に解明すると共に,高精度な管強度の定式化を行うことで,油井構造物の信頼性向上を計ることである. 非線形計画法のアルゴリズム研究(3章)の内容を示す. (1)「非線形純整数計画問題の近似解法」のアルゴリズムを構築した. 近似解法は目的関数値を逐次改善していく反復法を基本アルゴリズムとする内点法である.解法アルゴリズムの特徴は,整数変数に対して仮想座標軸を導入することで,目的関数の微分可能性を近似し,最急降下法により探索方向ベクトルを決定することであり,異なる次元の整数変数を共通な手順で処理できるものである.アルゴリズムを構成する次の3つのロジックを考案した.(1)探索方向ベクトルの決定法,(2)境界(制約条件式)近傍での探索ベクトルの修正法,(3)局所最適解からの境界沿い移動ベクトルの決定法. 解法アルゴリズムの検証は,非線形計画法の標準テスト問題を非線形純整数計画問題に変換して解くことで行った. (2)「非線形計画法SUMT適用にあたって問題の定式化を容易にする改良である直接形解法」を提示した. SUMT適用にあたっての課題は,変数のオーダを揃える為の変数変換または変数のスケーリングを必要とすることであり,多くの付随する定式化を必要とするので改良を試みた.提示した直接形解法は,変数変換などを必要としない手法にもかかわらず,収束値の最適性を維持できることが解った.この改良により,SUMT適用が極めて容易となり応用途を広げることができた. (3)「非線形混合整数計画問題の近似解法」のアルゴリズムを構築した. 本近似解法は前述の2つの解法を基に,連続変数を整数変数化する混合方式により,混合整数計画問題を純整数計画問題に変換し,解くことを基本としている.なお従来の混合方式は本法とは逆で,整数変数を連続変数に変換する連続緩和方式である.アルゴリズムを構成する次の3つのロジックを考案した. (1)連続変数と整数変数の混合方式,(2)連続変数を対象としたSUMTによる2つの最適化と探索範囲の設定,(3)連続変数の整数変数化による純整数計画問題への変換と非線形純整数計画問題の近似解法の適用. 解法アルゴリズムの検証は,非線形混合整数計画問題へ変換した問題を解くことで行った. 構築した近似解法の設計問題への適用研究(4章)の項目と特徴的な結論を列記する. (1)「油井設計への非線形混合整数計画法の適用」 油井設計に関する米欧設計手順とCIS設計基準とを用いた油井設計問題の本法の収束値は,整数変数(油井管)の部分解集合における目標最適値に対して,米欧設計手順の場合に+0.009%,CIS設計基準の場合に+0.025%であり,従来のマニュアル的な設計法による値に対して,約7%の最適性の向上が見られた.なお本法の収束解は,従来の最適化手法では求めることの難しい真の最適解と見なせるもので,研究成果である近似解法の実用性と汎用性を示すものである. (2)「油井坑跡設計への非線形計画法の適用」 CISにおいて傾斜掘油井の90%以上を占める主要タイプの最短坑跡設計問題の本法の収束値は,真の最適値との差は僅か+0.03%(1m)であり,実用上はほぼ真の最適解であった.これより直接形解法の実用性は検証された. (3)「油井坑跡を含む油井設計への非線形混合整数計画法の適用」:(略) (4)「TLPテザー用ねじ継手設計への非線形計画法の適用」:(略) 次いで,管強度の外挿推定と定式化への非線形計画法の適用研究(5章)の項目と特徴的な結論を列記する. (1)「クリープ破断強度のTTP法による外挿推定への非線形計画法の適用」 TTP法に対して,非線形計画法を用いた2つのパラメータ推定手順を構築した.(1)等温クリープ破断曲線の逐次外挿推定手順,(2)主破断曲線の推定手順. 推定例により次の結果を得た.(1)等温クリープ破断曲線の適正な次数は,応力推定値の安定性および標準偏差とSEEの大きさとを基に決定できる.(2)主破断曲線の次数は,等温クリープ破断曲線の次数に+1項する事により,推定精度が大幅に向上する.(3)実データの5〜8倍程度の時間外挿において,応力推定値の誤差は8%程度であり,外挿域において比較的良いあてはめ精度の主破断曲線を定式化できる. (2)「クリープ曲線の法による推定への非線形計画法の適用」 クリープ構成式として法を採り,非線形計画法を用いた2つのパラメータ推定手順を構築した.(1)個別(応力・温度毎)クリープ曲線の材料パラメータ推定手順,(2)材料パラメータの応力・温度依存性の関数パラメータ推定手順. 推定例により次の結果を得た.(1)Evansの文献による解析例を用いて,本手順の推定精度を評価したところ,真値とする文献値とほぼ十分な一致をみた.(2)関数パラメータによる推定精度は,個別パラメータによる推定精度より,若干劣るがほぼ良好な推定結果であった. (3)「管のパースト強度の定式化への非線形計画法の適用」:(略) (4)「管の最小圧潰強度の定式化への非線形計画法の適用」:(略) 管強度(座屈圧力)の弾塑性有限要素法解析(6章)では,次の様な実用の数値解析問題の弾塑性有限要素法による解析の手順と結果を示した.さらに解析結果を基に,5章と同様に実用的な限界圧力計算式の導出を行った. (1)「二重管の薄い内管のインプロージョン圧力のFEM解析」:(略) (2)「二重管の圧潰圧力とバースト圧力のFEM解析」:(略) (3)「肉厚の偏摩耗した管の圧潰圧力のFEM解析」:(略) 以上の要約を述べる. 油井構造物の経済性確保と信頼性向上とをバランス良く実現する為には,数理計画法による最適化研究と数値解析手法による性能解析研究のみならず,最適化手法を用いた数値解析結果のより効果的な活用を計る研究すなわち最適化手法と数値解析手法との効率的な結びつきが求められている. この観点から,本研究の成果は油井構造物設計技術の研究における数理計画法と有限要素法とを核とする新しい研究アプローチを提供するものである. |