学位論文要旨



No 212278
著者(漢字) 毎熊,宏則
著者(英字)
著者(カナ) マイクマ,ヒロノリ
標題(和) CFRP積層板の面圧強さおよび層間破壊靱性に関する研究
標題(洋) Study on Bearing Strength and Interlaminar Fracture Toughness of Laminated Carbon Fiber Composites
報告番号 212278
報告番号 乙12278
学位授与日 1995.04.14
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第12278号
研究科 工学系研究科
専攻 船舶海洋工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 金原,勲
 東京大学 教授 町田,進
 東京大学 教授 野本,敏治
 東京大学 助教授 影山,和郎
 東京大学 助教授 吉成,仁志
内容要旨

 高分子を母材とした繊維強化複合材料は、比強度(強度/比重)、比剛性(剛性/比重)が高い、耐食性に優れている等の理由から工業的に幅広く利用されている。とりわけ炭素繊維で強化した複合材料(CFRP)は比強度、比剛性が特に優れ、スポーツ・レジャーから航空・宇宙分野に至るまで活発に適用が試みられている。

 しかしながら、CFRPを構造部材として用いるとき、その材料本来の強度よりはるかに低い応力レベルで構造部材が破壊または使用に耐えなくなることを我々はしばしば経験している。これは構造物に用いられるCFRP同士またはCFRPと金属といった接合部の強度が、構造物の強度を支配しているからである。本材料の適用範囲の拡大とくに構造材への適用を考えたとき、安全性ならびに信頼性確保のため、接合部での材料特性を正しく評価することが必要である。また積層材としてCFRPを用いた場合、面内の強度に比べて層間の強度が著しく低いため、層間破壊がCFRP構造物の破壊の主な原因の一つとなっており、層間破壊靭性試験により、CFRP構造物の損傷許容の評価が試みられている。また成形中に生じたボイド、組立・検査時の工具落下によって生じた層間剥離が実働荷重下の様々な動的負荷により進展・拡大することが考えられ、CFRP部材はこのような動的負荷に弱いことから、動的荷重、特に衝撃荷重下での層間破壊特性を評価することは極めて重要なことである。

 しかしながら、これらは最も重要と考えられる特性であるにも係わらず、これらの評価および理解は未だ十分とはいえないのが現状である。そこで本論文では、接合部の材料特性として面圧強さをとりあげ、PARTIの中でこの特性を実験的に議論した。層間破壊特性としては層間破壊靭性をとりあげ、PART IIの中で破壊力学の手法を用いて議論した。以下章毎に内容を述べてゆく。

PART I

 第1章では緒論として、本研究PART Iの背景ならびに目的について述べる。

 第2章では機械的継手の設計に必要な面圧強さの物理的意味合いを明かにし、新たに物理的に意味のある面圧強さを定義・提言し、さらに種々の因子が面圧強さに及ぼす影響について議論する。第2章2節では3種類の代表的な擬似等方性CFRP、すなわちPAN系高強度CFRP、PAN系高弾性CFRPおよびPitch系高弾性CFRPについてピン負荷試験を行ない、CFRP積層板の破壊の様相と破壊進行のメカニズムについて検討し、荷重-ピン移動量曲線にみられる特徴と材料内部の物理現象とを対応させ、面圧強さ算出に最善な荷重レベルは、初期破損に対応したファーストピークであることを提案した。

 第2章3節では3種類の代表的な擬似等方性CFRPについてピン負荷試験を行ない、面内幾何学的パラメータが面圧強さおよび破壊モードに及ぼす影響について検討考察した。その結果、3種の供試材では面圧強さ測定のためには円孔中心から端までの距離は穴径の3倍程度、試験片輻は4倍程度、それぞれ必要であることを明かにした。

 第2章4節では8種類の擬似等方性CFRPについてピン負荷試験を行ない、面圧強さに及ぼす強化繊維の機械的特性の影響について検討考察した。その結果、以下のことがらを明らかにした。面圧強さは一方向材圧縮強度及び強化繊維の破断伸びと正の相関関係が、また繊維縦弾性係数とは負の相関関係が認められた。しかしながら繊維引張強度との相関は認められなかった。

 第2章5節では3種類の代表的な擬似等方性CFRPについてピン負荷試験を行ない、面圧強さの板厚効果について検討し、3種の供試材において、ファーストピークおよび最大荷重それぞれに対応した面圧強さは、ピン穴寸法と板厚の比が増加するにつれ、緩やかに減少することを明らかにした。

