ファラデー効果は磁気光学効果の一種であり、透明体に磁界を印加したときに光の偏光面が光軸と平行な磁界の大きさに比例して回転する現象を言う。ファラデー素子としては従来より鉛ガラス、FR5ガラス、BSO、BGO、ZnSeなどが利用されてきたが、電力ケーブルの導体電流の作る磁界を測定しようとするときにはやや感度が不足しており、ファラデー素子の光路長を数ミリから数センチメートルのオーダにしなければならなかった。これはセンサの大型化とそれに伴う光軸合わせの困難さを生じさせる。イットリウム鉄ガーネットに含まれるイットリウムをビスマスで置換した希土類鉄ガーネット(Bi置換ガーネット)は上記素子に比較して2桁以上大きいベルデ定数を有する魅力的な材料であるが、温度特性に劣る点が問題とされていた。本研究ではBi置換ガーネットに含まれる希土類元素の磁化が各々異なる温度特性を有することに着目して、組成配合を調整することにより温度特性が平坦な結晶作製方法を検討した。本材料を使用すれば電力ケーブルの導体電流測定に必要なファラデー素子の光路長は0.1mm程度でよく、センサの小型化が図れるためシンプルかつ堅固な構造を得ることができる。またこの単結晶は光ファイバ中での光損失が最小となる長波長帯赤外領域で透明であり、高感度かつ長距離センシングが可能な光ファイバ磁界センサを作ることができる。光磁界センサの使用により従来困難であった地中分岐送電線路の事故区間検出システムを構築することができる。 Bi置換ガーネットはガーネット構造をとる酸化物フェリ磁性体であり、(Bi,R)3(Fe,M)5O12(R:希土類元素およびY、M:Ga、Al等)なる組成式で示される。ベルデ定数v(radian/m・(A/m))は、v=/Hl(:ファラデー回転角(radian)、H:磁界(A/m)、1:素子の光路長(m))と定義され、外部磁界に対し、ファラデー回転は飽和するまで直線的に変化すると仮定し、更にM=H(:磁化率、M:磁化)なる関係式を代入すれば、上式は、次式にて表すことができる。 ここで,F:飽和ファラデー回転角、Hs:飽和に要する磁界、C:定数、Ms:飽和磁化である。上式を温度Tで微分すると下式の関係が成り立つ。 次にv、F、Msを以下にように定義し、各々ベルデ定数の温度変化率、飽和ファラデー回転角の温度変化率、飽和磁化の温度変化率とする。 以上より なる関係式が導かれる。上式から、Bi置換ガーネットのベルデ定数の温度安定化、すなわちv=0は、ファラデー回転角の温度変化率と飽和磁化の温度変化率を相殺することにより達成できることがわかる。検討の結果、Fは、BixR3-RFe5O12(R:希土類元素およびY)なる組成式において、大きなファラデー回転が得られるBi量x≧1のとき-0.14から-0.16%/Kとほぼ一定値を示し、またMsの温度に対する挙動(Ms)は計算によって、Bi、Y、La等非磁性元素の場合、Ms=-0.2%/Kを得た。従って、v=-0.16-(-0.2)>0となる。Hoの場合は飽和磁化の温度変化はほぼ零であり、v=-0.16-(0)<0となるので、適宜上記非磁性元素と固溶すればv=0、即ち温度に対し一定のベルデ定数を有するガーネットが作製できることになる。試作評価の結果、組成式、Bi1.3(Y,La)0.9Ho0.8Fe4.5Ga0.5O12で現されるガーネットが良好な温度特性を有することを確認した。Bi置換ガーネットを用いて製作した光ファイバ磁界センサの温度特性の測定結果を図1に示す。比較のために温度特性改善前のBi置換ガーネット(Bi1.0Yb0.6Gd1.4Fe5O12)の測定結果についても図示した。 図1 Bi置換ガーネットを用いた光磁界センサの温度特性 横軸はセンサの周囲温度、縦軸は20℃を基準としたセンサの変調度の変化率である。図より温度特性改善前のBi置換ガーネットは温度に対して負の傾きを持つ温度特性を示し、-10〜80℃の範囲で変調度の変化は-12%であるが、温度特性改善型のBi置換ガーネットは-10〜80℃の範囲で変調度の変化は±1%以内であり、実用上温度特性はフラットとみなせることがわかる。 