中国地方の中山間地帯に造成された大型開発ブドウ園はもともと粘質土壌地帯にあり、造成に伴って瘠薄で土壌構造の未発達な心土が表土になる部分も生じているところである。そのため、造成時に栽植列暗渠や堆肥投入などの通常の土壌改良はなされているが、目標収量の達成が遅れ経営内容が悪い。これは、このような不良土壌を改善するに十分な技術が未だ確立されていないため、健全な樹体が作れないことに原因がある。本研究はこのような瘠薄な心土出現や粘質で排水不良な土壌に対応した土壌改良の技術を確立するとともに、土壌と樹体の経年変化に適応した栽培管理技術の確立を目指したもので、4章よりなる。 第1章では現地で安定して大量に入手できる樹皮を堆肥化し、合理的施用方法による粘質土壌の物理性の改良を図った。樹皮の堆肥化試験を実施し、樹皮堆肥の腐熟に必要な添加窒素は、樹皮1,000g当たり尿素と乾燥鶏糞で5kgずつとすることで十分なことを明らかにした。土壌改良作業は、掘削(幅50cm、深さ50cmの条溝)、樹皮堆肥施用、混和、埋め戻しの4行程で、1年に50cmずつ改良範囲を樹幹の両側へ広げ4年間で改良を終えるようにした。土壌1m3当たり0〜600kgの樹皮堆肥施用量試験を実施し、改良効果をあげるには、土壌1m3当たりの樹皮堆肥混和量として、100kgが必要最小量であること、また、この改良方式では1アール当たり1年に改良を要する土壌は5m3なので、必要な堆肥の量は年間500kg/aとなることを明らかにした。 第2章では樹皮堆肥による土壌改良効果の持続性に関して、改良効果の過程と改良資材としての樹皮堆肥の特性を明らかにするとともに、踏圧の影響を回避し、改良効果を長期に持続させる要件を示した。土壌固相率の低下や透水性の上昇に現われた土壌改良効果は、改良後2〜3年で一度減退し、その後再び発現する遷移を示した。この原因として、樹皮堆肥が物理的混和の状態から土壌になじむ過程での構造の発達が関係していることを土壌の微細構造の調査から示した。土壌改良後の経過年数が土壌微生物相に影響しており、改良歴が古いほどB/F値が高くなるのは細菌の増加よりむしろ糸状菌の減少が主要因であることを示した。土壌1m3当たり100kgの樹皮堆肥の混和と1m3当たり1.8kgの敷草の施用は機械踏圧の影響を緩和し、硬盤の形成を抑制する効果があり、特に硬盤が形成されやすい表層土壌(0〜10cm)で、その効果の大きいことを明らかにした。 第3章では土壌改良によるブドウ樹の収量・品質の向上に関する研究を行った。臭素を用いた根活力分布検診法により土壌改良効果のブドウ樹への影響を検討し、土壌改良による根の変化は根量よりも根の分布状態に現われ、根が広く深く均一に分布するようになるとともに、根活力の分布も広範になり、肥料施用効果が高まることを明らかにした。また改良歴3年の範囲では古い条溝ほど根活力が高まり分布が広範になることから、改良効果はその年のうちにはあまりブドウ樹に現われないで年数を経るに従って効果の現われることが示された。その理由としては根活力分布が年数を経るに従って高まり広がるためであることが示唆された。土壌改良の地上部への効果は3年目から発現し、樹冠を拡大し、房数を増加し、結果として収量増加をもたらした。しかし、果実品質に対しては、糖度を低下させるなど、必ずしもプラスの効果をもたらさなかった。 第4章では健全な樹体の維持と果実品質の向上を図るため、第3章の根活力分布検診の知見から、中耕の意義を見直すとともに局所改良・局所施肥を検討した。断根を伴う表層10cm深の通常の中耕に較べ、3〜5cmの浅い中耕は根量を増加し、果実の糖含量や果色値を高めることが認められた。条溝改良を4年間継続した1樹の根域はおよそ50m2で、樹冠面積100m2の二分の一を改良したことになる。この領域の中に4m2の局所改良部分を設定し、その領域に局所施肥を行い、根活力分布を高く維持することによって、1粒重、果色値、糖含量の向上に成功した。 以上、本研究は開発果樹園土壌の物理性改善には尿素と鶏糞と混合して発酵腐熟した樹皮堆肥を土壌1m3当たり100〜200kg混和することが有効で、その効果を評価するためには3年間の経過が必要なことを明らかにしたものである。この技術はその後造成された開発果樹園や再開発園に適用され効果が認められており学術上、応用上貢献するところが少なくない。よって審査員一同は、博士(農学)を授与するに価するものと認めた。 |