学位論文要旨



No 212404
著者(漢字) 青木,茂樹
著者(英字)
著者(カナ) アオキ,シゲキ
標題(和) 脳血管奇形における3次元CT血管造影の臨床的有用性の検討
標題(洋)
報告番号 212404
報告番号 乙12404
学位授与日 1995.06.28
学位種別 論文博士
学位種類 博士(医学)
学位記番号 第12404号
研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 桐野,高明
 東京大学 教授 金澤,一郎
 東京大学 教授 神谷,瞭
 東京大学 助教授 佐々木,富男
 東京大学 講師 大嶽,達
内容要旨 a.研究目的、背景

 CT(コンピューター断層装置)、MRI(磁気共鳴画像装置)などの画像診断装置の進歩に伴い、多数の画像が短い時間に得られるようになってきた。多数の断層像は病変を細かく分析するのには有用だが、全体として把握するためには熟練と労力が必要になる。多量のデータを統合する一つの方向として3次元再構成がある。骨や血管の描出に限ってデータを取捨選択して骨や血管構築のみをわかりやすく描出すれば熟練を用さずに、容易に骨や血管の立体的情報が得られる。

 CTの3次元再構成は、骨の分野でよく用いられている。それは骨と他の構造のCT値が大きく異なることにより、造影剤などを用いずに比較的容易に骨の輪郭が取り出せることによる。その手法を血管病変に応用し、血管造影に似た血管構築を描出するには、脳実質と血管とのCT値にかなりの差がなくてはならない。最近の高速CTの進歩で、造影剤が主に動脈に留まる間に広い範囲をスキャンすることが可能となり、血管病変の3次元再構成も臨床応用可能となった。

 本研究では造影剤の経静脈性急速投与とテーブル移動のダイナミックCT(dynamic incremental CT)により血管を明瞭に描出した高分解能造影CTの多数のスライスを用いて、脳血管が連続的に観察されるように3次元的に再構成した画像(以降3次元CT血管造影と呼ぶ)の脳血管奇形病変に関する臨床応用について検討した。脳血管奇形の三次元構築が、従来の血管造影によらず非浸襲的に行えることは、診断のみならず、病因、病態の理解の上で非常に重要である。脳血管奇形のCTを用いた3次元再構成の臨床応用の報告はない。

b.患者及び3次元CT血管造影の方法

 対象は、脳動静脈奇形76例、脳静脈奇形4例、計80例の頭蓋内血管奇形患者で、平均年齢は32.6歳(10-71歳)、男51例、女29例である。

 使用したCT装置はGE社製CT(GE9800HR)である。まず、造影法の決定のため、造影剤注入後からの時間と主要血管のCT値の関係などのパラメータを検討した。それに基づき以下のプロトコールで検査を行った。まず、単純CTにてテーブル移動のdynamic CTを行うスキャン範囲を決定する。非イオン性造影剤を肘静脈より1-1.5ml/secの速度でインジェクターにて総量100ml強(2ml/kg体重)急速静注する。静注開始後30秒からテーブル移動のdynamic CTを開始する。1スライスのスキャン時間は2秒でテーブルの移動に3.5秒、計5.5秒が我々のCTでの1スライスあたりにかかる時間である。スライス厚は1.5mm、スライス間隔は1-2mm、FOV12cm、matrix512x512で行なう。軸状断で15-30スライス程スキャンし、スキャン時間は3-5分で実際の検査は終了する。

 3次元再構成法はCT備え付けのサーフェスレンダリング法(GE9800 3D-Quick)で行なう。まず、同一患者でしきい値、FOVを変えた画像を作成し、ブロトコールを決定した。本研究では、再構成を行なう範囲(FOV)、しきい値(血管のCT値を参考に患者毎に放射線科医が決定する、通常100HU以上)のみを決定し、血管のトレースなどは煩雑で実際的でない為行なわなかった。3次元サーフェス画像の再構成には原画像が15-30枚の場合には3分程かかる。できた画像は3D-surface imageと呼ばれる3次元画像で、画像の回転、任意の位置での観察、画像の切断などが原画像から一々再構成することなく行える。角度の変更には6.5秒かかる。上下、前後、左右の6方向を中心に、病変が良く描出されている3次元画像を角度を変えて観察し、フィルムに記録した。

