審査要旨 | | 本研究では,ワクチン中に含まれる細菌性内毒素の家畜に対する作用を明らかにすることを目的として,内毒素の本態であるリポポリサッカライド(LPS)を用い,ワクチン対象動物の一つである豚における内毒素の基本的作用を確認し,ついで,豚と同様の反応を示したマウスをモデルとして,内毒素の作用の一つである免疫系への影響について検討したものである。さらに,グラム陰性菌不活化ワクチンに添加されているアジュバントの内毒素の作用に対する影響についても検討を加えている。得られた主な結果は以下の通りである。 1.若齢豚に大腸菌由来のLPS(0.0001〜2mg/kg)を静脈内投与した結果,従来報告されてきた豚に対するLPSの作用に加え,リンパ器官でのアポトーシスが初めて明らかにされ,内毒素を含むワクチンによって免疫抑制が誘導される可能性が示された。また,血中の内毒素,腫瘍壊死因子(TMF-)および副腎皮質ホルモンがほぼ用量依存性に検出され,豚に対するLPSの作用の指標として,血中TNF-や副腎皮質ホルモンの動態が重要であることが示された。 2.LPS感受性(C3H/HeN)および抵抗性(C3H/HeJ)マウスに大腸菌由来のLPSを静脈内投与したところ,LPS感受性マウスで豚と同様の病理学的および病態生理学的変化が認められたことから, LPS感受性マウスは豚に対するLPSの作用を解析するモデルとして有用であることが示された。 3.LPS筋肉内投与後の豚およびマウス胸腺をフローサイトメトリーで解析したところ,CD4+CD8+細胞を主体とする胸腺細胞の減少が認められた。脾臓や末梢血でもTリンパ球の減少が認められた。さらに,精製鳥型ツベルクリンを用いた遅延型過敏症反応によって細胞性免疫能を検討したところ.LPS投与によって細胞性免疫能が抑制されることが確認され,その一因として上述した全身性のT細胞減少が考えられた。ついで,LPSの複数回投与の影響を検討したところ,反復投与によって細胞性免疫能の抑制が緩和されることも示された。このことは,家畜の内毒素への暴露歴の違いによって,LPSの免疫系に及ぼす作用の強さが変化する可能性を示唆している。 4.若齢豚に,大腸菌LPSを生理食塩水,アルミニウムアジュバントおよびオイルアジュバントに添加して筋肉内投与したところ,両アジュバント群でLPSに対する全身性反応が緩和され,特にアルミニウムは直接的にLPSの活性を抑制することが明らかにされた。また,本実験系においても,LPSの生体に対する作用の指標として,血中TNE-および副腎皮質ホルモンが有用であることが確認された。 以上,本研究は,豚に対するLPSの作用として,従来報告されてきたもののほかに,リンパ球のアポトーシスという新たな知見を加えて,また,LPS作用の指標として,血中TNF-および副腎皮質ホルモンの動態が重要であることを明らかにした。 さらに,豚に対するLPSの作用を解析するモデルとしてLPS感受性マウスを用い,LPSによって,全身性のT細胞減少が一因をなすと考えられる細胞性免疫抑制が誘導されることを明らかにした。 また,アジュパントの添加によってLPSC対する反応が軽減されることも示した。 これらの知見は, 細菌性内毒素の生物活性の詳細の解明,ダラム陰性菌ワクチンの安全性評価法の確立に大きく寄与するものと考えられ,審査員一同,本研究は博士(獣医学)の学位として十分な内容をもつものと判定した。 |