本研究は慢性喘息をはじめ種々の慢性炎症性疾患において増加しているマスト細胞が、Fc RIを介する系とは独立して作用する因子によって活性化される可能性を明らかにする目的で行われた。活性化の指標としてヒスタミン遊離反応、LTC4/D4/E4遊離反応を用い、各種サイトカインがマウス腹腔マスト細胞、ラット腹腔マスト細胞、ヒト肺マスト細胞の活性化因子であるか否かを検討し、下記の結果を得ている。 1.マウス(m)recombinant(r)IL-3はphosphatidylserine(PTS)存在下にて濃度依存性にマウス腹腔マスト細胞からヒスタミン遊離を惹起し、IL-3がマウスマスト細胞の活性化因子であることが示された。低濃度IL-3は抗IgEによるヒスタミン遊離に対しプライミング作用を示さなかった。ヒト(h)rIL-1 ,hrIL-1 ,mrIL-4,mrIL-5,mrGM-CSFはヒスタミン遊離作用、プライミング作用を示さず、IL-4はIL-3によるヒスタミン遊離に対しプライミング作用を示さなかった。 2.ラットrSCFはPTS存在下において濃度依存性にラット腹腔マスト細胞からヒスタミン遊離を惹起し、SCFがラットマスト細胞の活性化因子であることが示された。低濃度SCFは抗IgE刺激による遊離に対しプライミング作用を示さなかった。 3.ヒトrSCFは健常人およびアトビー型気管支喘息患者の好塩基球に対しヒスタミン遊離作用、プライミング作用を示さなかった。 4.ヒトrSCFはヒト酵素処理肺マスト細胞から濃度依存性、温度依存性、細胞外Ca2+依存性にヒスタミンを遊離し、SCFがヒトマスト細胞の活性化因子であることが示された。この反応は乳酸溶液で細胞表面IgEを剥がしたヒト肺マスト細胞、未酵素処理の細片化肺組織においても認められ、Fc RIを介する可能性、酵素処理が反応性を変化させる可能性は否定的であった。低濃度SCFは抗IgEによるヒスタミン遊離に対しプライミング効果を認めた。ヒトrIL-1 ,hrIL-1 ,hr-IL-3,hrIL-4,hrIL-5,hrGM-CSF,hrMCAF,hrRANTES,hrIL-3とhrIL-4の組み合わせはヒスタミン遊離作用、プライミング作用を示さなかった。SCFはヒト肺マスト細胞からのLTC4/D4/E4遊離を惹起せず、低濃度SCFは抗IgE刺激によるLTC4/D4/E4遊離に対しプライミング作用を示した。 5.SCFによるヒト肺マスト細胞からの化学伝達物質遊離が増殖信号と同じくtyrosine kinaseを介するかどうかをPTK阻害薬(genistein,herbimycin A)を用い検討した。genisteinはIC50、最大抑制率からみて抗IgE刺激によるヒスタミン遊離に対するよりSCF刺激によるヒスタミン遊離に対して強い抑制効果を示し、SCF刺激によるヒスタミン遊離反応はtyrosine kinaseと強い関連があることが示唆された。また、herbimycin A、PKC阻害薬(calphostin C,staurosporine,K-252a)は両遊離反応の抑制に差を認めなかった。 以上、本論文はマスト細胞の活性化因子として、齧歯類ではIL-3,SCF、ヒトではSCFの存在を明らかにした。本研究は遅発型アレルギー反応を含むアレルギー性炎症において、さらには慢性炎症性疾患においてマスト細胞の活性化が起こっている可能性を示し、マスト細胞の役割の解明に重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。 |