炭素繊維複合材料(CFRP)は比強度・比剛性が特に優れているため、スポーツ・レジャーから航空・宇宙分野に至るまで活発に適用が試みられている。しかしながら、CFRPを構造部材として用いるとき、その材料本来の強度よりはるかに低い応力レベルで構造部材が破壊または使用に耐えなくなることがしばしばある。これは構造物に用いられるCFRP同士またはCFRPと金属といった接合部の強度が、構造物の強度を支配しているからである。また、積層材としてCFRPを用いた場合、面内の強度に比べて層間の強度が著しく低いため、層間破壊がCFRP構造物の破壊の主な原因の一つとなっている。CFRPの適用範囲の拡大とくに構造材への適用を考えるとき、安全性ならびに信頼性確保のため、このような材料特性を正しく評価することが重要である。 本論文は、接合部の材料特性として面圧強さをとりあげ、その実験的評価方法を詳細に検討し、つぎに層間破壊特性として層間破壊靱性をとりあげ、破壊力学的手法により新しい評価方法の提案・検討を行ったもので、緒言、PARTI、IIおよび総括により構成される。 「緒言」では、本研究の背景および概要について述べている。 PART 1「積層CFRPの面圧強さ」では、機械的継手の設計に必要な面圧強さの物理的意味合いを明らかにし、新たに物理的に意味のある面圧強さを定義・提言し、さらに種々の因子が面圧強さに及ぼす影響について論じている。すなわち、3種類の代表的な擬似等方性CFRPについてピン負荷試験を行い、CFRP積層板の破壊の様相と破壊進行のメカニズムについて検討し、荷重-ピン移動量曲線にみられる特徴と材料内部の物理現象とを対応させ、面圧強さ算出に最善な荷重レベルは、初期破損に対応したファーストピークであることを提案し、面内幾何学的パラメータが面圧強さおよび破壊モードに及ぼす影響について検討考察した。また、8種類の擬似等方性CFRPについてピン負荷試験を行い、面圧強さに及ぼす強化繊維の機械的特性の影響について検討考察した。 さらに、3種類の代表的な擬似等方性CFRPについてピン負荷試験を行い、面圧強さの板厚効果について検討し、ファーストピークおよび最大荷重それぞれに対応した面圧強さは、ピン穴寸法と板厚の比が増加するにつれ、緩やかに減少することを明らかにした。また、ボルト・ナット負荷試験を行い、面圧強さに及ぼすワッシャー径およびワッシャー締付け力の影響について検討し、ワッシャー締付け力の増加に伴いボルト面圧強さは、ピン負荷試験のそれらと比較し、2倍程度に上昇し、その上昇の度合いは材料内部の破壊メカニズムによりよく説明できることを明らかにした。 PART II「積層CFRPの層間破壊靱性」では、衝撃荷重下での層間破壊靱性評価を行うため、新たに中央切欠き曲げ(Center Notch Flexure:CNF)法を考案し、本試験法の妥当性を静的荷重下で評価した。すなわち、CNF試験法でエネルギー解放率を求めるために、異なった3つのアプローチを行いそれぞれの結果を比較検討した結果、3つの異なった手法で算出したエネルギー解放率は非常に良い一致を示し、さらにCNF試験法による破壊靱性値は従来の端面切欠き曲げ(End Notch Flexure:ENF)試験法で得られたものとよい一致を示した。これらのことから、新たに考案したCNF破壊試験法は、静的荷重下において材料のMode II層間破壊靱性値を与えることを明らかにした。次に特性が異なった樹脂システムについて本試験法の破壊試験としての妥当性を議論した。その結果、CFRP(CF/エポキシ)およびCFRTP(CF/PEEK)については、両試験法で得られた破壊靱性値はよい一致をし、インターリーフ入りCFRPについては、CNFの方がENFより小さな靱性値を与えるので、層間破壊靱性特性のより下限値に近いものを与える試験法であることが示された。 さらに新たに考案したCNF破壊試験法を用い、衝撃荷重下での層間破壊靱性を評価し、静的破壊靱性と比較、破壊靱性の負荷速度依存性について議論した。衝撃荷重下でのエネルギー解放率は、き裂進展開始に対応したもの、およびき裂進展開始から停止までの平均値の2種を評価した。 その結果、CFRTPにおいては、き裂進展開始から停止までのエネルギー解放率の平均の値は、き裂進展開始に対応したものより小さく、CFRPではほぼ両者は等しいことがわかった。これらのことは破面のSEM観察結果からよく説明できた。また静的試験結果との比較では、き裂進展開始に対応した破壊靱性は、CFRTPにおいては約30%、CFRPにおいては約20%減少した。これらの結果についても、破面のSEM観察結果からよく説明できることを明らかにした。 最後の「総括」は、本論文の成果を総括したものである。 以上を要するに、本論文では、CFRPの面圧強さおよび層間破壊特性の試験・評価法について詳細な検討を加え、その材料特性の合理的な新しい評価法を提案しており、工学とくに複合材料工学の発展に貢献するところが大きい。 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 |