学位論文要旨



No 212347
著者(漢字) 天野,博
著者(英字)
著者(カナ) アマノ,ヒロシ
標題(和) 反射法地震探査における新しいデータ処理法について
標題(洋) New methods for the data processing in seismic reflection survey
報告番号 212347
報告番号 乙12347
学位授与日 1995.05.22
学位種別 論文博士
学位種類 博士(理学)
学位記番号 第12347号
研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 笠原,順三
 東京大学 助教授 山下,輝夫
 東京大学 助教授 岩崎,貴哉
 東京大学 教授 木下,肇
 東京大学 助教授 六川,修一
内容要旨

 反射法地震探査は、特に石油・天然ガス等の貯留形態や微細な断層構造等を詳細に調べるために広く用いられてきており、データ取得法ならびに処理法の違いにより、大きく「地表地震探査」および「坑井を利用した地震探査-VSP(Vertical Seismic Profile)探査」に分類される。いずれの手法においても、人工的な震源として地表近傍または海面近傍においてダイナマイトあるいはエアガン等を用いて発生させた弾性波が地下の地層境界面において反射してくる波動を用いるが、前者では地表または海面近傍に展開した受振器で観測し、数キロメートル以上の2次元的な測線や数十平方キロメートル以上の3次元的なエリアに沿って広い範囲に地下構造を把握するのに対して、後者では受振器を坑井内に設置することから、その適用範囲は坑井近傍に限られるものの、じょう乱が少なく良好な反射波を捉えることが可能である。

 本研究では、これらの「地表地震探査」および「VSP探査」において観測される波動場をそれぞれ近似的に表す表現式を作成し、これらの探査に際して障害となる表面波および変換S波等のコヒーレント・ノイズを隣合った3〜5本のトレース・データのみを用いて除去し、地下深部からの反射波のみを抽出するための新しい解析的な手法を開発した。また、本研究では、こうした新しい手法を多くの合成地震記録およびフィールド・データへ適用し、他の手法と比較することによりその有効性を調べた。その一例を次ページに示す。この調査は、ダイナマイトを震源とした測線長が約35kmの地表地震探査データ(測線長:約3.5km)であり、縦軸および横軸はそれぞれ往復走時(単位:秒)およびCDP番号(CDP間隔:12.5m)である。左図は相対振幅を保存するようにデータ処理を行って作成した通常の重合断面であるが、特に右下がりの顕著なコヒーレント・ノイズ(これは、屈折反射波と推測される)が卓越し、往復走時で1.2秒以深の反射面が乱され、その形態が把握しにくくなっている。そこで、本研究で開発した隣合った3本のトレース・データのみを用いる手法を用いてこのコヒーレント・ノイズを除去した一例を右図に示した。特に、CDP番号200の往復走時で1.4秒付近に頂部をもつ背斜構造や測線全体を通じて往復走時で4.0〜4.5秒付近に見られる顕著な反射面(この反射面はグリーン・タフの頂部と考えられる)が明瞭に把握できるようになった。また、所望の反射波の波形の歪みはほとんど無いことがわかる。

図表

 このように、本研究において開発した手法では、「地表地震探査」および「VSP探査」において障害となる表面波および変換S波等のコヒーレント・ノイズを除去することができ、地下深部からの反射波のみを波形の歪みをほとんど無いまま抽出することができる。また、本手法では、極めて高速に数値計算を行うことが可能であり、電子計算機のクロックの精度に依存するが単なるデータのコピーとほぼ同程度の計算速度を有する。

審査要旨

 本論文は5章と付録からなり、第1章は概論、第2章はVSP(垂直地震探査)におけるP、S波の分離、第3章は反射法地震探査におけるコヒーレント雑音の除去、第4章は3本の記録を用いて反射法探査におけるコヒーレント雑音の除去、第5章結論、からなる。

 地下の構造を調べる方法は反射法、VSP、屈折法などあるが、VSPにおいては地表から下方へ向かう波、上方へ向かう波が混在している。また、上方へ向かう波もP波とS波が混在している。地下の構造を知るためにはこの中から上方へ向かうP波だけ、S波だけを分離する必要がある。論文提出者は周波数、深さの領域で方程式を微係数で展開する事により、近接する3〜5本の記録を用い高速でかつ精度の高い方法を開発し、実際の観測結果に応用した。従来から用いられているf-k法などに比べ雑音除去、計算速度などの観点で極めてよい結果が得られることが示された。

 反射法地震探査では地下から反射してくる地震波がほしい情報であるが、地表面に沿って伝わる表面波と後方からの散乱波が地下反射波に対するコヒーレントな雑音となる。地下の反射面の形状を得る上でS/Nの向上をねらったのが第3章の内容である。波動場を地表に沿って前方へ進む波と逆方向へ進む波、及びその地表方向の微分を用い近似する。これらを用いることにより下方からの波動を近似的に求める方法を提唱した。複雑な地下構造を仮定しその理論地震波形と人工的な雑音を加えたものを用い、雑音が充分除去されたことや確かめた。実際の記録にも応用し、従来の方法に勝る結果をより高速に得た。

 さらに3次元の場合に対しても方法を展開した。

 以上、従来の方法に勝る地下イメージの解析方法に近似的ではあるが充分な精度でかつ高速に解析する方法を考案し、合成データ、野外データに応用しその実用性を確かめた。従って、本学博士(理学)の学位を授与できると認める。

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