 その3次元CT血管造影と脳血管造影等との比較検討法、画質評価を行った。

 比較検討方法は、まず3次元CT血管造影のみで描出能を検討し、次に、従来の血管造影と比較した。脳動静脈奇形については、流入動脈、nidus、流出静脈の描出について検討した。脳静脈奇形については、いわゆる傘の柄(central draining vein)と、ひらいた傘状の髄質静脈の描出について検討した。Willis動脈輪付近の小血管の描出能についても合わせて検討した。

 さらに、主観的な有用性の評価を 原画像である2DCT、および従来の血管造影と比較して 5.大変有用、4.有用、3.やや有用、2.有用でない、1.判定不能という基準に従って評価した。

c.結果

 3次元CT血管造影はスキャン時間3-5分、画像再構成3分で施行でき、フィルムに記録する時間を含めても、20-30分以内で終了し、ルーチンの検査の枠のなかで充分に行なうことができた。副作用は記録に残るものはなく、通常の非イオン性造影剤を用いた造影CTと同様に軽度の熱感等が見られたのみであった。個々の病変における評価は後述の通りだが、80例全体としては、3次元CT血管造影はカテーテルによる 従来の血管造影と比べて、任意の方向から観察できるという点が特に有用であった。原画像のincremental dynamic CTも合わせて考えると、thin sliceの断層像とそのつながりが把握しやすい3次元CT血管造影は、多発する動静脈奇形、血管同士の重なりを読影する際に大変有用であった。

 脳動静脈奇形の3次元CT血管造影における流入動脈の描出はよくなかった(67/76)が、nidus(61/76)、流出静脈(66/76)は描出可能であった。流入動脈の描出が悪く直達手術にはあまり有用ではないと思われたが、ガンマナイフ治療計画を立てるのには有用であった。特に流出静脈が太くnidusに重なる場合や、多発してnidusが重なり位置がわかりにくい場合等に有用である。また脳動静脈奇形に合併する静脈の閉塞と複雑な側副血行路もよく描出される。有用性の評価では、4,5の評価を得たのは、診断医Aで4-5割、Bで3-4割であった。3以上の評価はA、Bとも7割程度であった。

 小血管の描出能については、後交通動脈はある程度描出可能であったが(24/27本)、流入動脈となっている場合を除いて、前脈絡動脈、中大脳動脈の穿通枝の描出はなかった(0/20例)。

 脳静脈奇形では全例で特徴的な傘の形が3次元再構成することで明瞭に描出された。

d.考察

 従来の血管造影と比較した場合の3次元CT血管造影の特徴は、非浸襲的である点、容易に施行できる点、任意の方向から観察できる点、特に上方や下方からの像も容易に得られる点等である。

 太い流出静脈を持つ脳動静脈奇形では動脈瘤や太い静脈が周囲の構造に重なってしまい、従来の血管造影ではrapid filmingや角度の選択などを必要とし、角度を変えて何度か造影を繰り返す場合もあった。3次元CT血管造影はこういった場合の角度の決定に非常に有用である。また3次元CT血管造影の原画像である血管が良く造影されたCT断層像と組み合せれば、静脈と重なってnidusの部位がはっきりしない脳動静脈奇形においてもnidusの正確な部位を同定できる。また、多発性脳動静脈奇形で血管造影のいずれかの方向で2つの奇形が重なり位置情報が得られない場合は、3次元CT血管造影が有用となる。

 動静脈奇形では流入動脈が細く3次元CT血管造影ではよく描出されなかった。また、わずかに描出されても波線状の描出となった。また、観察する方向によっては、血管の扁平化、階段状の描出が目立った。それは CTのスライス厚が1.5mm以下にならず、原画像の断層方向の高分解能を生かし切れないためであると考えられる。しかし、動静脈奇形では、anomalousな静脈が高頻度で認められ、それは3次元CT血管造影でよく観察できた。

