学位論文要旨



No 212474
著者(漢字) 鈴木,勉
著者(英字)
著者(カナ) スズキ,ツトム
標題(和) 移動費用最小化による最適配置問題に関する一連の研究
標題(洋)
報告番号 212474
報告番号 乙12474
学位授与日 1995.09.21
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第12474号
研究科 工学系研究科
専攻 都市工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 岡部,篤行
 東京大学 教授 太田,勝敏
 東京大学 教授 小出,治
 東京大学 助教授 浅見,泰司
 東京大学 助教授 清水,英範
内容要旨

 本論文は、連続需要・連続立地の定式化を基本に、都市全体としての総移動費用(距離・時間など)を評価基準に都市活動の配置や配分の理想形態を論じることを目的としている。

都市施設の最適配置配分問題

 連統需要・連続立地モデル、利用者の最近隣配分をベースとして、最適配置過程問題、最適階層構造問題、最適駅配置問題の3つについて分析した。

 都市の動態に合わせて順次施設を建設していく場合、財源等の制約の下で途中段階も含めて移動費用を小さくする施設配置や建設順序を決定する最適配置過程問題が考えられる。n個の期間を考え、施設がi個建てられている第i期の期間長をtiとし、建設の都度総移動費用を最小にする逐次評価型モデル、完成時の総移動費用最小の立地制約下で全期間総移動費用を最小にする順序で建設する最終評価型モデル、建設途中段階も含めて全期間の総移動費用を最小にする総合評価型モデルの3つについて検討した。最近隣施設利用の仮定から施設圏域は施設を母点とするVoronoi領域となり、地理的最適化手法に基づく二次元の最適配置過程は図1に例示される。総合評価型では最初の施設立地点は中央ではなく順序の遅い施設の周辺程施設密度が高くなる等、人口密度分布が均一でも均等配置から乖離する。また各モデルの配置パターンは施設数によっては大きく異なることもあり、順序・配置と利用者の移動費用・施設容量の関係の定量的評価からは、移動費用で量も効率的なのは総合評価型、必要施設容量では逐次評価型であるが、各最適配置過程に従っていれば大きな差異はないこともわかった。

図1一様な人口分布での最適建設順序・配置(左:総合評価型,中:逐次評価型,右:最終評価型)

 次に、移動費用最小化に施設の階層構造自体を最適化の対象に取り込んだ最適階層構造問題を考え、施設サービスに対する利用頻度の差に基づく利用者側のメリットから階層構造の形成原理を論じた。段階間の包含的なサービスを想定し利用者均一分布の円形領域で解いた結果、例えばサービスの種類4種、総予算2、単位施設コスト1/4、i番目のサービスの利用頻度(2i-1)/16の場合、考え得る階層構造及び最適施設配置は図2に示す5種類となり、この中で右から2番目の3段階構造が最適となる。施設数やサービスの種類が多い場合は階層構造のパターンが膨大となるので連続量近似により理論的な最適階層構造を求めると、段階間の排他的サービス、中心地理論の規則的配置を前提として、最適施設数関数

 

 が導かれ(zは高次側からのサービスの番号、f(z)は利用頻度関数、c(z)は施設コスト関数、Aは予算比例定数)、段階間の利用頻度や施設コストの差が顕著な程、また予算が多い程最適段階数は大きくなる。

図2 制約条件内で可能な階層構造とその最適配置(niは高次側からi番目のサービスを提供する施設数)

 鉄道駅等の交通施設の場合は交通ネットワークの特性が最適配置に影響する。そこで次に都心への一点集中型の一様な交通需要下で矩形状都市の中央を通る単一直線路線上での利用者の所要時間最小化・事業者の運賃収入最大化を目的とした最適駅配置問題を設定した。総所要時間最小化配置は都心に近い程間隔が広い配置となり、また運賃が運行距離に比例する場合の総運賃収入最大化配置は等間隔で駅数にはほとんど左右されないことが導かれた。バスを対象とした検討から、停留所間隔の基準とされる300〜500mという値は時間最小化から得られる平均値とほぼ一致するがパターンは収入最大化に近いこと、サービス改善手段として駅配置改善が所要時間短縮に有力な方策となり得ることが明らかとなった。また、路線長・交通機関の速度・停車時間を変化させた時の時間最小化配置を調べた結果、路線長が長い程駅間隔は広がるが駅数も増加すること、速度が速い程駅間隔は狭まり駅数は多くなること、停車時間が長い程駅間隔は広がり駅数は減少することがわかった。

