学位論文要旨



No 212379
著者(漢字) 貝淵,俊二
著者(英字)
著者(カナ) カイブチ,シュンジ
標題(和) 電気通信事業における線路技術の開発と実用化
標題(洋)
報告番号 212379
報告番号 乙12379
学位授与日 1995.06.15
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第12379号
研究科 工学系研究科
専攻 電気工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 羽鳥,光俊
 東京大学 教授 水町,守志
 東京大学 教授 高木,幹雄
 東京大学 教授 斎藤,忠夫
 東京大学 教授 原島,博
 東京大学 教授 坂内,正夫
内容要旨

 本論文の目的は(1)電気通信線路技術の事業導入判断のあり方を明らかにすることと(2)これから展開されるであろう情報文明への挑戦・戦略を述べることにある。電気通信事業に技術導入した通信ケーブルのうち、金属材料を用いたメタルケーブルを設計する上で考慮すべき要因として、心線、絶縁、外被等のケーブル構造要因とそれを取り巻く外的環境要因および電気的特性要因を考慮して設計した平衡対ケーブル、同軸ケーブル、海底ケーブル等の技術開発過程、通信ケーブル外被の接続技術、及び線路設備の信頼性を確保する技術について歴史的に概括し、技術の導入可否判断の理由を述べる。次いで、先に述べた線路設備を構成する要素技術を基に開発した5.6mm同軸ケーブルの開発事例と各時代における革新的技術の開発、自然環境および社会情勢を考慮した加入者線路網の構成法について検討し、電気通信事業における線路技術の事業導入のための判断理由について述べる。特に、5.6mm同軸ケーブル技術は日本独自の創意で開発したが本格的に導入する直前に、その導入を断念せざるをえなかった。また後者の加入者線路網構成法については明治23年東京から横浜間の電話交換業務開始以来の一大テーマであり、将来の光時代にも重要な課題である。

 本論文は以下に述べる8章から構成されている。

 第1章は本研究開発の目的及び論文の構成について述べる。

 第2章では、電気通信事業を支える金属導体を用いた通信ケーブルから光ファイバケーブルまでの発展過程と多様な線路技術を体系的に示し,各種通信ケーブルの技術的位置付けを明確にする。一方、実用化に至らなかったものの光ファイバの出現までに研究・開発した広帯域サービス用通信ケーブルの開発動向にも言及する。

 第3章では、通信ケーブルの構造と外被接続技術の相互発展の過程を述べるとともに、長期信頼性を確保する試験項目について言及する。

 第4章では、まず自然環境との闘いのなかで台風、季節風などの自然風によるケーブルのダンシング現象について検討した結果とその対策について述べる。次に、地下ケーブルなどの信頼性の向上を目的としてケーブル内に乾燥ガスを封入しその内圧によってピンホールからの湿気や水分の侵入を防止するガス保守方式の採用の意義と構成を明らかにする。

 第5章においては、5.6mm同軸ケーブルの国際的標準化動向、ケーブル構造、伝送規格、布設および試験など事業導入に必要な技術の確認結果を述べるとともに、最終的には事業導入できなかった理由について述べる。

 第6章では、まず通信事業創業以来の加入者線路網の変遷について、メタルケーブルの時代を中心に社会的背景と配線網の関連について述べる。

 第7章では、次世代をになう通信のメディアの特性について検討し、通信と放送を融合した、B-ISDNの環境を整備する基本戦略を述べる。特に、重要な点は、ユーザの満足できるアプリケーションを提示・啓発することであり、これを関西文化学術研究都市で実施する考え方を述べる。

 第8章では、以上の各技術の開発経過を整理し導入判断のあり方を要約し、本論文の結論とする。

 以上述べた内容は、我国における電気通信技術の基盤をなす設備の導入に関して、基本となる考え方を述べたものである。この考え方にもとづいて、各種技術の開発と実用化を行い結果として諸外国にも劣らない電気通信設備を構築したものと確信している。

審査要旨

 本論文は「電気通信事業における線路技術の開発と実用化」と題し、電気通信線路技術の事業導入の判断のあり方、ならびにこれから展開されるであろう情報文明へ向けての挑戦の戦略について論じたものであり、8章よりなる。

 第1章は「序論」であり、通信線路技術の展開を論じ、本論文の目的と構成を述べている。

 第2章は「通信ケーブル技術」と題し、電気通信事業を支える、金属導体を用いたケーブルから光ファイバケーブルにいたる通信ケーブルの心線、絶縁、外皮、しゃへいなどの構造要因や電気的特性要因の発展過程、ならびに、外皮の接続技術、線路設備の信頼性を確保する技術など多様な線路技術を歴史的、体系的に示し、各種通信ケーブルの技術的位置付けを論じている。特に、実用化に至らなかったものの、光ファイバの出現の直前に研究・開発した広帯域サービス用細芯同軸ケーブルの技術的位置付けを論じている。

 第3章は「ケーブル外被接続技術」と題し、CCPケーブル、地下多対ケーブル、PEFケーブル、同軸ケーブル、光ファイバケーブルなどの通信ケーブルの構造と外被接続技術の相互発展の過程、ならびに、長期信頼性を確保する試験項目について論じている。

 第4章は「屋外施設の信頼性」と題し、自然環境との闘いのなかで、台風や強い季節風などによるケーブルのダンシング現象について検討した結果とその対策について論じている。また、地下ケーブルの信頼性の向上を目的としてケーブル内に乾燥ガスを封入しその内圧によってピンホールからの湿気や水分の侵入を防止するガス保守方式採用の意義と構成を論じている。

 第5章は「5.6mm同軸ケーブルの実用化」と題し、広帯域サービス用の5.6mm同軸ケーブル(細芯同軸ケーブル〉の国際標準化動向、ケーブル構造、伝送規格、敷設技術、接続工法、試験技術など、事業導入に必要な技術の開発を述べている。また、光ファイバの出現に照らし、最終的には事業導入を断念した理由について論じている。

 第6章は「加入者線路網の変遷」と題し、通信事業創業以来の加入者線路網の変遷について、メタルケーブルの時代を中心に、社会的背景と配線法の関連について論じている。

 第7章は「将来形通信インフラの形成」と題し、次世代をになう通信というメディアの特性について検討し、通信と放送を融合した、B-ISDNの環境を整備する基本戦略を論じている。特に、重要な点は、ユーザの満足であり、アプリケーションを提示、啓発することであり、これを関西文化学術研究都市で実施する考え方を述べている。

 第8章は「結論」であり、本研究の成果を要約している。

 以上これを要するに、本論文は電気通信の基盤をなす電気通信線路施設への新しいケーブルの事業導入の判断、ケーブル構造、伝送規格、ケーブル接続、敷設、試験および配線法など事業導入に必要な技術の開発、ならびに、これから展開されるであろう情報文明へ向けての挑戦の具体的戦略を明らかにしたものであり電気通信工学上貢献するところが少なくない。

 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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