学位論文要旨



No 212269
著者(漢字) 内田,惠之助
著者(英字)
著者(カナ) ウチダ,ケイノスケ
標題(和) 東京湾横断道路における盛土および地盤のセメント固化改良工法の開発
標題(洋)
報告番号 212269
報告番号 乙12269
学位授与日 1995.04.14
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第12269号
研究科 工学系研究科
専攻 土木工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 龍岡,文夫
 東京大学 教授 石原,研而
 東京大学 教授 片山,恒雄
 東京大学 教授 魚本,健人
 東京大学 教授 東畑,郁生
内容要旨 研究の背景と対象

 東京湾横断道路は川崎市浮島地先と木更津市金田地先を結ぶ延長15.1kmの自動車専用道路である。路線の最大水深は約30m、海底地盤は中央部で約20m〜30mの沖積層(有楽町層)とその下部の砂・シルト・粘土層より成る洪積層(七号地層)から構成され、工学的な基盤と考えられる地層(上総層群)は海面下約80m以深にしか存在しない。また、東京湾周辺は地震活動が極めて盛んな地帯である。

 このような自然条件のもと、陸上部と海底シールドトンネルを連結する斜路部が浮島取付部と木更津人工島に計画された。そこで直径13.9mの大口径のシールドトンネルを安定的に掘進でき、かつ、完成後の沈下の少ない基礎地盤処理工法と盛土工法の開発が必要となった。

 そのため、山砂・セメント・海水・分離防止材をスラリー状に混合し盛土する混合処理盛土工法と軟弱地盤をセメントで固化処理する低強度深層混合処理工法が採用された。固化改良土に要求された基本物性は、切羽地盤の安定とビットの摩耗から一軸圧縮強さ6〜30kgf/cm2、トンネルの浮上がり防止から単位体積重量t≧1.8tf/m3、シールド掘進時の泥水の逸水防止から透水係数k≦10-2cm/secである。また、混合処理盛土では、施工性から流動性と分離抵抗性も要求された。本論文で「低強度」という言葉を用いたのは、目標強度が既往の深層混合処理工法の一軸圧縮強さ40〜60kgf/cm2に較べ小さいことによる。

 混合処理盛土は、東京湾横断道路で初めて大規模に適用された工法である。したがって、その配合や施工法、力学特性などに多くの課題があった。一方、深層混合処理工法は既に実用化された工法であり、その課題は低強度改良体の施工可能性とその力学特性の把握にあった。それらの検討のため、混合処理盛土は「室内配合試験」、「中型水槽打設試験」、「大型水槽打設試験」の3つの試験を、低強度深層混合処理工法は実際の機械を使用しての「現場施工試験」を実施した。以下に今回の開発で得られた主な結果を述べる。

混合処理盛土の配合

 混合処理盛土は海中に施工される盛土であることから、施工時の分離防止が配合上の主な課題であった。そのため、いくつかの分離防止材を検討した。その結果、分離防止効果のある材料は、解こう泥岩・粘土・ベントナイト・粘結剤であることが解ったが、経済性と大量供給性から解こう泥岩を選定した。解こう泥岩を用いた場合、所要の物性を有する配合は、盛土1m3あたり、表乾状態の山砂1,217kgf・解こう泥岩110kgf・セメント80kgf・海水480kgfとなった。なお、盛土中の水は自由水と山砂粒子への吸着水で構成されるが、前記の水量は自由水量で、これが盛土の流動性を支配することも判明した。流動性は、ポンプ圧送性と打設後のセルフレベリング性からテーブルフローで180mm程度を目標とした。