 第3章では3種類の代表的な擬似等方性CFRPについてボルト・ナット負荷試験を行ない、面圧強さ(ボルト面圧強さ)に及ぼすワッシャー径およびワッシャー締付け力の影響について検討した。その結果以下のことがらを明らかにした。ワッシャー締付け力の増加に伴いボルト面圧強さは上昇し、非線形開始荷重および最大荷重それぞれに対応したボルト面圧強さは、ピン負荷試験のそれらと比較し、2倍程度に上昇した。また上昇の度合いがPAN系およびPitch系CFRPで異なるが、これは材料内部の破壊進行メカニズムでよく説明できることを明かにした。

 以上PART Iでは、これまで物理的意味合いが不明瞭であった面圧強さについて、初期破損という物理現象に対応した面圧強さを定義・提案した。

PART II

 第1章では緒論として、本研究PART IIの背景ならびに目的について述べる。

 第2章では衝繋荷重下での層間破壊靭性評価を行なうため、新たに破壊試験法(CNF:Ceneter Notch Flexural)を考案し、本試験法の妥当性を静的荷重下で評価した結果について述べる。第2章2節では試験片の準備、実験方法およびデータ整理法について述べる。

 第2章3節では結果および考察を述べる。CNF試験法でエネルギー解放率を求めるために、異なった3つのアプローチを行ないそれぞれの結果を比較検討した。すなわち、(1)き裂長さの異なる試験片を準備し、コンプライアンスとき裂長さの関係を実験的に求め、この関係式を用いてエネルギー解放率を算出する実験的手法(2)コンプライアンスとき裂長さの関係を解析的に求め、この関係式を用いてエネルギー解放率を算出する解析的手法(3)Irwinの主張に基づきエネルギー解放率を有限要素法により算出する計算的手法、である。その結果、3つの異なった手法で算出したエネルギー解放率は非常に良い一致をし、さらにCNF試験法による破壊靭性値は従来法のENF(ENF:End Notch Flexural)試験法で得られたものとよい一致をした。これらのことから、新たに考案したCNF破壊試験法は、静的荷重下において材料のMode II層間破壊靭性値を与えることを明らかにした。次に特性が異なった樹脂システムについて本試験法の破壊試験としての妥当性を議論した。その結果、CFRP(CF/エポキシ)およびCFRTP(CF/PEEK)については、両試験法で得られた破壊靭性値はよい一致をし、インターリーフ入りCFRPについては、CNFの方がENFより小さな靭性値を与えることがわかった。破壊様相の違いからこれらの説明を試みるため、破面の電子顕微鏡観察を行った。その結果、インターリーフ入りCFRPについては破壊様相では破壊靭性の違いを説明できなかったが、CFRPについては破壊様相の違いにより破壊靭性の結果をよく説明できることを明らかにした。

 第3章では、新たに考案したCNF破壊試験法を用い、衝撃荷重下での層間破壊靭性を評価し、静的破壊靭性と比較、破壊靭性の負荷速度依存性について議論する。第3章2節では試験片の準備、実験方法およびデータ整理法について述べる。

 第3章3節では結果および考察を述べる。衝撃荷重下でのエネルギー解放率は、き裂進展開始に対応したもの、およびき裂進展開始から停止までの平均値の2種を評価した。き裂進展開始に対応したものは(1)コンプライアンスとき裂長さの関係を解析的に求め、この関係式を用いてエネルギー解放率を算出する解析的手法(2)Irwinの主張に基づき破壊靭性を有限要素法により算出する計算的手法、により求めた。き裂進展開始から停止までの平均値は、計装落重衝撃試験機を用いて実験的に求めた。供試材科は、母材の樹脂特性が脆性なCFRP(CF/エポキシ)および延性なCFRTP(CF/PEEK)2種を用いた。

 その結果、CFRTPにおいては、き裂進展開始から停止までののエネルギー解放率の平均の値は、き裂進展開始に対応したものより小さく、CFRPではほぼ両者は等しいことがわかった。これらのことは破面のSEM観察結果からよく説明できた。また静的試験結果との比較では、き裂進展開始に対応した破壊靭性は、CFRTPにおいては約30%、CFRPにおいては約20%減少した。これらの結果についても、破面のSEM観察結果からよく説明できることを明かにした。

 以上PART IIでは、CNF試験法を新たに考案、層間破壊特性の評価法として確立し、負荷速度の増加に伴い、層間破壊靭性は減少することを明らかにした。

 以上

審査要旨

 炭素繊維複合材料(CFRP)は比強度・比剛性が特に優れているため、スポーツ・レジャーから航空・宇宙分野に至るまで活発に適用が試みられている。しかしながら、CFRPを構造部材として用いるとき、その材料本来の強度よりはるかに低い応力レベルで構造部材が破壊または使用に耐えなくなることがしばしばある。これは構造物に用いられるCFRP同士またはCFRPと金属といった接合部の強度が、構造物の強度を支配しているからである。また、積層材としてCFRPを用いた場合、面内の強度に比べて層間の強度が著しく低いため、層間破壊がCFRP構造物の破壊の主な原因の一つとなっている。CFRPの適用範囲の拡大とくに構造材への適用を考えるとき、安全性ならびに信頼性確保のため、このような材料特性を正しく評価することが重要である。

