ロジウム(II)アセタート錯体(1)を触媒とする-ジアゾカルボニル化合物の分子内C-H挿入反応は、環状炭素骨格構築のための有用な反応であるが、挿入位置の制御に問題を残していた。本論文は、触媒である錯体の構造を検討し、ロジウム(II)トリフェニルアセタート錯体[Rh2(TPA)4](2)を用いた位置選択的分子内C-H挿入反応によるビシクロ[3.3.0]オクタン環の高選択的構築ならびに1位置換2-インダノン誘導体の一般的合成法を開発するとともに、その結果の考察から、不斉触媒錯体であるロジウム(II)N-フタロイル-(S)-フェニルアラニナート錯体[Rh2(S-PTPA)4](3)を設計、合成し、これを用いた3位置換シクロベンタノン誘導体の不斉合成にも成功した経緯を記したものである。 すなわち、下記の反応によるビシクロ[3.3.0]オクタン環の合成は、ケタール部を嵩高くすることによって達成されていた。本研究は、嵩高い配位子を持つロジウム(II)カルボキシラート錯体を用いることによってもビシクロ化合物を高い選択性で得ることができることを明らかにした。2はケタール部をもたない場合でもビシクロ化合物を高い選択性で与えることが示された。 2の触媒としての特徴を明らかにするため、挿入位置が競合する反応系を種々検討したところ、この触媒は芳香環C-Hに対して極めて高い選択性を発現することが判明した。この触媒を用いることにより、例に示すように、1-置換2-インダノン誘導体の一般性のある合成法が確立された。 上記の結果は、光学活性な配位子を組み込めば、エナンチオトピックなC-H結合の識別ができる可能性を示唆している。そこで、様々な構造のキラルなロジウム(II)錯体を設計、合成し、3-置換シクロペンタノン類を標的分子とする反応系を用い検討を行った結果、3が良好な不斉触媒であることを見出した。例を示す。 以上本研究は、-ジアゾカルボニル化合物の分子内C-H挿入反応を触媒するロジウム(II)カルボキシラート錯体を広く検索することによって、2を用いる位置選択的分子内C-H挿入反応を実現するとともに、3を用いる分子内不斉C-H挿入反応へと展開したもので、有機合成化学の進歩に寄与するものとして、博士(薬学)に値する研究成果であると認める。 |