現在建設中の全長15.1kmの東京湾を横断する東京湾横断道路は、地震活動度が高い地域で軟弱地盤での海上構造物であり、高密度海上交通と台風に備えた構造物設計と施工計画が必要であり、さらに自動車交通のための換気問題を解決する必要がある等、非常に厳しい設計条件における大規模土木構造物である。このことから様々な未経験な課題に直面し、設計段階から多くの新しい課題を解決するために系統的な調査研究がなされてきた。なかでも、大規模海中盛土の基礎地盤としての海底軟弱粘性土地盤の強化とシールドトンネルの発進に伴う適切な盛土の建設には、数多くの土質工学の課題を解決する必要があった。具体的には、総計180万m3に及ぶ軟弱地盤をセメント混合による新しい固化工法により改良し、193万m3に及ぶ海中盛土をセメント混合砂質土を用いた二つの新しい工法で建設した。本論文は、この新しいセメント混合地盤改良工法の採用の経緯、室内試験・模型実験・現場試験工事・数値解析による研究開発、改良土の変形・強度特性の詳細な検討結果に基づく新しい設計方法、実施工の結果をとりまとめたものである。 第1章は序論であり、東京湾横断道路の歴史的経緯と設計条件、海中取付盛土、シールドトンネル、構造物式人工島、盛土式人工島、橋梁からなる構造形式を採用した経緯を説明している。すなわち、船舶航行の安全性から、川崎側には橋梁と沈埋トンネルは採用出来ないこと、軟弱地盤上の地盤式人工島はその不等沈下・地震時安定性に問題が残ることを述べている。 第2章では、シールドトンネル技術の近年の進歩から、直径14m(世界最大)のシールドトンネルを採用することにした経緯が述べられている。引き続き、シールドトンネルの掘進が開始される盛土と、シールドトンネルがその内部を掘進し盛土の基礎となる海底地盤が十分安定である一方、スムースなトンネル掘進ができるためには、改良盛土・地盤の一軸圧縮強度は6〜30kgf/cm2(平均10kgf/cm2)、透水係数10-2cm/sec以下、盛土の単位体積重量は1.8gf/cm3以上という設計条件を設定した経緯がまとめられている。この条件を満たす工法として、原地盤の改良には従来よりも強度を意識的に低下させた低強度深層混合工法を、盛土建設には流動性が十分高く水中分離抵抗性が高いスラリー状のセメント混合砂質土をトレミーパイプを用いて海中盛土をする工法を採用した経緯がまとめられている。 第3章では、スラリー状セメント混合砂質土の配合と施工法を決定するために行った一軸圧縮試験、流動性試験、水中分離抵抗性試験等の室内試験、中型および船舶建造用ドックを用いた実大規模水中打ち込み試験、大規模試験盛土内で行った原位置弾性波速度測定、孔内水平載荷試験等原位置試験、同盛土から採取した不攪乱試料を用いた精密三軸試験の結果がとりまとめてある。合計90以上の配合の候補から、物性・施工性・環境保護・経済性の総合検討により採用した配合は、1m3あたり山砂1,117kgf,微粉砕泥岩110kgf,セメント80kgf,海水520kgfである。また、トレミー管の先端は常に打ち込まれた盛土内部にあることが海中での分離を防ぐために必須であることを見い出している。出来上がった試験盛土は、高剛性でかなり一様であることから、本工法により設計条件を満たす盛土建設が可能であると判断できたことを述べている。 第4章は、低強度深層混合工法でのセメントスラリーの配合設計、施工方法、改良固化された軟弱海底粘土の変形・強度特性の確認を行うために行った実大規模原位置施工実験と、それに伴う原位置試験と一軸圧縮試験・三軸圧縮試験等室内試験の結果のとりまとめである。水セメント比100%で1m3あたり乾燥重量70kgfのセメントの配合で十分一様で設計条件を満たす改良地盤が形成できること、異なる改良杭の接合部の強度の低下は少ないことを示している。 第5章は、セメント改良土変形・強度特性に関する三軸圧縮試験結果のまとめである。まず三軸圧縮試験では、ピークせん断強度は排水条件と圧密拘束圧にほとんど依存しないが、軸ひずみ15%で定義した残留せん断強度は、排水試験では圧密拘束圧にほぼ比例するが、非排水状態では背圧が十分大きい場合は初期有効拘束圧に独立で試料固有な値を示し、背圧が小さい場合は全拘束圧に大きさに支配された値になることを示している。また、従来の深層混合工法による高強度で改良体積が比較的小さい改良地盤に対しては、改良地盤を一種の構造物と見なして一軸圧縮強度の1/5-1/6を許容圧縮強度する設計法がをとられてきたが、本工事における改良盛土・地盤は強度が比較的小さく改良体積が非常に大きいことから、改良地盤の安定性を上記の残留強度を用いた極限釣合法で検討している。また、供試体側面で正確に軸ひずみを測定した三軸試験により0.0001%から0.5%までのピーク以前までの応力・ひずみ関係を求め、0.01%以下のひずみレベルではほぼ弾性でありヤング率が非常に高いこと(スラリー式セメント事前混合砂質土では30.000kgf/cm2)を示している。また、改良地盤と盛土で、ひずみレベルを合致させて比較すると、三軸試験、原位置弾性波速度測定、原位置平板載荷試験、孔内水平方向載荷試験による変形係数は一致することも示している。一方、設計地震入力を用いた改良盛土・地盤系の地震応答解析を行い、地震時最大ひずみは0.05%程度であり、上記結果を参照すると、その場合でも微小ひずみレベルでの弾性ヤング率の50%の接線ヤング率が確保されると述べている。以上の解析の結果を総合して、本セメント混合工法により十分安定で変形性の少ない改良盛土と地盤が建設可能である、と述べている。 第6章では、東京湾央部に建設した構造物式人工島の地中連続壁施工のために直径100mのリング状にスラリー式セメント事前混合砂質土の盛土をし、また浮島斜路部の海底軟弱粘性土地盤を低強度深層混合工法で改良した実施施工の結果と、それに伴って行った原位置試験と室内試験の結果をとりまとめている。その結果、所定の設計条件を満たした改良盛土と地盤が形成されたことを示している。 第7章は、結論である。 以上要するに、本研究はセメント固化改良工法による海底軟弱粘性土地盤の改良と改良土の海中盛土建設のために、施工前例がない地盤改良工法の開発研究と実施工を行うことにより地盤改良技術における多くの新しい点を明らかにしていて、土質工学の分野の研究と技術の進展に貢献する所が大である。よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 |