学位論文要旨



No 212471
著者(漢字) 枝松,良展
著者(英字)
著者(カナ) エダマツ,ヨシノブ
標題(和) モルタルの変形性を表す細骨材・粉体の材料特性の定量化
標題(洋)
報告番号 212471
報告番号 乙12471
学位授与日 1995.09.21
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第12471号
研究科 工学系研究科
専攻 土木工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 岡村,甫
 東京大学 教授 友澤,史紀
 東京大学 教授 魚本,健人
 東京大学 助教授 前川,宏一
 東京大学 助教授 小沢,一雅
内容要旨

 本研究は、フレッシュモルタルの変形性に及ぼす細骨材および粉体の影響を表現するための材料特性値を明確にし、これらを定量化することを目的としたものである。近年開発された自己充填コンクリートは、未だその一般的配合設計法が確立されていない。フレッシュコンクリートの変形性は、材料分離抵抗性とともに、コンクリートの自己充填性を支配する重要な特性のひとつであり、自己充填コンクリートの一般的配合設計法を確立するためには、使用する各材料および配合と、これらの特性の関係を定量的にとらえることが重要である。本研究では、コンクリートの変形性を主に支配するモルタルの変形性を、フロー試験から得られるフロー面積比で評価し、任意の粉体および細骨材に対して、その影響を表現するための材料特性値を明確にするとともに、各種粉体および細骨材を用いて、これらを定量評価することを試みたのである。

 以下に、各章の概要を述べる。

 第1章は序論であり、モルタルの変形性に及ぼす細骨材および粉体の特性を、定量的に表現することの意義を論じたものである。

 第2章では、モルタルの変形性を代表するフロー値に及ぼす材料特性や配合の影響を定量的に評価するために、既に提案されているペーストフロー値の基本式を基に、ペースト流動に対する粉体の特性値、およびモルタル流動に対する細骨材の特性値を用いて、モルタルフロー値の定式化を行った。

 ペーストにおけるフロー面積比と自由水粉体容積比の線形な関係が、モルタルにおいても成立すると仮定し、粉体と同様に、細骨材のモルタル流動に対する特性を、拘束水比(フロー値の増加に関与しない水、すなわち細骨材に拘束されると考えられる水)と変形係数(フロー面積比を単位量大きくするために必要な水粉体容積比)で表現することにより、モルタルのフロー値を定式化した。この基本式の妥当性は、0.15mm以下の微粉を含んでいない細骨材を用いたモルタルのフロー試験により確認した。

 細骨材容積比を一定として、水粉体容積比を変化させたモルタルのフロー試験から、細骨材の拘束水比と変形係数を算定した結果、拘束水比および変形係数は細骨材容積比に係わらない一定値と、細骨材容積比がある限度を越えて増加すると増え始め、やがて急激な増加を示すものよりなることを明らかにし、これらを細骨材容積比の関数で定式化した。

 第3章では、ペーストフロー値の基本式あるいはモルタルフロー値の基本式に用いられている、粉体の拘束水比と変形係数を、粉体の粒度分布特性,粒子形状および水和活性度から予測する方法を提案した。

 粉体の粒度分布特性値を、粒子径の大きさを表す粒径指数と粒度分布の形を表す分布形指数を乗じた値とすると、同一種類の粉体の拘束水比は、粒度分布特性値に比例し、その比例定数は、粉体の種類によって異なり、粉体の粒子形状や活性度により定まることを明らかにし、これを形状係数とした。粉体の変形係数は、粒径指数と形状係数の積に比例して増加し、その比例定数を一定値と仮定すると、定数項は粒子表面の状態を表す指標になることを明らかにした。

 中庸熱ポルトランドセメントに、高炉スラグ微粉末,石灰石微粉末またはフライアッシュを混合した混合粉体の拘束水比は、混合材の容積比に応じて、中庸熱ポルトランドセメントの形状係数を設定することにより、粒度分布特性値から算定できることを明らかにした。また、これらの混合粉体の変形係数は、粒径指数と形状係数より算定でき、混合する両者の変形係数とそれらの混合割合によって算定できることを明らかにした。

 第4章では、モルタルフロー値の基本式に用いられている、細骨材の拘束水比と変形係数を、細骨材の粒度分布特性と粒子形状から予測する方法を提案した。

 拘束水比は、その粒度分布特性値である粒径指数と分布形指数、および細骨材粒子の形状により定まり、使用する粉体の種類に係わらない、細骨材の特性値であることを明らかにした。変形係数は、その粒径指数と形状係数により定まることを明らかにした。なお、変形係数は、使用する粉体の種類に係わらない、細骨材の特性値であると考えられるが、フライアッシュのような粒子形状の丸い粉体を使用すると、小さくなることを明らかにした。

