学位論文要旨



No 212324
著者(漢字) 金,正大
著者(英字)
著者(カナ) キム,チョンデイ
標題(和) 韓国と日本におけるリゾート開発に関する比較研究
標題(洋)
報告番号 212324
報告番号 乙12324
学位授与日 1995.05.08
学位種別 論文博士
学位種類 博士(農学)
学位記番号 第12324号
研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 熊谷,洋一
 東京大学 教授 井手,久登
 東京大学 助教授 武内,和彦
 東京大学 助教授 下村,彰男
 東京大学 講師 斎藤,馨
内容要旨

 本研究は韓国におけるリゾートの開発過程を明らかにするとともに、韓日両国のリゾートの開発を比較して両者の相違点を明らかにし、韓国のリゾート開発の今後のあり方を考察するものである.

 韓国でも、ここ20年間ぐらい、ウォーカーヒルや龍平リゾートに代表される大規模リゾート開発が盛んに行われてきた.ウォーカーヒルは戦後における韓国での最初のリゾートホテル団地として、龍平リゾートは韓国での四季型の総合休養地の一つのモデルになったともいわれるように、両者のリゾート開発の発展過程は全国的に注目されてきた.しかし、これらのリゾート開発は、単にスケールメリットのみを目指す開発拡大を図ってきており、今後のリゾート開発に関して疑問点が数多く残されている.

 特に、民間の大規模リゾート開発については、少なくとも利用料の面では長期滞在型には向いていないし、施設構成もホテルやコテージおよびコンドミニアムなどの宿泊施設の周りにスキー場、ゴルフ場、テニスコート、プールがあるといったワンパターン化された構成である.このような趨勢は多様化するレジャー志向に対応できるものではなく、また地域との関わり合いも弱く、地域住民の生活文化の向上につながるようなリゾート開発として成熟していないのが現状である.

 しかしながら、21世紀の韓国の発展を担う重要な鍵の一つがリゾート開発であることも事実である.したがって韓国における今後のリゾート開発のあり方を考えるにあたっては、リゾート開発がどのように発達して今日に至ってきたのか、さらに代表的な開発事例であるウォーカーヒルと龍平リゾートが果たしてきた役割を、歴史的に見極めることが必要である.

 一方、日本は現在では世界で上位のリゾート保有国であり、様々な形態のリゾートが作られている.日本においては総合保養地域整備法(リゾート法)以来全国的にリゾート開発の整備・計画が推進されているが、最近のリゾート開発方式は様々な批判を浴びている.この中で、苗場スキーリゾートは、当初のスキー需要に合わせて日帰り型スキー場でスタートし、宿泊型を経て今日の高級指向的性格を備えたリゾート型になるまで約30年の歳月を要している.この時代に合わせたモデルチェンジの動きは今後の韓国のリゾート開発に参考になることが多いと考えられる.以上の認識のもとに、本研究では韓国のリゾートの発展過程を調べ、韓日の比較検討を行った.

 第1章では、リゾート開発について、研究の経緯や背景、既存研究の概要などを論ずるとともに、研究のアプローチおよび方法論を計画的な観点から整理することによって、下記の2点の目的を明らかにした.

 (1)韓国の観光・リゾートの史的展開について時代区分を行い、各時代の特徴と国の政策との関連について論及すると同時に、代表的・象徴的な事例としてウォーカーヒルと龍平リゾートの開発過程を詳細に検討することを通して、韓国のリゾート開発の発展過程を明らかにする.

 (2)韓国と日本のリゾート開発の比較、特に事例として両国のスキーリゾートの開発を比較すると同時に、その背景としての観光の実態と志向に関する諸データの比較を通して韓国のリゾート開発の特徴を明らかにする.

 第2章では、韓国における観光・リゾートの史的展開について、次のような時代区分を行い、各時代の特徴を論及し、さらに韓国におけるリゾート開発の特徴を整理した.

