本論文は、原子力発電所の原子炉格納容器内の運転監視点検作業の遠隔化・自動化を目的とする点検ロボットを提案し、これを実用化するのに必要な、移動技術・点検技術・制御技術等についての研究成果を述べたものである。 第1章では原子力発電所での点検作業について概説し、そのロボット化が必要であることを示している。一方、原子力発電所向けの点検ロボット開発の現状を調査し、いまだ実用化がなされていない状況を鑑み、本研究の動機を示している。 第2章では原子力発電所でのパトロール員による運転中監視点検作業の実態を調査・分析した結果、点検環境が過酷であり点検項目も膨大であるので、現状の運転中監視点検作業を移動ロボットで代替するべきと結論し、点検ロボットの開発に着手している。点検対象場所としては、環境条件が最も過酷でロボット化のニーズの高い原子炉格納容器内としている。 第3章では原子炉格納容器内点検ロボットの開発に向けての基本的考え方と、点検ロボットの概念について検討している。まずロボット開発上の固有の問題を摘出し、これらの問題を解決するに当たっての基本的な考え方を検討している。設備側の改造により解決する方法とロボットの高機能化で解決する方法の2つの方法を比較し、両者の歩み寄りにより問題解決法を選定する手法を考案してる。この考え方に基づき、点検センサ、センサ操作機構、移動機構、制御系、信号伝送系、動力供給系などから構成される格納容器内点検ロボットシステムの概念を提案している。 第4章では点検センサの選択と開発および評価について示している。点検ロボットに搭載すべき点検センサとして、TVカメラ、マイクロフォン、温度計および放射線量計を選定し、最適形式の検討、ロボット搭載可能とするための小型化および耐環境性向上の検討を行い、試作・試験し、検討結果を検証している。 第5章では、点検センサを必要な方向・位置に移動操作するための機構の検討を行い、多関節腕方式のセンサ操作機構を設計・試作し、点検に必要な機能を十分果たすことを確証している。 第6章では、移動機構の検討と開発および評価について示している。移動環境、点検方法などを分析・検討し、傾斜角45度の階段昇降可能でしかも狭隘複雑な通路を自在に走行できる、操舵機構と車体伸縮機構の付いた半円型二対クローラ(円クローラ)を考案している。次に、円クローラ走行車の性能解析を行い、階段昇降性能については階段傾斜角、クローラと階段間の摩擦係数およびクローラ重心位置の関係を明らかにしている。一方、前輪クローラと後輪クローラを独立に操舵する制御方法を考案し、安定に走行制御できることを解析により示している。検討結果に基づき、試作・試験を行い、格納容器内点検ロボットの移動機構として十分使用できることを検証している。 第7章では、円クローラ走行車を自動的に移動制御するための誘導走行方式を検討し、電磁誘導ケーブルに沿って誘導走行する方式を選定し、前後のクローラを独立に操舵する制御装置を考案・設計・試作している。さらに、円クローラと組み合わせて走行試験を実施して円滑に誘導走行できることを検証している。 第8章では、信号伝送方式の比較検討を行い、格納容器内の機器に悪影響を与えない有線方式を選定し、信号伝送装置を設計・試作している。さらに、格納容器内の条件を模擬した放射線照射試験、耐温度試験も実施し、本信号伝送装置の耐環境性を検証している。 第9章では、点検ロボットで必要とする動力の供給方式を検討し、連続給電が可能なケーブル給電方式を選定している。次に、点検ロボットの移動の妨げとならないようにケーブルを処理する方式に関して検討し、ケーブルを点検ロボットの代わりに牽引する牽引車と、8の字形にケーブルを貯線する装置を組み合わせたケーブル処理装置を考案している。さらにこのケーブル処理装置を試作し、格納容器内を模擬した点検ルートで性能試験を実施し、検討結果の妥当性を検証している。 第10章では、システム全体構成の検討とシステム試験および評価について示している。開発した構成機器を組合わせて点検ロボットシステムとし、格納容器内を模擬した試験場でシステムの総合動作試験を実施し、移動機能、点検機能ともに要求条件を十分満足していることを確証している。格納容器内の温度・湿度・放射線環境を模擬した、点検ロボットの環境試験も実施しており、耐久性も十分であることを確証している。一方、地震時の安全性も加振装置を用いて確認している。 第11章は本研究の成果を総括すると共に、今後の研究課題について述べている。 以上、本論文は原子炉格納容器内の運転中点検作業を行う点検ロボットを提案しその実現への方法論を述べるとともに、これに必要なロボット要素技術を研究しており、その内容は独創的かつ有用性に富むものである。 よって、本論文は博士(工学)学位請求論文として合格と認められる。 |