Yersinia pseudotuberculosisはグラム陰性の病原性の腸内細菌であり、日本国内では、飲み水や汚染された食肉などを通じての局地的な集団発生が経験されている。Y.pseudotuberculosisによる感染症では、腹痛、嘔吐、下痢などの消化器症状の他に、発熱、咽頭発赤、いちご舌、猩紅熱様の皮膚の発赤、落屑、関節痛などの全身症状が見られる。また、まれに反応性関節炎、ライター症候詳などの続発症を起こしたり、冠動脈りゅうを合併して川崎病と診断されたりする。このような多彩な臨床像および腸管粘膜とくにバイエル板でのリンパ球の増生、腸間膜リンパ節炎などの病理所見から、ヒト免疫系の活性化がこの感染症の発症機序において大きな役割を果たしていることが予想される。 近年、細菌毒素、とりわけブドウ球菌や溶血性連鎖球菌が産生する外毒素が、マクロファージやT細胞、B細胞などの免疫系細胞を広範囲に刺激するスーパー抗原として注目されている。われわれは、Y.pseudotuberculosis感染症で見られる臨床症状の成立に、スーパー抗原様の活性物質が関わっているのではないかとの仮説をたてた。そして、Y.pseudotuberculosisの培養上清中にスーパー抗原活性、すなわちV 特異的なT細胞の増殖刺激作用を検出することを試みた。 Y.pseudotuberculosisの臨床分離株3株の培養上清のmitogen活性を図1に示す。 図1 Yersinia培養上清中のmitogen活性 3株とも0.01-100 g/mlの範囲で濃度依存性にT細胞を刺激増殖させた。対照として用いたY.enterocoliticaの培養上清やCY培地単独ではmitogen活性は見られなかった。 3株のうちで量も活性の強かった#1株を選んで精製を試みた。Sephacryl S-200によるゲルろ過を行ったところ、分子量約12,000付近に限局してmitogen活性が検出され、混在するLPSとは区別できた。このS-200ゲルろ過から得られた粗標品を用いてT細胞を刺激培養し、TCRのV レパートリーを解析した。 表1に、5名のドナーから得られた末梢血単核球を刺激培養した後の、免疫蛍光染色によるVbレパートリー解析の結果を示す。抗CD3抗体で刺激した場合は、Vb2、8、17陽性細胞は芽球化T細胞のそれぞれ、6.6,4.3,4.1%を占めたが、この値は末梢血中のT細胞の正常値とほとんど変わらず、抗CD3抗体による刺激では、V レパートリーは変化しないことが分かった。これに対して、Y.pseudotuberculosisの培養上清で刺激した場合は、V 2、8、17陽性細胞の割合は、それぞれ1.4,2.5,2.0%と有意に低下した。また、CD4/CD8比は、抗CD3抗体刺激では0.65だったのに比べて、培養上清刺激では1.99と著明に増加した。 表1 蛍光抗体染色によるTCRレパートリー解析 次に、図2に、定量的PCR法によるV レパートリー解析の結果を示す。結果は、イメージアナライザーで測定したV バンドとC バンドの放射活性の比(V /C ratio)で示してある。22種類のV レパートリーのうち、ほとんどのV では抗CD3抗体刺激に比べて培養上清刺激の後にV /C 比は低下した。これは、免疫蛍光染色で得られた結果と一致していた。しかし、V 3(p=0.02),V 9(p=0.008),V 13.1(0=0.009),V 13.2(p=0.02)の各レパートリーでは、抗CD3抗体刺激に比べて培養上清刺激の後にV /C 比は、解析した5例全例で有意に上昇していた。 図2 定量的PCR法によるTCRレパートリー解析 スーパー抗原が活性を現すためにはMHCクラスII分子との複合体を作ることが必要であること、またこの場合にMHCクラスII分子のアイソタイプによる拘束は受けないことが認められている。Yersinia pseudotuberculosisの培養上清について同じような特性が見られるか否かを検定するために、高度に精製したヒトT細胞をヒトのMHCクラスII分子を、遺伝子移入したマウス繊維芽細胞株とともにYersinia pseudotuberculosisの培養上清の存在下で培養し、増殖反応を調べた。HLA DR2、DR4陽性のドナーから精製されたT細胞を用いて行われた増殖刺激試験の結果を表2に示す。 表2 HLAクラスII分子を遺伝子移入したマウス繊維芽細胞による培養上清中の抗原の提示 HLA-DPw9、-DQw6、-DR1、-DR4Dw15のそれぞれ異なったクラスII分子あるいはアイソタイプをもつマウス繊維芽細胞株のすべてが、培養上清め存在下でT細胞を増殖させることができた。クラスII分子を持たない親株の繊雑芽細胞(L cell)で刺激した場合は、T細胞単独で刺激した場合と同様に最小の増殖反応しか見られなかった。抗HLA-DR抗体と培養上清とを同時にT細胞の培養液に加えると、これらの増殖反応はほぼ完全に抑制された。また、この培養上清によるリンパ球増殖刺激活性はブドウ球菌の腸内毒素(SEA・SEB・SEC2・SED・SEE)やTSST-1に対する特異抗体を添加しても抑制を受けなかった。 以上の結果は、いずれもスーパー抗原によるT細胞の増殖刺激作用によく一致するものである。現在、このスーパー抗原の高度精製と遺伝子クローニングをすすめている。 Y.pseudotuberculosisの感染症で見られる臨床症状には、ブドウ球菌や溶連菌の感染症で見られる症状と類似したものが多い。これらの発症機序は現在のところ不明だが、3つの細菌がいずれもスーパー抗原を産生することは興味深い。スーパー抗原が持つ広範な免疫系活性化作用、とくにIL-1やTNF- などの炎症性サイトカインの産生を亢進する作用が、これらの細菌のもつ病原性と深く関わっていることが予想される。また、これらの細菌感染症のあとに続発する関節炎、腎炎などの自己免疫性疾患とスーパー抗原との関わりについても、今後検討を進めたい。 |