内容要旨 | | 本論文は,ニュータウンの計画理念がどのように実践され,当初の計画理念と現実の都市環境のもつ状況の差異に着目し,"これからの人間の居住環境はどうあるべきか"という課題を整理する重要性を認識することから出発している。 本論文は,ニュータウン計画のもつ効果と限界について考察するため,今後の魅力ある居住空間を実現する手掛かりを得ることを目的としている。そのために,まず魅力的な居住環境計画のための要素を抽出するため,住民へのアンケート調査を行い,計画された地域およびその周辺地域の住民の意識の経年変化およびそれらの地域差の比較分析を行った。次いで,ニュータウンの「計画」が「実践」されてできあがったニュータウンの居住環境の「評価」を行った。 研究の対象としては,筆者が神戸市開発局においてその計画に直接携わり,また-住民として生活している西神ニュータウンを選定した。 本論文は,以下に示すように7章で構成されている。 第1章「序論」では,研究の背景・目的・方法についての特徴を述べ,ついで,本論文と関連した従来の研究についてふれ,本論文の位置づけを明らかにしている。 第2章「西神ニュータウン計画の考え方」では,ニュータウン建設において導入された「計画」の概念を分析し,考察することにより,西神ニュータウンの計画理念を明らかにした。その計画理念は, 1)自立的都市の形成,2)周辺地域との調和,3)魅力ある都市機能,4)環境の重視,5)将来の変化に対応,6)市民を主体,7)公共と民間の役割分担 等である。 第3章「西神ニュータウンの地域施設の整備とその利用実態」では,ニュータウン開発の実施過程や地域施設の「実態」について考察し,施設の計画段階と実際の整備状況を比較・分析した。その結果,施設には「計画」よりも早い段階で整備されたもの(保育所や幼稚園等の教育施設や診療所等)と,「計画」よりも遅い段階で整備されたもの(行政施設や商業施設)があること,商業施設については当初の人口定着状況に合わせた仮設対応から,本設施設を先行させる「計画」に変化していることがわかった。 第4章「西神ニュータウンの地域施設利用および計画に対する住民の意識」では,ニュータウンの地域施設や「計画」に対する住民の意識の「実態」について考察し,次の点が確認できた。 1.住民の施設要求の実態から,3地区の機能分担は,必ずしも当初の計画どおりにはかられていない。 2.3地区での施設要求は,施設の充実度に対応して要求施設の数が異なる。 3.まちの成熟とともに,既成市街地にある風俗施設的なものの範囲まで許容する傾向がある。 4.ニュータウンの施設要求と要求位置から,1)要求近接型,2)要求隔離型,3)拒否近接型,4)拒否隔離型,等に分類できる。 5.職住近接の実態は主婦のパートが主体であり,計画理念の一つである職住近接は図られていない。 6.先行して計画された須磨ニュータウンと比較して,住宅の質や交通・安全性,外部空間の質等の評価が高い。 7.西神南ニュータウンおよび神戸研究学園都市は都心・三宮への依存度が高く,計画理念のいう「自立的都市」になっていない。 8.ニュータウン計画で自立的都市や魅力ある機能の導入を計画理念としているが,実態としては計画外の周辺地域での自然発生的な施設に依存している。 第5章「住民の意識調査に基づく西神ニュータウンの住環境評価」では,ニュータウンにおける施設利用・施設要求から地域施設の特性を分析し,既成市街地や先行ニュータウンにおける居住環境「評価」との対比をふまえて,ニュータウンの住み心地に影響を与える要因について考察した。住環境評価の分析結果から次の点が確認できた。 1.本研究で設定した住環境評価指標は「外部空間の質」「騒音・安全性」「住戸の質」「施設の利便性」「下町性」「交通の利便性」の6つの因子に集約できる。 2.ニュータウンの住み心地に影響を与える要因の分析から,全地区でみると, 1)「騒音・安全性」や「下町性」という因子は,満足度が低いにもかかわらずニュータウンの住み心地に大きく影響をあたえている。 2)「施設の利便性」は食料品に関して唯一高い影響を示しているが,それ以外に関しては低く,施設計画中心の現在のニュータウン計画を見直す必要がある。 3.重回帰分析の結果,ニュータウンの住み心地を示す因子として,「町並みの美しさ」「治安の良さ」「住宅の広さ・間取り」「食料品店の便利さ」「住民の気風」「交通の便の良さ」の6つが得られたが,このうち寄与率から,「住民の気風」「町並みの美しさ」「治安の良さ」が大きな影響力をもっている。 第6章「計画理念に基づく計画の実践と住民意識との適合性」では,前章までの「計画」から「実践」,「評価」に関わる考察にもとづいて計画理念で示された「計画目標」と「住民の意識」の適合性について考察し,ニュータウン計画に適用される計画の原理と問題点を整理したうえで,その方法論とその限界について考察している。 第7章「本研究のまとめ(結論)」では,本論文の結論として,西神ニュータウンでの分析結果をふまえて,今後のニュータウン計画において,住み心地を高めていくための計画手法を提案している。最後に,これらの計画要素を含んだ,これからの魅力あるニュータウン計画の仕掛けのチャートを提案した。 |