学位論文要旨



No 212500
著者(漢字) 藤田,章洋
著者(英字) Fujita,Akihiro
著者(カナ) フジタ,アキヒロ
標題(和) 織り構造を有する複合材料の数値モデル
標題(洋) Numerical Modeling for Textile Structural Composites
報告番号 212500
報告番号 乙12500
学位授与日 1995.10.12
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第12500号
研究科 工学系研究科
専攻 船舶海洋工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 金原,勲
 東京大学 教授 町田,進
 東京大学 教授 大坪,英臣
 東京大学 教授 野本,敏治
 東京大学 助教授 影山,和郎
内容要旨

 繊維加工技術により作製された織物、編物、組物を強化材とする繊維強化複合材料(以下、テキスタイルコンポジット(Textile Composite)と呼ぶ)は、厚肉あるいは三次元形状の部材が容易に作製できる。さらに積層板でみられる層間の存在による強度的問題がないため構造部材としての使用が期待されており、航空宇宙分野、土木、建築分野など様々な分野での使用が検討されている。テキスタイルコンポジットを構造部材として使用することを考えた場合、これらの強度および破壊挙動が予測できることは、これらの部材の設計の際には重要となる。本研究の目的は、テキスタイルコンポジットの破壊挙動および力学的特性の予測手法を確立することである。

 テキスタイルコンポジットの強化材である織物、組物、編物の織り構造を特徴づける要因には、繊維の配向状態、クリンプおよび連続性がある。テキスタイルコンポジットの不均質性の原因には、これらの要因に加えて繊維束交差部および織物表面に存在するマトリックス樹脂があり、テキスタイルコンポジットの力学的特性および破壊挙動に大きく影響を与える。特に、強度および破壊挙動においてはこれらの要因の役割は重要となる。これまでに提案された予測手法では、上述の要因のいくつかは考慮されているが、全てについて考慮された解析モデルは提案されていない。提案されたいくつかのモデルでは織り構造を含んだ範囲での均質化が成されており、これらのモデルでは局所的な破壊挙動を予測することは困難である。均質化手法を用いることなく全ての要因が考慮された解析モデルが確立されると、テキスタイルコンポジットの力学的特性だけでなく実験では得ることが困難である局所的な応力状態や破壊挙動を把握することが可能となる。

 本研究では、上述の問題を解決するため有限要素法を用いた。有限要素法では計算に長い時間を要し、大型コンピュータが必要となる。予測手法では全体の計算時間の短縮が要求されるため、本研究ではこの点についても考慮した。本研究で提案した解析手法では、解析モデルにおいてテキスタイルコンポジットを均質体の集合体としてとらえ、はり要素によりテキスタイルコンポジットを表現し、本解析手法ではテキスタイルコンポジットの織り構造の繰り返し部分(以下、部分モデルと呼ぶ)のみを計算する。本解析手法は解析対象の形状および負荷状態により2つに分かれる。一方は、部分モデルあるいはその組み合わせよりその力学的特性および破壊挙動を予測する。他方は、部分モデルの解析結果よりそれぞれの繰り返し部分の材料定数を算出し、その値を用いて部材全体のモデルの解析を行い、その力学的特性および破壊挙動について予測する。

 最初に、テキスタイルコンポジットの中で二方向に配向している繊維束が直交している平織物複合材料を解析対象とし、本解析モデルおよび解析手法確立のための検討を行った。まず、織物複合材料の構成要素を明確にし、テキスタイルコンポジットの不均質性は織り構造に起因することを明らかにした。本解析モデルでは、テキスタイルコンポジットを強化材である繊維束の部分とマトリックス樹脂の部分に分けてモデル化し、テキスタイルコンポジットの不均質性を考慮した。織物複合材料の力学的特性および破壊挙動の予測のための本解析手法の有効性を検討した。その結果、本解析手法により織物複合材料の引張特性および破壊挙動の予測が可能であることが確認された。さらに、破壊のメカニズムが負荷方向に対する繊維束の配向角度に依存することが解析結果と実験結果より明らかとなった。

 次に、繊維束が斜交して配向している平打組物複合材料の引張特性および破壊挙動における本解析手法の有効性を検討した。平打組物複合材料の組物構造の繰り返し部分についてのみ解析を行い、平打組物複合材料とその端部を切断した織物帯板全体の引張特性および破壊過程のシミュレーションを行った。さらに、中央糸と呼ばれる付加的繊維を組物長手方向に組み込んだ平打組物複合材料の引張特性および破壊挙動についても予測した。本解析手法により平打組物複合材料の引張特性の予測および破壊過程のシミュレーションが可能であることが明らかとなった。また、本解析モデルを用いれば、平打組物複合材料の不均質性にともなう局所的な応力状態、破壊の違いを明確にすることが可能である。さらに、本解析手法は中央糸を有する平打組物複合材料の引張特性および破壊挙動の予測に有効であり、中央糸の最適な挿入方法を本解析手法により検討することが可能である。

