学位論文要旨



No 212417
著者(漢字) 宮澤,健二
著者(英字)
著者(カナ) ミヤザワ,ケンジ
標題(和) 面材釘打ち木質耐力壁の耐震性に関する研究
標題(洋)
報告番号 212417
報告番号 乙12417
学位授与日 1995.07.13
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第12417号
研究科 工学系研究科
専攻 建築学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 坂本,功
 東京大学 教授 岡田,恒男
 東京大学 教授 高梨,晃一
 東京大学 教授 小谷,俊介
 東京大学 助教授 桑村,仁
 東京大学 助教授 有馬,孝禮
内容要旨

 本研究論文は木質耐力壁を主体とした研究であり、全11章からなりたっている。

 第1章は序論であり、木質構造の現状と設計上の問題点を解説し、本研究の目的、研究の方法、範囲及びその研究の背景や関連する研究状況を述べている。

 第2章は枠組壁工法住宅の構造実態調査に関するもので、水平耐力や振動特性の検討に必要な、耐力壁量やその配置の特性、また質量分布及び常時微動測定による固有周期や減衰性をまとめている。そして第3章以降の研究の参考資料としている。

 固定荷重と壁量の増加、剛性率はそれ程でもないが偏心が大きいこと、また、固有周期が短く、減衰性が小さく従来の在来木造のイメージとは違っていることを示している。

 第3章は、面材釘打ち耐力壁の性状に大きく影響する釘のせん断特性に関する研究である。加力実験と非線形有限要素法解析を行っている。そして、現在実務設計で使用している剛性は、過小評価であることを示し、次章以降の解析の参考としている。

 第4章は、無開口単一耐力壁の性状を実験と有限要素法で明らかにし、Tuomiや神谷らのせん断パネル理論の検証と適用限界の検討を行っている。現在の枠組壁工法の耐力壁では、この理論がほぼ成り立つことを示している。また、耐力壁の非線形性が釘に依存することを考慮した非線形域を含むプレース置換法を略解析法として提案している。

 第5章では、三つの略解析法を提案し、必要な数表を作成している。

 (1)耐力壁のせん断剛性と耐力に及ぼす開口の影響

 複数開口を有する耐力壁のせん断剛性と、せん断応力及び脚部浮き上がり応力から決まる耐力を理論的に求めている。その結果、次の点が明らかとなった。

 ・剛性や耐力低下率は、開口面積比より杉山のSheathing Area Ratioの方が相関性が高い。

 ・耐力壁各部のせん断応力で決まる耐力壁のせん断耐力の低下率は、各種開口形状の耐力壁に関する本理論による値のほぼ下限値と、杉山の実験式が一致する。

 ・せん断剛性低下率は、Sheathing Area Ratioにほぼ比例する。

 ・脚部浮き上がり強度から決まる耐力の低下率は、せん断剛性低下率と同じであった。

 (2)比較的大きな開口を有する多層構造の略算法、いわゆる「D値法」の提案

 等価柱の層せん断剛性と反曲点高さ比を、せん断パネル理論から求めている。

 (3)耐力壁の非線形プレース置換と接合部の変形を考慮した略解析法の提案

 せん断パネル理論による耐力壁の非線形プレース置換と水平接合部の非線形集中バネにより、少ない節点数で、各部の変形と応力を良くシミュレートできることを示している。

 第6章は、枠組壁工法2階建て架構の実大静加力実験による構造特性に関する研究である。その実験内容は、

 (1)構造用合板による標準的な2層門型平面架構及び直交壁付き架構

 (2)合板周辺の釘の打ち増し、枠材補強、通しまぐさ、石膏ボードや合板二重張り耐力壁

 (3)繰り返し加力による影響を調べるための実験

 等23体の水平繰り返し加力実験を行っている。その目的と研究成果は、

 (1)多層架構の変形と応力性状の把握:合板周辺の釘のすべり、脚部の浮き上がり変位や合板のせん断応力分布性状が把握できた。

 (2)腰壁・垂れ壁及び直交壁の影響:剛性と耐力への影響が把握された。

 (3)釘や枠材の補強効果:その影響が確認され、構造理論による設計手法の可能性を示した。

 (4)狭小耐力壁:釘と接合金物の補強により、十分な剛性と耐力を有することが示された。

 (5)通しまぐさ:垂れ壁・腰壁効果を更に高めるため、左右の狭小耐力壁に貫通する通しまぐさ方式の構造を提案し、その性状と共に十分な剛性と耐力を有することが示された。