せん断強さと変形係数に関する力学特性の把握と設計への適用

 セメント固化改良土の三軸圧縮特性を検討し、その設計法として、安定問題を残留強度に基づくせん断強さ、変形問題を微小ひずみレベルでの変形係数で検討することとした。設計の基本を三軸圧縮試験としたのは、構造物が大規模であるので、拘束効果を評価できる三軸圧縮試験の方が一軸圧縮試験より物性を正確に表現できると考えたことによる。また、せん断強さを残留強度で評価したのは、固化土を土として扱い、深層混合処理工法でよく問題とされる引張り破壊の検討を省略し、設計の簡略化を図るためである。

 固化改良土の三軸圧縮特性に関しては、その応力ひずみ関係に降伏・ピーク・残留状態があり、降伏強さは一軸圧縮強さにほぼ等しいこと、および、固化土も一般の土と同じく有効応力の原理が成り立つことを示した。すなわち、残留状態においては、内部摩擦角40〜45°程度の原点を通る破壊線が存在し、残留せん断強さは残留時の有効拘束圧3rを起点とし破壊線に接するモールの応力円で規定されることが解った。したがって、排水条件では3rc0なので、せん断強さはc0に応じた値となる。一方、非排水条件ではせん断中に負の過剰間隙水圧(-u)が発生するため、3rc0+|-u|となり、せん断強さはこれに応じた値となる。ここで、(-u)の発生量は、初期水圧uと材料特性に支配される。すなわち、u言い替えるとcoが十分に大きいときは、3rは材料に応じた値3r.maxとなり、残留強さは初期応力状態に拘らず一定となる。混合処理盛土では、3r.maxは2.5kgf/cm2でそれに応じたr1.maxは4.2kgf/cm2、深層混合処理Ac1改良土では同じく1.0と1.8kgf/cm2となった。これに対し、co<3r.max、理論的には(co+大気圧)<3r.maxの場合には、キャビテーションのため負の過剰間隙水圧が十分発揮されず、3r3r.maxに達しない。したがってこの場合には、残留強さはcoに応じた値となる。図-1にcoを変化させて行なった混合処理盛土の試験結果を示した。図中、coが0.7、1.0kgf/cm2のケースはco<3r.maxに相当し、4.2kgf/cm2coが十分に大きいときに相当する。このような残留せん断強さの性質と、さらに、打継ぎ面での強度低下・寸法効果・強度異方性などについても検討し、残留強さに基づく設計せん断強さの設定を行なった。

図-1 初期全応力を変化させたとき三軸CU試験の応力ひずみ関係

 固化改良土の変形係数を正確に求めるには、全体変位計(EXT)ではなく、局所変成測定装置(LDT)による必要のあることが解った。これは、全体変位計がベディングエラーを含むため、小さい変形係数を与えることによる。ひずみ依存性を考慮すると、LDTによる静的圧縮試験や繰返し三軸試験の変形係数は弾性波探査試験や孔内載荷試験による値と一致した。初期変形係数は、砂を母材とした混合処理盛土の方が粘土を母材とした深層混合処理改良土より大きく、前者G0は約10,000kgf/cm2、後者は3,500kgf/cm2となった。また、それらは拘束圧に影響されなかった。なお、LDTによる軸ひずみ測定での初期変形係数は弾性波探査から求めたそれに等しいことから、LDTによる室内試験から初期変形係数と一軸圧縮強さの関係を前もって求めておけば、現場でのPS検層から現場固化土の一軸圧縮強さを評価しうると考え、これを、実際の工事での品質管理試験で検討した。

混合処理盛土の施工

 混合処理盛土の施工は、混練・アジテート・ポンプ圧送・打設の手順で行なわれる。水槽打設試験から施工に関し、混合処理盛土は細骨材(山砂)量が多くその取扱いに時間を要するため通常のコンクリートに比べ混練に約2倍の時間を要すること、圧送はコンクリートと同じ通常の装備で問題の無いこと、品質確保のためには混練後のアジテート時間2時間以内に打設すること、材料分離を生じさせないため打設管を盛土中に常に挿入した状態で打設することおよび流動距離を12m以内とする必要のあることが解った。また、施工時の海域汚染にはssの他にpHも問題とされたが、pHにおいても水酸イオン[OH-]を原単位として捉えればssと同様に移流拡散方程式を用いて予測できることを示した。

