学位論文要旨



No 212410
著者(漢字) 大河内,仁志
著者(英字)
著者(カナ) オオコウチ,ヒトシ
標題(和) Connective Tissue Growth Factor(結合組織細胞成長因子)遺伝子の構造とTGF-による発現調節について
標題(洋)
報告番号 212410
報告番号 乙12410
学位授与日 1995.06.28
学位種別 論文博士
学位種類 博士(医学)
学位記番号 第12410号
研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 清水,孝雄
 東京大学 教授 波利井,清紀
 東京大学 教授 伊藤,幸治
 東京大学 教授 新井,賢一
 東京大学 助教授 許,南浩
内容要旨

 Connective Tissue Growth Factor(CTGF)はヒト臍帯静脈内皮細胞の培養上清から見い出された、血小板由来細胞成長因子と同様の生物活性を持つシステインに富んだペプチドである。既にIgarashiらによりヒト皮膚線維芽細胞においてこのCTGFがTransforming Growth Factor-(TGF-)によりmRNAレベルでも蛋白レベルでも長時間誘導されることが報告されている。本研究ではまずラットの皮下にスチールのメッシュチェンバーを埋め込み、これらを経時的に取り出し、その組織からRNAを抽出してTGF-1とCTGFmRNAの発現を検討したところ、初期にTGF-1の発現が強くみられ、少し遅れて9日目にCTGFmRNAの発現のピークがみられた。次に培養ヒト皮膚線維芽細胞をTGF-で1時間刺激し、その後TGF-を除去してもCTGFmRNAの発現が長時間持続することを示した。さらにTGF-によるCTGFmRNAの発現は蛋白合成阻害剤の前処置によっても抑制されないことを示した。また核内で転写中のmRNAの量を調べるNuclear run on assayを用いて検討したところ、TGF-で刺激された培養ヒト皮膚線維芽細胞は24時間後もCTGFmRNAの転写活性が亢進していることが示された。TGF-によるCTGF遺伝子の発現調節機構をさらに検討するためにCTGFのgenomicDNAを分離し、4.3kbの塩基配列を決定して5個のエクソンと4個のイントロンからなる遺伝子構造を明らかにした。マウスのCTGF homologと考えられるfisp-12と比較しても同一の構造をもち、近位プロモーター領域の塩基配列は80%の相同性を認めた。次に823bpのCTGFプロモーターを取り出してpGL2-basicベクターに組み込み、NIH3T3細胞とヒト線維芽細胞を用いてLuciferase assayを施行し、TGF-に対する反応性を検討したところ、TGF-無刺激のものに比べて10倍以上のLuciferase活性を示した。そこでプロモーター領域を5’端より徐々に短くした変異体を作製し,検討したところTGF-に反応する部位は-276から-128の間に存在することが判明した。

 以上の結果よりCTGF遺伝子の構造は約4kbにわたり、5個のエクソンと4個のイントロンからなり、マウスとも高い相同性が示された。In vitroおよびin vivoにおいてTGF-とCTGFとは密接に関係していることが示唆され、TGF-は新たな蛋白合成を介さずにプロモーター領域に作用してCTGFmRNAの転写活性を亢進させていることが示唆された。

審査要旨

 本研究はConnective Tissue Growth Factor(結合組織細胞成長因子、CTGF)のgenomic DNAの分離とTGE-によるCTGFの発現調節の解析を試みたものであり、下記の結果を得ている。

 1.ラットの皮下に埋め込んだwound chanber内の組織からRNAを経時的に抽出しNorthern blotを行ったところ、初期にTGE-1の発現がみられ、肉芽形成期に一致してCTGFmRNAの発現が認められた。

 2.培養ヒト皮膚線維芽細胞を用いてTGF-で1時間刺激したのちTGF-を除去してもCTGFmRNAの発現は長時間持続することが示された。

 3.TGF-によるCTGFmRNAの発現は蛋白合成阻害剤の影響を受けないことが示された。

 4.培養ヒト皮膚線維芽細鞄を用いてNuclear run on assayを行ったところ、TGF-で24時間刺激後の核内でCTGFmRNAの転写活性が亢進していることが示された。

 5.PCR法を用いてCTGFのgenomic断片をcloningし、probeにしてgenomic libraryをscreeningし、4.3kbの塩基配列を決定してCTGFは5個のexonと4個のintronからなる遺伝子構造を明らかにした。

 6.823bpのCTGFpromoter領域をpGL2-basic vectorに組み込み、NIH3T3細胞とヒト線維芽細胞にtransfectしてLuciferase assayを施行し、TGF-に対する反応性を検討したところ、無刺激のものに比べて10倍以上の活性が認められた。deletion mutantを作製してさらに検討したところ、TGF-に反応する部位は-276から-128の間に存在することが示された。

 以上、本論文はヒトCTGFの遺伝子構造を明らかにするとともに、in vivoとin vitroにおいて線維芽細胞ではCTGFとTGE-とは密接な関係があることが示唆された。本研究はTGF-によるCTGFの転写調節機構の解明に役立ち、また創傷治瘉過程におけるCTGFの果たす役割の解明に重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。

UTokyo Repositoryリンク http://hdl.handle.net/2261/53923