 (6)合板二重張り釘間隔@50の高強度耐力壁:脚部の剛性と耐力が重要で、十分でない場合は、釘の打ち増しによる剛性と耐力上昇は期待出来ないことが分かった。

 (7)剛性と耐力及び終局強度と変形性能:既往の実験研究と本研究の実験から、壁倍率当たりの剛性と強度の算定、変形性能と構造特性係数の評価を行い、比較検討した。その結果、

 ・十分な脚部耐力を有する無開口耐力壁では、層間変形角1/300時の耐力は200〜240Kg/m/倍率で、終局耐力は260〜450Kg/m/倍率で、理論降伏耐力と実験による変形性能から評価される構造特性係数は0.20〜0.25である。

 ・門型架構に関する本研究実験では、1/300時の耐力は無開口耐力璧の0.70〜1.25倍、終局は0.8〜1.7である。構造特性係数は0.25〜0.5で、意外と大きいものもあった。

 ・総3階戸建て住宅の実大加力実験(既往実験研究)の1/300時の耐力は200Kg/m/倍率、終局は310Kg/m/倍率で、構造特性係数は0.28程度であった。

 (8)振動解析のための履歴特性について:1〜2サイクルと17〜20サイクルの繰り返し加力実験により、履歴特性に関する資料の蓄積を行った。

 第7章は、枠組壁構造の応力解析法の確立と第6章の実験との比較検討が目的である。詳細な有限要素法解析と、耐力壁をせん断パネル理論を利用して非線形プレース置換した略解析法の二つの解析法を用いている。その結果は、次のようなものであった。

 (1)詳細解析による構造各部の変形と応力性状の把握

 実験と対比し良い一致が見られ、更に実験では把握出来ない細部も知ることが出来た。合板の応力分布は、面内曲げとまぐさや窓枠による曲げ変形拘束を受け、必ずしも純せん断場にはならず、釘のせん断応力分布も大凡はせん断パネル理論に近いが、まぐさや腰壁及びその近傍の耐力壁上では、枠材や合板の張り方の影響を受けることが示された。

 (2)略解析法による構造各部の変形と応力性状の把握

 せん断パネル理論を利用したプレース置換でも、非線形解析が可能なことを示している。

 第8章は、枠組壁構造の応答解析の研究である。検討方法とその結果は、

 (1)加力実験から履歴モデルを作成し、シミュレーションにより検証している。

 (2)第6章の供試体について、エルセントロ地震波による数値応答解析を行っている。

 (3)数値応答解析と同一条件で、仮動的応答実験を行っている。

 (4)数値応答と仮動的応答解析を比較し、履歴モデルの妥当性を検討している。

 第9章は、木質耐力壁及び枠組壁構造のここまでの研究成果の応用で、現在の総3階戸建て住宅や共同住宅の強震時の振動と耐震予測を行ったものである。

 (1)総3階戸建て住宅について:第2章の実態調査に基づく壁量や質量分布と、告示が想定しているものを振動モデルとし、応答解析を行った。その結果下記のことが分かった。

 (1)現状の総3階戸建て住宅(減衰を無視した応答解析)について

 ・壁量と質量分布が1階から3階まで比較的同じになる傾向があり、1階の応答が大きい。

 ・25cm/secの地震入力では、1階の層間変形角は1/120程度となりほぼ安全と見なされる。

 ・50cm/secの地震入力では、1階の層間変形角は1/60程度となり若干危険である。

 (2)3階建てに関しては、告示の壁量の規定は耐震的に殆ど意味がない。

 (2)共同住宅について:実大加力と火災実験が行われた枠組壁工法3階建て共同住宅(既往実験研究)について、応答解析を行いその応答性状を示した。

 1階の層間変形角は、300Gal程度の地震入力で1/120Rad.、400Galで1/80Rad.となる。本解析結果に基づき1/100Rad.の加力損傷を与え、火災実験(建設省建築研究所)が行われた。

 (3)地震被害予測:第2章の実態調査と第6〜8章の耐震性の研究成果に基づき、3階戸建て住宅の地震被害予測を行っている。

 第10章は、剛接架構と木質壁構造の併用構造への、研究成果の応用である。

 6体の実大2層1スパン構造の実験と解析を行い、その構造性状を示し、剛性評価と応力解析法が妥当であることを検証している。木質ラーメン系の梁の応力分布の特徴と接合部の設計(靭性確保)に注意すれば、両構造形式が初期剛性域から終局強度域まで、適切な荷重負担が可能であることが示された。