 3次元CT血管造影の適応についても。本研究によってある程度の目安が得られたが、それはおなじ再構成像であるMR Angiographyと比較するとより明瞭となる。3次元CT血管造影は被曝がある点、スキャン範囲が狭い点、造影剤を用いる点で劣るが、空間分解能の高い点、血流の影響がない点、骨も描出できる点、2次元の断層像も高解能で得られる点、歪みの少ない点などで優れている。

 まとめると、非イオン性造影剤の急速静注とテーブル移動のincremental dynamic CTを用いて血管のコントラストを増したCTを原画像とした、3次元再構成画像(3次元CT血管造影)の脳血管奇形における臨床応用の評価を行った。診断能の直接の向上も一部の病変では見られたが、それよりも、周囲の血管との関係や病変自体の3次元的構造の把握が容易になる点が有用と思われた。

審査要旨

 本研究はX線CTの3次元再構成に関する研究で、造影剤の経静脈性急速投与とテーブル移動のダイナミックCT(dynamic incremental CT)により血管を明瞭に描出した高分解能造影CTの多数のスライスを用いて、脳血管が連続的に観察されるように3次元的に再構成した画像(以降3次元CT血管造影と呼ぶ)の脳血管奇形病変に関する臨床応用について検討したものであり、以下の結果を得ている。

 1.造影剤注入開始からの時間と血管のCT値の関係を明らかにし、注入開始からスキャン開始までの至適時間は30-40秒であることが示された。

 2.3次元再構成法のパラメータであるしきい値、FOV(field of view)による画像の変化を明らかにした。しきい値は、血管の造影剤の濃度に依存するので症例毎に検討する必要があること、FOVは病変部の観察には12cm程度が良いことが示された。

 3.3次元CT血管造影はスキャン時間3-5分、画像再構成3分で施行可能で、ルーチンの検査の枠のなかで臨床応用可能であることが示された。副作用は、通常の非イオン性造影剤を用いた造影CTと同様であることが示された。

 4.3次元CT血管造影はカテーテルによる従来の血管造影と比べて、任意の方向から観察できるという点が特に有用であることが示された。原画像のincrementaldynamic CTも合わせて考えると、thin sliceの断層像とそのつながりが把握しやすい3次元CT血管造影は、多発する動静脈奇形、血管同士の重なりを読影する際に大変有用であることが示された。

 5.脳動静脈奇形の3次元CT血管造影における流入動脈の描出はよくないことが示された(76例中67例)。しかし、nidus(76例中61例)、流出静脈(76例中66例)は描出可能であることが示された。流入動脈の描出が悪ぐ直達手術にはあまり有用ではないと考えられたが、ガンマナイフ治療計画を立てるのには有用であることが示された。特に流出静脈が太くnidusに重なる場合や、多発してnidusが重なり位置がわかりにくい場合等に有用であることが示された。また脳動静脈奇形に合併する静脈の閉塞と複雑な側副血行路もよく描出されることが示された。

 6.小血管の描出能については、後交通動脈はある程度描出可能であることが示されたが(24/27本)、流入動脈となっている場合を除いて、前脈絡動脈、中大脳動脈の穿通枝の描出はないことが示された(0/20例)。

 7.脳静脈奇形では全例で特徴的な傘の形が3次元再構成することで明瞭に描出されることが示された。。

 以上、本論文は80例という比較的多数の脳血管奇形を対象として、造影剤の経静脈性急速投与とテーブル移動のダイナミックCT(dynamic incremental CT)を用いた3次元CT血管造影法を確立し、その臨床的有用性と限界を明らかにした。本研究は、これまで臨床応用のなかった脳血管奇形の3次元CT血管造影の臨床応用および血管奇形の立体構築のin vivoでの解析に重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。

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