 さらに、多軸配向の織り構造を有する三軸織物複合材料を解析対象とし、三軸織物複合材料の引張特性および破壊挙動について予測した。本解析手法は三軸織物複合材料の引張特性と破壊の予測に有効である。三軸織物複合材料の不均質性にともなう切り出し方向による繊維束交差部での破壊のメカニズムの違いが、解析結界と実験結果から確認された。

 また、織物、組物複合材料と比較して、繊維が複雑な構造を形成する編物複合材料への本解析手法の適用性を検討するため、編物の基本組織の一つであるゴム編組織を強化形態とする編物複合材料を解析対象とし、編物複合材料の引張特性および破壊挙動を予測した。本解析手法により、編物複合材料の切り出し方向による破壊挙動の違い、引張弾性率の予測が可能であることが明らかとなった。さらに、本解析手法を用いることにより局所的なループの変形挙動、応力状態について明確にすることが可能であり、本解析手法により編物複合材料の不均質性を考慮することが可能である。

 これらの結果より、本解析手法は、織物、組物、編物を強化形態とするテキスタイルコンポジットの不均質性を考慮することができ、その力学的特性および破壊挙動の予測に有効であることが明らかとなった。

 さらに、構造物としての使用を考えた場合の本解析手法の応用性を明らかにするため、切欠き部を有する平打組物複合材料の引張特性および機械的継手における破壊と強度について検討した。切欠き部分の円孔は円孔周りで繊維が連続して配向している組物円孔と円孔部で繊維が切断されている機械加工による円孔の2種類とし、それぞれの円孔周辺部について解析を行った。引張特性では、円孔部分の解析結果と繰り返し構造となる部分の解析結果を組み合わせることにより、破壊と強度を予測した。機械的継手では、円孔部分の解析結果により2種類の円孔の破壊と強度について予測した。引張特性については、円孔周辺部のみのモデルの解析結果と実験結果の円孔周辺部分の破壊過程は一致した。また、平滑材のモデルとの組み合せによる円孔を有する平打組物帯板の破壊過程の予測についても解析結果は各試験片の破壊過程の特徴をシミュレーションできており本解析手法の有効性が明らかとなった。引張強度についても解析結果と実験結果はよい一致がみられた。機械的継手においても、破壊および強度ともに解析結果は実験結果と一致しており、平打組物帯板の機械的継手における破壊と強度の予測についても本解析手法は有効である。本解析モデルは、切欠き部を有する平打組物帯板の引張負荷および機械的継手における円孔周りでの不均質性が表現できており、それぞれの破壊と強度の予測が可能であることが明らかとなった。したがって、部分的なモデルを組み合わせ解析対象全体について力学的特性を予測する本解析手法は、テキスタイルコンポジットの切欠き部材の破壊過程と強度の予測に応用できることが明らかとなった。

 最後に、本解析手法のテキスタイルコンポジットの立体部材への応用として、本解析手法を拡張し、I型断面を有する組物複合材料の曲げ特性について検討した。I型組物複合材料におけるそれぞれの組物構造の繰り返し部分について解析を行い、解析結果よりそれぞれの部分の材料定数を算出した。その値を用いて、部材全体のモデルの解析を行い、曲げ特性および破壊挙動について予測した。本解析手法によりテキスタイルコンポジットの立体部材の一つであるI型組物複合材料の曲げ特性および破壊挙動の予測が可能であることが明らかとなった。局所的な破壊挙動については、破壊した部分の材料定数を導出した部分モデルの破壊挙動により予測することが可能である。さらに、本解析手法を用いることにより、部分的に特性を変化させることによる解析対象の材料設計の検討を行うことができる。

 以上の結果より、本解析手法がテキスタイルコンポジットの力学的特性および破壊挙動の予測に有効であることが確認された。本解析モデルでは力学的特性のだけでなく局所的な応力状態、破壊挙動を予測することが可能である。本解析モデルは、全てのテキスタイルコンポジットに応用可能であり、本解析手法はテキスタイルコンポジットの構造設計の支援のために重要な役割を果たすものである。

審査要旨

 繊維加工技術により作製された織物、編物、組物を強化材とする織り構造を有する繊維強化複合材料は、厚肉あるいは三次元形状の部材が容易に作製でき、さらに積層板でみられる層間の存在による強度的問題がないため構造部材としての使用が期待されており、航空宇宙、土木、建築など様々な分野での使用が検討されている。織り構造を有する複合材料を構造部材として使用する場合、これらの強度および破壊挙動が予測できることが、これらの部材の設計の際には重要となる。本論文は、織り構造を有する複合材料の局所的な応力状態や破壊挙動を把握することを目的として、有限要素法を用い、はり要素より構成される均質体の集合として数値モデルを提唱したもので、8章より構成される。