 細骨材同士の接触や噛み合いによる、変形抵抗が生じ始める細骨材容積比を表している、細骨材相互作用開始容積比は、使用する粉体が同じならば、細骨材の平均粒径と実積率から算定される平均粒子間距離に関係していることを明らかにした。しかし、同じ細骨材でも、使用する粉体の平均粒子径や粒度分布および粒子形状が異なると、細骨材相互作用開始容積比は異なることを明らかにした。また、見かけの拘束水比が最大値となり、見かけの変形係数が無限大となる細骨材限界容積比は、細骨材の実積率により定まり、使用する粉体の種類に係わらない、細骨材の特性値であることを明らかにした。

 第5章では、モルタルフローにおける粉体と細骨材の役割から、その境界となる粒子径を明確にし、細骨材中の微粒分および粉体中の粗粒分が、モルタルフロー値に及ぼす影響を明らかにした。

 粉体の拘束水比および変形係数は大きいが、その量に影響を受けず一定値である。細骨材の拘束水比および変形係数は粉体に比較して小さいが、その容積がある限度を越えると、容積の増加とともに増加する。このことが、フレッシュモルタルにおける粉体と細骨材の違いであることを示した。

 細骨材の微粒分は、フレッシュモルタル中において、粉体と同様の働きをしているため、拘束水比と細骨材相互作用開始容積比を大きくし、変形係数を見かけ上小さくする作用があることを明らかにした。

 細骨材と粉体の境界粒子径は、0.09mm付近にあることが明らかとなり、本研究で使用した細骨材の場合、0.09mm以下の微粒細骨材を粉体として、モルタルのフロー面積比を計算すると、実験値と最も良い一致を示すことが明らかとなった。細骨材と同様に、粉体中の0.09mm以上の粗粒粉体を細骨材として取り扱うことによって、モルタルのフロー面積比の計算値は、実験値と最も良い一致を示すことが明らかとなった。また、本研究で使用した粉体と細骨材の場合、モルタル中に微粒細骨材と粗粒粉体をともに含む場合は、細骨材相互作用開始容積比は小さくなるが、それらの一方だけを含む場合は、細骨材相互作用開始容積比の変化は小さいことを明らかにした。

 第6章は結論であり、本研究により得られた結論を、各章ごとにまとめて述べたものである。

 今後の課題として、高流動コンクリートの製造には不可欠である高性能減水剤等の混和剤の特性が、モルタルフロー値に及ぼす影響を、定量的に把握することが重要である。そのためには、粉体の粒度分布特性値のような、混和剤における統一的な特性値を見いだすことが必要であると考えられる。

審査要旨

 本論文は、フレッシュモルタルの変形性に及ぼす細骨材および粉体の影響を表現するための材料特性値を明確にし、これらを定量化することを目的としたものである。フレッシュコンクリートの変形性は、材料分離抵抗性とともに、コンクリートの作業性(ワーカビリティー)を支配する重要な特性のひとつである。近年開発された振動締固め作業が不要の自己充填コンクリートの一般的配合設計法を確立するためには、使用する各材料および配合と、これらの特性の関係を定量的にとらえることが重要である。本論文では、コンクリートの変形性を主に支配するモルタルの変形性を、フロー試験から得られるフロー面積比で評価し、任意の粉体および細骨材に対して、その影響を表現するための材料特性値を明確にするとともに、各種粉体および細骨材を用いて、これらを定量評価することを試みたのである。

 任意の材料および配合のコンクリートの変形性を表現するために,コンクリート中の自由水量と固体粒子の接触,摩擦に起因する変形抵抗特性の概念を新たに導入し,フレッシュコンクリートの挙動解明に新しい方法論を提示している。この枠組みに基づき,コンクリートを構成する各材料特性の定量評価を試みたものであり,固体粒子が持つ粒度や粒形表面の性状がコンクリートの変形性に及ぼす影響を一般化した形で統一的に表現することに初めて成功している。これらの成果は,フレッシュコンクリートのより合理的な設計に大きく貢献するものと考えられる。

