本論文は「レーザーのフィルム録画・録音およびテレシネへの応用に関する研究」と題し、レーザーの放送への応用に関して、最も実用的かつ効果的な分野として、テレビジョンのフィルム系に着目し、この分野へレーザー技術の導入を図るとともに、これにより開発された高性能フィルム機器による新しい映像制作の可能性について論じたものであり、7章より成る。 第1章は「序論」であり、放送分野でのレーザー応用研究の経緯について述べるとともに、従来のテレビジョン用フィルム機器においては、フィルム録画、テレシネおよび光学録音の性能改善が望まれていたが、従来の技術では限界があり困難を極めており、レーザーの導入が解像度,S/N、彩度を高めるための大きなプレークススルーとなることを示し、本研究により飛躍的な高画質化が達成できること、また、その結果開発された新しいフィルム機器が、テレビジョンシステムを映画制作に使用するエレクトロ・シネマトグラフィを実現するために不可欠なものであることなどを論じ、本研究の目的、必要性、意義を述べて論旨の展開を図っている。 第2章は「レーザー応用の基本技術と高度化」と題し、レーザーをテレビジョンシステムに応用するための基礎技術として、レーザー光源と変調・偏向に関する所要特性を明確にし、放送品質へ適合させるためのデバイスの基本条件を明示している。すなわち、出力変動やノイズをともなうレーザー光は、そのままでは放送品質をクリアできない。また、光変調・偏向用デバイスも最高性能のものを選択したとしても、放送系の厳しい要求を満足するためには、利用技術の高度化をはからなければならない。このため、エレクトロニクスによる各種の補正技術と特別に設計された光学系を用いる方法を提案し、所要性能を満たすことを証明している。 第3章は「レーザーフィルム録画方式の開発」と題し、フィルム録画の必要性と従来の再撮像方式であるキネレコの限界について論じ、レーザー技術の導入により画期的な性能の録画が可能になることを提案している。すなわち、レーザー光を用いたフィルム録画方式は、高輝度のレーザー光で低感度微粒子の高解像度カラーフィルムに直接テレビ画像を録画できるため、優れた画質が得られる。また、この録画方式は、35mmフィルムによるハイビジョンのフィルム録画にも適用でき、これにより、ハイビジョンを利用して高画質の映画制作が可能になる。これらのことを録画装置を製作し、多くの録画実験を行うことにより証明している。さらに、レーザーフィルム録画方式の応用として、3-パーフォレーション録画や動き適応型録画の検討結果を示し、将来のフィルム録画による映画制作のための新技術の可能性について述べている。 第4章は「音響光学光偏向器(AOD)を用いたテレシネ方式の検証」と題し、フィルム画像をテレビジョン信号に変換するテレシネへのレーザー応用技術として、AODを用いたレーザーFSSの可能性について提案している。本レーザーFSS方式の基本性能は、ハイビジョンの広帯域と高速走査にも十分適合するもので、高輝度で微小スポットを有するレーザーの特長を活かしたテレシネが実現できることを実験により証明している。また、AODを用いたレーザーFSSテレシネの技術は、フィルム録画やディスプレイなどの画像システムにも応用できる可能性があり、偏向器の性能向上と低廉化により、さらに多くの分野に利用できることを述べている。 第5章は「レーザー光学録音方式の開発」と題し、テレビジョンの映画応用には欠かせない光学録音への応用について論じている。光学録音では、従来、ガルバノメータなどの機械式光変調器の特性が音質改善のネックとなっていたが、AODによる非機械式変調器を採用したレーザー光学録音により、優れた音質の光学録音が実現できることを提案している。実際に製作した録音装置による実験により、本録音方式を用いると、光学録音の品質が上がることを証明している。また、最近、光学録音によるディジタル録音方式が開発され、従来のアナログの可変面積式光学録音と混在する状況も生まれており、レーザー光学録音によりアナログとディジタルの光学録音を同時に行うハイブリッド方式が、新しい方式として実用され始めるなど将来動向についても述べている。 第6章は「エレクトロ・シネマトグラフィ(ECG)への応用」と題し、テレビジョンシステムを利用した映画制作、すなわち、エレクトロ・シネマトグラフィ(ECG)の必要性と可能性について述べるとともに、実用化されたシステムによる実例を示している。ECGは、標準テレビの段階でも試みられたが、テレビ技術、特にディジタル技術の発展により可能性が高まり、ハイビジョン開発によりさらに実用化が増し、放送に先駆けて実用化されている。この状況をつくるきっかけとなったのが本研究により開発されたレーザーフィルム録画システムである。すなわち、本研究がレーザー技術とハイビジョン技術を一体化し、新しい映像表現技術を生み出すなど、エレクトロニクスとフィルム技術の融合を促し、映画産業が電子映像とともに新しい道を拓き、より大きく発展する基盤を築いたと結論している。 第7章は「むすび」であり、本研究の成果を要約している。 以上これを要するに、本論文はレーザーをフィルム録画・録音およびテレシネへ応用するための基本技術として、エレクトロニクスの技術を用いたレーザー光源や光変調・偏向技術の高度化の方法を明らかにし、この方法によりレーザーが放送品質を満たす高性能なフィルム機器に応用できることを述べ、さらに、そのフィルム機器による映画と電子映像の融合など新しい映像表現技術への展開の見通しを示したものであり、電気通信工学上貢献するところが少なくない。 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 |