本論文は、天然ガスを燃料とするコジェネレーション用のエンジンからの排ガス中に含まれる窒素酸化物の触媒的除去技術に関するもので、極低濃度、高流量かつ妨害成分が共存するという厳しい反応条件下で機能する環境触媒の耐久性、選択性、活性向上に必要な工学的研究をまとめたものである。 本論文は4章から構成されている。 第1章は緒論であり、エネルギー効率利用の観点からみたコジェネレーションシステムの重要性とその排ガス中の窒素酸化物除去の必要性、さらにそのための触媒技術の現状を概観し、本研究の意義について述べている。 第2章は、ガスエンジン用三元触媒の耐久性向上に関するものである。理論空燃比燃焼のガスエンジンの場合、炭化水素源が反応性の低いメタンであること、高い脱硝率と耐久時間を必要とすることのため、自動車用三元触媒は、長期間安定した浄化性能を維持できない。そこで実システム使用後の触媒の分析、加速劣化触媒の活性比較等により劣化原因を解明した。すなわち、熱劣化によるメタン酸化活性の低下により、触媒のウインドウ(NOとCOが同時に除去できる空燃比領域)が燃料過剰側に移動して制御空燃比との間にずれが生じることを明らかにした。ついで、Ptが理論空燃比付近のメタン酸化に主要な役割を担っていることを見出し、Pt含有量、Pt/Rh比を高め、Pt表面積を長時間維持することにより、メタン酸化活性の低下を抑え、ウインドウのシフトを防止できることを実システムで証明した。さらに、熱的劣化、細孔閉塞などの物理的な要因では説明できない劣化について、それが主としてPbの化学吸着による被毒であることを明かにした。これらの知見をもとに触媒の改良を行い、高Pt/Rh比の粒子と低Pt/Rh比の粒子の2種類を併用することにより、貴金属量の大幅な削減、さらに、触媒の長寿命化が可能となり、その結果、優れたガスエンジン用三元触媒の実現に到っている。 第3章では、希薄燃焼ガスエンジンへの炭化水素によるNOx選択還元触媒の適用に関する研究をまとめている。希薄燃焼ガスエンジンは、高い発電効率が得られることから、今後、主流になるものと期待されているが、過剰酸素存在下でのNOx還元であるため三元触媒が使用できない。そのため、炭化水素を還元剤とする方法を検討した。まず、高い活性が報告されていたCu-ZSM-5の活性を、希薄燃焼ガスエンジンの排ガスを想定した条件で測定した結果、高酸素濃度領域でNOx還元の選択性が低下すること、水蒸気により低温活性が著しく阻害されることを確認し大巾な改善が必要であることを指摘した。 ついで、NOx還元における炭化水素利用効率の向上を目的として反応機構の解析を行なっている。Cu-ZSM-5上のエチレンによる選択還元反応機構をin situ IRで解析し、反応の第1段階がNO2の生成であること、N2は、エチレン、NO及び表面無機NOx種から生成される不安定なNOx種(おそらく有機NOx種)の分解により生成すると推定している。また、Ga-ZSM-5では、メタン解離吸着能と原子状吸着酸素生成のバランスにより酸素による炭化水素の酸化反応が抑制され高い選択性が得られることを結論した。さらに、Co-ZSM-5が、水蒸気存在下で比較的高い低温活性を示す理由をO2によるNO及びプロパンの酸化におよぼす水蒸気阻害のバランスにあることを推論した。 以上の推論にもとづいて、Co-ZSM-5よりも酸素解離吸着能が低く、NO吸着量、炭化水素吸着量が大きい新たなCo系ゼオライト触媒を開発し、これが高い低温活性、選択性、耐水性を示し、その結果として、広い温度範囲で非常に高い活性を示すことを見いだしている。さらに、Cu-ZSM-5の劣下要因が、水蒸気によるCuOクラスターの形成にあることを参考に、Coゼオライト系触媒の耐久性を改良した結果、低温活性の高い上記のCo系ゼオライト触媒が耐久性の面でも実用化の可能性が十分にあることを示した。 以上、本論文は、コジェネレーション用ガスエンジン排ガスに含まれる窒素酸化物の除去触媒の耐久性、選択性、活性の向上について検討し、三元触媒の劣下要因の解明による触媒改良とその実証、ならびに、炭化水素による還元触媒反応の機構解明、活性、選択性支配要因の解明を通してこの触媒の実用化の道を開いたもので、触媒化学、触媒反応工学に対する貢献は非常に大きいものがある。 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 |