最適職住割当問題

 長距離通勤問題は、就業地と居住地の遠隔化に加えて都市規模の肥大化がそれらの多様な組合せを生み出していることが原因である。通勤時間短縮やエネルギー消費・環境負荷削減のための方策として職住割当の変更に注目し、総通勤距離や時間を最小化する職住割当を求める最適職住割当問題を定式化し過剰通勤を計量化した。都心から約60km圏の東京大都市圏にこの問題を適用した結果、通勤流動は職住割当の最適化により単純化され(図3)、距離の最適化により平均通勤距離は約35%、エネルギー消費は半減させることができ、時間の最適化では平均通勤時間を15%程削減できる。最適割当下では都心側から郊外への通勤は概ねなくなり、遠距離通勤者数も激減する。また郊外での自ゾーン内就業率が高まり、通勤時間は著しく減少する。更に業務地分散や都心居住促進等の都市構造転換による影響評価の結果、通勤時間は一層減少できるが割当変更と比較して全体としての効果は余りないことが明らかとなった。職住割当変更によって期待できる効果を示す通勤距離・時間やエネルギー消費の過剰率(過剰通勤の現状に占める割合)は年々増加しており(表1)、通勤問題解消のためには住宅市場や就業慣習上の理由で進まない居住地・就業地の柔軟な変更が可能なシステムへの誘導が益々有効になっていることを意味している。これは就業地が大域的に分散傾向にあるためであるが、東京大都市圏全体の成長がそれを上回り、通勤距離・時間は増加している。従って、過剰率の割当変更促進による抑制に加え、国土レベルでの大都市圏の成長管理も必要である。

図表図3 通勤流動(1990年) (上:現状、中:距離最小割当、下:時間最小割当) / 表1 現状・最適割当時の通勤距離・時間・エネルギー消費の推移(片道)

 更に職住分布構造の過剰通勤への影響を論じるために、都心をピークとする正規分布型職住分布を用いて職住バランス・割当と通勤距離・過剰率の埋論的関係を導出した。一次元モデルの場合、任意の職住ペアが全て等確率で起こる均等割当、総通勤距離を最小にするミニサム割当、ある就業地の就業者の住宅地が各々の就業地を中心とする正規分布に従う期待割当の場合の平均通勤距離はそれぞれ

 

 となり(brは夜間人口密度の傾斜、は分散度(中心就業者密度の昼夜比の逆数))、均等割当ではが増加すると平均距離は増加するがミニサム割当・期待割当では減少すること、分散度が小さいうちは就業地分散による期待割当の通勤距離減少の程度はミニサム割当よりも小さいこと、さらに過剰率は

 

 となり、就業地が分散する程割当変更による通勤距離削減の余地が大きいことがわかる。同様のことは二次元モデルの場合にも言え、就業地分散による平均通勤距離の変化は定性的には一次元と同様だが、割当による差が増大し、期待割当の分散の効果は一次元に比べて大きく、過剰率も大きくなる。米国の都市では日本に比べて職住のアンバランスは小さく、理論解から導出される結果と同じく過剰率が比較的大きいこと、すなわち米国では現状分布下でもミニサム割当への誘導により更なる通勤距離の短縮が可能であることが確認された。さらに正規分布型職住分布に従った就業地分散の評価を試み、通勤距離(ミニサム割当・期待割当)と就業地相互間の業務距離の重み付き和を最小化する都市構造は、業務の重み約0.7を境に一極集中又は完全分散といった極解となり、単峰型の職住分布からの劇的な変化がない限り、漸進的な業務分散政策は総移動距離の増加を強いる結果となることを導いた。

都市の最適形態問題

 近年の超高層都市・大深度地下都市構想を巡る議論は更なる都市空間の立体化の進行が技術的に可能であることを明らかにしたが、立体的利用が進むと移動・輸送面での垂直成分の比重が高まると考えられる。そこで総合的に適切な立体利用や地下空間利用の意義を考えるため、都市の立体的形態と水平・垂直方向の移動負荷の関係を論じ、都市内の全2地点間の相互近接性(コンパクト性)を最大化する都市空間形態を検討した。その結果、一次元モデルによる総移動距離(時間・エネルギー)を最小化する立体的な都市形態は、位置xにおける高さをh(x)として

 

