パルサーフィーダー型パルスカラムを用い、核燃料再処理プロセスの実際の操作条件に近い条件下でのカラム流動特性と運転挙動の解析を行い、カラムの将来の最適設計や最適運転に必要な知見を得ることが本研究の目的である。 最初に、ホールドアップの軸方向分布が測定され、軸方向ホールドアップはカラム内で非一様であり、ノズルプレートがシーブプレートがという多孔板タイプのちがいや運転モードにより影響を受けることが示されている。また、GMDHを改良した計算アルゴリズムを作成し、ローカルホールドアップと軸方向ホールドアップのモデル化にGMDHが有効であることを示している。 次に、平均液滴径の測定と解析を行い、パルス条件が一定であればノズルプレートの方がシーブプレートよりもノズル効果により滴径が小さくなることが観察されるが、TBP濃度の影響はあまり大きくないことが示されている。また、GMDHによるモデル化に際しては、シーブプレートの抽出モードにおいてのみ界面張力の影響がモデル変数として選択され、このモデルとこれまでの実験式とを比較した場合、モデル化による方がより高い適合性を有することが示されている。 さらに、分散相と連続相の軸方向拡散係数を同時に測定する「ダイナミックトレーサー共注入法」を適用して、軸方向拡散の測定と解析を行い、分散相と連続相ではカラム内流動パターンに有意の差異があることが実験的に示されている。分散相の軸方向拡散係数は、連続相よりも小さいことが明らかになり、また、測定長50cmでは分散相のバックフローのみが観察され、バックフローモデルを構築する場合は、分散相のみのバックフローを考慮すれば十分であることが示されている。 ついで、液-固-液系の接触角から濡れ性を評価するいう「優先濡れ法」を適用して、多孔板の濡れ性と流動特性の解析を行っている。ステンレス製多孔板の表面が水相から有機相に濡れ変わるという濡れ性変化の現象が実験的に確認され、接着仕事とパルスパワーとの関係から、液-液分散に必要な最小パルス速度と滴通過に必要な最小孔径を評価する計算式が提案されている。また、多孔板の材質を濡れ性によって評価することにより、総括ホールドアップと液滴径の相関式が得られている。以上から、有機相連続ではステンレス製ノズルプレートが、水相連続ではシリカ製シーブプレートがそれぞれ有効であることが示されている。 さらに、制御の観点からの運転操作特性についても研究している。まず、濃度と流量を操作量として、30%TBP/ケロシン-酢酸-水系での抽出及び逆抽出実験を行い、過渡応答特性を求めている。実験結果から、応答の迅速さでは流量よりも濃度の変動に対する方が速やかであることと、パルスカラムは無駄時間を含む二次遅れ系であることが示されている。次に、離散形PIDと有限整定観測器をもつ有限整定時間制御(FTSC)アルゴリズムを適用し、DDCシミュレーション実験から、長いサンプリング時間ではFTSCが効果的であることが示されている。 また、PIDのパラメータ調整に、ジーグラー・ニコルス調整則と、それに時間項を入れた修正ジーグラー・ニコルス調整則の両調整則を適用している。両者を比較した場合、提案されている修正法はサンプリング時間を補償する効果を有することが示されている。さらに、パルスカラム制御の観点から、小型再処理工程を原子力発電プラントに組み込むというクローズドシステムについても言及しており、小型のパルスカラムでは流量の変動が流動不安定性に与える影響は大型のパルスカラムよりも顕著に現れ、その場合は制御の必要性が高くなることを指摘している。 本研究の結果、まず、設計試作したパルサーフィーダー型パルスカラムはミキサセトラ域で安定した操作性をもち、抽出プロセスとして有効な装置であることが確認されている。また、既往の研究では報告されていない(1)軸方向ホールドアップの相関式、(2)多孔板のタイプを考慮した平均液滴径の相関式、(3)ダイナミックトレーサー共注入法による両相の逆混合係数の同時測定、(4)優先濡れ法による分散相-多孔板-連続相における濡れ性の測定及び多孔板材質の評価、(5)濃度と流量に対する過渡応答特性と制御性の評価、などに関する工学的に有用な知見を得ている。 以上を要するに、本論文で得られた成果は、核燃料再処理プロセスで用いられるパルスカラムの最適設計や最適運転に役立つものであり、システム量子工学、とくにシステム設計工学の分野に寄与するところが大きいと判断される。よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 |