学位論文要旨



No 212374
著者(漢字) 金澤,克明
著者(英字)
著者(カナ) カナザワ,ヨシアキ
標題(和) ヘリウム再凝縮によるクライオスタットの冷却システムの研究
標題(洋)
報告番号 212374
報告番号 乙12374
学位授与日 1995.06.15
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第12374号
研究科 工学系研究科
専攻 機械工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 齋藤,孝基
 東京大学 教授 秋山,守
 東京大学 教授 葉山,眞治
 東京大学 教授 庄司,正弘
 東京大学 教授 西尾,茂文
内容要旨

 本研究は、クライオスタットに適用するヘリウム再凝縮式冷却システムの開発である。今後、超電導磁石や超電導素子の実用化が進むにつれ、ヘリウム冷凍機を使用した冷却システムが必須のものとなってくる。しかし現状は、冷却システムとして信頼性、汎用性、運転操作性、安全性などの点で実用に耐えうるものがない。そこで種々の冷却システム方式を検討した結果、実用に供しうる冷却システムとしてヘリウム冷凍機を組み込んだヘリウム再凝縮式の冷却システムを選択し、その実用化開発を本研究の目的とした。このシステムは、クライオスタットの液体ヘリウム槽内に設けた凝縮熱交換器にヘリウム冷凍機で発生した冷媒を流すことによって、蒸発したヘリウムガスをクライオスタット内で再凝縮する方式である。

 開発の第一段階として、既設のクロードサイクルヘリウム液化機を改造し、これと超電導コイルを模擬した銅コイルを収納したクライオスタットを組み合わせてヘリウム再凝縮式冷却システムの可能性の実証試験を行った。その結果以下の成果を得た。

 (1) ヘリウム再凝縮式冷却システムの実現の可能性を実証。

 (2) ヘリウム凝縮熱交換器の設計データを取得。

 (3) 本方式を用いるのに適したヘリウム槽の設計指針を取得。

 いっぽう、実際の超電導磁石の冷却システムとしては、汎用性を高めるためにより一層コンパクト・軽量・高信頼性・大きい設計の自由度などがなければならない。このため第二段階として、従来のコリンズ形極低温用熱交換器に比して軽量・コンパクト・高性能な熱交換器として金属多孔板を使用した積層熱交換器を開発した。そしてこの積層熱交換器をクロードサイクルヘリウム冷凍機に適用して積層熱交換器の実用性能を確認し、更にヘリウム冷凍機として軽量・コンパクトにまとめることができることを明確にした。以上の開発の結果、長時間安定した冷凍性能が出せるヘリウム冷凍機を実現することによって、実用に供しうるヘリウム再凝縮式冷却システムが可能であるという結論を得た。

 そこで冷凍サイクルの検討を実施して、信頼性の高いヘリウム冷凍機を実現するためには、既に信頼性の点で実績のあるギフォード・マクマホン冷凍機を使用することが最善であると考えた。ただギフォード・マクマホン冷凍機単独ではヘリウム温度を発生することはできないので、ジュール・トムソンサイクルの予冷用にギフォード・マクマホン冷凍機を使用し、ヘリウム温度の冷凍はジュール・トムソン弁での断熱自由膨張で発生させる方式のギフォード・マクマホン+ジュール・トムソン(GM+JT)サイクルのヘリウム冷凍機を開発することにした。この方式のヘリウム冷凍機は、古くから試作されているが回路内のヘリウムガス中の不純物がジュール・トムソン回路を閉塞するために長時間の冷凍性能を維持できなかった。そこでヘリウム冷凍装置の回路内のヘリウムガスの精製方法を確立して、この不純物による回路の閉塞という問題点を解決することによって連続2000時間の冷凍性能試験を実現した。更にこの試験から、5000時間以上の安定した連続運転が可能である実用ヘリウム冷凍機を完成させることができた。そしてこの冷凍機と凝縮熱交換器を組み合わせたヘリウム再凝縮式冷却システムを開発し、実際の超電導磁石の冷却システムに適用して液体ヘリウムを補給せずに超電導磁石の一年間以上の長時間運転を実証した。ここにおいて、超電導磁石や超電導素子の実用冷却システムとして、ヘリウム冷凍機を使用したヘリウム再凝縮式冷却システムを実現した。

 今後、実用冷却システムとしての完成度を更に一層高めるには、エネルギ効率の向上が不可欠である。そのためエクセルギ手法を用いて、GM+JTサイクルヘリウム冷凍機のエネルギ解析を行った。この解析結果から、エクセルギ損失の要因とその割合、更にエネルギ効率向上のための運転操作条件、設計指針および開発課題を明確にすることができた。そしてヘリウム冷凍機のエネルギ効率の評価する場合、ヘリウムガスの理想気体からのずれを考慮すべきであることを示した。