 第11章は結びで、本研究の結論を述べ、研究成果の今後の応用の可能性と木質構造の今後の発展を展望したものである。

審査要旨

 本論文は、枠組壁工法における耐力壁である構造用合板などの面材を釘で枠組に打ち付けた壁について、水平力をうけたときの挙動を実験的および理論的に検討することによって、この耐力壁を用いた建物の耐震性について論じたものであり、11章からなる。

 第1章「序論」では、枠組壁工法を中心とした木質構造の構造設計の現状とその問題点を解説し、本研究の目的・範囲・既往の研究等について述べている。

 第2章「枠組壁工法住宅の構造形態の実態と常時微動測定」では、26棟の建物について、壁量や壁配置を調べるとともに、常時微動測定を行なって振動特性を検討し、いわゆる在来工法と比較して固有周期が短く、減衰性が小さいこと等を指摘している。

 第3章「合板釘打ち接合部の荷重-すべり特性について」では、釘接合の剪断特性を調べる載荷実験と有限要素法による非線形解析を行なった結果について述べ、現在の設計実務における剛性算定の方法は剛性を過小評価していることを指摘している。

 第4章「面材釘打ち耐力壁の基本的性質と剪断パネル理論」では、壁の載荷実験と有限要素法による解析結果について述べ、既往の理論式がおおむね妥当であることを確認するとともに、非線形領域まで考慮したプレース置換法を提案している。

 第5章「面材釘打ち耐力壁構造の実用応力解析法」では、第4章の検討に基づき、その剪断パネル理論の実務設計法への応用について述べ、開口つき耐力壁の剛性と耐力の検討方法、剪断変形を考慮した等価ラーメン応力解析法、等価プレース・ラーメン解析法を提案し、これらが実際の挙動を良く再現しうることおよび実用解法として適切であることを示している。

 第6章「枠組壁構造実大2階建て架構の静的加力実験」では、2階建て平面架構と直交壁つき立体架構の試験体合計23体について行なった実験結果について述べている。この実験では、多層架構の変形と応力および変形性能と終局強度ならびに履歴特性の把握、腰壁・垂壁の効果、狭小耐力壁の特性、合板2重張りの効果等について検証し、それぞれ定量的な結果を得ている。

 第7章「枠組壁構造の解析的研究」では、前章で述べた実験に対して、有限要素法による詳細な解析法と剪断パネル理論に基づいた非線形プレース置換による略算的な解析法を適用した結果について述べている。その結果、前者によれば、実験結果を良い精度で再現できるだけでなく、細部の挙動も把握できること、また後者によっても非線形的な挙動が再現できることなどを、明らかにしている。

 第8章「枠組壁構造の動的応答について」では、第4章および第6章で紹介した実験の結果を用いて作成した履歴モデルによる数値応答解析結果と、第6章の試験体を用いて行なった仮動的応答実験の結果について述べており、両者の応答結果がよく一致することからこの履歴モデルが妥当であることを示している。

 第9章「枠組工法住宅の耐震性について」では、とくに総3階建ての戸建ておよび共同住宅について、前章までの知見をもとに振動モデルを設定し、地震応答計算を行なった結果について述べ、予測される最大応答変位を定量的に求めている。またこれらを基に、地震被害予測を試みている。

 第10章「木質耐力壁を含む半剛節集成材架構」では、実大2層1スパンの6試験体について行なった実験と解析の結果について述べている。供試体は集成材によるラーメン構造に開口つき木質耐力壁を組み込んだ実用性の高いもので、かつその耐震性が優れていることを示すとともに、前章までの知見による剛性評価と応力解析法が有効であることを示している。

 第11章「結び」では、本研究の結論を述べ、研究成果の今後の応用の可能性と木質構造の今後の発展を展望している。

 以上本論文は、木質構造における主要な耐力要素である面材釘打ち耐力壁に関して、釘接合部、壁単体、実大架構等の力学的特性を、実験と理論の両面から検討するとともに、その成果の耐震設計への応用についてまとめたものであり、耐震工学の発展に寄与するところが大きい。よって、本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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