本研究論文は木質耐力壁を主体とした研究であり、全11章からなりたっている。 第1章は序論であり、木質構造の現状と設計上の問題点を解説し、本研究の目的、研究の方法、範囲及びその研究の背景や関連する研究状況を述べている。 第2章は枠組壁工法住宅の構造実態調査に関するもので、水平耐力や振動特性の検討に必要な、耐力壁量やその配置の特性、また質量分布及び常時微動測定による固有周期や減衰性をまとめている。そして第3章以降の研究の参考資料としている。 固定荷重と壁量の増加、剛性率はそれ程でもないが偏心が大きいこと、また、固有周期が短く、減衰性が小さく従来の在来木造のイメージとは違っていることを示している。 第3章は、面材釘打ち耐力壁の性状に大きく影響する釘のせん断特性に関する研究である。加力実験と非線形有限要素法解析を行っている。そして、現在実務設計で使用している剛性は、過小評価であることを示し、次章以降の解析の参考としている。 第4章は、無開口単一耐力壁の性状を実験と有限要素法で明らかにし、Tuomiや神谷らのせん断パネル理論の検証と適用限界の検討を行っている。現在の枠組壁工法の耐力壁では、この理論がほぼ成り立つことを示している。また、耐力壁の非線形性が釘に依存することを考慮した非線形域を含むプレース置換法を略解析法として提案している。 第5章では、三つの略解析法を提案し、必要な数表を作成している。 (1)耐力壁のせん断剛性と耐力に及ぼす開口の影響 複数開口を有する耐力壁のせん断剛性と、せん断応力及び脚部浮き上がり応力から決まる耐力を理論的に求めている。その結果、次の点が明らかとなった。 ・剛性や耐力低下率は、開口面積比より杉山のSheathing Area Ratioの方が相関性が高い。 ・耐力壁各部のせん断応力で決まる耐力壁のせん断耐力の低下率は、各種開口形状の耐力壁に関する本理論による値のほぼ下限値と、杉山の実験式が一致する。 ・せん断剛性低下率は、Sheathing Area Ratioにほぼ比例する。 ・脚部浮き上がり強度から決まる耐力の低下率は、せん断剛性低下率と同じであった。 (2)比較的大きな開口を有する多層構造の略算法、いわゆる「D値法」の提案 等価柱の層せん断剛性と反曲点高さ比を、せん断パネル理論から求めている。 (3)耐力壁の非線形プレース置換と接合部の変形を考慮した略解析法の提案 せん断パネル理論による耐力壁の非線形プレース置換と水平接合部の非線形集中バネにより、少ない節点数で、各部の変形と応力を良くシミュレートできることを示している。 第6章は、枠組壁工法2階建て架構の実大静加力実験による構造特性に関する研究である。その実験内容は、 (1)構造用合板による標準的な2層門型平面架構及び直交壁付き架構 (2)合板周辺の釘の打ち増し、枠材補強、通しまぐさ、石膏ボードや合板二重張り耐力壁 (3)繰り返し加力による影響を調べるための実験 等23体の水平繰り返し加力実験を行っている。その目的と研究成果は、 (1)多層架構の変形と応力性状の把握:合板周辺の釘のすべり、脚部の浮き上がり変位や合板のせん断応力分布性状が把握できた。 (2)腰壁・垂れ壁及び直交壁の影響:剛性と耐力への影響が把握された。 (3)釘や枠材の補強効果:その影響が確認され、構造理論による設計手法の可能性を示した。 (4)狭小耐力壁:釘と接合金物の補強により、十分な剛性と耐力を有することが示された。 (5)通しまぐさ:垂れ壁・腰壁効果を更に高めるため、左右の狭小耐力壁に貫通する通しまぐさ方式の構造を提案し、その性状と共に十分な剛性と耐力を有することが示された。 (6)合板二重張り釘間隔@50の高強度耐力壁:脚部の剛性と耐力が重要で、十分でない場合は、釘の打ち増しによる剛性と耐力上昇は期待出来ないことが分かった。 (7)剛性と耐力及び終局強度と変形性能:既往の実験研究と本研究の実験から、壁倍率当たりの剛性と強度の算定、変形性能と構造特性係数の評価を行い、比較検討した。