超電導磁石の一層の普及には液体ヘリウムの消費量の減少、運転経費の削減、保守の負担の軽減等が必要である。本論文は、超電導磁石に適用する、より信頼性の高い冷却システムの研究、開発について述べており、8章及び付録より成っている。 第1章は序論で、極低温冷凍機開発の歴史並びに信頼性の高い液体ヘリウム温度冷却システムの必要性について記し、本研究の位置づけを示している。 第2章は、信頼性の高い系として液体ヘリウム浸漬冷却とヘリウム冷凍機を組み合わせたヘリウム再凝縮式極低温冷却システムの概念的構成について述べている。クライオスタットの液体ヘリウム槽内に設けられた凝縮熱交換器にヘリウム冷凍機で発生した冷媒を流すことによって蒸発したヘリウムガスをクライオスタット内で再凝縮する方式である。 第3章は、再凝縮式極低温冷却システムの具体的構成を説明し、新しく開発するのに必要な冷却の実験とその結果を示している。ヘリウムの水平円管外凝縮に関する実験では凝縮現象の確認を行い、実験値は膜レイノルズ数が10-40程度と小さい場合でも層流液膜よりも乱流液膜としての計算値に近いことを見いだした。本冷却システムの実機へ適用可能性が確かめられた。 第4章は、ヘリウム冷凍機用の熱交換器として金属多孔板を使用した積層熱交換器の開発についてである。温度効率が高く圧力損失が少なく、小形軽量で、極低温で充分の強度があり、不純物による閉塞の少ない熱交換器として積層型熱交換器の有利な点が考えられる。一方、接着接合部からのガスの漏洩の危険性があるが、この点については熱衝撃試験も含めた試験により耐圧性、気密性を確かめている。また、圧力損失とレイノルズ数の関係、ヘリウム流量と温度効率(最大温度効率97%)の関係を求める一方、水分固化の点より水分濃度は露点が-70℃以下にする必要があることを指摘している。積層熱交換器はクロードサイクルヘリウム冷凍機に適用しその実用性能を確認した。 第5章は、ギフォード・マクマホンサイクル冷凍機(GM冷凍機)にジュールトムソン(JT)回路を組み合わせる小形ヘリウム冷凍機の開発について述べている。JT回路及びその予冷用としてのGM冷凍機並びにヘリウム圧縮機ユニットより成る。後者としてGM冷凍機の圧縮機ユニットを基本として、GM冷凍機用、ジュールトムソン(JT)回路用のヘリウムガスを1台の装置で発生できる3段式圧縮機を開発した。運転中に構成材や潤滑油から放出される不純物の多くは水分であるから、JT回路の高圧入口にモレキュラシーブス吸着器をおいて、作動ガス中の不純物の固化による閉塞を防止する方式をとった。その結果、従来困難であった5000時間以上の安定した連続運転が可能となった。 第6章は、MRI装置及び大口径の超電導磁石の実際の冷却システムとしてヘリウム再凝縮式冷却システムを適用し、液体ヘリウムを補給せずに長時間の冷却試験に成功したことを述べている。 第7章は、ギフォード・マクマホン+ジュール・トムソンサイクル冷凍機のエネルギー解析である。特に、エクセルギー解析結果より、GM冷凍機の第1、2蓄冷器と第1膨張部の効率向上が重要であること、GM冷凍機の最適設計、JT回路の圧力、流量の制御による最大冷凍性能について言及し、研究開発の将来の展望を示している。 第8章は結論である。 付録では、積層熱交換器を使用した小形クロードサイクルヘリウム冷凍機の開発、並びにGM冷凍機のガス純度試験について述べている。 以上、著者は信頼性、運転操作性の高い小形冷却システムを開発するべく、ヘリウム再凝縮式冷却システム、即ちクライオスタット内に封入された液体ヘリウムからの蒸発ガスを液体ヘリウム温度の冷凍機によって凝縮させる構成を提案した。凝縮熱伝達に関する詳細な実験を行って適用性を確かめる一方、小形軽量のヘリウム冷凍機用の積層熱交換器を開発し、さらに作動ガス中の不純物による固化の問題を解決した。この結果、5000時間以上の安定した連続運転を可能にする出力4Wの冷却システムを実現し、信頼性の高い液体ヘリウム温度冷却システムの構成に関する新しい知見を得ている。 よって、本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 |