学位論文要旨



No 212394
著者(漢字) 澤口,勇雄
著者(英字)
著者(カナ) サワグチ,イサオ
標題(和) 山岳林における林道路線評価と林道規格に関する研究
標題(洋)
報告番号 212394
報告番号 乙12394
学位授与日 1995.06.26
学位種別 論文博士
学位種類 博士(農学)
学位記番号 第12394号
研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 小林,洋司
 東京大学 教授 太田,猛彦
 東京大学 教授 箕輪,光博
 東京大学 助教授 永田,信
 東京大学 助教授 酒井,秀夫
内容要旨

 森林・林業を取り巻く厳しい情勢の下で,世界に誇る人工林資源を経済財として生かしつつ,地球に優しい環境産業として林業を創造するためには,山村の維持発展を図り,林業を再構築する必要がある。このためには,タワーヤーダやプロセッサ等の新たな機械作業システムを導入し,高能率で低コストの林業を推進する必要がある。本論文は,以上のような林業・林道を取り巻く環境を背景に,林道網の合理的整備に資するため,林道路線評価により路線機能に応じた林道規格で林道網の構築を図ることを目的に行った研究である。

 本論文は次ぎの6章で構成されている。

 第1章序論

 第2章林道機能と林道規格

 第3章林道の林業的交通需要の特性

 第4章林道路線評価パラメータの特性

 第5章林道路線評価による林道規格の決定

 第6章結論

 第1章は序論である。本章では,林道網計画に関する既往の研究を整理して本論文を位置づけ,範囲および構成を記し,用語を定義した。

 第2章では林道機能を整理して,林業用道路の区分法と路網分類法を提示した。林業用道路を林道,作業林道,作業道,基幹作業路,作業路に小区分し,本論の主要論議対象は林道と作業林道による林道網であり,作業道,基幹作業路,作業路からなる作業路網は多くを論議しないことを述べた。林道規格は林道1級,林道2級,林道3級,作業林道の4規格を想定した。林道網整備の現状を概観し,林道網計画の研究分野では,特に,林道路線評価による合理的な林道規格の決定方法に関する研究が望まれていることを指摘した。

 第3章では,林道延長と利用区域森林面積の関係解析と,林道網計画区域での開発森林の解析による二通りの方法で,木材流量と林業的交通量を計測し,林道の林業的交通需要の特性を解明した。

 我が国における木材流の特性を解明するため,林道延長と利用区域森林面積の関係を解析した。この結果,河川で成立する「HACKの法則」と類似のベキ乗式の関係式が,林道延長と利用区域森林面積の関係にも,高い相関関係で成立した。ベキ乗式の定数は,上位規格ほど比例定数は大きく,指数は小さくなる。林道1級〜林道3級と作業林道の定数の違いは,延長の違いによる規模の差であった。この結果から,我が国の林道網における木材流量の特徴を解析したところ,連絡型が突込型に比べて単位延長の木材流量は少ないが,概括的には利用区域森林面積が50haで8m3/m,100haで10m3/m,1,000haで20m3/m程度と試算された。

 次に,3地区の林道網計画区域を選定して林道網計画を立て,路線区間の木材流量と林業的交通量を計測した。計測は格子点法を応用して,路線区間の上流域の面積である開発森林面積から行った。木材流量と林業的交通量は,路線の分岐で不連続的に減少した。林業的交通量は開発森林面積が619haで17.2台/日,54haで1.5台/日と試算され,多くを期待できないことが再認識された。

 第4章では,林道路線評価に必要なパラメータの特性を明らかにし,林道規格や適正林道密度の算定に必要にな開設費,維持管理費,用地費の林道費用をはじめ運材費,人員輸送費,集材費,歩行費の各費用を取りまとめた。また,林道密度修正係数と林道線形を分析した。