その結果、 ・十分な脚部耐力を有する無開口耐力壁では、層間変形角1/300時の耐力は200〜240Kg/m/倍率で、終局耐力は260〜450Kg/m/倍率で、理論降伏耐力と実験による変形性能から評価される構造特性係数は0.20〜0.25である。 ・門型架構に関する本研究実験では、1/300時の耐力は無開口耐力璧の0.70〜1.25倍、終局は0.8〜1.7である。構造特性係数は0.25〜0.5で、意外と大きいものもあった。 ・総3階戸建て住宅の実大加力実験(既往実験研究)の1/300時の耐力は200Kg/m/倍率、終局は310Kg/m/倍率で、構造特性係数は0.28程度であった。 (8)振動解析のための履歴特性について:1〜2サイクルと17〜20サイクルの繰り返し加力実験により、履歴特性に関する資料の蓄積を行った。 第7章は、枠組壁構造の応力解析法の確立と第6章の実験との比較検討が目的である。詳細な有限要素法解析と、耐力壁をせん断パネル理論を利用して非線形プレース置換した略解析法の二つの解析法を用いている。その結果は、次のようなものであった。 (1)詳細解析による構造各部の変形と応力性状の把握 実験と対比し良い一致が見られ、更に実験では把握出来ない細部も知ることが出来た。合板の応力分布は、面内曲げとまぐさや窓枠による曲げ変形拘束を受け、必ずしも純せん断場にはならず、釘のせん断応力分布も大凡はせん断パネル理論に近いが、まぐさや腰壁及びその近傍の耐力壁上では、枠材や合板の張り方の影響を受けることが示された。 (2)略解析法による構造各部の変形と応力性状の把握 せん断パネル理論を利用したプレース置換でも、非線形解析が可能なことを示している。 第8章は、枠組壁構造の応答解析の研究である。検討方法とその結果は、 (1)加力実験から履歴モデルを作成し、シミュレーションにより検証している。 (2)第6章の供試体について、エルセントロ地震波による数値応答解析を行っている。 (3)数値応答解析と同一条件で、仮動的応答実験を行っている。 (4)数値応答と仮動的応答解析を比較し、履歴モデルの妥当性を検討している。 第9章は、木質耐力壁及び枠組壁構造のここまでの研究成果の応用で、現在の総3階戸建て住宅や共同住宅の強震時の振動と耐震予測を行ったものである。 (1)総3階戸建て住宅について:第2章の実態調査に基づく壁量や質量分布と、告示が想定しているものを振動モデルとし、応答解析を行った。その結果下記のことが分かった。 (1)現状の総3階戸建て住宅(減衰を無視した応答解析)について ・壁量と質量分布が1階から3階まで比較的同じになる傾向があり、1階の応答が大きい。 ・25cm/secの地震入力では、1階の層間変形角は1/120程度となりほぼ安全と見なされる。 ・50cm/secの地震入力では、1階の層間変形角は1/60程度となり若干危険である。 (2)3階建てに関しては、告示の壁量の規定は耐震的に殆ど意味がない。 (2)共同住宅について:実大加力と火災実験が行われた枠組壁工法3階建て共同住宅(既往実験研究)について、応答解析を行いその応答性状を示した。 1階の層間変形角は、300Gal程度の地震入力で1/120Rad.、400Galで1/80Rad.となる。本解析結果に基づき1/100Rad.の加力損傷を与え、火災実験(建設省建築研究所)が行われた。 (3)地震被害予測:第2章の実態調査と第6〜8章の耐震性の研究成果に基づき、3階戸建て住宅の地震被害予測を行っている。 第10章は、剛接架構と木質壁構造の併用構造への、研究成果の応用である。 6体の実大2層1スパン構造の実験と解析を行い、その構造性状を示し、剛性評価と応力解析法が妥当であることを検証している。木質ラーメン系の梁の応力分布の特徴と接合部の設計(靭性確保)に注意すれば、両構造形式が初期剛性域から終局強度域まで、適切な荷重負担が可能であることが示された。 第11章は結びで、本研究の結論を述べ、研究成果の今後の応用の可能性と木質構造の今後の発展を展望したものである。 |