学位論文要旨



No 212242
著者(漢字) 池田,秀松
著者(英字)
著者(カナ) イケダ,ヒデマツ
標題(和) 核燃料再処理用パルサーフィーダー型パルスカラムの流動特性と運動挙動
標題(洋) Hydrodynamics and Dynamic Behavior in Pulsed Perforated-Plate Extraction Column of Pulser Feeder Type for Nuclear Spent Fuel Reprocessing Process
報告番号 212242
報告番号 乙12242
学位授与日 1995.03.16
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第12242号
研究科 工学系研究科
専攻 システム量子工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 鈴木,篤之
 東京大学 教授 班目,春樹
 東京大学 教授 田中,知
 東京大学 教授 寺井,隆幸
 東京大学 講師 長崎,晋也
内容要旨

 パルスカラム(脈動溶媒抽出塔)は、核燃料再処理システムを構成する主要な化学装置のひとつであるとともに、周期連続運転を行なう数少ないプロセスのひとつでもあり、塔頂部から重液(水相)を塔底部から軽液(有機相)を流して、両相をカラム内で向流接触させると同時に、カラム内にパルスを与えて液滴の生成、分散、混合及び再合一を促進かつ繰り返すことで両相の接触界面積の増大即ち抽出効率の向上を期待しうる構造となっている。このパルスカラムは、カラム内構築物の形状或いはタイプ及び材質等によって処理量や流動特性に差異のあることは知られているが、その因果に関する統一的な見解や取り扱い方法或いは評価等について整理されたものはない。一台のダイアフラム式定量ポンプをパルサーと液送ポンプに併用する新しい簡便なタイプとして設計試作したパルサーフィーダー型パルスカラムを用い、実際の操作条件におけるカラム内流動特性と運転挙動の解析を通うして、この問題に指針を与えることが本研究の目的である。

 実験装置の構成をFig.1に、またカラム内部の構成をTable 1に示す。パルスカラムは抽出モードと逆抽出モードで運転し、30%TBP/ケロシン-酢酸-水系を基本的な構成としている。

Fig.1 Schematic diagram of experimental pulsed colulmn.Table 1 Cartridge geometry

 まず、ホールドアップと軸方向ホールドアップを測定した。結果の一例をFig.2に示す。実験結果から、軸方向ホールドアップはカラム内で非一様であり、多孔板タイプと運転モードにより影響を受けることがわかった。ついで、GMDHを改良した計算アルゴリズムを構成し、ローカルホールドアップと軸方向ホールドアップのモデル同定を行なった。

Fig.2 Axial holdup distributions

 次に、平均液滴径の測定と解析を行なった。結果の一例をFig.3に示す。測定結果から、ノズル効果により滴径が小さくなることが観察されたが、TBP濃度の影響はあまり大きくなかった。また、GMDHによるモデル化に際しては、シーブプレートの抽出モードでのみ界面張力の影響がモデル変数として選択された。このモデルを実験値から得た相関式と比較したところ、前者のほうが高い適合性をもつことがわかった。

 その後、分散相と連続相の軸方向拡散係数を同時に測定する[ダイナミックトレーサー共注入法]を適用して、軸方向拡散の測定と解析を行なった。同時測定という新測定手法により、分散相と連続相ではカラム内流動パターンに差異のあることが実験的に解明できた。結果の一例をFig.4に示す。分散相の軸方向拡散係数は、連続相よりも小さいことがわかった。また、測定長50cmでは分散相のバックフローのみが観察され、供給流量に対して水相分散で平均1.7%、有機相分散では平均0.6%だった。したがって、バックフローモデルを構築する場合は、分散相のみのバックフローを考慮すればよいことがわかった。ついで、液-固-液系の接触角を測定する簡便な[優先濡れ法]を適用して、多孔板の濡れ性と流動特性の解析を行なった。このとき、ステンレス製多孔板の表面が水相から有機相に濡れ変わるという、濡れ性変化の現象が初めて実験的に確認された。接着仕事とパルスパワーとの関係から、液-液分散に必要な最小パルス速度と、滴通過に必要な最小孔径が計算された。また、多孔板の材質を濡れ性で評価した、総括ホールドアップと液滴径の相関式が得られた。これらの実験結果から、有機相連続ではステンレス製ノズルプレートが、水相連続ではシリカ製プレートがそれぞれ有効であることがわかった。

図表Fig.3 Droplet diameters / Fig.4 Age-distribution frequency

 まとめとして、操作特性と信頼性の評価を行なった。まず、濃度と流量を操作量とした、30%TBP/ケロシン-酢酸-水系での抽出及び逆抽出実験を行なって、過渡応答特性を求めた。流量変動に対する操作性の評価をTable 2に示す。実験結果から、応答の迅速さでは流量よりも濃度の変動に対するほうが速やかであることと、パルスカラムは無駄時間を含む二次遅れ系であることがわかった。つぎに、離散形PID制御と有限整定観測器(FTSO)をもつ有限整定時間制御(FTSC)アルゴリズムを構成した。DDCシミュレーション実験から、長いサンプリング時間ではFTSCが効果的であることがわかった。また、PIDのパラメータ調整にはジーグラー・ニコルス調整則と、それに時間項を入れた修正ジーグラー・ニコルス調整則の両調整則を適用した。両者を比較した場合、提案した修正法はサンプリング時間を補償する効果を有することがわかった。なお、パルスカラムの制御に関しては核物質管理の立場からは否定的であるが、小型再処理工程を動力炉とコンタクトするというクローズドシステムの考え方もあり、そのときは制御の必要性が高くなる。本研究で用いたパルスカラムもそうであるが、小型のパルスカラムでは流量の変動が流動不安定性に与える影響は大型のパルスカラムよりも顕著にあらわれるからである。