 開設費,維持管理費および用地費の各費用関数は,林道規格と地形傾斜を変数に設定した。運材費,人員輸送費および歩行費の単位経費を試算した。林道1級から作業林道の単位運材変動費は5倍,単位人員輸送費は3倍の開きがあった。車種別の単位運材変動費は,トラック(林道1級):トラック(作業林道):トラクタ:小型フォアワーダ=1:5:19:62であった。作業林道で1m移動させる人員輸送費は運材費の2.5倍に達した。歩行費は歩行距離に正比例するので,林道密度の関係は深い。集材費関数は,集材距離と地形傾斜を変数に,架線系と車両系で6種類を設定した。集材費は,集材システムを選択することで,林道密度を高めると急激に費用低減を期待できるが,次第に密度効果は薄れた。我が国の林道網の林道密度修正係数の概略値は1.75と結論され,これから集材費と歩行費の推定精度の向上を図ることができた。林道規格と線形の関係を幾何構造評価と迂回率から検討し,路線配置に際しては林道規格別に線形を考慮する必要は無いとした。

 第5章では,林道路線評価による林道規格の決定を,利用区域森林による方法と開発森林による方法の二通りで試みた。利用区域森林による方法は,「HACKの法則」と類似式を用いて,木材流量と林業的交通量を評価し,利用区域森林の規模に応じて林道規格を決定した。生産費関数は,林道整備費,林道用地費,運材費,人員輸送費,集材費,歩行費の6費用から成り,連絡型と突込型の路線の林道規格に対応する,利用区域森林面積の基準を導いた。試算結果によると,同一規格では,連絡型が突込型より広い利用区域森林面積を必要とし,利用区域森林面積の変化に対し開設費の感度が高かった。地形傾斜20°,出材量250m3/ha,労働投入量300人/haの突込型の路線の場合,0<作業林道=<636ha,636<林道2級<=3,123ha,林道1級>3,123haが利用区域森林面積の基準になった。運材システムにトラクタ,フォワーダを加えて比較すると,前記と同様の条件で,中型フォアワーダ<=2ha,2<トラクタ<=21ha,トラック(作業林道)>21haとなり,規模の小さい面積で限定的にトラクタやフォワーダ運材が有利であった。試算結果から,現在整備を進めている林道は,林業経営的には,数百ha以上の利用区域森林面積を有しなければ経済的には不利で,林道を補完する林道規格として,低構造の作業林道の必要性が再認識された。利用区域森林面積を基準に路線の規格決定を行う本方式は,林業的利用を主体とする林道に対して,現行の補助事業と矛盾なく用いることができ,本節で示された面積基準は,林道規格の配置指標になる。

 林道網計画区域を対象に,複数路線で林道網が形成される場合の林道規格の決定を,開発森林を導入して試みた。決定モデルは,木材流量と林業的交通量から路線区間の利用度を評価する生産費関数によった。生産費関数を構成する費用は,林道規格の決定には林道整備費,林道用地費,運材費,人員輸送費の4費用とし,適正林道密度の算定には,この費用に集材費と歩行費を追加した。適用例によると,路線区間の上流域の森林面積の開発森林面積で示すと,比較的地形条件に恵まれている緩〜中傾斜地域では,林道1級で数百ha,林道2級は数十haに達するまで当該林道規格が可能であるとされた。試算によるとコストミニマムの適正林道密度は,7.4m/ha〜32.8m/haであった。適正林道密度の水準で,林道1級と林道2級の整備は既に完了して,作業林道による林道網の整備段階である。ちなみに,高萩の例では適正林道密度での林道1級:林道2級:作業林道の延長比率は,16:41:43であった。極端に開設費が係ります急峻な山岳地帯を除いて,複合的な林道費用と多くの経費を用いても,生産費は林道密度に対して感度が鈍いことを確認した。高萩では,密度を20.9m/ha増加させると,生産費は510円/m3,率で7%の上昇をもたらすに過ぎない。運材費や人員輸送費は,適用例では生産費の30%を越える場合もあり,無視できない経費であることや,歩行経費や節減効果が大きいことが確認できた。集材システムとの関係では,林道密度が上昇すると,機動性に富むタワーヤーダの有利性が増し,30m/ha以上では集材面積の過半を越えた。

 本論文で示した複合的林道による計画法を採用することで,本論で計画した本線に関しては,現行の補助事業での方式と比較して50〜583百万円,区域全体の林道網を適正林道密度まで複合的林道で計画すると,林道2級による林道網に比べて,58〜114百万円の経済的利益が期待できると試算された。