 第1章は序論であり、モルタルの変形性に及ぼす細骨材および粉体の特性を、定量的に表現することの意義を論じている。

 第2章では、モルタルの変形性を代表するフロー値に及ぼす材料特性や配合の影響を定量的に評価するために、既に提案されているペーストフロー値の基本式を基に、粉体の特性値、および細骨材の特性値を用いて、モルタルフロー値の定式化を行っている。

 ペーストにおけるフロー面積比と自由水粉体容積比の線形な関係が、モルタルにおいても成立すると仮定し、粉体と同様に、細骨材のモルタル流動に対する特性を、拘束水比(フロー値の増加に関与しない水、すなわち細骨材に拘束されると考えられる水)と変形係数(フロー面積比を単位量大きくするために必要な水粉体容積比)で表現することにより、モルタルのフロー値を定式化している。この基本式の妥当性は、0.15mm以下の微粉を含んでいない細骨材を用いたモルタルのフロー試験により確認している。

 細骨材容積比を一定として、水粉体容積比を変化させたモルタルのフロー試験から、細骨材の拘束水比と変形係数を算定した結果、拘束水比および変形係数は細骨材容積比に係わらない一定値と、細骨材容積比がある限度を越えて増加すると増え始め、やがて急激な増加を示すものよりなることを明らかにし、これらを細骨材容積比の関数で定式化することに成功している。

 第3章では、ペーストフロー値の基本式あるいはモルタルフロー値の基本式に用いられている、粉体の拘束水比と変形係数を、粉体の粒度分布特性,粒子形状および水和活性度から予測する方法を提案し,これを中庸熱ポルトランドセメント,高炉スラグ微粉末,石灰石微粉末,フライアッシュおよびこれらの混合粉体を用いた実験により検証している。

 粉体の粒度分布特性値を、粒子径の大きさを表す粒径指数と粒度分布の形を表す分布形指数を乗じた値とすると、同一種類の粉体の拘束水比は、粒度分布特性値に比例し、その比例定数は、粉体の種類によって異なり、粉体の粒子形状や活性度により定まることを明らかにし、これを形状係数としている。粉体の変形係数は、粒径指数と形状係数の積に比例して増加し、その比例定数を一定値と仮定すると、定数項は粒子表面の状態を表す指標になることを示している。

 第4章では、モルタルフロー値の基本式に用いられている、細骨材の拘束水比と変形係数を、細骨材の粒度分布特性と粒子形状から予測する方法を提案している。

 拘束水比は、その粒度分布特性値である粒径指数と分布形指数、および細骨材粒子の形状により定まり、使用する粉体の種類に係わらない、細骨材の特性値であることを明らかにしている。変形係数は、その粒径指数と形状係数により定まることを明らかにしている。

 細骨材同士の接触や噛み合いによる、変形抵抗が増加し始める細骨材容積比を表している、細骨材相互作用開始容積比は、使用する粉体が同じならば、細骨材の平均粒径と実積率から算定される平均粒子間距離に関係している。しかし、同じ細骨材でも、使用する粉体の平均粒子径や粒度分布および粒子形状が異なると、細骨材相互作用開始容積比は異なることを示している。一方、見かけの拘束水比が最大となり、見かけの変形係数が無限大となる細骨材限界容積比は、細骨材の実積率により定まり、使用する粉体の種類に係わらない、細骨材の特性値であることを明らかにしている。

 第5章では、モルタルフローにおける粉体と細骨材の役割から、その境界となる粒子径を明確にし、細骨材中の微粒分および粉体中の粗粒分が、モルタルフロー値に及ぼす影響を明らかにしている。

 粉体の拘束水比および変形係数は細骨材に比べて大きいが、その量の影響を受けず一定値である。細骨材の拘束水比および変形係数は粉体に比較して小さいが、その容積がある限度を越えると、容積の増加とともに増加する。このことが、フレッシュモルタルにおける粉体と細骨材の違いであることを明らかにしている。

 さらに,細骨材と粉体の境界粒子径は、0.09mm付近にあることが明らかとなり、本論文で使用した細骨材の場合、0.09mm以下の微粒細骨材を粉体として、粉体中の0.09mm以上の粗粒粉体を細骨材として取り扱うことによって、モルタルのフロー面積比の計算値は、実験値と最も良い一致を示すことを明らかにしている。

 第6章は結論であり、本研究により得られた結論を、まとめて述べたものである。

 本論文は,フレッシュコンクリートの変形性を論じる新しい枠組みを示し,細骨材および粉体の材料特性の影響を統一的に表現することに初めて成功したものであり,コンクリート工学に貢献するところ大である。

 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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