審査要旨

 超電導磁石の一層の普及には液体ヘリウムの消費量の減少、運転経費の削減、保守の負担の軽減等が必要である。本論文は、超電導磁石に適用する、より信頼性の高い冷却システムの研究、開発について述べており、8章及び付録より成っている。

 第1章は序論で、極低温冷凍機開発の歴史並びに信頼性の高い液体ヘリウム温度冷却システムの必要性について記し、本研究の位置づけを示している。

 第2章は、信頼性の高い系として液体ヘリウム浸漬冷却とヘリウム冷凍機を組み合わせたヘリウム再凝縮式極低温冷却システムの概念的構成について述べている。クライオスタットの液体ヘリウム槽内に設けられた凝縮熱交換器にヘリウム冷凍機で発生した冷媒を流すことによって蒸発したヘリウムガスをクライオスタット内で再凝縮する方式である。

 第3章は、再凝縮式極低温冷却システムの具体的構成を説明し、新しく開発するのに必要な冷却の実験とその結果を示している。ヘリウムの水平円管外凝縮に関する実験では凝縮現象の確認を行い、実験値は膜レイノルズ数が10-40程度と小さい場合でも層流液膜よりも乱流液膜としての計算値に近いことを見いだした。本冷却システムの実機へ適用可能性が確かめられた。

 第4章は、ヘリウム冷凍機用の熱交換器として金属多孔板を使用した積層熱交換器の開発についてである。温度効率が高く圧力損失が少なく、小形軽量で、極低温で充分の強度があり、不純物による閉塞の少ない熱交換器として積層型熱交換器の有利な点が考えられる。一方、接着接合部からのガスの漏洩の危険性があるが、この点については熱衝撃試験も含めた試験により耐圧性、気密性を確かめている。また、圧力損失とレイノルズ数の関係、ヘリウム流量と温度効率(最大温度効率97%)の関係を求める一方、水分固化の点より水分濃度は露点が-70℃以下にする必要があることを指摘している。積層熱交換器はクロードサイクルヘリウム冷凍機に適用しその実用性能を確認した。

 第5章は、ギフォード・マクマホンサイクル冷凍機(GM冷凍機)にジュールトムソン(JT)回路を組み合わせる小形ヘリウム冷凍機の開発について述べている。JT回路及びその予冷用としてのGM冷凍機並びにヘリウム圧縮機ユニットより成る。後者としてGM冷凍機の圧縮機ユニットを基本として、GM冷凍機用、ジュールトムソン(JT)回路用のヘリウムガスを1台の装置で発生できる3段式圧縮機を開発した。運転中に構成材や潤滑油から放出される不純物の多くは水分であるから、JT回路の高圧入口にモレキュラシーブス吸着器をおいて、作動ガス中の不純物の固化による閉塞を防止する方式をとった。その結果、従来困難であった5000時間以上の安定した連続運転が可能となった。

 第6章は、MRI装置及び大口径の超電導磁石の実際の冷却システムとしてヘリウム再凝縮式冷却システムを適用し、液体ヘリウムを補給せずに長時間の冷却試験に成功したことを述べている。

 第7章は、ギフォード・マクマホン+ジュール・トムソンサイクル冷凍機のエネルギー解析である。特に、エクセルギー解析結果より、GM冷凍機の第1、2蓄冷器と第1膨張部の効率向上が重要であること、GM冷凍機の最適設計、JT回路の圧力、流量の制御による最大冷凍性能について言及し、研究開発の将来の展望を示している。

 第8章は結論である。

 付録では、積層熱交換器を使用した小形クロードサイクルヘリウム冷凍機の開発、並びにGM冷凍機のガス純度試験について述べている。

 以上、著者は信頼性、運転操作性の高い小形冷却システムを開発するべく、ヘリウム再凝縮式冷却システム、即ちクライオスタット内に封入された液体ヘリウムからの蒸発ガスを液体ヘリウム温度の冷凍機によって凝縮させる構成を提案した。凝縮熱伝達に関する詳細な実験を行って適用性を確かめる一方、小形軽量のヘリウム冷凍機用の積層熱交換器を開発し、さらに作動ガス中の不純物による固化の問題を解決した。この結果、5000時間以上の安定した連続運転を可能にする出力4Wの冷却システムを実現し、信頼性の高い液体ヘリウム温度冷却システムの構成に関する新しい知見を得ている。

 よって、本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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