審査要旨

 森林・林業を取り巻く厳しい情勢の下で,世界に誇る人工林資源を経済源として生かしつつ,地球に優しい環境産業として林業を創造するためには,山村の維持発展を図り,林業を再構築する必要がある。本論文は,以上のような林業・林道を取り巻く環境を背景に,林道網の合理的整備に資するため,林道路線評価により路線機能に応じた林道規格で林道網の構築を図ることを目的に行った研究である。

 第1章は,林道網計画に関する既往の研究を整理して本論文を位置づけ,範囲および構成を記し,用語を定義した。

 第2章では林道機能を整理して,林業用道路の区分法と路線の分類法を提示し,林業用道路を林道,作業林道,作業道,基幹作業路,作業路に小区分した。本論の主要論議の対象は,林道と作業道による林道網であり,林道規格は林道1級,林道2級,林道3級,作業林道の4規格を想定した。林道網計画の研究で,特に,林道路線評価による合理的な林道規格の決定方法に関する研究である。

 第3章では,林道延長と利用区域森林面積の関係の解析と,林道網計画区域での開発森林の解析による二通りの方法で,木材流量と林業的交通量を計測し,林道の林業的交通需要の特性を解明した。この結果,河川で成立する「HACKの法則」と類似のベキ乗式の関係式が,林道延長と利用区域森林面積の関係にも,高い相関関係で成立した。ベキ乗式の定数は,上位規格ほど比例定数は大きく,指数は小さくなり,林道1級〜林道3級と作業林道の定数の違いは,延長の違いによる規模の差であった。次に,3地区の林道網計画区域を選定して林道網計画を立て,路線区間の木材流量と林業的交通量を計測した。木材流量と林業的交通量は,路線の分岐で不連続的に減少した。

 第4章では,林道路線評価に必要なパラメータの特性を明らかにし,林道規格や適正林道密度の算定に必要に開設費,維持管理費,用地費の林道費用をはじめ運材費,人員輸送費,集材費,歩行費の各費用を取りまとめた。開設費,維持管理費および用地費の各費用関数は,林道規格と地形傾斜を変数に設定し,運材費,人員輸送費および歩行費の単位経費を試算した。林道規格と線形の関係を幾何構造評価と迂回率から検討し,路線配置に際しては林道規格別に線形を考慮する必要は無いことが分かった。

 第5章では,林道路線評価による林道規格の決定を,利用区域森林による方法と開発森林による方法の二通りで試みた。利用区域森林による方法は,「HACKの法則」と類似式を用いて,木材流量と林業的交通量を評価し,利用区域森林の規模に応じて林道規格を決定した。生産費関数は,林道整備費,林道用地費,運材費,人員輸送費,集材費,歩行費の6費用から成り,連絡型と突込型の路線の林道規格に対応する,利用区域森林面積の基準を導いた。試算結果によると,同一規格では,連絡型が突込型より広い利用区域森林面積を必要とし,利用区域森林面積の変化に対し開設費の感度が高かった。利用区域森林面積を基準に路線の規格決定を行う本方式は,林業的利用を主体とする林道に対して,現行の補助事業と矛盾なく用いることができ,本章で示された面積基準は,林道規格の配置指標になる。

 林道網計画区域を対象に,複数路線で林道網が形成される場合の林道規格の決定を,開発森林を導入して試みた。決定モデルは,木材流量と林業的交通量から路線区間の利用度を評価する生産費関数によった。適用例によると,路線区間の上流域の森林面積の開発森林面積で示すと,比較的地形条件に恵まれている緩〜中傾斜地域では,林道1級で数百ha,林道2級は数十haに達するまで当該林道規格が可能であるとされた。

 本論文で示した複合的林道による計画法を採用することで,本論で計画した本線に関しては,現行の補助事業での方式と比較して50〜583百万円,区域全体の林道網を適正林道密度まで複合的林道で計画すると,林道2級による林道網に比べて,58〜114百万円の経済的利益が期待できると試算された。

 要するに本論分は,林道延長と利用区域面積との関係を分析し,河川で成立する「HACKの法則」と類似の林道の規格によって異なるベキ乗式の関係式を見いだし,この応用として初めて,林道網計画の林道の機能を中心に考えた場合の林道規格に合った路線計画法を提案した。これは学術上また応用的に寄与するところが少なくないと考えられる。よって審査委員一同は,申請者に博士(農学)の学位を授与してしかるべきものと判定した。

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