本研究は、液相中におけるセラミック繊維の静電配向現象を理論および実験的に検討し、その応用として静電配向法によりセラミック繊維が一方向に配向した繊維成形体(一方向配向成形体)を工業的に製造する方法を確立するものである。一方向配向成形体は繊維強化金属(FRM:Fiber Reinforced Metals)を製造する際に使用される中間素材で、FRMの繊維配向方向の機械的性質を向上させることを目的とするものである。 図1に示すように、電界中に置かれた繊維は分極を起こし、その両端に生ずる分極電荷が左右の電極へそれぞれ引かれるため繊維は回転して電界方向に配向する。このような静電気力によって繊維が電界方向に配向する現象を利用して液相中でセラミック繊維の一方向配向成形体を作製する方法が静電配向法である。 図1 繊維の静電配向の概念図 媒質中に存在する一本の繊維の電界下での分極および静電配向時の回転運動を理論的に検討するため、繊維を偏長回転楕円体(以後、楕円体)で近似した。楕円体と媒質の両者の導電率と誘電率をそれぞれ考慮して、外部電界によって楕円体に誘導される双極子を表す式を得た。誘導双極子は電界印加後の時間に依存し、繊維に相当する非常に細長い楕円体の導電率が媒質のそれより極めて大きい場合、双極子は楕円体長軸方向成分のみを考慮すれば十分でその飽和値は楕円体と媒質の導電率の比に比例する。電界印加後、図2のように、外部電界と誘導双極子の相互作用により楕円体に働く静電トルクTeと楕円体が媒質から受ける流体抵抗Tvを考慮して、楕円体が電界方向に回転する際の運動方程式を導いた。楕円体の回転時間に比べて分極の時定数が極めて小さい場合について方程式を解き、一つの楕円体が電界方向に配向する際の回転運動(角度の変化)を求めた結果を図3に示す。 図表図2 偏長回転楕円体に働くトルク / 図3 電界印加後の楕円体長軸と電界がなす角度の時間変化(t/:無次元時間 ,:回転の力学的時定数) 複数の繊維が存在する場合に関して、電界下での繊維の挙動を理論的に検討した。初期状態が不規則に配向した複数の繊維に、外部電界が突然与えられた際の全繊維の配向状態の変化を議論した。全繊維の配向状態を総合的に評価するために配向係数を定義して、配向係数の時間変化を求めた。また、分極して電界方向に配向した繊維間には静電的な凝集力が働く。分極した繊維周辺の電位分布を代用多重極子法によって求め、周辺に存在する別の繊維との間に働く誘電泳動力を求めた。図4に示すように、電界中で繊維A(1/4のみ表示)の周辺に存在する繊維Bには誘電泳動力(Fnで無次元化)が働く。この結果より、誘電泳動力は比較的繊維近辺でのみ有効に働き、繊維間距離が短い条件下で繊維が凝集することが予測できる。 図4 分極した繊維周辺に置かれた別の繊維に働く誘電泳動力(Fnで無次元化) セラミック繊維の液相中における静電配向現象を実験で調べた。繊維としてアルミナ短繊維およびSiCウィスカを、媒質液体には絶縁性が大きいCFC(Chrolo-fluorocarbon)をとりあげた。 CFCに繊維を分散するため界面活性剤を僅かに添加する。界面活性剤の添加は不純物イオンの導入をもたらし、これがCFCの電気伝導のキャリアとなって導電率を増した。CFCの導電率は電界下の繊維挙動に大きな影響を及ぼすことが判明した。 図5にアルミナ短繊維の静電配向の一例を示す。誘電体であるアルミナ短繊維の分極は、界面活性剤によって導入されたイオンが繊維に吸着し、繊維の表面伝導が寄与することが確認された。アルミナ短繊維の静電配向は直流と比較的低周波の交流電界下で認められた。直流電界下では配向した繊維の凝集体が形成され、これによって媒質の対流による繊維配向の乱れが防止されることからアルミナ短繊維の配向は直流電界が安定する。繊維の凝集形態は繊維濃度(繊維間距離)に依存した。電界印加時の繊維の回転運動から、繊維の分極の時定数は配向の力学的時定数に比べて極めて小さいことがわかり、配向が完了した時の繊維の分極電荷および配向力を求めた。 図5 直流電界下でのアルミナ短繊維の配向状態(CFC導電率1=4.4×10-11S/m、電界印加3秒後) 比較的導電性を有するSiCウィスカに関しては、直流および交流電界の両者の下で静電配向が認められ、交流電界下でのみ凝集体が形成された。特に、比較的低周波の交流電界下で個々のウィスカの配向が整っていた。 静電配向法によってセラミック繊維の一方向配向成形体を作り、それを用いて作製したFRMを評価することでこの成形体の有効性を調べた。 アルミナ短繊維の一方向配向成形体を工業的に製造する観点から、CFCの導電率、繊維濃度等の条件を最適化した。図6は静電配向法でアルミナ短繊維の一方向配向成形体を作製する際の各繊維濃度Wfにおける繊維凝集体、および得られた成形体の繊維の配向を示したものである。図6(b)の成形体が最適条件下で作製されたもので、成形体の繊維が一方化されている。 図6 静電配向法における各繊維濃度Wfでのアルミナ短繊維の凝集および成形体の繊維配向(CFC導電率1=4.4×10-11S/m、電界強度Eo=1kV/cm) 高圧凝固鋳造法によりアルミナ短繊維の一方向配向成形体の空隙にアルミニウム合金(Al-Cu合金)溶湯を浸透させて複合化し、繊維が一方向に配向したFRM(一方向配向FRM)を作製した。これと既存の方法で作られた繊維が2次元的にランダム配向したFRMおよびアルミニウム合金のみの試験片を使い、曲げ試験により各材料の破断荷重を求めた。FRMの破断荷重はアルミニウム合金のそれより大きく、同じ体積の繊維を含むFRMで比較した場合、一方向配向FRMの繊維配向方向での破断荷重は2次元ランダムのものより14〜20%大きくなり、繊維を配向させることによる強度向上が顕著に認められた。また、SiCウィスカの一方向配向成形体を用いたFRMも作製し評価したところ同様な結果が得られた。以上のように、静電配向法により作製したセラミック繊維の一方向配向成形体を用いたFRMでは繊維の配向方向の強度が増すことが明らかになり、一方向配向成形体の有効性が確認できた。 本研究によって、繊維の静電配向現象が理論および実験的に解明され、その応用とじて一方向配向繊維成形体を製造するための静電配向法が確立できた。 |