物を練り混ぜる又は、練る行為は文明が発展して以来、現代に至るまで我々の生活を支える根幹的な技術の一つと考える事ができる。 あらゆる産業に於いて、この練り混ぜ技術は材料を均一にする目的の為や異なった性質の材料を組み合わせ、それぞれの材料の長所を生かした物を製造する行為または、性質の全く異なる新しい材料を生み出す行為などに活用されている。極論すれば、この練り混ぜ技術の存在なくしては、製造行為が成立しないと言っても過言ではない。 この練り混ぜ技術が活用されている範囲も、食品業界、製麺業界を始め、製菓、製薬、合金、製陶器、瓦、化学、建設業界等、大変広い範囲であり、各業界により莫大な費用と多大な労力とが費やされている。 その練り混ぜの方法も多岐に亘り、練り混ぜる材料の性質や目的及び、その量や重さにより種々のミキサが開発され手法も千差万別と思われる。 建設産業に於いても、代表的な資材であるコンクリートに関して、この練り混ぜ技術が応用されてはいるが、過去の経験によって練り混ぜ方法が検討されているに過ぎず、練る作用より混ぜる即ち、攪拌がその主体となっているだけである。日本古来から存在し、圧縮作用に卓越している蕎麦や饂飩の練り混ぜ技術が、何故コンクリートに適用されていないのか素朴な疑問を抱いたのが本研究の発端である。この素人の奇想天外な発想から、『練る』行為に着目し、この練り混ぜ概念をコンクリートの製造に応用する観点に立ち、一般のコンクリートは勿論のこと、従来型のミキサでは練り混ぜが困難であった材料の練り混ぜや、高度の品質に応えられる性能を持ったミキサの開発を目的としたものである。 『練り混ぜ』とは、『練る』と『混ぜる』の複合語であり、この用語は、次の様に定義練り混ぜや、高度の品質に応えられる性能を持ったミキサの開発を目的としたものである。 『練り混ぜ』とは、『練る』と『混ぜる』の複合語であり、この用語は、次の様に定義されている。 (1).練る(kneading):粉体粒子の回りにバインダーをコーテングする事 (2).混ぜる(mixing) :異なった材料を均一になる様に分散させる事 即ち、練り混ぜとは凝集している固体を分散したり、粉体や固体の回りにバインダーとなる液体をコーテングする事であり、練り混ぜの対象となる材料の状態において、様々な練り混ぜ方法が工夫され、多くの手法が検討されている。 コンクリートの練り混ぜとは、骨材とセメントと水を均一に分散すると共に骨材粒子の回りに、バインダーであるセメントペーストを或いは、セメント粒子の回りにバインダーとしての水をコーテングすることと理解する事が出来る。現在、建設産業に於いて、コンクリートは、高度な品質を要求されているにも拘らず、要求品質を満足させる為に従来型のミキサに於いてのみ、努力しでおり、新しいミキサを開発したり練り混ぜ方法に改良を加える様な考えは皆無に等しい。 従来型のミキサは、通常スランプの範囲のコンクリートを練り混ぜる対象として造られたものであり、特殊な要求品質であるRCDの様な超堅練りのコンクリートやハイパフォーマンス・コンクリートの様な高粘性などの材料には、特殊な手法を用いなければ満足のゆく練り混ぜは不可能であった。 コンクリートの練り混ぜは、現在さまざまなタイプのミキサにより行われている。 従来のコンクリート用のミキサは、回転式タイプが主体をなし、可傾式・パン型・水平2軸の三つのタイプが主流であり、特殊なコンクリートを練り混ぜるミキサ以外その他のタイプのミキサの研究は見当たらない。 これらはいずれも攪拌力により、材料を分散させ、練り混ぜを行う機構であり、練り混ぜられたコンクリートの品質は、ミキサそのものの性能により支配されている。 コンクリートミキサの開発や改良は、練り混ぜ時間の短縮により、効率の向上のみに主眼が置かれ、本来の練り作用に対しては、注目されていないのが現状である。 一方、日本や中国に於いて、古くから行われている蕎麦や饂飩の練り混ぜ方をみると、予め混ぜた材料である饂飩粉(蕎麦粉)と、水との混合体を半分にして折り重ね、加圧(圧縮力と剪断力を加え)しながら元の厚さまで延ばす操作を繰り返し行う事である。 この操作を10回繰り返すと、形成される層の数は1,024となり、30回では、約10億層にも達し、一層の厚さは、理論的には水の分子に相当するオーダーとなる。 即ち、コンクリートを練り混ぜる時、従来の攪拌作用だけでなく、材料を1/2にして重ね、加圧しながら元の厚さに戻す操作を行い、材料に対して圧縮力や剪断力を作用させ、一層内に内在する材料を強制的に分散させ、この作業を繰り返す事で材料が均一に分散し、練り混ぜが完了する。 