Table 2 Effects of flow change on column performance

 本研究の結果、設計試作したパルサーフィーダー型パルスカラムはミキサセトラ域で安定した操作性をもつ、抽出プロセスとして有効な装置であることが確認された。また、既往の研究論文では報告されていない(1)軸方向ホールドアップの相関式、(2)多孔板のタイプを考慮した平均液滴径の相関式、(3)ダイナミック・トレーサー共注入法による両相の逆混合係数の同時測定、(4)優先濡れ法による分散相-多孔板一連続相における濡れ性の測定及び多孔板材質の評価、(5)濃度と流量に対する過渡応答特性と制御性の評価、などを得ることができた。

審査要旨

 パルサーフィーダー型パルスカラムを用い、核燃料再処理プロセスの実際の操作条件に近い条件下でのカラム流動特性と運転挙動の解析を行い、カラムの将来の最適設計や最適運転に必要な知見を得ることが本研究の目的である。

 最初に、ホールドアップの軸方向分布が測定され、軸方向ホールドアップはカラム内で非一様であり、ノズルプレートがシーブプレートがという多孔板タイプのちがいや運転モードにより影響を受けることが示されている。また、GMDHを改良した計算アルゴリズムを作成し、ローカルホールドアップと軸方向ホールドアップのモデル化にGMDHが有効であることを示している。

 次に、平均液滴径の測定と解析を行い、パルス条件が一定であればノズルプレートの方がシーブプレートよりもノズル効果により滴径が小さくなることが観察されるが、TBP濃度の影響はあまり大きくないことが示されている。また、GMDHによるモデル化に際しては、シーブプレートの抽出モードにおいてのみ界面張力の影響がモデル変数として選択され、このモデルとこれまでの実験式とを比較した場合、モデル化による方がより高い適合性を有することが示されている。

 さらに、分散相と連続相の軸方向拡散係数を同時に測定する「ダイナミックトレーサー共注入法」を適用して、軸方向拡散の測定と解析を行い、分散相と連続相ではカラム内流動パターンに有意の差異があることが実験的に示されている。分散相の軸方向拡散係数は、連続相よりも小さいことが明らかになり、また、測定長50cmでは分散相のバックフローのみが観察され、バックフローモデルを構築する場合は、分散相のみのバックフローを考慮すれば十分であることが示されている。

 ついで、液-固-液系の接触角から濡れ性を評価するいう「優先濡れ法」を適用して、多孔板の濡れ性と流動特性の解析を行っている。ステンレス製多孔板の表面が水相から有機相に濡れ変わるという濡れ性変化の現象が実験的に確認され、接着仕事とパルスパワーとの関係から、液-液分散に必要な最小パルス速度と滴通過に必要な最小孔径を評価する計算式が提案されている。また、多孔板の材質を濡れ性によって評価することにより、総括ホールドアップと液滴径の相関式が得られている。以上から、有機相連続ではステンレス製ノズルプレートが、水相連続ではシリカ製シーブプレートがそれぞれ有効であることが示されている。

 さらに、制御の観点からの運転操作特性についても研究している。まず、濃度と流量を操作量として、30%TBP/ケロシン-酢酸-水系での抽出及び逆抽出実験を行い、過渡応答特性を求めている。実験結果から、応答の迅速さでは流量よりも濃度の変動に対する方が速やかであることと、パルスカラムは無駄時間を含む二次遅れ系であることが示されている。次に、離散形PIDと有限整定観測器をもつ有限整定時間制御(FTSC)アルゴリズムを適用し、DDCシミュレーション実験から、長いサンプリング時間ではFTSCが効果的であることが示されている。

 また、PIDのパラメータ調整に、ジーグラー・ニコルス調整則と、それに時間項を入れた修正ジーグラー・ニコルス調整則の両調整則を適用している。両者を比較した場合、提案されている修正法はサンプリング時間を補償する効果を有することが示されている。さらに、パルスカラム制御の観点から、小型再処理工程を原子力発電プラントに組み込むというクローズドシステムについても言及しており、小型のパルスカラムでは流量の変動が流動不安定性に与える影響は大型のパルスカラムよりも顕著に現れ、その場合は制御の必要性が高くなることを指摘している。

 本研究の結果、まず、設計試作したパルサーフィーダー型パルスカラムはミキサセトラ域で安定した操作性をもち、抽出プロセスとして有効な装置であることが確認されている。また、既往の研究では報告されていない(1)軸方向ホールドアップの相関式、(2)多孔板のタイプを考慮した平均液滴径の相関式、(3)ダイナミックトレーサー共注入法による両相の逆混合係数の同時測定、(4)優先濡れ法による分散相-多孔板-連続相における濡れ性の測定及び多孔板材質の評価、(5)濃度と流量に対する過渡応答特性と制御性の評価、などに関する工学的に有用な知見を得ている。

 以上を要するに、本論文で得られた成果は、核燃料再処理プロセスで用いられるパルスカラムの最適設計や最適運転に役立つものであり、システム量子工学、とくにシステム設計工学の分野に寄与するところが大きいと判断される。よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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