 本論文は、接合部の材料特性として面圧強さをとりあげ、その実験的評価方法を詳細に検討し、つぎに層間破壊特性として層間破壊靱性をとりあげ、破壊力学的手法により新しい評価方法の提案・検討を行ったもので、緒言、PARTI、IIおよび総括により構成される。

 「緒言」では、本研究の背景および概要について述べている。

 PART 1「積層CFRPの面圧強さ」では、機械的継手の設計に必要な面圧強さの物理的意味合いを明らかにし、新たに物理的に意味のある面圧強さを定義・提言し、さらに種々の因子が面圧強さに及ぼす影響について論じている。すなわち、3種類の代表的な擬似等方性CFRPについてピン負荷試験を行い、CFRP積層板の破壊の様相と破壊進行のメカニズムについて検討し、荷重-ピン移動量曲線にみられる特徴と材料内部の物理現象とを対応させ、面圧強さ算出に最善な荷重レベルは、初期破損に対応したファーストピークであることを提案し、面内幾何学的パラメータが面圧強さおよび破壊モードに及ぼす影響について検討考察した。また、8種類の擬似等方性CFRPについてピン負荷試験を行い、面圧強さに及ぼす強化繊維の機械的特性の影響について検討考察した。

 さらに、3種類の代表的な擬似等方性CFRPについてピン負荷試験を行い、面圧強さの板厚効果について検討し、ファーストピークおよび最大荷重それぞれに対応した面圧強さは、ピン穴寸法と板厚の比が増加するにつれ、緩やかに減少することを明らかにした。また、ボルト・ナット負荷試験を行い、面圧強さに及ぼすワッシャー径およびワッシャー締付け力の影響について検討し、ワッシャー締付け力の増加に伴いボルト面圧強さは、ピン負荷試験のそれらと比較し、2倍程度に上昇し、その上昇の度合いは材料内部の破壊メカニズムによりよく説明できることを明らかにした。

 PART II「積層CFRPの層間破壊靱性」では、衝撃荷重下での層間破壊靱性評価を行うため、新たに中央切欠き曲げ(Center Notch Flexure:CNF)法を考案し、本試験法の妥当性を静的荷重下で評価した。すなわち、CNF試験法でエネルギー解放率を求めるために、異なった3つのアプローチを行いそれぞれの結果を比較検討した結果、3つの異なった手法で算出したエネルギー解放率は非常に良い一致を示し、さらにCNF試験法による破壊靱性値は従来の端面切欠き曲げ(End Notch Flexure:ENF)試験法で得られたものとよい一致を示した。これらのことから、新たに考案したCNF破壊試験法は、静的荷重下において材料のMode II層間破壊靱性値を与えることを明らかにした。次に特性が異なった樹脂システムについて本試験法の破壊試験としての妥当性を議論した。その結果、CFRP(CF/エポキシ)およびCFRTP(CF/PEEK)については、両試験法で得られた破壊靱性値はよい一致をし、インターリーフ入りCFRPについては、CNFの方がENFより小さな靱性値を与えるので、層間破壊靱性特性のより下限値に近いものを与える試験法であることが示された。

 さらに新たに考案したCNF破壊試験法を用い、衝撃荷重下での層間破壊靱性を評価し、静的破壊靱性と比較、破壊靱性の負荷速度依存性について議論した。衝撃荷重下でのエネルギー解放率は、き裂進展開始に対応したもの、およびき裂進展開始から停止までの平均値の2種を評価した。

 その結果、CFRTPにおいては、き裂進展開始から停止までのエネルギー解放率の平均の値は、き裂進展開始に対応したものより小さく、CFRPではほぼ両者は等しいことがわかった。これらのことは破面のSEM観察結果からよく説明できた。また静的試験結果との比較では、き裂進展開始に対応した破壊靱性は、CFRTPにおいては約30%、CFRPにおいては約20%減少した。これらの結果についても、破面のSEM観察結果からよく説明できることを明らかにした。

 最後の「総括」は、本論文の成果を総括したものである。

 以上を要するに、本論文では、CFRPの面圧強さおよび層間破壊特性の試験・評価法について詳細な検討を加え、その材料特性の合理的な新しい評価法を提案しており、工学とくに複合材料工学の発展に貢献するところが大きい。

 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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