今回の開発されたミキサは、攪拌運動を主体とする従来型のミキサと異なり、重ねて延ばす作用が主体であり、理論的にも分散が優れており、簡単に粒子の分散状況を証明する事は出来るが、実施に際し、材料の粒径・比重・粘性等の違いにより、実用に供するミキサのを製造が可能か、又、コンクリートや粘性の大きい材料、更に、比重の極端に異なる材料などを大量に混練する事が、可能か否かなどの問題が発生したが、試行錯誤の実験の結果一応の解決を見た。 本論で述べる練り混ぜ方法によって、一般的なコンクリートはもとより、従来のコンクリートミキサでは練り混ぜ難かった仕様や、或いは不可能とされていた材料の練り混ぜも可能となり、練り混ぜの適用範囲が拡大され、材料の選択の範囲も拡大され、従来のコンクリートでは考えられなかった、新しい性能を有するコンクリートの開発・研究にも資するものと考えられる。 本論文は、以下の様な6章の内容で構成されている。 第1章では、本研究の発端の背景と開発の経緯と、意義とその進捗状況を示した。 第2章では、蕎麦や饂飩の練り混ぜ方法である材料を半分にして重ね、圧延しながら元の厚さに戻す操作を繰り返す事で、練りまぜを行う原理を、コンクリートの練り混ぜに応用する為の基本原理の実証と実験用モデル機の製造について述べている。即ち、セメント系の材料が、この原理により練り混ぜが行える事を実証する為に本原理を出来るだけ忠実に再現する様に設計・製造した試験用の小型ミキサ(プロトタイプミキサと称す)を用いて確認実験を行い、更に、この結果に基づいて製造した実験用モデル機について述べられている。 製造されたプロトタイプミキサの構造は、上下左右に装着された7個のピストンにより、材料を半分にして上部に押上げ、水平のピストンで材料を重ね、上部のピストンで圧延しながら元の厚さに戻す。これを繰り返すことにより練り混ぜを行うミキサである。 このプロトタイプミキサを用いて、基本原理どうりコンクリートの練り混ぜが、可能であることを普通モルタルと赤色に着色した2種類のモルタルを使用し、基本原理の確認を行った。このミキサにより、実際に材料が層状になる事や、圧延時のプレス圧、バイブレータの必要性の有無等についてデータを取得した。更にこの実験により、この原理でコンクリートが練り混ぜられる事が確認された為、コンクリートの練り混ぜ性能実験を行う目的の実験用モデル機の設計と製造をする事とした。 設計・製造したミキサは (1)水平3方向ピストン復動混合型 (2)パン・ローラー型 (3)バケット・ローラー型 の3種類であったが、バケット・ローラー型のみが、実験用ミキサとして使用できる事が確認された。 第3章では、第2章で原理に忠実に練り混ぜられる事が確認されたバケット・ローラー型のミキサを用いて練り混ぜ性能試験を行い、本原理によりミキサの特徴を調査した。 (1)ミキサ内の材料の均一性及び、コンクリートの品質の均一性に対する練り混ぜ回数の影響について (2)ミキサの練り混ぜ性能に与える材料投入方法とミキサ内でのコンクリートの均一性について (3)材料の分散性については、練り混ぜ回数に対応した粒子の分散状態の調査を行い (1)コンクリートの空気量が幾分減少する事を除けば、従来の結果と基本的に差はなく、 (2)材料が偏って投入されても練り混ぜ回数を増加する事で所定の品質のコンクリートを製造可能となるが、従来のミキサと同様に材料を均等に投入する事が肝要であり、 (3)発泡スチロールビーズを体積比率で30%混入して練り混ぜ回数毎に供試体を製作し切断面の発泡スチロールビーズの分散状況を画像解析により分析し、練り混ぜ回数に対して品質が急激に安定していく傾向にあることが判断された。 第4章では、新しい練り混ぜ方法の特徴を生かした材料の適用生について検討した。即ち、従来のミキサでは、練り混ぜが困難とされていた (1)極端に比重差の大きな材料の組み合わせ材料、 (2)セメント量が少ない極端に貧配合な材料、 (3)高粘性材料 等の練り混ぜへの本原理の適用を試み、優れた性能について実証した。 第5章では、本原理を用いた実用機の製造について述べている。即ち、実験に用いたモデル機は、練り混ぜ原理に忠実に製造されたものであるが、そのままでは実用機への展開は不可能であり、実験と平行しつつ実用機の開発状況を述べている。 第6章では、本論文の結論として、各章で得られた研究結果を総括すると共に当該研究結果の適用及び、今後の研究課題について述べた。 |