わが国の原子力発電は総発電電力量の約30%を占めるに至っている。今後の地球温暖化ガスの排出抑制を考えると、その重要性は増大することはあれ、減ずることはないと考えられる。一方、放射性廃棄物量も着実に増大しており、その処分施設の安全性評価が具体的に求められている。本論文は「地盤および割れ目系岩盤中の地下水流動・核種移行に関する研究」と題し、放射性廃棄物の地下埋設施設に関わる安全性評価の基礎をなす技術的課題を解決したものである。 第1章は序論であり、放射性廃棄物陸地処分の安全性評価において、地下水の流れと核種の移行を高度に評価できる調査・解析手法の現況を調査分析した。浅層地盤中に処分される低レベル放射性廃棄物と、深層岩盤中に処分される高レベル放射性廃棄物に分類して本論文の目的を論じ、本研究で用いる解析・調査手法の選択を行い、論文の構成を定めている。 第2章では地盤中の飽和及び不飽和地下水の流動解析を行っている。ここでは有限要素法による決定論的解析モデルについて高精度化と演算処理の高速化を図り、従来安全性評価の実務で用いる上では困難な面が多かった飽和・不飽和地下水流動の3次元解析を実用的に可能とした。一方、土壌水分の保水特性を直接的に表現できるモンテカルロ法に基づく確率論的解析手法を新たに提案し、不飽和浸透領域の運動機構をより忠実に追跡できることを示した。この確率論的手法は、計算機能力の制約から現状では短期間の現象の解析に対して有用である。 第3章では、地盤中での飽和・不飽和地下水流動に伴う放射性核種の移行を詳細に解析する手法について述べられている。地下水流動解析モデルと同様に、高精度化と演算処理の高速化を図ることにより、放射性核種の地中への移行について3次元解析が実用的に行えるようになった。また、モンテカルロ法に基づき、数値拡散の蓄積を回避できる確率論的解析モデルを構築し、解析解や実験結果と比較し、その妥当性を検証した。 第4章においては、深層処分を念頭に置いて、割れ目や破砕帯の性状をそれぞれの特性に応じてモデル化した。それらに基づいて地下水の流動、線形・非線形の吸着作用や崩壊連鎖などを考慮した放射性核種移行を詳細に解析できる有限要素法解析モデルを開発した。さらに、処分施設近傍を対象としては、熱・地下水の連成解析が行えるモデルを開発した。そして、それらのモデルが十分な精度を有することを検証すると共に、計算に用いるパラメータ設定についても合理的な提案を行い、普遍性を高めている。 第5章では、地盤および岩盤中における実際の地下水の流動状況を直接に調査確認する方法として、単一ボーリング孔で地下水の流向と流速を同時に計測する手法を開発した。観測井戸を横切るトレーサー移動に関する実験と理論的な解析を行い、従来の計測器の性能を一桁以上上回る計器の開発に成功した。さらに、本計測器を地盤および割れ目系岩盤における原位置での地下水流向・流速測定に適用し、十分な実用性を有することを確認した。 第6章では第2章から第5章までの結果を踏まえて、放射性廃棄物処分の安全性を合理的に評価するための総合安全評価手法の体系化を行った。そしてこの体系を低レベル廃棄物や高レベル廃棄物の陸地処分に関する安全性の評価に適用し、現在考えられている方法が基本的に合理的であることを明らかにした。 第7章は得られた成果を取りまとめている。 以上、本論文は地盤中および割れ目系岩盤における地下水流動と放射性核種移行に関する基礎的な特性を明らかにし、3次元の現実の場に適用できるモデルを開発し、水理学の進歩に貢献した。本研究の基本的な成果は放射性廃棄物の陸地処分の安全性評価に取り入れられており、現実の技術界でも高く評価されている。よって、本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 |