 となり(rは垂直方向の重み、Vは都市全体のボリューム)、最適形態での都市長に対する中心部の高さの比は1/rと、rが減少すると最適高さは高く、都市長は短くなることを明らかにした。図4は二次元モデルとして離散化した問題の解である(時間評価の垂直方向の重みは2、エネルギー評価は8)。水平方向の移動に地上を経由する地上距離の場合に加え、一体的な地下空間利用等で実現される地上を経由せずに任意のレベルを水平に往来できる最短距離の場合を考えた結果、地上距離による最適形態は平面的に拡散する一方、最短距離による最適形態は高さが高く集約的になり総距離は約8割と小さくなる。エネルギー評価では最適形態の高さは時間評価より低く抑えられ、時間距離の短縮が省エネルギーに逆行する可能性がある。また一次元モデルの最適形態の長さ高さ比は、二次元の都市平面の直径と高さにも適用できる。現実の都市は最適解よりも圧倒的に低く水平に広がっており、移動負荷軽減の観点では、平面的に集約化された中心部が高層化された都市や、地上・地下空間を総合的に活用して最短距離で繋がれた市街地形態が日本の都市形態の誘導方向となるものと考えられる。

図4 最適立体都市形態の計算例(地上空間のみの場合)
審査要旨

 本論文「移動費用最小化による最適配置問題に関する一連の研究」は、連続需要・連続立地の定式化を基本に、都市全体としての総移動費用(距離・時間など)を評価基準に都市活動の配置や配分の理想形態を論じることを目的としている。

 I章の序で研究の概観をした後、II章「都市施設の最適配置配分問題」では、連続需要・連続立地モデル、利用者の最近隣配分をペースとして、施設利用者の移動距離最小化から施設配置問題について考察している。まず、施設を順次建設していく場合の最適配置過程を考え、最適な建設順序と配置に関して、逐次評価型、最終評価型、総合評価型の3モデルを提示し、それらのモデルでは最適配置が必ずしも均等な配置にならないことを示している。また、利用者の移動費用や施設容量の観点から各配置過程間で効率にそれほどの差異はないことを明らかにしている。次に、段階構成を持つ施設配置問題を定式化し、最適な階層構造を導くことを試みている。その結果、段階間の利用頻度や施設コストの差が顕著な程、また予算が多い程、最適段階数が大きくなることが確認され、その構造には二次元平面の特性が反映されることを明らかにしている。さらに、単一直線路線上の利用者の所要時間最小化・事業者の運賃収入最大化を目的とした最適駅配置問題を設定し、交通ネットワーク上の移動時間の存在が圏域形状や駅という施設の配置に及ぼす影響を明らかにしている。また、路線長・交通機関の速度・停車時間に対する最適な駅数及び配置の変化を明らかにしている。

 III章「最適職住割当問題」では、職場と住宅の割当に焦点を当て、通勤距離または時間の総和を最小にする最適職住割当問題を定式化し、東京大都市圏などを対象に削減可能な通勤時間やエネルギー消費などを明らかにしている。また、都市構造の転換政策をこの問題の枠組みで評価することを試みた結果、職住割当の変更によって削減できる通勤時間は最大で7〜8分程度であることや、就業地の分散によってはさらなる削減も僅かながら可能であることを明らかにしている。エネルギー消費量についても、かなり大きい削減効果があることが示されている。大都市圏の時系列変化からは、住み替え等の就業地あるいは居住地の交換の促進によって、トリップ当たりの通勤時間やエネルギー消費が増加傾向にあることや、これらの削減の余地が年々広がってきていることが示されている。さらに、現実の割当での評価を行うために、Tanner-Sherratt型職住分布のもとでの職住分布構造と通勤距離・時間の関係について理論的に検討し、現状の割当では就業地の分散はそれほど劇的に通勤距離・時間を減らすことはないことや、業務地の分散策を効果的なものにするためにはミニサム割当に近づける努力が必要であることを明らかにしている。加えて、通勤距離と業務距離の重み付き和を最小化する都市構造について検討し、業務交通の重み約0.7を境に一極集中か完全分散かといった極解がもたらされ、単峰型の職住分布構造からの劇的な変化がない限り、都市交通の総合的観点からは就業地分散が必ずしも望ましい政策ではないことを明らかにしている。

 IV章「都市の最適形態問題」では、都市活動相互間の近接性を最大限高めるような立体都市形態を求める問題を定式化し、近年の超高層都市や地下都市の構想の是非を論じている。その結果、地上を経由する環境が都市の高さを抑えており、地下空間のような多層移動の環境が整備されれば都市の平面的な広がりは小さくなることや、移動時間による評価に比べて垂直方向の重みが大きいエネルギー消費による評価のときの方が高さが抑えられて平面的に拡散すること、つまり時間距離の短縮を求めて高層化することが、移動に関しての省エネルギーに逆行する可能性があること、現実の都市はモデルの結果と比べて圧倒的に低く水平に広がっており、移動負荷軽減の観点では、都市域の平面的拡大を抑え、平面的に集約化された中心部が高層化された都市や、地上・地下空間を総合的に活用して最短距離で繋がれた市街地形態が日本の都市形態の誘導方向となることなどを明らかにしている。

 以上のように本論文は大変すぐれており、よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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