学位論文要旨



No 212266
著者(漢字) 河西,基
著者(英字)
著者(カナ) カワニシ,モトイ
標題(和) 地盤および割れ目系岩盤中の地下水流動・核種移行に関する研究
標題(洋)
報告番号 212266
報告番号 乙12266
学位授与日 1995.04.14
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第12266号
研究科 工学系研究科
専攻 土木工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 玉井,信行
 東京大学 教授 石原,研而
 東京大学 教授 虫明,功臣
 東京大学 助教授 登坂,博行
 東京大学 助教授 河原,能久
内容要旨 背景

 我が国における放射性廃棄物の陸地処分に関しては、低レベル廃棄物の浅地中埋設処分が1992年12月より青森県六ケ所村において開始され、また高レベル廃棄物については2030年〜2040年代半ばまでの操業開始を目指して研究開発が進められているが、今後の処分の対象となる放射性廃棄物は放射能レベル的に高くなり、廃棄体性状も複雑なものが中心となってくる。このため、これらの廃棄物の処分を円滑かつ合理的に推進してゆくためには、処分技術の一層の高度化を図るとともに、処分の安全性を精度良く適切に評価できるより信頼性の高い安全評価手法の確立が必要な段階にきている。

目的

 本論文は、放射性廃棄物陸地処分の安全評価において重要な浅層地盤中および割れ目系岩盤中の地下水流動と放射性核種移行に関し、従来に比べてより詳細な評価ができる調査・解析手法を開発するとともに、それらに基づいて安全評価が適切に行えることを示すことにより、十分な安全性と経済性にも優れた合理的な処分の推進に寄与することを目的としている。

主な成果

 低レベル廃棄物の浅地中埋設処分については浅層地盤中における飽和〜不飽和の両領域にまたがる地下水流動と核種移行、および高レベル廃棄物の深地層処分については割れ目を有する岩盤中における地下水流動と核種移行に関して、従来に比べてそれぞれのメカニズムや処分サイトの地質環境条件を詳細に考慮して精度の良い解析ができる手法を開発するとともに、実験との比較などにより十分な適用性を有することを明らかにした。

 本研究で得られた主な成果は以下のとおりである。

(1)地盤中の飽和〜不飽和地下水流動解析手法の開発

 浅層地盤中における飽和〜不飽和領域にまたがる地下水流動を詳細に解析する手法として、従来から一般的に用いられている有限要素法による決定論的解析モデルについて高精度化と演算処理の高速化などを図り、これまで処分の安全評価で実際に用いる上では困難な面が多かった飽和〜不飽和地下水流動の3次元解析を実用的に行えるようにした。一方、現象的に複雑で未解明な点が多い不飽和領域における地下水浸透の基本特性を実験的に検討するとともに、それらの結果をふまえて土壌水分の保水特性を直接的にかつ比較的容易に表現できるモンテカルロ法に基づく確率論的解析手法を新たに提案し、実験結果との比較などにより良好に適用できることを確認した。

 (図-1参照)

(2)地盤中の放射性核種移行解析手法の開発

 地盤中の核種移行に関する有限要素法による決定論的解析モデルにおいては、地下水流動解析モデルと同様に高精度化と演算処理の高速化を図ることにより、3次元の放射性核種地中移行解析が実用的に行えるようにした。また、モンテカルロ法にもとづき、数値的散逸の蓄積を基本的に回避できるなどの決定論的解析モデルにない利点を生かし、核種移行特性を直接的な粒子イメージでモデル化する確率論的解析手法を提案し、解析解や実験結果などとの比較により本研究で開発した手法が十分に妥当であることを検証した。

 (図-2参照)

図表図-1 保水特性を考慮した土壌水分移動のモンテカルロ法計算値と実験値の比較 / 図-2 各種吸着モデルによる核種移行特性比較計算結果(モンテカルロ法)
(3)岩盤中の地下水、核種、熱輸送解析手法の開発

 割れ目系岩盤をそれぞれの特性に応じてモデル化する岩盤割れ目のモデル化手法を提案するとともに、それらに基づいて地下水流動、および線形・非線形の吸着や崩壊連鎖などを考慮した放射性核種移行を詳細に解析できる有限要素法解析モデル、ならびに処分施設近傍のニアフィールドを対象として熱〜地下水の連成解析が行える解析モデルを開発した。これらの解析モデルの適用性に関しては、解析解や試験結果との比較などにより基本的に十分な精度を有することを検証するとともに、パラメータ設定の合理的な考え方についても提案を行った。 (図-3参照)

(4)単一孔式地下水流向流速計の開発と地下水流動場推定法の提案

 地盤および岩盤中における実際の地下水の流動状況を直接的に調査確認する方法として、本研究においては単一ボーリング孔で地下水の流向と流速を同時に計測する手法を開発した。また、観測井戸構造と測定流速特性との関係について観測井戸を横切るトレーサー移動に関する実験と解析による検討などを行い、本計測手法が10-6〜10-7cm/secの低流速範囲まで適用可能であることを示した。この適用範囲は、従来の計測器の性能を一桁以上上回るものである。また、本計測器を地盤および割れ目系岩盤における原位置での地下水流向流速測定に適用し、十分な実用性を有することを確認した。

