本研究は、拒絶反応ならびに移植片対宿主反応Graft versus Host reaction(GvHR)が起こり得る同種異系腸管移植後の移植免疫寛容の機構を明らかにするため、ラット同種全腸管移植モデルの系を用いて、移植後成立したホスト末梢血ドナーリンパ球のChimerismの変化とホストのドナー抗原に対する細胞性免疫能の解析を試みたものであり、下記の結果を得ている。 1.フローサイトメトリーを用いた解析の結果、免疫抑制剤FK506の短期投与下での同種異系腸管移植にともないホスト内にドナーに由来するリンパ球Chimerismが成立した。しかし、このChimerismは永久には存続するものではなく、Fully allogeneic modelでは10週以内に、Semiallogeneic modelでは12週以内に消失した。一方、Semiallogeneic modelに成立したリンパ球Chimerismの程度はFully allogeneic modelの約2倍であった。この現象は、F1ドナー細胞がFully allogeneic細胞に比べ明らかにホスト内に定着しやすいことを示唆している。 2.永久的Chimerismを得る目的で同種腸管移植とともに行った同種骨髄移植は免疫抑制剤FK506の短期使用の条件下では、数週間のChimerismの延長をもたらすのみであり、永久的Chimerismを獲得するためには更なる工夫の必要なことが示唆された。 3.Chimerismの成立時期に一致してGvH活性からみたホストの細胞性免疫能はドナー特異的低反応状態であり、一時的にではあるが安定した寛容状態にあることが示唆された。 4.Chimerismの消失の時期に一致して同種腸管移植ラットは拒絶反応のためと考えられる一時的な体重減少を経た後、安定した体重増加傾向を示した。このことはChimerismを維持していた免疫寛容状態が破綻した結果引き起こされたと考えられた。 5.経時的なGvH活性の検討により、同種腸管移植ラットはChimerismの消失後次第にドナー抗原に対する細胞性免疫能を回復することが確認された。しかし、長期生存ラットのドナー抗原に対する細胞性免疫能は完全に正常レベルまで回復するものではなく、若干の低反応状態を示す傾向にあることが示された。 6.長期生存した極めて安定した同種腸管移植ラットは同時にドナー特異的に移植心に対する移植免疫寛容を示した。養子受動免疫移入法により、この移植心に対する移植免疫寛容は腸管移植ラットの再循環プール中に存在するSuppressorT細胞の働きを必要とすることが示唆された。 7.さらにSuppressorT細胞のsubsetとして、Fully allogeneic modelではCD4+細胞分画のみのSuppressorT細胞が、Semiallogeneic modelではCD4+・CD8+両細胞分画のSuppressorT細胞の存在が示された。 以上、本論文はラット同種同所性全腸管移植モデルにおいて、ホストリンパ球の解析により、同種腸管移植免疫寛容は移植後早期にはリンパ球Chimerismを成立せしめる機能的Clonal deletion・Clonal anergy状態であり、この機構の破綻の後はSuppressorT細胞により維持されていることを示唆した。本研究はこれまで明かでなかった同種腸管移植後のChimerismの変化とSuppressorT細胞の存在を示し、移植医療に重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。 |