都市部周辺における電力需要の増大に伴って、66kV-CVケーブル系統では1977年以来、一部送電線路にY分岐接続箱を割入れて需要家に給電することにより効率的な送電形態を実現する方法が行われている。分岐線路のメリットは変電所まで送電線を布設する必要がなく、需要家の近くに従来より布設されている送電線路にY分岐接続箱を割り入れ、接続箱から需要家までの線路を建設すれば、ケーブルが布設される地下の洞道や管路の効率的運用が可能となることである。一方、分岐送電線路では線路の端末が3箇所以上になるため、送電線路に地絡事故が発生したときに事故点探査に要する時間が長くなることが問題点となる場合がある。そこで、66kV-特高圧地中分岐送電線路を常時監視し、地絡事故発生時には瞬時にその区間を検出、表示するシステムの必要性が生じた。分岐線路事故区間検出システムの具備条件を以下に示す。 (1)線路の端末はGISの場合が多く、電圧情報の取り出しが困難なため、地絡事故発生時に各端末、及びY分岐接続部にて検出される電流情報のみで区間の判別が可能であること。 (2)Y分岐接続部は通常、地下のマンホールに布設され、電源の供給ができないため、電流検出部は電源を必要としないこと。また、既設線路への取り付けが容易であること。 (3)送電端変圧器中性点接地方式の66kV系統において予想される地絡事故電流の大きさ、約300A以下程度の電流を精度良く測定できること。 (4)Y分岐接続箱を導入した線路の亘長は、ほとんどが5km以内であるため、電流検出部と事故区間判別、表示部の距離は、途中に電源を供給することなく最高6km程度まで離せること。 これらの諸条件より、電流検出部としては小型、高感度でかつ長距離無中継伝送が可能な、Bi置換ガーネットのファラデー効果を利用した光磁界センサが適していることがわかる。光磁界センサを用いれば、検出電流信号の伝送路は光ファイバとなるため、誤動作の要因となり得る伝送路への電磁誘導の問題は根本的に解決される。ケーブル導体電流の作る磁界より、導体電流を正確に測定するには、導体の作る磁界を、磁性体を用いて導体のまわりで周回積分する必要がある。そこで、珪素鋼板を重ねたリングコアを導体の周囲に配置し、そのギャップ部にセンサを挿入することによって導体電流を検出する方式を用いることとした。これにより、被測定ケーブル近傍の他相ケーブルや他回線ケーブルの電流の影響を防ぐことができる。また三相のケーブルをひとつのリングコアに一括して貫通させることにより地絡事故発生時の零相電流を直接検出することができる。これをリングコア方式光ZCTと呼ぶこととする。その構造を図2に示す。 図2 リングコア方式光ZCTの構造 図に示すリングコアの上4分の1の保護材は着脱可能となっており、Oリングにより、水密がとられている。保護材をはずしたときには、珪素鋼板は外側に開くため、既設送電線路にも容易にリングコアを取り付けることができる。光ZCTにケーブルを貫通させ、AC0〜2kAの電流を通電したときの変調度の実測値を図3に示す。 図3 光ZCTの変調度の導体通電電流特性 図より66kV送電線路の地絡電流範囲である0〜2kAにわたって光ZCTの変調度は導体電流に対して良い直線性を有することがわかる。光ZCT用の光源としては発光中心波長、1.3m、出力50W以上の高輝度端面発光ダイオードを用いることにより、10km以上の無中継センシングを実現している。事故の発生区間は、線路の端末及び分岐部に取り付けた光ZCTにて検出された電流波形の大きさと位相をもとに比率差動にて検出する。これらの処理は電流波形データを区間判別、表示部にて常時A/D変換することによりソフトウェアにて行う。よって、回線数、分岐数などの線路形態が異なる場合にもハードウェアを変更することなく容易に対応することができる。 66kV分岐送電線路用以外にも、開発した光磁界センサを応用した、電圧階級110kV、275kV用の地中送電線路事故区間検出装置を開発、実線路への適用を開始しており、電力供給の信頼性向上に寄与している。 |