 I.胎動期(1950年代):観光政策の萌芽の時代

 II.成立期(1960年代):観光政策の基盤整備の時代

 III.展開期(1970年代):画期的発展の時代

 IV.発展期(1980年代):成長と進路の時代

 各時代の歴史的な展開過程の特徴をみると、1950年代には、観光行政組織の胎動と外貨獲得産業としての認識の出現が認められた.1960年代の特徴としては、観光・リゾートの基盤条件の整備と関係法規の制定および観光行政組織の新設・拡大の二つが認められた.1970年代は、観光・リゾートの産業化を促進するための観光・リゾート関連法規の改編・補完と国民観光のための条件整備が行われてきた.1980年代の特徴としては、全国土空間の観光・リゾートの生活圏化と健全な国民観光の条件整備が整ってきたことが明らかになった.

 ウォーカーヒルの成立と展開については、これまでリゾート開発史としてとらえたものはなかったが、今回の研究を通じて、戦後のリゾート開発における韓国政府の国家政策の一環として外貨獲得など、開発途上の国家経済成長に大きく貢献したことが明らかになった.ウォーカーヒルは観光・リゾートの政策と深く関わって発展してきており、戦後におけるリゾート開発の先駆的な役割を果たしたことが認められた.特に、韓国のリゾート開発におけるウォーカーヒルが果たしたリゾートライフの普及はかなり強力な影響を及ぼしてきたものと考察された.

 龍平リゾートの開発過程の最大の特徴としては、スキーリゾートに関する国民の需要喚起と大衆化を促し、韓国冬季スポーツの発展と国際観光中心の開発事業の推進など、政府の国家戦略と深く結びついて、展開されてきた点が明らかになった.日本における観光地やリゾート開発の展開に較べると一民間企業の施設としては国家戦略との結びつきが非常に強い点が認められた.

 第3章では、韓日両国におけるスキーリゾートを事例として取り上げ、観光の実態や志向に関する諸データ、および龍平リゾートと苗場スキーリゾートの開発の比較を通して、両国の相違点について次の点を明らかにした.

 (1)韓日両国の観光動向の比較を通じて、宿泊観光への参加率は30%に過ぎず、50%を越えている日本に比して低い水準にあり、その目的もその中心が、動的なレクリエーションや自己実現の活動へと移行している日本に比べ、受動的な見物型が多くを占めること、そして交通面に関してもインフラ整備に課題を残していることが明らかとなった.韓国は日本に比べて観光の歴史が浅く、リゾート開発を促進するためには、需要の喚起や基盤の整備が大きな課題であると考察された.したがって、韓国は飛躍的な発展を果たしながら国民観光に対する関心が高まっている段階で、日本は全体的な傾向として多様化していることが考察された.

 (2)スキーリゾートを事例とした韓日比較からは、韓国のリゾート開発が日本に比して、促進地域としての指定や施設整備への補助など、国策による支援を受けて進められてきたこと、そして比較的初期の段階から施設の複合化を図り、一括展開を指向してきたことが明らかとなった.これは韓国のリゾート開発が、外貨獲得と観光振興という国家戦略の一環として位置づけられること、そして国内のリゾート需要が日本ほど大衆化しておらず、高級化が指向されているためであると考えられる.

 また、韓日両国のリゾート開発は、オリンピックとEXPOという同様な時代的背景によって活発に展開してきている点で共通する点が認められた.リゾートに強く関連する高速交通体系の整備が進んできたのは、概ねオリンピックを前後にして行われたことも共通点として挙げられた.

 これらの研究成果から今後の韓国のリゾート開発のあり方を展望すると、これからの韓国の社会は、質的に高水準のものを求める成熟社会へと確実に変化していくと考えられる.現時点での韓国のリゾートも比較的高級な空間、施設づくりが指向されている.しかしながら、これからは一部上流の人々に応える高料金で贅沢な施設ではなく、高質なリゾート体験を、多様で幅広い層に提供できる空間が求められていると考えられる.国土計画や地域振興の視点を含めた、高度のリゾート体験を多くの人々に提供すると同時に、自然環境の保全などをも視野に入れた良質なナショナルリゾートの開発を推進する必要があると考察された.

