本論文は海底配管工事の建設技術を扱ったものである。海底の配管工事の歴史は比較的新しく、米国において昭和30年代の始めに、メキシコ湾の海底油田開発の原油採集、輸送の手段として始まったといってよい。当然のことながら、最初は浅い海域で、管径も小さな工事から始まった。我が国においても、同じ頃に、離島への送水を目的とした小口径、短距離の配管工事が行われ始めた。昭和30年代後半から、40年代にかけて、20〜30万トン級のマンモス・タンカーの出現によって、水深の大きな沖合のシーバースから陸上のタンク・ヤードへ原油を短時間に輸送するための大口径の海底配管敷設が必要となってきた。海底配管工事は特殊な建設工事であり、世界的にみても建設業者の数は少ない。このため、海外の建設業者からの技術導入は困難で、全て外注するか、自己開発するかの選択しかなかった。 上記のような状況の中で、本論文の著者は海底配管技術の自己開発の最初の段階から、参加し、世界に通用する技術開発に成功した。この技術開発のうち、工事の安全性と作業性の向上を中心に開発の成果をまとめている。 本論文では、著者が最初に開発を手がけた直径48インチの原油輸送用のシーバースから陸上のタンク・ヤードへの配管から始まり、口径では60インチ、距離では数100km、水深150mに及ぶ海底配管工事を扱っている。技術面では高速敷設、海中接合、オフショア水域での敷設技術、鋼管の水中重量調整のためのコンクリート・コート施工法、常温では固結する高流動点原油を海底輸送するための加熱保温配管システムとそのために必要な特殊配管構造の敷設技術等を扱っている。 敷設作業における安全性の改善と作業性の向上のために採用したことの一つに、薄肉鋼管の内面に膨張コンクリートをライニングし、プレストレスを導入した長大ブロックの採用がある。ここでは、膨張セメントの配合、コンクリート厚と鋼管厚との比率、溶接接合部のコンクリートライニング等が、解決を要した課題であった。 パイプの補修や、既設ラインへの接続など、水中での配管の接合は避けられない。最も考え易いフランジを用いた機械的な接合から始め、より水密性の良い水中溶接の実用化を達成している。水中溶接では、水中での困難な作業環境に対して、精度の良い面合せ治具の開発や、波浪や干満差によるドライ・チャンバー内の圧力変動によるビード割れを防ぐために、若干の圧力変動では溶接部が動かなくなるシール・ピグの挿入等により、良好な溶接を可能としている。 大水深のオフショア海底配管では、船体から、スティンガーの上を滑らせて、配管を伸ばして行く方法が広く採用されている。スティンガーの設計では波浪、潮流に対してスティンガーを守るためには、スティンガーは短い方が好ましく、かつスティンガーの曲率半径をできるだけ小さくし、配管の曲率が損傷を生じない範囲で大きくなることが好ましい。配管に損傷が生じないで、大きな曲率を許すために、配管の弾塑性挙動を考慮に入れ、スティンガーと一体化した解析に基づく設計を提案し、採用している。水深の増加とともに、鋼管の重量によって、管がスティンガーを離れたところで曲がり、局部座屈する可能性が大きくなる。スティンガーを長くすれば解決できるが、安全性と作業性の向上のためにはスティンガーは短い方が良く、敷設する鋼管に張力を加える工法で大水深域での敷設に伴う困難性を解決している。張力の低下により管が損傷するのを防ぐため、アンカーの把握力の不足や、船体の急激な後退に対する管理が重要になる。これに対し、具体的な管理方法を提案し、実用化している。同じく管に損傷を与えないために、敷設時にスティンガーの角度と深度が一定の範囲におさまるよう制御する必要がある。深度計、傾斜計をスティンガーに装着し、スティンガー各部に独立に注水、排水可能な管を配置し、バラスト調整を行うことと、必要に応じて管に加える張力も調整することによって、安全性を確保する手法を開発し、用いている。 バージからの配管の敷設作業性の向上のためには溶接継手の検査合格率の向上が最も重要である。このためには溶接工の技術が最も大事な要因であるが、手溶接を採用する限り限界があり、自動溶接が好ましい。しかし、波浪による動揺下での自動溶接は容易でなく、海外ではほとんど実施例がない。さらに、海底に敷設する管の溶接では管を回転することができず、全周を固定した状態で溶接するため、溶接する位置での溶接棒の向きに応じて、溶接条件を連続的に変化させる必要がある。さらに、開先合わせに高い精度を要する外側片面からの裏波溶接とせざるを得ない、等の困難な条件も伴う。この問題を解決するため、ノーギャップの突合せにより溶接面積が小さく、厚肉管でも溶接可能な開先形状の開発、強力なインターナル・クランプを用い鋼管の溶接部を塑性変形させて、開先精度を向上させる手法、インターナル・クランプに銅の裏当てを装着することによる初層溶接の品質の改善、当時としては珍しいコンピューター制御による溶接条件の制御手法の開発等を行っている。しかし、工事条件に応じた溶接条件設定の確定テスト、オペレーターの訓練、設備の高メンテナンス費用など、コスト的には未だ汎用性のあるシステムにはなっておらず、さらなる研究が必要な問題である。 常温では固化する高流動点原油用の配管では加熱保温システムが必要となる。この種の原油の輸送のためには圧力損失をきちっと評価することが、運転経費の節減につながる。各種の原油について、粘性増大時の流動特性、放置冷却による固化、強制加熱の融解時の実験を行い、物性試験値をもとに理論解析によるシュミレーション結果と十分実用に使える精度で一致することを確かめている。加熱方式としては、配管に直接電気を流し、管体の電気抵抗による発熱を利用する方式や、事前の予熱用に低流動点油を流したあと、予熱した高流動点油を輸送し、さらに、何らかの原因で凝固したときのために非常用の小さなパイプを挿入する等の方法を開発している。これらの管の断熱性を良くするため、現実の構造は2重管、あるいは内部に小径管が入る3重管構造となる。これらの管構造の開発に当たっては、外管と内管の熱応力の差による伸縮量に対処する等、技術的な問題を多く解決している。 著者が30年間にわたって開発にかかわってきた、海底配管の敷設に関する技術が系統的に記述され、開発時に直面した解決を要する課題とその解決結果が詳細に述べられている。プロトタイプの実験結果、理論解析、現場解析をもとにしたシュミレーション結果や施工現場での経験も体系的に述べられており、今後の海底配管工事に寄与するところ大である。 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認める。 |