(4)むすび

 東京湾横断道路の建設にあたり、シールドトンネルの安定掘進および地盤と盛土の長期安定を保持する目的から、低強度深層混合処理工法と混合処理盛土を実施する必要が生じ、約3年間に亘り、各種の試験を行い検討した。その結果、その施工可能性や設計の考え方が確立され、実際の工事の配合決定や施工法検討および設計に生かされた。実際の工事で実施した深層混合処理工法は約1,840,000m3、混合処理盛土は1,500,000m3で、既に工事は完了し、現在、混合処理盛土中のシールドトンネルの掘進が順調に行われている。今回の研究で、安定した地盤や海中盛土を固化改良土により大量にかつ急速に造成できることを実証した。入手し易い材料を使用して広範な安定した地盤を急速に築造できる本工法は、我国のような軟弱な地質に囲まれた都市圏近傍において有効な手法であり、今後広く活用されることを望む次第である。

審査要旨

 現在建設中の全長15.1kmの東京湾を横断する東京湾横断道路は、地震活動度が高い地域で軟弱地盤での海上構造物であり、高密度海上交通と台風に備えた構造物設計と施工計画が必要であり、さらに自動車交通のための換気問題を解決する必要がある等、非常に厳しい設計条件における大規模土木構造物である。このことから様々な未経験な課題に直面し、設計段階から多くの新しい課題を解決するために系統的な調査研究がなされてきた。なかでも、大規模海中盛土の基礎地盤としての海底軟弱粘性土地盤の強化とシールドトンネルの発進に伴う適切な盛土の建設には、数多くの土質工学の課題を解決する必要があった。具体的には、総計180万m3に及ぶ軟弱地盤をセメント混合による新しい固化工法により改良し、193万m3に及ぶ海中盛土をセメント混合砂質土を用いた二つの新しい工法で建設した。本論文は、この新しいセメント混合地盤改良工法の採用の経緯、室内試験・模型実験・現場試験工事・数値解析による研究開発、改良土の変形・強度特性の詳細な検討結果に基づく新しい設計方法、実施工の結果をとりまとめたものである。

 第1章は序論であり、東京湾横断道路の歴史的経緯と設計条件、海中取付盛土、シールドトンネル、構造物式人工島、盛土式人工島、橋梁からなる構造形式を採用した経緯を説明している。すなわち、船舶航行の安全性から、川崎側には橋梁と沈埋トンネルは採用出来ないこと、軟弱地盤上の地盤式人工島はその不等沈下・地震時安定性に問題が残ることを述べている。

 第2章では、シールドトンネル技術の近年の進歩から、直径14m(世界最大)のシールドトンネルを採用することにした経緯が述べられている。引き続き、シールドトンネルの掘進が開始される盛土と、シールドトンネルがその内部を掘進し盛土の基礎となる海底地盤が十分安定である一方、スムースなトンネル掘進ができるためには、改良盛土・地盤の一軸圧縮強度は6〜30kgf/cm2(平均10kgf/cm2)、透水係数10-2cm/sec以下、盛土の単位体積重量は1.8gf/cm3以上という設計条件を設定した経緯がまとめられている。この条件を満たす工法として、原地盤の改良には従来よりも強度を意識的に低下させた低強度深層混合工法を、盛土建設には流動性が十分高く水中分離抵抗性が高いスラリー状のセメント混合砂質土をトレミーパイプを用いて海中盛土をする工法を採用した経緯がまとめられている。