 (図-4参照)

図表図-3 HRL地下研究施設(SKB)における揚水試験による地下水位低下量とスメアード割れ目モデルによる非定常地下水解析結果との比較 / 図-4 割れ目系岩盤における地下水流向流速の測定結果例
(5)放射性廃棄物陸地処分の総合安全評価手法の提案と安全評価への適用

 上述のような地盤中および割れ目系岩盤中の地下水流動・核種移行に関する詳細な調査・解析手法に基づき、放射性廃棄物処分の安全性を合理的に評価するために体系化された総合安全評価システムを提案した。また、これらの詳細解析手法や総合安全評価手法を適用して、低レベル廃棄物や高レベル廃棄物の陸地処分に関する安全評価解析を行い、それぞれの基本的な成立性を明らかにするとともに、本論文で述べた解析手法等が処分の安全評価などに有効に適用できることを示した。

 以上、本論文で開発された地盤中および割れ目系岩盤における地下水流動や放射性核種移行に関する詳細な解析評価手法を適用することにより、できるだけ実際に則した処分環境条件を詳細に考慮した施設設計や安全評価が実用的に行われ、より合理的な放射性廃棄物処分の実現に寄与できるものと考える。

審査要旨

 わが国の原子力発電は総発電電力量の約30%を占めるに至っている。今後の地球温暖化ガスの排出抑制を考えると、その重要性は増大することはあれ、減ずることはないと考えられる。一方、放射性廃棄物量も着実に増大しており、その処分施設の安全性評価が具体的に求められている。本論文は「地盤および割れ目系岩盤中の地下水流動・核種移行に関する研究」と題し、放射性廃棄物の地下埋設施設に関わる安全性評価の基礎をなす技術的課題を解決したものである。

 第1章は序論であり、放射性廃棄物陸地処分の安全性評価において、地下水の流れと核種の移行を高度に評価できる調査・解析手法の現況を調査分析した。浅層地盤中に処分される低レベル放射性廃棄物と、深層岩盤中に処分される高レベル放射性廃棄物に分類して本論文の目的を論じ、本研究で用いる解析・調査手法の選択を行い、論文の構成を定めている。

 第2章では地盤中の飽和及び不飽和地下水の流動解析を行っている。ここでは有限要素法による決定論的解析モデルについて高精度化と演算処理の高速化を図り、従来安全性評価の実務で用いる上では困難な面が多かった飽和・不飽和地下水流動の3次元解析を実用的に可能とした。一方、土壌水分の保水特性を直接的に表現できるモンテカルロ法に基づく確率論的解析手法を新たに提案し、不飽和浸透領域の運動機構をより忠実に追跡できることを示した。この確率論的手法は、計算機能力の制約から現状では短期間の現象の解析に対して有用である。

 第3章では、地盤中での飽和・不飽和地下水流動に伴う放射性核種の移行を詳細に解析する手法について述べられている。地下水流動解析モデルと同様に、高精度化と演算処理の高速化を図ることにより、放射性核種の地中への移行について3次元解析が実用的に行えるようになった。また、モンテカルロ法に基づき、数値拡散の蓄積を回避できる確率論的解析モデルを構築し、解析解や実験結果と比較し、その妥当性を検証した。

 第4章においては、深層処分を念頭に置いて、割れ目や破砕帯の性状をそれぞれの特性に応じてモデル化した。それらに基づいて地下水の流動、線形・非線形の吸着作用や崩壊連鎖などを考慮した放射性核種移行を詳細に解析できる有限要素法解析モデルを開発した。さらに、処分施設近傍を対象としては、熱・地下水の連成解析が行えるモデルを開発した。そして、それらのモデルが十分な精度を有することを検証すると共に、計算に用いるパラメータ設定についても合理的な提案を行い、普遍性を高めている。

 第5章では、地盤および岩盤中における実際の地下水の流動状況を直接に調査確認する方法として、単一ボーリング孔で地下水の流向と流速を同時に計測する手法を開発した。観測井戸を横切るトレーサー移動に関する実験と理論的な解析を行い、従来の計測器の性能を一桁以上上回る計器の開発に成功した。さらに、本計測器を地盤および割れ目系岩盤における原位置での地下水流向・流速測定に適用し、十分な実用性を有することを確認した。

 第6章では第2章から第5章までの結果を踏まえて、放射性廃棄物処分の安全性を合理的に評価するための総合安全評価手法の体系化を行った。そしてこの体系を低レベル廃棄物や高レベル廃棄物の陸地処分に関する安全性の評価に適用し、現在考えられている方法が基本的に合理的であることを明らかにした。

 第7章は得られた成果を取りまとめている。

 以上、本論文は地盤中および割れ目系岩盤における地下水流動と放射性核種移行に関する基礎的な特性を明らかにし、3次元の現実の場に適用できるモデルを開発し、水理学の進歩に貢献した。本研究の基本的な成果は放射性廃棄物の陸地処分の安全性評価に取り入れられており、現実の技術界でも高く評価されている。よって、本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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