 第1章は序論で、これまで提案されたいくつかのモデルでは織り構造を含んだ範囲での均質化が成されており、これらのモデルでは局所的な破壊挙動を予測することは困難であることが述べられている。

 第2章では、二方向に配向している繊維束が直交している平織物複合材料を解析対象とし、本解析モデルおよび解析手法確立のための検討を行った。まず、織物複合材料の構成要素を明確にし、強化材である繊維束の部分とマトリックス樹脂の部分に分けてモデル化し、織物複合材料の力学的特性および破壊挙動の予測のための本解析手法の有効性を検討した。その結果、本解析手法により織物複合材料の引張特性および破壊挙動の予測が可能であることが確認された。さらに、破壊のメカニズムが負荷方向に対する繊維束の配向角度に依存することが解析結果と実験結果より明らかにされた。

 第3章では、繊維束が斜交して配向している平打組物複合材料の引張特性および破壊挙動における本解析手法の有効性を検討した。平打組物複合材料の組物構造の繰り返し部分についてのみ解析を行い、平打組物複合材料とその端部を切断した織物帯板全体の引張特性および破壊過程のシミュレーションを行った。さらに、中央糸と呼ばれる付加的繊維を組物長手方向に組み込んだ平打組物複合材料の引張特性および破壊挙動についても予測した。その結果、本解析手法により平打組物複合材料の引張特性の予測および破壊過程のシミュレーションが可能であることが明らかにされた。

 第4章では、多軸配向の織り構造を有する三軸織物複合材料を解析対象とし、三軸織物複合材料の引張特性および破壊挙動について予測した。本解析手法は三軸織物複合材料の引張特性と破壊の予測にも有効であることが示され、三軸織物複合材料の不均質性にともなう切り出し方向による繊維束交差部での破壊のメカニズムの違いが、解析結果と実験結果から明らかにされた。また、第5章では、繊維が複雑な構造を形成する編物複合材料への本解析手法の適用性を検討するため、編物の基本組織の一つであるゴム編組織を強化形態とする編物複合材料を解析対象とし、編物複合材料の切り出し方向による破壊挙動の違い、引張弾性率の予測が可能であることが明らかとなった。さらに、本解析手法を用いることにより局所的なループの変形挙動、応力状態について明確にすることが可能であり、本解析手法により編物複合材料の不均質性を考慮することが可能であることが示された。

 第6章では、構造物としての使用を考えた場合の本解析手法の応用性を明らかにするため、切欠き部を有する平打組物複合材科の引張特性および機械的継手における破壊と強度について検討した。切欠き部分の円孔は円孔周りで繊維が連続して配向している組物円孔と円孔部で繊維が切断されている機械加工による円孔の2種類とし、それぞれの円孔周辺部について解析を行い、引張特性では、円孔部分の解析結果と繰り返し構造となる部分の解析結果を組み合わせることにより、破壊と強度を予測した。機械的継手では、円孔部分の解析結果により2種類の円孔の破壊と強度について予測した。引張特性については、円孔周辺部のみのモデルの解析結果と実験結果の円孔周辺部分の破壊過程は一致した。また、平滑材のモデルとの組み合せによる円孔を有する平打組物帯板の破壊過程の予測についても解析結果は各試験片の破壊過程の特徴がシミュレートされ、本解析手法の有効性が明らかにされた。機械的継手においても、破壊および強度ともに解析結果は実験結果と一致しており、平打組物帯板の機械的継手における破壊と強度の予測についても本解析手法は有効であることが示された。

 第7章では、本解析手法の立体部材への応用として、I型断面を有する組物複合材料の曲げ特性について検討した。I型組物複合材料におけるそれぞれの組物構造の繰り返し部分について解析を行い、解析結果よりそれぞれの部分の材料定数を算出し、その値を用いて、部材全体のモデルの解析を行い、曲げ特性および破壊挙動について予測した。その結果、本解析手法により立体部材の一つであるI型組物複合材料の曲げ特性および破壊挙動の予測が可能であることが明らかにされた。局所的な破壊挙動については、破壊した部分の材料定数を導出した部分モデルの破壊挙動により予測することが可能であり、さらに、本解析手法を用いることにより、部分的に特性を変化させることによる解析対象の材料設計の検討を行うことができることが示された。

 最後の第8章は本論文の成果を総括したものである。

 以上を要するに、本論文では、様々な織り構造を有する複合材料および構造の力学的特性および破壊挙動の予測に有効な解析手法を提示し、本解析モデルにより力学的特性のみでなく局所的な応力状態、破壊挙動を予測することが可能であることを明らかにし、織り構造を有する複合材料の構造設計の支援のためにて重要な役割を果たすものと考えられ、工学とくに複合材料工学の発展に貢献するところが大きい。よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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