 第3章では、スラリー状セメント混合砂質土の配合と施工法を決定するために行った一軸圧縮試験、流動性試験、水中分離抵抗性試験等の室内試験、中型および船舶建造用ドックを用いた実大規模水中打ち込み試験、大規模試験盛土内で行った原位置弾性波速度測定、孔内水平載荷試験等原位置試験、同盛土から採取した不攪乱試料を用いた精密三軸試験の結果がとりまとめてある。合計90以上の配合の候補から、物性・施工性・環境保護・経済性の総合検討により採用した配合は、1m3あたり山砂1,117kgf,微粉砕泥岩110kgf,セメント80kgf,海水520kgfである。また、トレミー管の先端は常に打ち込まれた盛土内部にあることが海中での分離を防ぐために必須であることを見い出している。出来上がった試験盛土は、高剛性でかなり一様であることから、本工法により設計条件を満たす盛土建設が可能であると判断できたことを述べている。

 第4章は、低強度深層混合工法でのセメントスラリーの配合設計、施工方法、改良固化された軟弱海底粘土の変形・強度特性の確認を行うために行った実大規模原位置施工実験と、それに伴う原位置試験と一軸圧縮試験・三軸圧縮試験等室内試験の結果のとりまとめである。水セメント比100%で1m3あたり乾燥重量70kgfのセメントの配合で十分一様で設計条件を満たす改良地盤が形成できること、異なる改良杭の接合部の強度の低下は少ないことを示している。

 第5章は、セメント改良土変形・強度特性に関する三軸圧縮試験結果のまとめである。まず三軸圧縮試験では、ピークせん断強度は排水条件と圧密拘束圧にほとんど依存しないが、軸ひずみ15%で定義した残留せん断強度は、排水試験では圧密拘束圧にほぼ比例するが、非排水状態では背圧が十分大きい場合は初期有効拘束圧に独立で試料固有な値を示し、背圧が小さい場合は全拘束圧に大きさに支配された値になることを示している。また、従来の深層混合工法による高強度で改良体積が比較的小さい改良地盤に対しては、改良地盤を一種の構造物と見なして一軸圧縮強度の1/5-1/6を許容圧縮強度する設計法がをとられてきたが、本工事における改良盛土・地盤は強度が比較的小さく改良体積が非常に大きいことから、改良地盤の安定性を上記の残留強度を用いた極限釣合法で検討している。また、供試体側面で正確に軸ひずみを測定した三軸試験により0.0001%から0.5%までのピーク以前までの応力・ひずみ関係を求め、0.01%以下のひずみレベルではほぼ弾性でありヤング率が非常に高いこと(スラリー式セメント事前混合砂質土では30.000kgf/cm2)を示している。また、改良地盤と盛土で、ひずみレベルを合致させて比較すると、三軸試験、原位置弾性波速度測定、原位置平板載荷試験、孔内水平方向載荷試験による変形係数は一致することも示している。一方、設計地震入力を用いた改良盛土・地盤系の地震応答解析を行い、地震時最大ひずみは0.05%程度であり、上記結果を参照すると、その場合でも微小ひずみレベルでの弾性ヤング率の50%の接線ヤング率が確保されると述べている。以上の解析の結果を総合して、本セメント混合工法により十分安定で変形性の少ない改良盛土と地盤が建設可能である、と述べている。

 第6章では、東京湾央部に建設した構造物式人工島の地中連続壁施工のために直径100mのリング状にスラリー式セメント事前混合砂質土の盛土をし、また浮島斜路部の海底軟弱粘性土地盤を低強度深層混合工法で改良した実施施工の結果と、それに伴って行った原位置試験と室内試験の結果をとりまとめている。その結果、所定の設計条件を満たした改良盛土と地盤が形成されたことを示している。

 第7章は、結論である。

 以上要するに、本研究はセメント固化改良工法による海底軟弱粘性土地盤の改良と改良土の海中盛土建設のために、施工前例がない地盤改良工法の開発研究と実施工を行うことにより地盤改良技術における多くの新しい点を明らかにしていて、土質工学の分野の研究と技術の進展に貢献する所が大である。よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

UTokyo Repositoryリンク