審査要旨

 観光レクリエーション計画においては,自然環境と調和し,地域と共生するリゾート開発のありかたは重要なテーマである。特に欧米追従型のリゾートが増加しているアジア地域においては,地域の風土,歴史,文化および社会環境にふさわしいリゾートな再考する時期にきている。そして,現在,リゾートが引き起こしている様々な問題の解決のためにも,適切な開発の計画方法論を,早急に構築していく必要がある。

 本論文では,韓国と日本のリゾート開発について,その開発過程に重点をおいて比較検討し,望ましいリゾート開発計画のための基礎的研究を試みたものである。

 論文は4章から構成されている。

 第1章では,研究の背景と目的,対象,方法について述べている。目的は以下の2点に集約される。

 (1)韓国の観光リゾートの史的展開について時代区分を行い,各時代の特徴と政策との関連について考察すると同時に,代表的・象徴的なリゾート地を事例としてとりあげ,その開発過程を具体的に検討し,リゾート開発の発展過程を明らかにする。

 (2)韓国と日本のスキーリゾートの開発を比較し.さらに両国の観光の実態と志向を比較することによってのリゾート開発の背景と特徴を明らかにする。

 第2章では,韓国における観光リゾート開発の発展過程な「胎動期(1950年代)」「成立期(1960年代)」「展開期(1970年代)」「発展期(1980年代)」の4期に時代区分が出来ることを明らかにし,その発展過程は,韓国の観光政策の展開と強く結びついている点を論証している。次に,ケーススタディとして,胎動・成立期の都市型リゾートである「ウォーカヒル」と展開・成立期にあたり山岳型の「龍平」のふたつのリゾートをとりあげ,それぞれの開発過程を詳細に調べている。その結果,ウォーカヒルの成立と展開は,政府の国家政策の一環としての外貨獲得など,開発途上の国家経済成長に大きく貢献し,戦後のリゾート開発の先駆的な役割を果たしたことを明らかにしている。龍平リゾートについては,韓国におけるスキーリゾートに対する国民の需要喚起と大衆化を促し,一民間企業でありながら.冬季スポーツと国際観光中心の開発事業は.政府の国家戦略と深く関わって進展してきている点を具体的データに基づいて実証している。

 第3章では,韓国と日本のリゾート開発の比較検討を試みている。まず,リゾート開発を規定していると考えられる背景の分析として,両国の観光動向の比較を行っている。その結果,韓国の宿泊観光率は,日本より低水準にあり,観光目的も受動的であることを統計データをもとに明らかにし,リゾート開発の促進には,未だ需要の喚起や基盤整備が重要である韓国に比較して.日本では,リゾートそのものが多様化しつつあることに論究している。また,両国のリゾート開発は,20年以上の時代的差はあるものの,それぞれの国が誘致開催したアジア大会,オリンピック,万博を契機として飛躍的に発展してきた共通点を観光統計データの分析により明らかにしている。そして,現在の韓国リゾートの大部分が,スキー場な中心とした開発であることに着目し,両国の具体的な比較検討対象として,「龍平リゾート」(韓国)と「苗場スキーリゾート」(日本)を設定して,両国の開発過程の分析を行っている。その結果,龍平リゾート開発が,日本に比較して,促進地域としての指定や施設整備への補助など,国策による支援を受けて進められてきたこと,比較的初期の段階から施設の複合化を図り,各種施設を一括展開してきている特徴を明らかにしている。そして,新しいスキー中心の複合型リゾートでありながら先駆的都市型ウオーカヒルと同じように,外貨獲得と観光振興という国家戦略の一環として位置づけられること,さらに国内でのリゾート需要が日本に比較して大衆化しておらず,一部階層および外国人をターゲットとした高級化を指向している点が特徴的であることな指摘している。

 第4章においては,結論を整理している。

 以上本論文は,いままで韓国では,試みてこられてこなかった史的展開を明らかにする方法論にもとづき,リゾート開発を分析考察したものであり,問題意識,目的設定の適切さとともに,研究のオリジナリティが高いものと評価できる。そして,申請者が試みた韓国と日本の比較検討による結果は,有益な結論を導出することに成功しており,得られた知見は今後の韓国のリゾート開発計画に資する点が少なくないものと考えられる。したがって学術上,応用上貢献することが少なくないものと考え,審査員一同は,本論文が博士(農学)の学位を授与する論文に値するものと判定した。

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